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魔宝石商の旅日記~本日もイケメン魔石商はマイペース営業中~  作者: 志名紗枝
第1章 魔宝石商見習い
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15.魔力①

 わたしは、はじめて魔石を宝飾用として研磨してみて、自分の道はこれだと確信した。

 美しい魔石と、研磨された魔石でより輝くことのできる人たち。これを楽しむことができるのは魔石商の道しかない。それも、宝飾特化型の魔石商だ。


 実は、魔石商といっても店によって、得意分野がある。


 身近なところでいうと、おじいちゃんの経営するランスの魔石店。

 ここは、魔獣石の販売に特化している。この販売形態をとるには、魔獣石を安定的に確保できるルートがあることが重要だ。おじいちゃんの場合、自らそこそこの魔獣が狩れることと、ハンター時代の友人や後輩たちが魔獣石を売りにくるため、在庫も豊富である。

 魔獣石特化型の特徴としては、魔力含有値が低いクズ魔石をあまり取り扱っていないということだ。ハンターや高位の魔法を使用する騎士たちが顧客になりやすいことも特徴として挙げられる。


 続いて、わたしたち平民が1番利用する魔石店。それが生活特化型だ。お店自体も簡素な作りで、店頭に並ぶ魔石は木箱に原石のまま積まれて販売されている。ランスの魔石店のような商談部屋も存在しない。

 平民からしたら一番敷居が低くて、利用率が高いのがこの販売形態だ。販売される魔石は弱い魔獣からとれる魔獣石ばかりなので、悪く言えばクズ魔石専門店である。実際に店の中を見学させてもらったわけではないのが、研磨機は置いていないと思われる。


 最後に、宝飾特化型の魔石店だ。魔石の研磨を得意とする形態であるが、残念ながらこの街にはない。宝飾用なので、クズ魔石を美しく研磨できる腕があれば、それだけでも大きな稼ぎになる。

 扱う魔石の幅は広いが、研磨した商品を取り扱うため、傷の防止・窃盗防止の観点から、店頭に並ぶものはすべてケースに入れられて販売される。魔力含有値が高い魔石を宝飾用に研磨した商品については、お得意様用の部屋に鍵付きで保管されるのだとか。

 貴族との繋がりが持てる機会もそこそこあるので、そういった人脈を築ければ魔石店としては勝ち組になれる。ただ、この特徴から金に汚い魔石商が多いともいわれている。

 それでも、わたしは宝飾特化型の店を目指したいと心に決めたのだ。



 しかし、それには問題がある。宝飾特化の魔石商になりたいのに、要の研磨機が使えないのだ。これでは魔石商への道が遠のく一方だ。

 ……今夜は第2回研磨機を使わせてください大相談会だ。



「いいや、認めない」

 おじいちゃんの仕事終わりに持ち掛けた大相談会は、一瞬にして斬り捨てられました。


「でも、このままじゃただの看板娘だよ。前に進めないなんて、イライラする」

 ただ、今回の提案は通らないと予測はしていたので、自分の気持ちをぶつけてみる。わたしはテーブルに項垂れて、おじいちゃんに懇願の眼差しを向ける。


「ひとつ、研磨以外で魔石商に必要な能力をツィエンは忘れているな」

「ほかに必要な能力……?」


 わたしは予想をしていなかったおじいちゃんの言葉に、顔を上げて姿勢を正した。

 いま宝飾特化型の店を出すとして、足りない物。まずは研磨の技術だ。これがなければ話にならない。あとは魔石を供給してくれるハンターがいない。人脈だろうか。いや、でもおじいちゃんはそういうことを言っているわけではない気がする。


「魔力含有値を測る能力だ」

「魔力……」


 すっかり頭から抜けていた。言われてみれば、魔力含有値が測れなければ、魔石の買取価格も販売価格も決めようがない。まったくの盲点だった。

 そもそも、自分に魔力があるのかさえ知らない。魔石を見ることはあっても、使ったことはないのだ。


「透明度が高くてきれいな魔石に魔力がいっぱい含まれているのかと……」

「ん~、まあ感覚的には間違っちゃいないが、それじゃあ商売にはできんだろ」


 おじいちゃんは魔石を買い取る時、ルーペで魔石を覗いて、それでひとつひとつ値段をつける。魔力は視覚的にもわかるものなのかもしれない。


「魔石の魔力を測るには、自分の魔力を魔石に流すんだ」

「えっじゃあ、わたし魔力がなかったら魔石商になれないの?」

「いや、ちと値段は張るが、魔石の魔力含有値を測る魔道具もある」


 値段が張るのひと言に自分に魔力があってくれと願った。こういうところは商売人らしいと自分でも思う。でも、最悪魔力がなくても逃げ道があるのはありがたい。


「ツィエン、こっちにおいで」


 手招きされるがまま、わたしは席を立っておじいちゃんの横の席に移動する。

 おじいちゃんはわたしの肩に手を置く。何をするのかと表情を伺っていると、濃い金色の瞳の輝きが揺らいだのがわかった。

 きれい、と思ったのは束の間、ぐらりと脳みそが揺れるような気持ち悪さがわたしを襲う。


「気持ち悪いか。なら、ツィエンも魔力があるってことだ。よかったな」

 この人はたまに神経を疑うことをする。せめて魔力があって良かったと素直に喜べる状況になってから言ってほしいものだ。魔獣狩りのときもそうだが、おじいちゃんはちょっと雑だ。


「どうして気持ち悪いと魔力があるってことになるの」

 若干残る身体の違和感を抑えてわたしはおじいちゃんに質問する。


「さっき俺の魔力をツィエンに流した。魔力がない人間は、特に何も感じないが、魔力がある人からすると、他人の魔力は生理的に受け付けないはずだ」


 できれば魔力を流す前に説明して欲しかったが、この人にそういうことを求めても無駄な気がした。


「この要領で、自分の魔力を魔石に流すと反発がある。反発の大きさでだいたいの魔力を測る」

「魔石の透明度を見るのと同じで、すごく感覚的なことのように聞こえるのだけど」

「そこまで厳密に魔力含有値を測るなら、やはり専用の魔道具だろうな。俺の魔石店ではフレアドッグの魔石を持ってきた輩がファイアードラゴンの魔石だと嘘を言って買取を依頼してきた場合に、それを見破れるだけの目があれば十分だからな。」


 なるほど、おじいちゃんの店では、魔獣石の価格は魔獣によって一律だ。それにプラスアルファで発色が良いとか珍しい内包物(インクルージョン)があるとかで価格が変わることはたまにある。プラスアルファの要素については、宝飾特化の魔石店のほうが厳密にチェックしているだろう。


「まあ、まずはクズ魔石に魔力を流して使えるようになることだな。1度できればその後は苦労しないさ。」

 こうやって暗に、1度できるまでが大変だと含みをもたせた言い方は全くおじいちゃんらしい。


「じゃあおじいちゃん。魔力の使い方、教えてください」


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