13.研磨
はじめて研磨機に触らせてもらってから、一か月。やっと迎えた本番の日。
高速回転する刃によって魔石が切断されていく様は、気持ちが良かった。未だに指があの刃にかかったらと考えてしまい、切断はしばらくやらなくていいと思える。
切断後の魔石のくっきりとした直線的な断面は美しい。
練習の段階から、おじいちゃんの大雑把なカッティングを何度も見てきたので、今回は事前に切り落とす部分をみっちり相談している。一面カットするごとにチェックさせてもらう。
今回カットしたのは二面だけだ。原石の大きさがもともと小さいので、ある程度カットしたら、あとは研磨機で形作っていく工程に進む。
切断の時に使用していた刃を外し、粗削り用の砥石をセットする。わたしもおじいちゃんの足の間に腰を掛けて準備完了だ。おじいちゃんがわたしを後ろから抱きかかえる形が今の作業スタイルである。
おじいちゃんが研磨機を作動して、魔石を研磨機に当てたら、おじいちゃんの指にじぶんの手を添える。
研磨練習二回目の時にわたしが堪らずおじいちゃんの指を上からぐっと押すと、早く削れたが、その方法だと砥石の方が傷むらしい。微妙な力加減があるようだが、わたしはまだそれを体得できていない。
研磨中はその都度水で表面を洗い流して、形を確認していく。練習した甲斐もあって、無駄に削ることもなく、4センチくらいの大きさのドロップ型のカボションカットの基礎が完成だ。
それから、もう少し目の細かい砥石に替えて表面を滑らかに整える。そのあとさらに光沢を出すための工程がある。
魔石をアクセサリーに加工すると原石よりも高い値段で売られるが、やはり作業工程が多く、手間がかかっている。
ランスの魔石店のように安定して魔石が入手できるルートがある場合、原石のままの販売や、ある程度の形に整えて販売する方が売り上げは良さそうだ。
「もうこんなに日が高いな。お互いすごい集中力だ」
表面を滑らかにし終わって、あとは光沢出しのみというところで、おじいちゃんは手を止めた。
わたしはいつも、まだまだ続けて作業できるのにと思うが、おじいちゃんは「肩が凝る。腕が上がらない」と度々作業を中断させる。
早く先に進みたいあまり、文句がでてきそうになるが、なんとか飲み込む。お願いして特別に研磨させてもらっていることをどうも忘れてしまう。
「ツィエン、あとは夜でいいか?ちょっと店を開けてくる」
「はーい」
お店を開けると言われては仕方がない。お仕事をしなくては、お金が稼げないのだから。
わたしは、作業ができない間、ミラージュにプレゼントをする準備を進めることにした。そのまま渡すのでは味気がない。木箱に直接入れただけでは、せっかく研磨した後なのに小さな傷ができてしまう可能性もある。絹の端切れに包むことは前から決めていたので、包んだ上でどう渡すかだ。
ミラージュとの思い出を思い出しながら、以前わたしに振舞ってくれた瓶詰の砂糖菓子を思い出す。
うん。自分らしいし、あの時の気持ちが嬉しかったことをきちんと伝えられるきっかけにもなりそうだ。
早速、キッチンの食器棚にストックしてある、ジャム入れの瓶を漁りに行き、比較的口の広い瓶をいくつか取り出した。瓶の蓋をあけてテーブルの上に並べてみる。そこに、お気に入りの丸いキャンディを詰める。
キャンディを両側からねじり包む透明の包み紙のおかげで、多少のクッション性は見込めそうだ。ただ、それだとちょっと心許ないので、キャンディの上に綿を置く。
その状態でいくつかの瓶を見比べてみると、背の低いものは、すでに瓶の口まで綿が溢れてしまい、この上に魔石を置くスペースはなさそうだ。だからといって、あんまり背が高くて大きい瓶は仰々しすぎる。
結局、間をとって中くらいの、自分の掌よりすこし大きい瓶に、キャンディの量を減らして、魔石を入れるスペースを確保することにした。
一度瓶の蓋を閉めて、持ち上げてみる。
透明の包み紙に光があたっていい感じにキラリと反射させる。丸いキャンディも色とりどりで想像以上に豪華な見た目だ。
そのあともミラージュになんて伝えようか、シミュレーションをしているうちに日が暮れていた。
キッチンと廊下を繋ぐ扉が開き、やっと作業が進められる喜びに思わず椅子から立ち上がった。
しかし、お店から戻ってきたおじいちゃんは、疲れた顔をしていて、その一瞬で光沢出しの仕上げが明日に伸びることをわたしは覚悟した。
「……それに入れてプレゼントするのか」
おじいちゃんは、キッチンのテーブルに置かれた瓶を見て、わたしの大好きな困り眉の笑顔を見せる。
「夕飯の前に、仕上げないとな。行くぞツィエン」
「おじいちゃん、お仕事お疲れ様です。……ありがとうね」
暗くなり始めた作業部屋を照らす燭台の灯りは、わたしたちの手元を応援するように揺れる。
何日も研磨を続けたおじいちゃんの爪は削れて白くなっていた。
汚れていくわたしたちの手と、輝きを持ち始める魔石と。
水に浸されて顔をだした魔石は、つるりと光り、わたしたちの仕事が終えたことを告げる。
その瞬間、魔獣を倒すまでの道のりや、研磨機を使うための交渉からおじいちゃんの譲歩。研磨の練習をしながらちょっぴり喧嘩したことが思い出されて、知らずうちに涙が零れた。
「おつかれさん」
頭を雑に撫でられながら、ドロップ型のカボションカットの魔石を受け取る。わたしは用意していた絹に包み、それを先ほど準備したプレゼント用の瓶に寝かせる。
「ごめんなさいとあなたは十分に可愛いです。伝わりますように」
わたしは言葉を封じ込めるようにして、そっと瓶の蓋を閉めた。
いつも以上にセリフが少なくなってしまった。
ちょっと反省。




