幼女様と強敵との決着?
江村さんに友達宣言をした日に、美咲さんとアリスにお願いして監視を解除してもらった。
当然心配されちゃったけど、理由を説明して納得してもらったわ。
琴美は、少し複雑そうだったけどね。
「イヴ、本当に大丈夫?」
「心配しないで。琴美が居れば何だって乗り越えられるわ」
「もう、すぐそういう事言う…」
言葉の割に顔がニヤけてるわよ。
ベッドで向かい合ったまま軽いキスをして、琴美を抱きしめる。
「分かってるわ。琴美が不安な事」
「…二つある事も?」
「えぇ。一つは私の心の心配。もう一つは、江村さんという存在についてかしら」
「うん、正解。イヴの心が私から離れないって分かってるけど、それでも自分から仲良くしようとしてるから、少しだけね」
「ふふ、今回は怒らないわ。そう思われても仕方ないもの。でも安心して?何も深い意味なんて無いから」
「じゃあ、なんで?」
「言われたのよ…『自分が望んでいる事が、世間から異常と言われても辞められるのか』って」
「…それって」
「そうね、まさに私達の関係だわ。同性愛は悪では無くても、少数なのは間違いないし、人は自分と違うものを受け入れられない生き物だから」
「…うん。でも、後悔なんてしてない。イヴと恋び…こういう関係になって幸せしかないから」
何故言い直したのかしら。
私達は…
あら?
もしかして私達、気持ちでは両想いだけど、明確に恋人になったわけじゃない?
琴美が前にあんな事を言ったのも、これが原因なんじゃ…
「あのね、琴美」
「なに?」
「私、琴美が好きよ」
「え…うん。私もイヴが好き」
「だから…その…」
「イヴ?」
待って…
散々好きって言ってきたのに、「恋人になって」の一言がこんなに緊張するなんて…
「わ、私と…」
「うん」
「私と…恋人に、なって下さい」
「っ⁉︎」
っはぁ…緊張した。
江村さんと会話するより緊張したかも。
琴美は、受け入れてくれるかしら…
私とイチャイチャするのは良くても、関係まで進展させるのは嫌って…思わないかしら。
「…っ…うっ…」
「え、琴美⁉︎」
「ごめ…嬉しくて…ずっと、イヴとちゃんと付き合えたらって…思ってたから」
「琴美…ごめんなさい。私が勝手にそのつもりでいた所為ね」
「良いの。やっと叶ったから…」
私、こんなに琴美を悩ませておきながら、不安になって当たり前の琴美に怒ったのね…
悪いのは、全部私じゃない。
「あの時、酷い態度をしてごめんなさい。琴美は不安になって当然なのに、私の勘違いで傷付けたわ」
「ううん、あれは私が悪いから…イヴはどんな関係でも、真っ直ぐに好きでいてくれたのに」
あぁ、こんな良い子を傷つけた罪悪感が凄いわ。
何か、お詫びが出来ないかしら。
…アリスの家だけど、カメラとかは無さそうだし、扉の前に誰も居ないから、少しくらい良いわよね?
ーーシュル…
「…イヴ?何してるの?」
「こんな事で埋め合わせになるか分からないけど、私の気が済まないから」
「え?ちょっと…ここ、アリスの家よ?」
「…だから、ちょっとだけ」
ネグリジェを脱いで下着姿になり、布団で隠しながら琴美を抱き締める。
「琴美、私の上にきて?」
「そ、そんなこと…」
「良いの。今日だけは、琴美の好きにされたいから」
「っ…そう言われたら、我慢出来るわけないじゃない」
琴美がベッドの中で位置を変えて、四つん這いで上から見下ろしてくる。
あ、ちょっとだけ江村さんの気持ちが分かったかも…
好きな人に受け身でいるのって、ドキドキする。
琴美がブラを外してきて、脱がされる。
思えば、意識がある時に琴美からされるのって初めてかもしれない。
そう思うと更にドキドキしてきた。
「や、やっぱり少し恥ずかしいわね」
「今更嫌って言っても、やめてあげないわよ」
「っ…はい」
(イヴが完全に受け身になってる。ヤバいかも…ちょっとで済むか自信無くなってきた)
あぁ、琴美の手が直に…
「んっ…ふ…」
「まだ肩と腕撫でただけよ?」
「今日、いつもより敏感かも」
「ふぅん…じゃあ、ここ触ったらもっと凄そう」
「あ、そこは…んん!」
む、胸…軽く触られただけで体が震える。
琴美が見たことないSな顔してるから、余計に興奮しちゃう。
「イヴ、可愛い」
「はぁ…はぁ…琴美の、意地悪な顔…好き」
「っ…もう、本当に止まらなくなるでしょ」
「あっ…ん…ま、待って…そこ…ひゃう⁉︎」
な、なにこれ…身体中、電気走ったみたい。
軽く先っぽを摘まれただけで、こんなになるなんて。
あ、駄目…幸せ過ぎて、涙が勝手に…
「イヴ⁉︎ごめん!」
「ち、ちが…琴美と、一緒よ…幸せなの」
「イヴ…大好き」
「私も、大好きよ」
いつもと逆の立場で、起きながら琴美に弄られた所為か、二人共興奮が治らなくて夜中まで愛し合ってた。
受け身も、たまには良いかもしれないわね。
翌朝。
「お姉様?何だか肌がツヤツヤしていませんか?」
「そう?色々吹っ切れたからかしら」
貴女の家で何時間もイチャイチャしてたから、なんて言えるわけ無いじゃない。
実際吹っ切れたのは確かだから、江村さんとの件も頑張れそう。
何より、琴美とちゃんと恋人になれた事が幸せ過ぎて、今なら何でも乗り越えられるわ。
そう思っていた朝の自分を、今の私が見たら笑ってしまうわね。
放課後、監視がいなくなった江村さんが例の如く手紙を靴箱に入れていて、『一人で校舎裏に』と呼び出されたわ。
琴美にも一人で行くと伝えて来たわけだけど、実際目の前にするとまだ緊張してる自分がいて笑えてくる。
「あ、来てくれたんですね」
「…普通の友達になるって、決めたもの」
「じゃあ、監視を解いたのは早かったんじゃないですか?」
「友達を監視する必要なんてないでしょ?」
「そうですか…なら、存分に拒絶してもらえますね」
不意に手を引かれて、キスでもされるのかと口を手で守ったけど、校舎と江村さんに挟まれて逃げ場を失う形になった。
これ、壁ドンってやつかしら。
琴美にしたら…いえ、身長差がありすぎて高さが微妙ね。
されるのは有りかも。
「どうしたの?壁ドンなんて青春っぽい事しちゃって」
「…ふふ、無理してますね。手、震えてますよ」
「っ…これは」
「寒いんですか?温めてあげますよ」
江村さんがさわさわと手を撫でてきて、琴美に意地悪してる時とは違ったゾワゾワ感が全身を走る。
駄目よ。ここで拒絶したら、江村さんの思い通りになる…
「あ、ありがとう。もうすぐ夏なのにおかしいわね」
「良いんです。寒がりな先輩の為に、私が隅々まで温めてあげますから」
が、我慢よ…
指を絡められても、首筋を撫でられても、どんなにゾワゾワしても、拒絶しちゃ駄目。
「ほら、先輩も温めて下さいよ。私も手が寒いです」
「っ…わ、分かったわ」
嫌…琴美以外にこんなことしたくない。
でも、拒絶したら負けだから。
江村さんに、諦めさせる為だから…
「じゃあ次は、ギュって抱き締めてもらいましょうか」
「…こ、これで良いの?」
お願い、もうこれ以上やめて…
心と体が悲鳴を上げそう。
勝手に震える体を止める事が出来ないの。
「良いですね。最高です。じゃあ…最後は…」
「っ⁉︎」
あ、顎をクイッて持ち上げて…これ、キスするつもり⁉︎
嫌!それだけはやめて!
「…あは、流石に嫌がりましたね」
「あっ…でも、これは…だって…」
「良いんですよ、拒否しても。私はどっちでも満足ですから」
「っ…」
これじゃあ、本当にどっちにしても江村さんが喜ぶだけだわ。
でも、どうすれば良いの…
琴美以外とキスなんてしたくない!
だからって拒否すれば、江村さんの望み通りに…
もう、頭がおかしくなりそう。
「…え」
…え?
今のは、どっちの声?
私?江村さん?
私じゃないなら、江村さんが驚くような事がなにか…
「な、なんで…泣いてるんですか」
「…泣いてる?」
あ、本当だ。
また勝手に泣いて…最近体ばかり正直ね。
「なんで、拒絶しないんですか。泣くほど嫌なら『嫌だ』って言えば良いじゃないですか!」
「…拒絶したら江村さんは喜ぶけど、私は怖いのよ。だからって監視して衰弱させるのも間違ってると思ったから、私は普通の友達になりたいの」
「そんなの、無視してれば終わりでしょう⁉︎無視してるだけで勝手に喜んで満足するなら簡単です」
無視、ね…
それが出来たら、苦労はしてないわ。
「…貴女、私のことどう思う?」
「どうって、好きですよ。虐められたいくらいに」
「それって私がこんな見た目だから?女だから?」
「はい?何ですか急に。私は見た目なんて気にしません。イヴ先輩が170cmを超える女性だろうと同じです。雰囲気が好きになったんですから」
「それは素直にありがとう。でもね、コレは貴女が望んでいるような存在じゃないのよ」
二年生や三年生の一部には知られてるでしょうし、今更隠す事も無いわよね。
というより、もっと早く本当の事を言っておけば良かったわ。
「男なのよ、私」
「……はい?」
「正確には元男かしら。桐生院零って、知ってる?」
「まぁ、名前くらいは…有名ですから」
「彼が父親の実験台になって服用した薬の結果が、私よ」
「…嘘です。私が諦めるようにそんな出鱈目を!」
「嘘じゃないわ。いえ、本当は嘘かどうかも証明出来ないのだけど」
「どういうことですか?」
「私ね、零だった自分の記憶が無いの」
「……え…」
「気付いた時には『私』になってた。家族と自分の記憶が全く無くて、頼れるのは隣に住む幼馴染の琴美だけ」
「ほ、本当に…イヴ先輩が、男?」
「今は正真正銘女よ。ただ、元男とかそんな事より、もっと大事な話があるの」
「…これ以上、何を言うんですか」
琴美にもまだ言って無い事だけど…
多分薄々は分かってるわよね。
分かった上で、黙ってくれているんだわ。
「私ね、いつか消えるの」
「っ⁉︎」
「元に戻す薬がいつになるか分からないけど、いつか必ず私は居なくなる。だから、今の内に私に飽きて諦めて頂戴。それが貴女の為になるから」
「………」
突然こんな事言われても、戸惑うわよね。
こんな逃げみたいな手は使うべきじゃ無いのでしょうけど、あれ以上は耐えられなかったわ。
普通の友達になりたいなんて言っておきながら情けない…
「なんで…なんでそんな事言うんですか…しかも今更になって…」
「ごめんなさい。貴女と友達になれたら、言う必要は無かったのかもしれないわ…私が弱いから…貴女を、受け入れてあげられなかったから…本当に、ごめんなさい」
私は、いったいどれだけの人に迷惑を掛けるのかしら。
一人で勝手に怖がって、琴美やアリス、美咲さんにアリスの家の人達。
終いには江村さん本人にまで…
「こんな私に、どんな形であれ好意を寄せるなんて勿体無いわ。江村さんは可愛くて美人なんだから、もっと普通の、ちゃんとした人を好きになるべきよ」
「…普通ってなんですか。私は、イヴ先輩以外にこんな自分を出した事なんてありません。見た目に寄ってくる馬鹿な男子や、裏表ばかりの面倒な友達付き合いもうんざりです。イヴ先輩だけが、私を拒絶してくれたのに」
また、拒絶。
何でこの子はそんなに拒絶されたがるのかしら。
ただMだからって理由にしては、少し重すぎる気がするのだけど。
「江村さんは、どうしてそこまで拒絶されたがるの?」
「…イヴ先輩が言ったじゃないですか、私は可愛くて美人だって。今までそんな言葉だけの人を何人見てきたか…もう嫌なんです。外見だけで私の全てを肯定してくるような上っ面な付き合いは」
「…そういう事だったの。だから、私に?」
「いえ、初めは拒絶するか肯定するか分かりませんでしたから。純粋に雰囲気に惹かれました。でも、態とらしい変態的な告白をイヴ先輩に拒絶されて、今まで感じた事がないくらいゾクゾクしたんです。ちょっと気になった人に拒否されるのとは違う完全な拒絶が、堪らなかった」
そういう話なら、告白以降更に過激になったのも頷けるかも。
でも、それもここまでね…
真実を知ったら、流石の江村さんだって嫌がるでしょう。
「江村さん、貴女の気持ちには、やっぱり応えられないわ…これが、私からの最後の拒絶よ」
「…イヴ先輩」
「普通じゃ無くても良いのかもしれない。人の数だけ恋愛の仕方があって良いのかもしれない。でも、私だけはやめておきなさい。必ず悲しい結末になるから」
「それは聞き捨てならないわね」
「「!?」」
え…な、なんでここに?
今日は私一人で行くって言ったのに。
「貴女は、いつもイヴ先輩と一緒にいる…」
「天音琴美よ。イヴの恋人のね」
「っ⁉︎琴美⁉︎」
「は?え?恋人?」
「そう、イヴの恋人。残念だけど、イヴの心は私でいっぱいなの。誰も入る余地なんてないくらいに」
「え、ちょっと…琴美?」
な、なに?何なのこの展開⁉︎
「…どういうことですか、イヴ先輩?」
「あ、えっと…これは…」
「イヴを責めないでくれない?私が黙ってるように命令したんだから」
はい⁉︎さっきから何を言ってるのよ!
「ま、まさかイヴ先輩って…こっち側の人だったんですか?」
「いや、私は…どちらかというと…」
「そうよ。イヴは私に意地悪されるのが大好きなの」
「琴美⁉︎」
「だから同じ側の江村さんには応えられないどころか、対応しきれなくて怖がっちゃうのよ」
「そんな…だって、普段はあんなにお姉様な雰囲気で…」
「あら、貴女こそイヴの上っ面しか見てないのね。昨日なんて私に責められるのが嬉しくて泣いちゃったくらいなのに」
「「っ⁉︎」」
な、ななな…
なんでそんな事言っちゃうのよ!
恥ずかしくて顔上げられないじゃない!
「こ、この反応…本当に…」
「分かったでしょ?貴女が求めてるものは絶対に手に入らないって。だからもう諦めなさい」
「っ…し、信じませんから!私は絶対に諦めません!」
「あっ、江村さん!」
行っちゃった…
とんでもない勘違いをされたまま…
「琴美…なんで…」
「………」
「琴美?」
「さっきの、どういうつもりで言ったの?」
「え?」
「私だけはやめなさいって。必ず悲しい結末になるからって」
「あ、あれは…」
「たとえ江村さんを諦めさせる為でも、イヴ自身がそんな事言うなんて許さないわ」
「琴美…」
「だったら、恋人の私はどうなるの?そんな風に思いながら付き合ったの⁉︎」
「ち、違う…けど…私は、いつか…」
「そんなの分からないじゃない!薬が完成しないかもしれない!イヴも零も存在出来るかもしれない!最初から諦めないでよ!…私を、一人にしないでよ…」
「っ…ごめんなさい」
そうだわ。前にも思ったじゃない。
本当に悲しいのは、私より残された人達だって。
私が最初から諦めたら、それこそ残される人達に申し訳ないわよね。
「許してほしいなら、三つ約束して」
「うん。何でも言って?」
「一つ目、二度とさっきみたいな事は言わないで」
「分かったわ。私も足掻き続ける」
「二つ目、たとえ拒絶できないからって、他の人にベタベタしないで」
「…うん。ごめんなさい」
「三つ目…昨日のイヴが可愛すぎたから、時々私にも意地悪させて?」
「…それは…約束なんてしなくても、琴美にならいつだって…」
「じゃあ、今すぐ」
「っ…でも、ここ学校…」
「抱っこするだけ」
琴美が私を抱き上げて、子供のように抱っこする。
初めて琴美にこんな抱かれ方したから、ちょっと恥ずかしい。
「ほんと可愛い…ねぇイヴ、居なくならないでね」
「…えぇ。私も、琴美から離れたくない」
半ば諦めてたけど、自分じゃなくて、琴美の為に抗いましょう。
お父様の研究が上手くいくように願うしか無いのだけど…
あぁ、江村さんの勘違いもどうにかしないと。
問題はまだまだ残ってるわね。




