TSした幼女様はSっ気があるようです
六月中旬。
眩しい朝日を感じて目が覚める。
まだ眠たい目を擦るけど、なんか手が小さいわね。
あれ?私の手ってこんなだったかしら?
もっと大きかったような…
「服もぶかぶか…」
なんだか自分が自分じゃ無いみたい。
まぁ良いわ。取り敢えず顔を洗わないと。
…洗面所の水道こんな高かった?
私の腰くらいしかなかったはずなのに。
「なにか、台になるもの…」
椅子を持ってきて鏡を見ると、長い黒髪の女の子が映ってる。
目は日本人ぽくない赤い瞳で、手も小さかったけど顔もかなり小顔だった。
私ってこんな小学生だったかしら。高校生くらいかと思ったんだけど…
そもそも私、女だったっけ。
何だか記憶が曖昧ね。
昨日何してたかよく思い出せないし。
ーーピンポーン
お客様?
こんな格好で良いかしら?Tシャツ一枚だけしか着てないけど、他に服無いものね…
「はい、どちら様?」
「おはよう。何かおじさんに服持ってくように頼まれたから…来た…わよ?」
「あ、琴美」
家が隣で幼馴染みの天音 琴美。
ダークブラウンのセミロングで、いつもポニーテールにしてるからしっかり者って印象を持たれてる。髪と同じ色をした目はぱっちりしてて可愛らしい。
私とは幼稚園から一緒で、今年高校2年生…
あら?でもそれだと私もやっぱり高校生よね?
この身長差はおかしい気が…
「えっと…零の親戚の子かな?」
「レイ?誰それ?」
「え?」
「ごめんなさい。私もさっき目が覚めたばかりで、自分がよく分からないの」
「えっと、おじさんやおばさんから連絡は?」
「そういえば、ここには私以外誰もいなかったわね」
「ちょっと待ってて、今電話してみるから」
不思議ね、琴美の事は分かるのに、自分の事も家族の事もよく思い出せないなんて。
琴美が電話をしてくれてるけど、何だかお互いに慌ててる雰囲気がするわ。
「えぇ⁉︎う、嘘…だって、小学生くらいの女の子になっちゃってるけど…うん。本当に…服は別に良いんだけど…いやそれよりもこれどうするの?」
どうやら私のお父さん達も今の状況を知らないみたいね。
私の曖昧な記憶が確かなら、私は高校生のはずなんだけど、この身長で通うの?
「分かった。取り敢えずは私の家で…うん、それじゃあ」
「…終わった?」
「うん。色々説明しなきゃいけない事があるから、一回家にあがるわね」
「どうぞ」
後ろを歩いてる琴美から視線を感じるけど、やっぱり私の姿が気になるのね。
「ねぇ、今ダボダボのTシャツ着てるけど、下は何か穿いてるの?」
「全部ぶかぶかで落ちるから、何も穿いてないわ。ほら」
「ちょ、ちょっと⁉︎そんないきなり見せなくて良いから!」
あら、女の子同士なのにそんな動揺しちゃって、可愛いのね。
でもいきなり裸の下半身見せるのも変か、ちょっと反省。
(つ、つるつる…本当に女の子だった…)
私の部屋に入ってクッションに座るけど、さっき見せちゃったから変に意識してるのが視線で分かる。
ふふ、体は琴美の方が大きいのに、中身は逆に初心なのね。
「それで、私のお父様は何て言ってたの?」
「えっと…信じられないかもしれないけど…貴女は私の幼馴染み、桐生院零が女の子になった姿みたいなの」
「ふぅん、そうなのね」
「…え?それだけ?」
「起きた時から違和感はあったから。大きい男物の服に、高校生だった気がするって違和感。それで今の話をされたら、もう信じるしかないでしょ?」
「…見た目は小学生なのに中身は随分大人なのね」
「他には何か言ってた?」
「あ、そうね。そもそもこうなった原因なんだけど…おじさんが研究所の所長なのは覚えてる?」
「いいえ、自分と家族に関する記憶は殆ど無いわ」
「えっと、おじさんは色々な薬の研究と開発をしてるんだけど、人間のホルモンとか遺伝子とかを操作する薬を開発したみたいで、零に協力をお願いしたの。時々零も研究を手伝ってたから、今回もその薬を飲んであげたら、貴女になったってわけ」
「随分面白い薬を作るのね。男子高校生を幼女にする薬だなんて」
私のお父さんは息子より娘が欲しかったのかしら。
それとも、単に幼女が好きな危ない人?
「それが、本来なら私と同じ女子高生くらいになるはずだったんだけど…薬の成分異常なのかその見た目に…おじさんは今急いで成分を調べてるわ」
「そんな慌てなくても良いのに。死ぬわけじゃないんでしょ?」
「そうだけど…小さな女の子一人じゃ危ないじゃない」
「私の両親が家にいないのは、研究の所為なの?」
「うん。おばさんも助手として一緒に行ってるわ。もう数ヶ月くらい帰ってきてないわね」
普通新薬とかを試すならすぐ傍で観察すると思うけど、変わってるのね私の両親は。
「じゃあ私でも生活出来るように色々と買い揃えないといけないのね」
「あ、それなんだけど…おじさん達が帰ってくるまで私の家で暮らさない?」
「それは助かるけど、迷惑じゃない?」
「全然。昔からどっちかの家に泊まりくるなんてしょっちゅうだったし。貴女小さいから一人だと大変でしょ?」
「じゃあ、お言葉に甘えて。ありがとう琴美」
「…なんか小学生から名前で呼ばれてるみたいで不思議な感覚ね」
「ふふ、じゃあ「お姉ちゃん」って呼んであげようか?」
「お姉ちゃん⁉︎…い、良いかも」
「決まりね。これから宜しくね、お姉ちゃん」
「うん、よろしく…あー…零って呼んだらおかしいし、何か貴女の名前を考えないといけないわね」
「お姉ちゃんが考えてくれない?」
「私が?…あ、そうそう。零ってイギリス人のおじさんと日本人のおばさんのハーフなんだけど、向こうではレイヴンって名前なのよ。だからそこから取ってイヴなんてどうかしら」
「イヴ…良い名前ね。ありがとうお姉ちゃん」
イヴ…イヴ。
うん、なんだかしっくりくる。
「名前も決まったし、生活に必要な物を買いに行きましょうか」
「そうしたいけど、この格好をどうにかしないと」
「そ、そうよね…ちょっと待ってて、私の子供の頃の服があるかもしれない」
琴美が家を出て自宅に戻っている間に、今までの話を整理してようかな。
私が今の私になる前は、桐生院零という男子高校生で、両親はイギリス人と日本人、研究所の所長と助手をしている。
両親が作った薬の被験者になった桐生院零は、気が付いた時には私になっていた。
何故か自分や家族の事は思い出せないのに、琴美や他の人達の事は覚えている。
今後は琴美の家にお世話になり、両親の薬の研究と改良を待つ事に…
こんなところかしら。
それにしても、私の体を見た時や、お姉ちゃんって呼ばれた時の琴美の反応。
これからがちょっと楽しみになってくるわね。
「お待たせイヴ。これ着れるか試してみて」
「ありがとうお姉ちゃん」
紙袋に沢山入ってる服を広げて、自分が気に入った物を選ぶ。
この年まで小学生サイズの下着を保管してるなんて、おばさんは相変わらず物を取っておくのが好きなのね。
「じゃあ着替えるから、お姉ちゃん見ててくれる?」
「な、なんで見てる必要があるのよ⁉︎」
「私は女の子の服の着方なんて知らないもの。間違ってたら困るでしょ?」
「そ、それはそうかもしれないけど…」
顔を赤くして照れちゃって、やっぱり琴美は初心で可愛い。
こんな子供みたいな見た目の私に動揺してる琴美を見ると、少し楽しくなってくる。
ぶかぶかだったTシャツを脱いで裸の状態になる。
初めて自分の全身を見たけど、こんな体でも一応胸は少しあるのね。
ぷにぷにというか、ふにふにしてて柔らかい。
「む、胸なんて触らなくて良いから!早く着替えて!」
「だって、自分の体なのに自分の体じゃないみたいって不思議な感覚で。お姉ちゃんも触ってみる?」
「さ、触らないわよ!」
「じゃあまた今度ね」
「そんな機会無いから!」
ふふ、琴美の反応見るの面白くて好きかも。
女の子の体とか、自分の体とか別に興奮しないけど、琴美が照れたり動揺したりするとちょっとドキドキする。
自然と笑顔になって、背中に何かが這うようなゾクゾクした感覚が広がる。
「ど、どうしたの?そんな急に笑顔で…」
「お姉ちゃんとお買い物するの楽しみだなって」
「っ…そう。私も妹が出来たみたいで、ちょっと楽しいわ」
(イヴが零だなんて未だに信じられないし、中身も完全に別人だけど…妙に大人っぽいというか落ち着いたイヴが笑うと、凄く可愛い…)
「どう?ちゃんと着られたかしら」
「大丈夫よ。ワンピースにしたのね」
「これが一番シンプルで落ち着いてるから」
「本当中身は子供っぽくないというか、そういう所は零みたいね」
「そうなの?私ってどんな人だった?」
「おじさんと同じ研究好きで、頭が良くていつもテストでも学年一番で、運動も得意で、誰にでも優しいから友達も多かったし、不良とかギャルとか言われてるような人達も零には素直だったわね」
「そんな漫画やドラマにしか居ないような人だったのね、元の私って」
「そうね、結構人気者だったわよ」
あら?人気者って言った瞬間、ちょっと不安そうな顔になったわ。
もしかして琴美、零だった頃の私のこと…
「イヴは見た目以外は本当に大人みたいだし、高校でも問題無いかもね」
「不思議と授業の事も覚えてるし、問題は制服のサイズだけかしら」
「それはおじさんが学校に説明して、後で私が測ったサイズで特注するみたいだから、それまではお休みする事になるみたい」
「それは仕方ないから我慢するわ。その間に少しでも今の自分に慣れないと」
「体の感覚も全然違うだろうから、怪我には注意するのよ?」
「琴美、本当にお姉ちゃんみたい。ありがとう」
お金とかの支度も終わったから家を出てデパートへ向かう。
大量生産の子供服売り場だと私の好みの服が無かったから、ちょっと高いけど落ち着いたデザインの子供服が売られてるお店に。
「イヴはどんな服でも似合いそう」
「そう?ゴスロリとかは合わなそうだけど」
「なんでよりによってそのジャンルを出すのよ。でもそれすら似合いそう」
「本当?なら一着くらいあっても良いかも」
「あとで見に行きましょうか」
ワンピースやスカート、Tシャツ、セーター、取り敢えず気に入ったものでサイズが有ったらカゴに入れていく。
来る前に琴美に身長を測ってもらったし、試着はしなくても良いわ。
「これ下さい」
「ありがとうございます。お姉ちゃんとお買い物かな?良かったねぇ」
この見た目だとやっぱり子供扱いされるのね。
分かってたけど、あまり嬉しくない。
「お会計18,560円です」
「はい」
「え?」
琴美では無く私がお金を出した事で店員さんが驚いてる。
零だった頃に被験者の協力金としてお父さんから結構もらってたみたい。
「あ、ありがとうございました」
動揺したままの店員さんから服を受け取ってお店を出ると、琴美が手を伸ばして服の入った袋を持ってくれた。
「イヴには大きくて持ち難いでしょ?」
「ありがとうお姉ちゃん」
じゃあ空いてる反対側の手は、私が握らせてもらおうかしら。
ーーキュ
「っ⁉︎え?」
「ふふ、本当に姉妹みたい。嫌だった?」
「い、嫌じゃないわ。妹との買い物ってこんな感じなのね」
「お姉ちゃんは一人っ子だけど、私には兄弟っている?」
「零も一人っ子よ。だから余計に新鮮なの」
「お姉ちゃんがしたかったらいつでもしてあげるからね」
「あ、ありがとう」
また照れてる。
妹って存在が新鮮なのと、それが元零だから更にって感じかしら。
そのまま手を繋いでゴスロリの服が置いてあるお店に到着。
フリルの付いたドレスのような服ばっかりね。
あまり派手なのは好きじゃないのだけれど。
「あ、ねぇイヴ、これなんて落ち着いてるけど可愛いわよ」
琴美が取ったのは、黒のドレスだった。
飾りが殆ど無いけど、オープンバックと呼ばれる背中が大胆に見えるタイプで、紐がいくつか交差してるけど、気休め程度にしか隠さないと思う。
全体的に黒だから気付かなかったみたいで、取ってから背中部分を見て顔を赤くしちゃった。
「ご、ごめん!やっぱり無し!」
「どうして?私も可愛いって思ったわ。それに、他のは子供向けにフリルや飾りが多すぎるから、それが良い」
「ダメよこんな大胆な服…イヴにはまだ早いわ」
「お姉ちゃんなら同じデザイン着る?」
「それは…着ないけど…」
「なら早い遅いじゃ無いのね。なんで私が着ちゃダメか教えて?」
「…だ、だって…こんなのイヴが着たら、凄く注目されるじゃない…ただでさえこんな可愛いのに、変な男に目を付けられたらって思うと…」
「お姉ちゃんは私を心配してくれてるのね、ありがとう」
琴美は、私の事可愛いって思ってくれてるんだ?
私も、琴美の事可愛いって思ってるわ。
今は口にはしないけどね。
「じゃあ、これはお姉ちゃんの前でだけ着てあげる」
「っ⁉︎」
「それなら他の男から見られる事も無いし、独り占め出来るでしょ?」
「あ…な、なんで…そんな」
「お姉ちゃんが私を可愛いって言ってくれたから、ご褒美ってことでどう?」
「…うぅ…じゃあ…私が買う」
「ふふ、ありがとうお姉ちゃん」
別にお金なんて私が払うのに。
私には買ってもらった事よりも、琴美が私を可愛いって言ってくれて、他の人から見られるのが嫌って思ってくれた事の方が嬉しいんだから。