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鳴海 燕という女学生

作者: もんじゃ

拙作『腫れ物扱いの先輩が、私には優しい』と『イケメンな彼女と陰キャな俺の話』を読んでから読まれることを推奨します。


 「睦月むつきせんせ、一緒に帰りましょ」


 振り向くと私が教師として勤めている学校の生徒、鳴海なるみ つばめという女子学生がこちらを見ていた。鳴海 燕という女子は私見では学校で一番の美少女だと思う、そんな女学生が私に話し掛けてくる。私はこの生徒の担任でもなく、教科の担当もしてないのに。


 「……鳴海さん、どうかしたかい?」


 「睦月先生とは帰り道一緒じゃないですか、それならお話しながら帰った方が楽しいかなって」と言って鳴海さんは私の隣に並ぶ。


 「……私は、ちょっと街の方を見回りしながら帰るつもりなんだが……」


 「私は悪い子じゃないので寄り道なんてしませんよ。途中まででも一緒に行きましょう?」


 そんなことを美少女に笑顔で言われたら断ることなんて出来ない。


 道中は学校生活について話をする。


 「あーあ、私も睦月先生が授業の担当なら良いのに……」


 そんな嬉しいことを言ってくれるがこればっかりは仕方ないことだ。


 そんな風に二人で歩いていたら彼女との分かれ道に差し掛かった。


 「……それじゃ、私は見回りがあるのでこっちだから」


 寄り道せずに帰りなさいと鳴海 燕に告げて歩き始めたら……彼女も私と同じ方向に歩き始めた。


 「……鳴海、寄り道しないんじゃなかったのか?」


 私が少し強めに言うが、彼女は何処吹く風と聞き流し


 「……先生、もうちょっとだけ一緒に歩きたいの……駄目?」


 上目遣いで私にお願いする美少女に私は……駄目とは言えなかった。


 「……ふふ、睦月先生はやっぱり優しい。だから好き」


 そう言ってご機嫌な彼女は私の左手を握ってくる。


 「お、おい!何をしてる!?」


 スーツ姿の教師とセーラー服の女子学生が手を繋いで歩いているのを誰かに見られたら問題になると私は慌てて注意するのだが


 「……先生、今は誰もいないから」


 そんなことを彼女は言って私の手を離さない


 「……先生はいつも左手の薬指に指輪つけてるんだね」


 そう言って鳴海 燕は私の結婚指輪に触れ、そしてその細い指で私の手を再び握る。


 世間体を考えたら本当はその手を振りほどかなくてはならないのはわかっているのだが……私は彼女の手を握り返した。


 鳴海 燕は私の方に顔を向け


 「ふふ……先生、好き」


 そんなことを笑顔で言う、見回りの繁華街に近づいたら彼女は自分からその手を離してきた。


 「……先生、人目があるから……ね?」


 人目が無くなったらまた……とその目は伝えてくるが私は何も応えず繁華街を歩く。


 「……先生、待って……」


 そう言って鳴海 燕が私の後をついてくる、これは本当に失敗したと思った。端から見ればどう考えても援助交際の二人に見えてしまうだろう。


 「……鳴海、今日は見回りを中止するから……もう帰ろう」


 引き返そうとしたら鳴海は


 「……先生、あれ!」


 そう小さな声で私に告げ、指で示した先にはラブホテルがあり、そこから若い男女が出てきたところだった。


 「……あの二人、うちの学生だよ?」


 鳴海が言うとおり、ホテルから出てきた背の高い男子と手を繋ぎ恥ずかしそうに俯きながら歩く小柄な女子は……うちの学生だった。


 「……先生、どうするの?」


 見つけてしまった当人である鳴海は不安そうに私に確認する、教師としては見逃せないことだが……


 「……今は見なかったことにする、こちらも端から見れば変な噂が立ってもおかしくない状況だ……」


 そう告げたら鳴海はホッとした表情をする。


 「……でも、後日。男子学生の方には個人的に注意するから」


 「もう少し気を使え、下手したら彼女と二人で学校に居られなくなるんだぞ」と忠告するつもりだ。


 とりあえずこの場所から離れようとしたら


 「……先生、このホテルの中ってどうなってるの?」


 鳴海がそんなことを言い出した


 「……鳴海、何を言ってるんだ?」と私が言ったら


 「……先生、ちょっと中を見てみたい。一緒に入っちゃ……駄目?」


 なんて、とんでもないことを言い出す。


 「……駄目に決まってるだろう!流石に怒るぞ……このホテルがどんなホテルか知らないのか!?」


 と私が強く言ったら


 「……知ってるよ、私だっていつまでも子どもじゃないもん」


 なんてことを言うが、本当に大人ならそんなことを言わないと怒れば


 「……先生はこういう所に来るの?」


 なんて聞いてくる。私が何も言うことはないと黙っていたら


 「……やっぱり、来るんだ」


 彼女は口先を尖らして拗ねるように言う、目線は私の左手の薬指の指輪を見ている気がした。


 「……頼む、あんまり困らせないでくれ」


 私がお願いだと言ったら


 「……うん。先生、ごめんなさい」


 と謝ってから「……先生、帰ろう?」と言って歩きだした。


 私が一安心して歩きだしたら、彼女はまた私の隣に並び手を繋いできた。


 「……ふふ、先生。エッチなホテルに入るのを我慢してあげたんだから帰り道は手を繋いで帰ろうね?」


 「……それじゃ、家に帰ろう」


 と彼女と二人で私の家に向かった。


 自宅に着いて私は玄関の扉を鍵で開けて彼女が先に入るよう促す。彼女は中に入り


 「ただいま」と言ってからこちらを振り向いて


 「お父さん(・・・・)、おかえりなさい」と私に笑顔で言った。


 私は娘の燕に「ただいま」と言って靴を脱ぎ玄関を上がる。


 「お父さん、着替えてくるね」と自分の部屋に向かう娘を見送り……ホッと一息吐いた。


 普段は「天使」の様だとおもっている可愛い娘が今日は「小悪魔」だった。なんでこんなことになったか原因は分かっている。


 ……昨日、子ども達には内緒で妻と外で待ち合わせて二人っきりの時間を過ごしてきたからだ、所謂、夫婦の営みというやつだ。


 下の息子はその辺りは鈍いのかそんな夫婦の隠し事は思いもよらないみたいだが、上の娘の燕は私と妻が何をしてきたか女の勘なのか分かってしまうようなので……翌日はその嫉妬心からか私に対して今日みたいにべたべたしてくる。


 可愛い娘がくっついてきてくれるのは嬉しいのだが、人目のある所では勘弁してほしいところだ。


 わざわざ勤め先の学校では婿養子になった先の苗字『鳴海』ではなく旧姓の『睦月』で通して、娘の燕とは関わりないように見せる為に『睦月先生』と呼ばせているのに……


 「お父さん、着替えてきたよ。お父さんも何か飲む?」と二階から降りてきた燕が言うのでお願いして私も自室に行き、スーツから普段着に着替えてくる。


 居間に戻ると燕がお茶を入れてくれたようだ。


 「……ありがとう、お母さんとはじめはまだ帰ってないのかな?」


 「そうみたいだよ。ねぇ……お父さん、今日、お父さんがホテルから出てきた二人を見逃したのって……お父さんとお母さんに似ていたから?」


 ラブホテルから出てきた二人は……確かに昔の俺と妻に似ていた、身長の高い男と小柄な女の子のカップル……どこか初々しさのあった二人だったからその場で注意したら女の子が傷つくかと思ってしまったのは確かにあった。でもそんなことは燕には言えないので


 「……そんなことはないぞ」と誤魔化したら


 「……お父さんとお母さんも学生の頃から付き合っていたんだよね?お父さん達も……ホテルに行ってたりしたの?」


 そんなことを聞くのでお茶を吹き出しそうになった。それを必死に耐えて


 「……そんなことはないぞ、父さん達は清い交際だったぞ……」


 と燕の目を見ずに答える。そう答えたら燕は「……ふーん」と信じてくれてないような声を出す。


 「……ホントウダゾ?」


 「……まぁ、いいや。今度はあのホテルの中に入ってみようね?お母さんと一緒でもいいから!」


 今度こそお茶を吹き出した、そうしたら燕は「お父さん、汚いなぁ」と笑って台所に布巾を取りに行ってくれた。


 ……まぁ、娘がこんな馬鹿なことを言ってる内が華なのかもしれないな、燕もいつか恋人ができたら俺なんか相手してくれなくなるだろうしな……と思い、世の中の娘を持つ父親達の繰り返されているだろう悲しい苦悩を考えた。


 


 


 


 

読んでいただきありがとうございます。


ちょっとしたトリックが仕掛けてあります、前書きの通り他の拙作を読んでからだとより楽しめると思います。どうでしたか?時間軸としては『イケメン彼女』よりは前の話です。


楽しんで頂けたら幸いです。

 

 

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