接客
腰に佩いた武器を見せてもらう様に頼むと、快くカルマは了承した。
鞘から抜き、机の上に置くと、興味深くヴェダは顔を近付ける。ずれた眼鏡の右側のフレームを人差し指と親指で掴み、持ち上げた。
刀身が細身で先端の尖った形状、鍔は曲線を描いた装飾が重なり合って付いている。
突き刺すのが正しい使い方であるレイピア。先端が摩耗しているならわかるが、全体的に酷く消耗している。
そっと握りに触れると、残留していた魔力が跳ね返り、ヴェダは目眩を覚えた。
カルマに目を向け、重々しく口を開く。
「鑑定、しても?」
「勿論です。むしろ、歓迎します」
両手を広げて微笑むカルマ。
ヴェダは思わず零れそうになる溜息を飲み込む。先代宰相、命の恩人の娘とは言え、心を開きすぎではないか、と。珈琲も既にカップは空だ。
もし仮に、ヴェダが罠を仕掛けていたら等とは考えないのだろうか。
だが、ヴェダは今のところ宰相ではない。そこまで面倒を見る義理も無い。
鑑定のスキルを発動させ、目を通す。
一つ一つのスキルが強力で、下手したら一人で騎士数人分は補える程の力量を持っている。
非常に軽装である理由も、ゴテゴテした装備が不要だから軽くしているのだろう。正直、手ぶらで歩いていてもどうにかなりそうだ。
火、水、雷、地面の攻撃スキルを保有している。覚えようと思えば全属性のスキルを保有する事が出来そうでもある。
あまりにも人間離れしたスキルの組み合わせにヴェダは少し、引き気味である。
HP量も、MP量も、常人の倍ある。
ただ、状態異常である事が気にかかるがわざわざ伝える程でもないだろう。武器選びに関係無いので。
「実は皇子の皮を被った魔王です、とか言わないでくださいね」
「心外ですね。政治向きじゃないからと邪険にされ仕方なく冒険家していたら勝手に強くなったんですよ」
「如何にもな戦闘スキルしか無いですもんね」
仕方なくで辿り着ける境地では無いと思いますが。レベル67は。
この街にもレベル50超えがいるかいないか。
「そもそも、騎士でも良かったのでは?」
「それはですね、後で説明します」
和かに微笑むカルマだが、ヴェダは面倒ごとの気配を察知し、肩を竦めた。
脇の方に置いてある武器スタンドから数本武器を掴み、カルマに見せる。
「正直、武器は無くても良さそうですが、候補として」
何個か紹介させていただきますね、と
ヴェダは愛想笑いの様な、心から湧き出る笑みを浮かべる。接客業をしていると、愛想笑いでさえ本物になってしまう。
まず一つ目。
刀身が平べったい、身長程の大きさはある大型剣。片側だけが研がれ、その反対側は丸みを帯びている。
無骨な見た目をしているが、耐久性が高く、魔力を込めても消耗はあまりしない物である。
そして、二つ目。
大型剣より小さく、両側が砥がれている両手剣。刀身の付け根に紋章が入っている。
こちらは両手で構えるので勢い良く攻撃が放てる。耐久性もある。
最後に、三つ目。
柄が長く、先端の方が両刃の斧。柄の先に宝石が嵌め込まれている。
斬撃飛ばすも良し、打撃でも良し。埋め込んだ宝石に魔力の蓄積も可能の代物である。
「気になるものがございましたら、是非お試しください。勿論お試しは無料です」
眼鏡ごしの紫の瞳が怪しく光った。
武器屋らしくなってきました。やっと。