21話:面倒ごとの予感③
次の日
俺はPCの前で一人で格闘していた
「工程が間に合わん」
聞いていた通り、セキュリティ部門は問題なかったが、空調部門は案件が一杯で全く調整が出来なかったのだ
「これはさすがに一人じゃ何ともならないな」
そこに先輩が声をかけてきた
「龍宮、お前今度のプロジェクトでリーダーになったんだってな」
「いえ、それは断るつもりですよ」
「やればいいじゃん、入社一年ちょいで現場しきってんだし、それぐらいわけないだろ?」
「仕切ってなんていませんよ、出来ることをやってるだけですから···」
「あーあー、そうだよな。なんでも出来ちゃうお前にはあれくらい出来て当然なんだねー、俺らみたいなボンクラとは違うもんねー」
この先輩は事あるごとに絡んでくる人だ
正直苦手だ
先輩も、後から入ってきた俺が気に入らないのだろう
取り巻きも何人もいる
まあ、嫌がらせにあっている自覚はある
「そんな事は言ってません、そこまで言うなら先輩をリーダーに推薦しとくんで頑張ってください」
そう言って社長室に向かった
「失礼します」
「入ってくれ」
中に入ると座るように進められた
「社長、やはり私にはリーダーは無理です。辞退させてください。代わりに先輩を····」
「······彼がまた何か言ってきたのかね?」
「言われましたけど、それは気にしてません。でも、俺は出世とか興味ないんです、出来る事からコツコツとやって少しづつ前に進みたいだけです。だから、役職やリーダーは今までも、これからも受けるつもりはありません」
社長は黙って少し考えていた
しばらくして口を開く
「一つ聞くよ、あのプロジェクトを君以外の誰が対応出来るんだい?」
「先輩がやる気でした」
「彼には無理だ、彼には全体を見渡す力が欠けている」
「今回のプロジェクトで鍛えられるのでは?」
「あいつは、そんな人間ではないよ····」
嫌みな先輩は社長の息子だ
「まあ、どちらにしろ無理ですね。物理的に人が足りません。外注業者も繁忙期なのでどこもダメでした」
「龍宮くんの能力なら何とかならないかな?」
思わず社長をにらんだ
「能力の使用は自由です。でも、会社が個人に強要するのは禁止されています。」
国によって様々だが、日本では能力者の業者利用は禁止されている
能力の有無で差別を受けないようにするためだ
ただし、個人が任意で使用することは特に問題にはならない
「君は会社のために····「違います」」
社長の話を途中で立ちきる
「俺は俺の練習の為にお願いしました。自分のためです」
「結果的に会社のためになるんだから一緒じゃないかい?」
「結果が同じでも、過程が違います。」
「そこを頼むよ、材料を手配して君の力で作れば作業員何ていらないだろ?君一人で何とかなるじゃない?頼むよ、このとおり」
社長は頭を下げるが、俺は納得できなかった
「またですか·····」
「そ、それは·····」
「また、押し付けて切り捨てるんですか?」
俺はこの人に一度切り捨てられた
アルバイトの時に同じようにプロジェクトを押し付けられた
社員の手が空いていなかったことを理由に
そして失敗し、切り捨てられた
それを謝罪され、代償として破格の条件で社員となった敬意がある
俺としては、その時の謝罪を信じたかったが、前例がある以上信じられなかった
「他をあたって下さい」
社長に図面を叩き返した
必要な材料の一覧と注文先のリストも作っていたのでデータごと突きつけ、社長室から出た
「龍宮、親父に変なこと言ってないよな?」
先輩が待ち伏せていた
俺は先輩を無視して机に戻る
「おい、先輩を無視するなよ」
後ろで取り巻きと騒いでいる
正直うるさい·····
「サイレント」
その瞬間、先輩と取り巻きの声が消える
沈黙魔法をかけてやった
「呪印」
再び彼らに能力を行使した
呪印は色々な効果がある
今回は、どんなに力が強くても、他者に一切の危害を与えられないようにする呪いを込めて印を刻み込んだ
その後、定時まで黙々と仕事をしてからすぐに帰宅した




