『愚行』の実験
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週末、ゲッシュとサラは密かに王宮を抜け出した。
偽名での冒険者活動のためだ。
ゲッシュにはサラの訓練ということにしているが、サラの本音はゲッシュとのデートだ。
ちなみに、パーティーの名は『ケインとスージン』。
最初、サラは『ケイン・ラブ』を提案したのだけど、珍しくゲッシュが抵抗した結果、無難な名前に決まった。
現在、ナゲ山麓ダンジョンは立ち入り禁止になっているため、この日は別のところに行かなければならない。
冒険者ギルドに着くと、ゲッシュとサラは依頼書のチェックを始めた。
ゲッシュ(ケイン)は掲示板を眺め、サラ(スージン)はテーブルに山積みされたCランク向けの依頼書をチェックする。
「ケイン、何か面白そうな案件ある?」
ゲッシュは黙って、目の前の掲示板の中央付近に貼られた依頼書を指差した。
依頼の内容は、エルフの鼻毛の採取。世の中には変わった嗜好の人がいるものだ。
「珍しい内容ね。でも、私の戦闘訓練になりそうにないわ」
結局、サラが見つけたCランク向けの案件を受注することにした。
王都の南方にあるボノ湖畔ダンジョンでのオーガ退治だ。
ちなみに今回の案件は、増え過ぎたオーガを減らす目的で冒険者ギルドが依頼したものだ。
ボノ湖は、東西に長い湖で、湖の北側にダンジョンがある。。
外からダンジョンの様子が丸見えの開放型ダンジョンだが、陸地からダンジョンに入ることはできない。
ダンジョンの入り口はボノ湖の中心付近にあり、湖の南側から小舟で近づくのが一般的だ。
ダンジョンに入る前、ゲッシュとサラは徒歩で湖の南側から左回りに徒歩で北側に向かった。
湖の北側にオーガがいることを湖の西端から確認できたが、徒歩で近づこうとすると、一定の場所で湖の東側に転移させられてしまう。
やはり、オーガに近付くにはダンジョンの入り口を利用するしかないようだ。
『ケインとスージン』の二人が乗った小舟がダンジョンに入り口に達すると、周囲の景色が変わり、小舟は湖の北側の岸に上陸していた。
上陸地点から百メートルほど西にオーガが見える。
事前の打ち合わせ通り、サラは小舟の上から『氷の槍』でオーガを倒した。
依頼書に書かれた討伐数は『五体以上』なので、多く討伐するほど報酬は増える。
二人は小舟から降りた。ゲッシュが小舟を杭にロープで固定する。
周囲に気を配りながら、ゲッシュとサラはオーガの死体に近付いた。
ゲッシュが討伐証明部位の耳を切り取る間に、サラが『探知』で別の魔物の所在を探る。
二人のいる場所から五十メートルほど北に、洞窟がある。
依頼書には、洞窟が地下に続いていて、オーガの巣になっていることまで書いてあった。
「ケイン、近くに五体いる。地下よ!」
ゲッシュとサラは洞窟に入った。
洞窟の中は曲がりくねっていて、『氷の槍』は使いにくい。
「ケイン、あなたのスキルを使ってみて」
「了解」
五体のオーガと遭遇した瞬間、ゲッシュはスキル『絶望』を使った。効果なし。
これまでの経験から、『絶望』が魔物には効かないことをゲッシュは確信した。
すぐに、スキル『愚行』を使ってみる。
その結果、オーガたちは同士討ちを始め、五体とも大怪我して立っていられなくなった。
ゲッシュは素早く、オーグ五体の命を奪った。
「奥に五十体くらい、いる」
「どうする?」
「全部、眠らせるわ。ちょっと待ってて」
「……」黙って頷く。
「ケイン、一体だけ起こすから、『愚行』を使ってみてくれる?」
ゲッシュは『愚行』を使ってみた。効果が発生した様子はない。
「効いてないみたいだ」
「見えてない相手には効かないのかしら?」
「……」
「じゃあ、魔法で呼ぶから、姿が見えたら『愚行』を使ってみて」
「了解」
しばらくして、奥から一体のオーガが現れた。
ゲッシュが『愚行』を使うと、オーガは自らの頭を壁に打ち付けて倒れた。
次に、サラは二体を起こしてから魔法で呼び出した。
ゲッシュが『愚行』を使うと、オーガは同士討ちした。
「二体以上いると同士討ちするみたいね」
その後、サラは十体ずつ起こし、ゲッシュのスキルで巣の中のオーガを全滅させた。
「ゲッシュのスキル、かなり強力ね。来週は別の魔物で試してみましょう」
ゲッシュは頷いた。
王宮に戻ってからサラがゲッシュのステータスを確認すると、スキル『愚行』の横に二つのサブスキルが増え、以下のような表示になっていた。
スキル
『絶望』
『愚行』 サブスキル【はげ隠し】【裸踊り】
「対象が人間なら効果を発揮するのかもしれないわね。でも、役に立つのかしら?」
「……」