王女殿下の草履取り
サラがゲッシュを雇う際、王宮ではゲッシュの身元調査を行った。
サラが雇うといっても、身元の怪しい人物を王女の身近に置くわけにはいかない。
結局、ゲッシュの親が某男爵であることが分かり、ゲッシュが王女の護衛になることが認められた。
ゲッシュの親は勘当を解いたが、ゲッシュの方は親を許しておらず、親の家名を名乗るつもりはない。
ちなみに、ゲッシュの正式な職名は『草履取り(ぞうりとり)』だ。
キラールでは過去に存在しなかった職名で、ゲッシュを雇う際、異世界物のフィクションを参考にサラが命名した。
草履取りというと履物を扱う仕事のようだが、ゲッシュの場合、付き人を兼ねる護衛というところだ。
「ゲッシュもヒデヨシのように天下を取るのですよ」
「はい?」
ゲッシュはサラからヒデヨシの出世物語を聞かされたが、『愚者』持ちの自分が出世できるイメージは浮かばなかった。
現在、サラは学校に通ってはいないが、暇というわけではない。
家庭教師から政治経済などについて講義を受けたり、剣術や魔法なども学んでいる。
草履取りとして、ゲッシュはサラの近くで講義を聞き、ときには練習相手を務めた。
ゲッシュは魔法の才能には恵まれていなかったが、サラの近くで講義を聞いていたおかげか、以前よりは魔法が上達した。
剣術については、スキルは持っていなかったものの、稽古によってかなり上達し、『剣士』持ちに近い技量を身に着けた。
ある日。
「ゲッシュ、デートしようか?」
「でえと、ですか?」
ゲッシュの知らない言葉だ。
「家族以外の親しい間柄の人と、仕事以外で一緒に過ごすことよ」
家族以外の親しい間柄の人かあ。ゲッシュの顔が赤くなった。
「ふふ。ゲッシュ、顔が赤いわよ」
「殿下、からかわないでくださいよ」
「デートは冗談だけど、これから私の訓練に付き合ってくれる?」
「はい」
「ダンジョンに行くわよ」
サラと一緒にダンジョンに行く。
ゲッシュとしては仕事だけど、気分的にはご褒美で、胸が躍る。