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絶望の愚者  作者: 矢島 零士
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王女の護衛

 山から市街地への移動中に少女は意識を取り戻し、ゲッシュに声をかけた。

 ゲッシュは馬を降り、少女をロープから解放した。


「ありがとう。私は…」


 少女は言葉に詰まった。正体を明かすことを恐れているからだ。しかし、命がけで助けてくれた人に対して失礼と考え、少女は本当の名前を明かした。


「私は、サラ・リフレイン・デ・キラール」


 キラールは、この国の名前だ。目の前にいるのがキラールの第一王女であることを悟り、ゲッシュはサラの前で(ひざまず)いた。

 しかし、今は敵に追われている。ゆっくりしているわけにはいかない。


「殿下、お急ぎください。一度、市街地に行こうと思います」


「それがいいですね。道案内をお願いします」


「はい」


 ゲッシュは立ち上がった。


「あなたのことは何て呼べばいいかしら?」


「ゲッシュとお呼びください」


 ゲッシュは禁忌タブーを意味する語だ。サラはゲッシュが偽名を名乗ったものと思ったが、何も言わなかった。



 市街地に馬で移動する途中、ゲッシュはサラのことを考えていた。

 サラはゲッシュより一歳年下の十五歳。

 現在、キラールでただ一人の『賢者』持ちだ。


 襲撃者は騎士たちだったので、背後に王族か有力貴族がいる可能性が高いけれど、ゲッシュには黒幕が誰なのか分からない。


 サラは美しく、ゲッシュにとって魅力的な容姿だったが、王女殿下と平民のゲッシュでは身分が違う。

 サラに恋することがないよう、ゲッシュは自分自身を戒めた。



 市街地に入るとすぐ、ゲッシュとサラは二頭を残し、余分な馬を売った。


 それから、サラに馬を見ていてもらい、ゲッシュはサラのために男物の服と靴を買った。目立たないよう、安物の古着だ。



 ゲッシュが長期逗留している安宿で、サラに着替えてもらう。

 着替えの後、サラはゲッシュに事情を話した。



 キラールは小さな王国だ。国王は性格温厚だが政治への興味は薄く、国内は安定していない。

 国王の弟や叔父など、王位を狙っている者は多く、王位継承権が第一位のサラは命を狙われやすい。


 今回、サラはキラール国の辺境で行われた行事に出席した後、王宮に戻る途中で何者かに襲われた。百人以上いた護衛は襲撃者の魔法により戦闘力を奪われ、サラは逃げるしかなかった。



「ゲッシュ、私は王宮に戻ります」


 すぐ戻るのは危険だとゲッシュは思ったが、王女に逆らうことはできない。


「殿下、無事に王宮の建物内にお戻りになるまで、私に護衛するよう、お命じください」


「ゲッシュ、供を命じます」


 サラは笑って言った。



 サラは王宮に戻った。

 門番はサラの顔を知っており、宮廷顧問官もサラが本人だと認めたことから、特に問題なく戻ることができた。

 ゲッシュは護衛としてサラに同行した。



「ゲッシュ、王宮で働いてみる気はありませんか?」


「ありがたいお言葉ですが、私は王宮で働くわけにはまいりません」


「何か事情があるのですね」


「はい。私のステータスでは、殿下にご迷惑がかかります」


 ゲッシュは「ステータス開示」の呪文で自身のステータスをサラに見せた。


「称号が『愚者』、スキルが『絶望』。確かに、よく思わない人はいるでしょうね。ですが、騎士を何人も倒したのはゲッシュの実力です」


「ありがとうございます」


「私のことが嫌でないなら、王宮で働きなさい」


 そこまで言われたら、ゲッシュとしては嫌とはいえない。

 ゲッシュは黙って、サラに頭を下げた。



「私は『賢者』で、ステータス偽装も出来ますから、ゲッシュのステータスが知られる心配はありませんよ。国内に私以上の『賢者』はいないはずですから」


 そう言って、サラはゲッシュのステータスを偽装した。


「試してごらんなさい」


 サラに言われて、ゲッシュは自身のステータスを開示した。

 すると、称号として『村人』が表示された。スキルは空白表示だ。

 ステータスを確認すると、元の内容のままだった。


「殿下、ありがとうございます」


「それにしても、ゲッシュが本当の名前とは思いませんでした」


「父は、変わり者と言われてる人でしたから」



 翌日からゲッシュは王宮で働くことになった。役目は王女の護衛。

 冒険者としての活動を休み続けると資格停止になるので、ギルド経由での護衛者募集にゲッシュが応募したことにしてもらった。


 契約上は年中無休だけれど、申告すれば休みをとることは可能ということだし、報酬は悪くない。

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