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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第六章 夜霧の渡り鳥作戦

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舞台準備

現在、十六時少し前…。

北部基地の真新しい空港には、ずらりと爆撃機が並んでいた。

その数、連山十二機、一式陸攻十六機の合計二十八機。

今、フソウ連合海軍が保有する作戦参加可能な爆撃機全部である。

そして、これらの機体に乗る者は、適正試験と機種転換訓練、それに厳しい訓練をこなしてきた者たちという事だ。

これより北部基地の空港より順次、四機編隊で連山と一式陸攻が出撃する。

これから彼らは、朝方まで帝国東方艦隊の母港であるジュンリョー港の海洋ルートに飛行機投下型の機雷設置を行うのだ。

予定としては三往復する事になる。

連山で八つ、一式陸攻で三つを一度に運べる為、参加する連山十二機、一式陸攻十六機の三往復だけで四百以上の浮遊機雷が設置できる事となる。

また、先行した敷設艦と潜水艦によってざっと七百以上の機雷設置も行う予定だ。

一晩でこれだけの作業を、それもミスなしでやり遂げる。

それはかなりの疲労と苦労を伴う作業となるだろう。

しかし、爆撃機隊も敷設隊もやる気に満ち満ちている。

それはそうだろう。

今まで守るだけだった戦い。

しかし、今度はこっちから責める番なのだ。

テンションがあがらないわけがなかった。


一式陸攻十六機が並ぶその前の空いたスペースにパイロットと搭乗員が並んでおり、前にパイロット服を着込んだ一人の男がふてぶてしい態度で立っている。

一式陸攻隊の指揮を任された源田中尉だ。

「全員、前日はしっかり休んだなっ」

「「「「はっ」」」

「よしっ。今回の作戦の先鋒は我々だ。まずは、偵察の二式大艇が目標のブイを設置。その後は、訓練どおり、設置していくだけだ。実にシンプルで、簡単で…しかし、それだけにミスの許されない作業の連続だ」

源田中尉は、ぐるりと顔を動かして全員の顔を見る。

皆、いい表情だ。

これならいける。

彼はそう確信し、叫ぶように言う。

「しかし、今までの訓練と俺達の実力を示すいい機会だ。俺達爆撃機乗りの意地と根性と技術の見せ所だ。いいかっ、踏ん張っていくぞ」

その声に合わせるかのようにその場にいた全員の声が響く。

「「「おおーーっ」」」

「では、各自搭乗。出撃だ!!」

全員がそれぞれ自分の機体へと駆け足で移動する。

それは実に訓練された兵の動きで無駄がない。

それを少し離れた場所で見ている男がいた。

連山隊の指揮を任されている可部中尉だ。

彼もパイロット服を着込み、呆れた表情を浮かべた。

「あれだけ、訓練が足りないとか色々言ってたくせによ」

皮肉にも聞こえる口調でそう言うも、呆れた表情はすぐにうれしそうなものになる。

彼は、源田中尉の慎重さと決断力、それに決断した時の有無も言わせぬ実行力を認めている。

だから周りからは水と油と思われていたが、そんな回りの思惑とは裏腹に彼は源田中尉を気に入っていた。

自分に無いものを持つ。

それは羨ましさと言っていいのかもしれない。

「隊長、顔がニヤけてますよ」

隣にいた副長が苦笑しつつ言葉をかける。

「おっと…いかん、いかん…」

慌てて顔を引き締めて呟く。

「私もなにかこう言っておくべきかな…」

その呟きに副長は「お好きなように」とだけ言う。

「いかんな。柄にでもない事を考えてしまった。どうやら、ああいうのを見せ付けられて熱くなってしまっている様だな。気をつけねば…」

そう返しつつ連山搭乗員が集まっている場所に行く。

そして、彼らの前に立つと見回してニヤリと笑って言う。

「各自、いつもどおりすればいい。それだけだ」

そう言って解散を命じる。

実にシンプルだ。

しかし、誰もおかしいと思わない。

可部中尉は、いつもこんなものだ。

だから、全員いつもどおりに行動しようとした。

しかし、今日は少し違った。

全員が動き始めようとした瞬間に言い忘れていたように可部中尉は言葉を追加したのだ。

「誰も死ぬなよ」

その言葉はとても小さな言葉だったが、その場にいた全員には聞こえた。

全員が敬礼し「「「はっ」」」と返事を返す。

そして、各自の機体に散っていく。

全員がニヤけた顔で…。

そして、うれしそうに…。


出撃してから約二時間が経つ。

すでに周りは闇と濃霧に包まれている。

回数を稼ぐためにかなりのスピードを出して移動しており、燃料の消費が激しい。

そして、一式陸攻隊が現場に到着する。

「燃料残はどうだ?」

「まだ予定より少し余裕があります」

「そうか…。おっ、見えてきたぞ」

手の空いたものが窓から外を見る。

濃霧の中、光だけがなんとか海面を照らしていた。

そして、光の発する地点が基地ということになる。

光は先にいけばいくほど頼りないぼんやりとした感じではあるが、だが目印としては十分だ。

「よしっ。各自、機雷投下準備」

「「「はっ」」」

「爆撃手。二式大艇の設置したブイが見えるか?」

「すみません。もう少し高度を落としてください」

「わかった」

機長が高度を落とす。

濃霧の中、高度を下ろすというのはなかなか勇気がいる。

普通なら、高度計だけが頼りであり、判断材料としてかなりを占める視覚の情報がないためだ。

だが、敵が探照灯でぼんやりとだが海面を照らすため、それで判断しやすい。

「発見しました」

「よしっ。後ろの連中に座標を無線で知らせてやれ」

「はっ」

「こっちは投下を始めるぞ」

こうして、爆撃隊による機雷投下が始まった。


その頃、すでに先行していた敷設艦隊も闇の中にまぎれて作業を始めていた。

「どうやら爆撃隊が始めたようです」

無線手から連絡が入る。

「そうか。こっちも始めるか…」

第十支援隊敷設艦 沖島の付喪神が艦橋にいる乗組員らに呟くように言う。

「了解しました」

「各自作業始めっ」

「各自作業始めっ」

命令とともに乗組員はテキパキと動いて機雷敷設の準備を始める。

次々と機雷が投下されていく。

もっとも、今艦に詰まれている機雷四百すべてがなくなったら終わりではない。

安全地点で待っている輸送艦から補給を受けて機雷設置をできる限り続ける事になる。

まさに時間との勝負だ。

「いいかっ、敷設艦の意地を見せろ」

沖島の激が飛び、乗組員の一人が気合を込めて答える。

「もちろんですとも。この作戦は、我々が主役ですから」

「おうよ。わかっているじゃねぇか」

「輸送艦の連中を驚かせてやろうぜ」

「もちろんだ」

それぞれが掛け声をかけ、集中して作業を進めていく。

そして、それは沖島だけでなく、他の敷設艦、作戦に参加した第十一警備隊敷設艦 平島、澎湖、第十二警備隊敷設艦 石崎、鷹島の四隻も同じであった。


そして、朝方…。

四時過ぎに敷設艦隊と爆撃隊は現場を後にする。

彼らの仕事は終わったのだ。

その夜のうちに敷設された機雷は実に千五百を超えており、帝国の東方艦隊が知らぬ間に舞台は整えられた。

現場を離れていく爆撃隊、敷設隊の乗務員の胸にはやりきった満足感と、自分達の仕事に対しての誇りに満ち満ちていた。


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