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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第六章 夜霧の渡り鳥作戦

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日誌 第七十三日目  その1

翌日の昼前に前日の夜に行われた予行演習の報告が来た。

どうやらうまくいったようだ。

敵の基地には海面から港への侵入を防ぐ為だろう。

防波堤や建物にかなりの数の探照灯が配備されているらしく、その光が頻繁に海面を照らしている状態だったらしい。

だが、その光のおかげで軍港からの距離感や海面の状態などがわかりやすくて、かえって投下しやすかったという事だ。

相手としては海面からの侵入を警戒してということらしいが、それがかえってこっちの手助けになってしまっているのだから皮肉なものである。

もっとも、まぁ、わからなくもない。

飛行機という存在があまりにも発達していないこの世界では、空を飛ぶものはせいぜい気球くらいだろうから空からの脅威はないと判断されているのだろう。

確か王国でも気球の研究が進んでいるが、あくまでも大型気球による輸送や小型気球の偵察ぐらいしか運用は考えられていないといっていた。

結局は海運の方がコストパフォーマンスも量もいいのだからそうなってしまうのだろう。

それに、陸での戦いも少なく、各国は陸戦に力を入れていないのも大きい。

だから、未だに戦車らしきものはなく、せいぜいトラックや車くらいで、陸の輸送の主力は鉄道と馬車だ。

まぁ、世界大戦のような大きな戦いもなく、各強国がそれぞれの小さな大陸に別れていて、僕の世界のように大きな大陸にいくつもの国家が覇を競う事もない以上、海の戦いが主流となり、陸では小競り合い程度の争いしかないのではそうなってしまうのだろう。

報告書を読み終えると、書類をデスクに置いて背をそらせて椅子に身体を任せる。

背中の骨がボキボキと鳴る。

しかし、いい椅子なのだろう。

軋みもなにもなく、バランスよく僕の体重を支えている。

さて、これで帝国の東方艦隊を何とかするメドは立った。

だが、気がかりがある。

ミッキーが提供してくれた帝国の巨大戦艦の話だ。

アッシュが榛名を指名したという事は、それに匹敵するという事なんだろう。

だが、待て。

今の技術でそのサイズの戦艦が製造出来るものなのだろうか…。

もし、金剛型と同じか、それ以上の戦艦があるという事は、それを作れる技術もあると考えた方がよさそうだ。

なら、どうすべきか…。

多分、ネルソン級二隻では抑えきれないだろう。

次の戦艦も早めに星野模型店で委託制作を依頼しておいたほうが良さそうだな…。

そんな事を思っていたら、デスクのインターホンが鳴る。

「長官、午後に長官にお会いしたいと無線連絡が来たそうです」

東郷大尉の声でそう報告がある。

僕は椅子から腰を上げるとインターフォンのボタンを押して聞く。

「えっと、どちら様だい?」

「はい。トモマク地区責任者の斎賀露伴様です。船上からの無線連絡で今こっちに船で向っているそうです」

「そうか。わかった。午後からのスケジュールの調整をよろしく頼むよ」

「了解しました」

「あ、あと、諜報部の川見中佐にも連絡を入れておいてくれ。今、本島の方にいるんだろう?」

「はい。昨晩、シュウホン島から戻られています。さっそく連絡を入れておきます」

「ああ、すまないけど、例の資料を集められる分だけでも持ってきておいてくれって伝えておいてくれ」

「はい。わかりました」

ボタンを離して椅子に再度座り込む。

思ったより動きが早いな。

あと一週間はかかると思ったけど、予想以上に優秀だな、やっぱり…。

出来れば、敵対して欲しくない人物なんだよなぁ。

僕はそんな事を思いつつ、ため息を吐き出した。


十四時を過ぎたころ、港に船が到着したという知らせを受けて、僕と川見中佐は会談室で待つことにした。

入口で出迎えてもいいのだが、斎賀露伴という男は油断ならない男だ。

だからこそ、逃げられたりされない場所で腹を割って話したいと思う。

東郷大尉の用意してくれたコーヒーを飲みつつ、五分ほど待っているとドアがノックされて彼がきた事を知らせてくる。

僕と川見中佐は立ち上がって彼を出迎える。

「ようこそ、斎賀露伴殿。久しぶりですな」

実際、この前のフソウ連合国家部会では彼は欠席しており、会ったのは実に一ヶ月ぶりだ。

以前と変わりないと言いたい所だが、顔は青ざめており、頬は少し痩せて目の下は隈がある。

しかし、精神的にかなりタフなのだろう。

浮かんでいる表情は以前のままだった。

「やぁ、やぁ、鍋島長官。お久しぶりですな」

「本当に…。この前の部会には体調不良で来られなかったので心配していたんですよ」

「いえいえ。ご心配なく…。おかげさまで、やっと逃げ道がないようにすっかりハメられていることに気がつきましたよ」

にこやかな笑顔だが、目が笑っておらず、それどころか殺意を秘めていた。

どうやら、裏で海軍諜報部が動いていると気がついたらしい。

まあ、もっとも僕は彼が余計な事をしないように押さえ込めと川見中佐に言っただけで、方法は中佐に任せていたからなぁ。

さてさて、どんな事をしたのやら…。

あまり詳しくは聞きたくないなぁ…。

「まぁ、立ち話もなんなので、座ってゆっくりと話でもしましょう。大尉、彼にもコーヒーを…」

「はい。わかりました。長官」

東郷大尉がコーヒーの準備の為に退室する。

今、部屋には、僕と川見中佐と斎賀露伴の三人だけだ。

斎賀露伴は無言で僕を睨み続けていたが、僕はにこやかに笑っているだけだ。

ブラック企業で、散々な目にあってきたから、この程度ではなんともない。

そう、自分に言い聞かせる。

本当は、めっちゃ怖いんですけどね。

でも、ここは余裕のある振りをしなければならない。

そして、一分もしないうちに、これでは埒が明かないと思ったのだろう。

彼は諦めて椅子に座る。

ふう。よかった。

あのままだったらどうしようとか考えちゃったよ。

内心ほっとしつつ、僕も向かい側の最初に座っていた席に座る。

「さて…ではお話を伺いましょうか…」

僕はゆっくりと手を組み、ふてぶてしい笑みを浮かべる。

一応、鏡でも確認したから、それらしい笑みになっていると思う。

「余裕ですね…」

「ええ。貴方がここに来るだろうって事はわかってました。だから、事前に十分準備はさせてもらいましたから…」

そうは言ったものの、準備は完全ではない。

予定よりも一週間も早く来るとは思っていなかったのだ。

彼の能力を見縊っていたという事らしい。

やはり、優秀だな…。

それに堂々と乗り込んでくる肝の太さ。

もしかしたら、フソウ連合を背負っていく事が出来る傑物になるかもしれないな。

そんな事を考えつつ、相手の顔を見た。

そして、僕の言葉に、斎賀露伴はまさかという感じで聞き返してくる。

「私がここに来ると?」

「ええ。そうしなければならないように僕が命じましたから…」

その言葉に、斎賀露伴の表情に驚きと迷いの色がさっと混じった。

「あなたが…命じた…」

まるで呪詛でもかかったかのように斎賀露伴の動きが止まり、信じられないようなものをみるような目で僕を見た。

そして目を伏せると深々とため息を吐き出す。

しばしの間が空いた後、斎賀露伴の目が再び僕に向けられた時、彼の目から殺意が消えていた。

それは諦めという心境に至ったのかもしれない。

「かないませんな…貴方には…」

そう言われ、僕はちらりと川見中佐を見る。

何やったんだ?

僕の視線に気が付いたのだろう。

川見中佐はすーっと僕から視線をそらす。

うーん。聞くべきか、聞かざるべきか…。

そう思っていると斎賀露伴はまたため息を吐き出した。

そして、僕に聞いてくる。

「いつからですか?」

「ガザ沖海戦の前に、艦砲射撃のデモストレーションしたでしょう?あのときからです」

僕の言葉に、斎賀露伴は苦笑した。

「その時からですか…」

「ええ。怪しいなと…。それで探りを入れたんですよ」

「なぜ、そう思ったんですか?」

「誰もが、初めてみる艦砲射撃のあの迫力に驚いていた。圧倒されて放心状態だった。なのに、艦砲射撃を初めて見たはずの貴方は、なぜかすぐに僕の元に来た…」

そう僕が言うと斎賀露伴は渋い顔をした。

「あれか…」

「そう。違和感を覚えたんですよ。もしかしたら、貴方は初めてではなくて、別のところで見た事があるのかもしれないとね。で、申し訳ないけど、裏で色々調べさせてもらいました」

僕の言葉に斎賀露伴は苦笑した。

さっきまで殺気立っていた目にはもう諦めの色しか浮かんでいない。

「じゃあ、あの後の動きも全て…」

「ええ。把握させてもらいました」

そう言って、僕は無表情で聞いた。

「トモマク地区責任者斎賀露伴。貴方はフソウ連合の中核を占める一人でありながらなぜあんな事をしたのですか?」

沈黙が辺りを包む。

斎賀露伴は口を閉じて僕を見ている。

その姿は、罪を問われるのを待っている罪人のようだった。

だから、僕は口を開く。

彼の罪を問う為に…。

「なぜ、フソウ連合を占領するように王国海軍を手引きしたのかと聞いているんですよ」

その言葉に、斎賀露伴はここに来て初めてほっとした表情を見せた。

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