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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第六章 夜霧の渡り鳥作戦

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日誌 第七十二日目

今、僕は司令部の屋上にいた。

空を見上げるとかなり低空で一式陸攻と連山が数機飛んでいるのか目に入る。

「やってるみたいだな」

僕の言葉に、新見准将が横で同じように見上げながら報告する。

「はい。すでに機種転換の方は完全に終了し、訓練に移行して日数が経ちますからな」

「そうか。作戦実行の方は?」

僕がそう聞くと、少し考えてから新見准将は口を開く。

「そうですな。出来ない事はありませんな」

「そうか…。それで北部基地空港の方は?」

「そっちはほぼ完成しており、すでに先行した一部の一式陸攻の部隊が偵察と訓練を実施しております」

「燃料とか、機材の方は?」

「はい。第三補給隊の足摺と第四補給隊の塩屋、第六輸送隊のあきつ丸で作戦必要な物資は輸送済みです」

「敷設艦を始めとする作戦参加艦船の方は?」

「第十支援隊の沖島、第十一警備隊の平島、澎湖、それに第十二警備隊の石崎、鷹島が北部基地の港で待機中。さらに潜水艦部隊や戦隊の方もいつでも動ける状態ですが…」

そう報告するも、なんか歯切れが悪い。

それが気になって僕は聞き返す。

「何か気になることでもあるのか?」

すると新見准将は言い難そうに言った。

「出来れば、もう少し訓練が出来ればと…」

「だが、そろそろタイムリミットだ。時期を過ぎれば、作戦は中止するしかないからな…」

「ですが濃霧の中の作戦です。訓練はしっかりやっておくべきだと思います」

「それはそうだが、現場はどうなんだ?」

「それは…」

「部隊の隊長たちと話の機会を作ろう。やはり、実行する彼らの意見を聞きたい」

僕の言葉に新見准将は頷いた。

「では、午後にでも」

「ああ、お願いしておきます」


そして午後、僕は新見准将の連れてきた二人の男性と長官室で会っていた。

「自分は、一式陸攻の部隊を任されている源田一平中尉であります」

髭面のごつくて恰幅のいい男がびしっと敬礼する。

「同じく、連山の部隊を任されている可部光吉中尉であります」

こっちはどちらかというとスラットした優男といった感じで、二人が並ぶと実に対照的だ。

野性味溢れる源田中尉と優男風の可部中尉か…。

水と油って感じだけど、二人の仲はどんなものだろうか?

ふと、そんな事を思いなから敬礼する。

「僕が海軍総司令の鍋島だ。よろしく頼む」

そして、ソファに座るように勧めると、少し戸惑いつつも新見准将が何も言わずに座ったのを確認して座った。

全員が座ると、ぐだぐだ言うつもりはなかったから早速本題に入る。

「今回の作戦の詳細は二人は知っていると思うが、今の君達の力量からしてどう思う?」

いきなり本題を質問した為か二人はかなり驚いているようだった。

新見准将はいつもの事かといった感じでスルーしているが、どうやらいきなり聞いてくるのは珍しいらしい。

なんかごちゃごちゃ話してやっと本題という事が当たり前だという事を聞いた事がある。

そういや、ふと思い出す。

偉い人ほど、話が長かったなぁと…。

そんな感じで、自分はそのタイプではないようだと思い、少しだけどほっとする。

もっとも威厳とかには程遠いからなぁ、僕は…。

ともかく、僕の質問に二人は少し考え込む。

そして、先に答えたのは可部中尉だった。

「問題なく実施できると思います」

その答えには自信に溢れていた。

しかし、その言葉の後に、反対に少し躊躇して言ったのは源田中尉だった。

「自分も可能だとは思いますが、より精度を高める為に訓練は今少し必要に感じます」

するとその発言に可部中尉が噛み付く。

「何を言っている。もう十分ではないか。それにもう時間がないんだぞ」

「時間がないのはわかっているつもりだ。しかしだ、やるからには完璧を求めるべきだ。出来る限りの事はしておきたい」

「だが、この作戦が出来なかった時は、その準備などの無駄だけではすまないんだぞ」

「それは理解している。しかし、ならばこそだ。だからこそ、自分はもう少し訓練すべきだと思うのだ」

「だから…」

二人の発言には、この作戦の意義や効果など全体を把握している事を伺わせた。

しかし、見た目と違って慎重派の源田中尉と見た目通りの自信家の可部中尉とはなかなか意見が合わないようだ。

ただし、どちらも一理あるのだから、どちらが正しいとはならずになかなか難しいだろう。

さっきから新見准将が二人の様子を止める事もせずスルーしているのは自分がさっき言いにくかった事を見てもらおうという意図があるのだろう。

或いは、まとまらなくて困っているんですよと言いたいのかもしれないな。

どっちにしても判断は難しい。

そこで、少し考えた後、熱くいい争いを続けている二人に提案する事にした。

「すまない、少しいいか?」

僕がそう言うと、今どこにいるのか思い出したのだろう。

二人は慌てて「失礼しました」と頭を下げる。

ふむ。なんかその反応が二人タイミングを合わせてたみたいでなんかおかしかったが、笑うわけにはいかずに顔の筋肉に力を入れて押さえ込む。

「ふむ。ならば、一度予行演習をしてみたらどうだ?」

「予行…」

「…演習…ですか?」

「そうだ。もう濃霧は発生しているんだよな」

僕はそう言って新見准将の方を見る。

新見准将はやれやれといった感じの表情を浮かべるも、「はい。夜間発生しております」と返事を返す。

「なら、一度、実戦さながらの訓練をやってみてうまくいくかどうか試してみたらどうだ?」

僕の意見に、二人は意表を突かれたのか、唖然としていた。

まぁ、そりゃそうだろう。

敵の目の前で練習してきたらいいと提案しているのだから驚くのも無理はない。

普通なら考えない事である。

なぜなら敵に手の内をさらす事になりかねないからだ。

しかし、今回の場合、敵の目の前ではあるが濃霧と言う幕があり、さらに目の前と言いつつも別に敵の港を直接攻撃するわけではない。

あくまで視覚の届く範囲で行動するということだから、多分巡視艇でも出さない限りは問題はないだろう。

つまり、手の内を知られる可能性は低いという事だ。

だから、提案したのだが二人はどう取るだろうか。

「面白いですね。確かに濃霧だから見られる可能性はかなり低い。それに実際に濃霧の中で行うのだからうまくできるかどうかの確認も出来る。さすがですな、長官。源田、これならお前も文句はないだろう?」

可部中尉がそう言って源田中尉に話を振る。

源田中尉も少し考え込んだ後、「確かに…。見つかるリスクはあるものの、実際に現場でやった方が…」と呟いている。

「よし。なら、今夜と明日、実際にやってみて問題点などを洗い出してみてくれ。それとくれぐれも敵に見つからないように頼むぞ」

二人は立ち上がると敬礼する。

「了解しました。早速北部基地に向かい、準備いたします」

僕も立ち上がり返礼をした。

「ああ、頼むぞ」

「「はっ!!」」

二人はキビキビとした歩きで退出していくのを見送った後、僕はソファに座って新見准将の方を向いた。

「面白い連中だな…」

そう言って笑うと、新見准将も苦笑する。

「ええ。どちらも一理ありますから、無碍に却下できないのはきついんですがね」

「それは仕方ないさ。出来る限りの事をして結果を求めるんだ。慎重なやつもいないと大惨事になりかねない事だってある」

「ですが、慎重すぎるのも考えものですがね」

「まぁね。でも、それをうまく誘導するのは上司の役目だと思うけどな」

僕の言葉に、新見准将はニヤリと笑う。

「今の長官のように…ですか?」

「やめてくれよ。今回はたまたま思いついたんだ。どうせやるなら現地で訓練するのが一番だってさ…。そうすりゃ、自信にもなるし、悪い点の洗い直しも出来るしで一石二鳥だからな」

「でも、そこまでなかなか思いつきませんけどね。もっと柔軟な発想が必要なのかもしれませんな」

新見准将がしみじみと言う。

「何言ってるんだ?さっき言っただろう?慎重なやつも必要だって…」

僕がそう言うと、新見准将は笑いつつ言う。

「なるほど、自分の仕事が再確認できましたよ」

そして、笑い終えると僕に聞いてきた。

「ところで作戦名は決まりましたか?」

「あー、それがあったな。そうだな…」

すっかり忘れていたから慌てて考える。

夜間の濃霧の中での作戦…。

なら…

「『夜霧の渡り鳥作戦』って言うのはどうだろう?」

「ほほう。その理由は?」

「今回の作戦は、飛行機がどれだけ投下できるかによって効果は違ってくると思う。だからって言うのは駄目かな?」

「つまり、艦隊は主役じゃないと?」

「確かに直接戦うのは艦隊だけど、その為の舞台を整え、有利に運ぶようにするのは航空隊だと思うんだ。それが出来るのと出来ないのでは、結果は大きく違ってくる。だから、今回は渡り鳥という言葉にさせてもらったよ」

僕の説明に納得したのだろう。

新見准将は頷き「わかりました。以後は、作戦名で実行していきます」と返事をした。

「わかった。それでお願いします…。しかし…」

「しかし?」

僕は苦笑して頭をかきながら答えた。

「なんか、自分の考えた作戦名が連呼されると少し恥ずかしいですね」

僕の言葉に一瞬きょとんとした表情の後、新見准将は大爆笑するのだった。

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