ドライブに行こう その4
車は松原を抜けて市街地に入った。
もっとも、市街地と言ってもそんな高い建物があるわけもなく、せいぜいあったとしても松原の端にあった宿泊施設ぐらいで、後は民家や小さなお店が続いている感じだ。
そのため、松原の中で感じた神秘的な雰囲気はもう微塵もなく、ただのちょっとした田舎の町並みのような風景が続いている。
「えっと…窓開けていいですか?」
東郷さんがそう聞いてきたので頷く。
すーっと電動で窓が下がるを少し楽しそうな表情で見ていた東郷さんだったが、ふっと顔の表情が変わった。
それはまるでリラックスしたような柔らかい表情だ。
「潮の匂いがします…」
松原の中では、どちらかと言うと松の匂いが強い印象で潮の匂いが感じられなかったようだが、市街地に出てきたことで潮の匂いを強く感じられたようだ。
「ふふっ。どこも変わらないですね…。この匂い…」
東郷さん、すごくうれしそうだ。
運転してなきゃ、じっくり見れたのにと少し残念な気持ちになったのは何でだろう…。
そんな事を思っていたが、いかん、いかん、運転に集中しなくちゃ…。事故でもしたら大変だ。
そう思い直して進んでいくと、目の前に大きな川があり、河口へと続いていた。
そして、川には大きな橋が架けられており、橋の向こう側には城が見える。
「えっと…あれは?」
「ああ、昔のお城だよ、確か1600年くらいに築城されたから、三百年以上前かな…。もっとも、建物は最近再現されたけど、石垣や堀は当時の物がそのまま使われているんじゃなかったかな?」
「へぇ…。すごいですね。フソウじゃ、三百年以上前の建物はあまりないですね。あるとしたら、マシナガ本島の巫女の建物や魔術宮ぐらいかな…」
「そうなの?でも、二百年封印で守られていたんじゃないの?」
「ええ、外からは守られていましたけど…。でも、戦乱の原因は外からだけじゃないですからね」
そう言って寂しそうに笑う。
そして、説明してくれた。
百年位前に起こった大戦乱の事を。
それで、フソウ王国は、ボロボロになった。
そして、その反省を踏まえ、治安や警護以上の武器の所持を禁止し、今の地区ごとの統治へと移り変わったと言う事だった。
だから、今のフソウ連合の全体的な武器のレベルの低さはそういうことから来ているのだろう。
もっとも、マシナガ地区のみは僕のジオラマの干渉によって歴史改ざんされてしまい、世界最先端の技術を持つようになってしまったけれど…。
結果すべてにいろんな要因と原因があるんだなと実感させられる話だった。
少し雰囲気が沈み込んだのを気にしたのだろうか。
東郷さんは、少し大げさな感じで言う。
「しかし、あのお城…すごく綺麗ですね」
「ああ。さっきの松原が広がり、ここを中心に鶴が翼を広げたように見えることから舞鶴城とも呼ばれてもいるんだ」
「へぇ…。舞鶴城…。なんかロマンチックですね」
「ああ。なんかネーミングに夢があるよな」
「はい。お城も綺麗だし、なんかいいですよね」
「実はね、あのお城の敷地内は、桜や藤の花で彩られる名所でもあるんだ」
僕がそう説明すると、東郷さんの目つきが変わる。
「み、見たいですっ」
そんな彼女に水を差すようで悪いんだが、今は十一月だ。
さすがに時期が違う。
だから、申し訳なさそうに言う。
「ごめん。さすがに時期がね…」
そう言われ、東郷さんははっと気がついたようだった。
「す、すいません…」
シュンとなった顔が可哀想だったので、ついつい言ってしまう。
「じゃあ、時期が来たら二人で見に行こうか?」
僕の言葉に、東郷さんは飛び上がらんばかりに勢いよく返事を返す。
「はいっ。ぜひっ!!」
その様子に、僕は苦笑しつつも「ああ、わかった。絶対だよ」と返事をした。
「約束しましたからね。絶対の絶対です」
「ああ、わかったよ」
そんな会話をしている間に、城の横を通り抜け、僕らは港区に入った。
さっきまでほんのりと感じられた潮の匂いが強く感じられる。
「どこら辺がいい?結構ここの港は大きいからね」
僕がそう言うと、興味が沸いたのだろう。
「そんなに大きいんですか?」
「ああ。軍港ではないけど、物流基地や水産基地の側面が強いから、結構大型船が停泊出来る様な規模なんだよ。それに、近くには大型船が停泊できる港がなくてね。その結果、クルーズ船の寄港地や旅客フェリーの就航地にもなってるんだ」
「すごいですね。フソウでは民間は小型船ばかりで、マシナガ地区以外は大きな港ってほとんどないですから」
「そうだね。でも、これからは変わっていくと思うよ」
「そうですね。長官…じゃなかった。鍋島さんがより良く変えていってくれてますからね」
すごくうれしそうにそう言われてしまい、かなり照れる。
でも、そんなにすごい事をしている自覚ないんだよなぁ。
だから、思わず聞き返す。
「より良くできるかな?」
そんな僕の言葉に、東郷さんははっきりと言う。
「出来ます。私はそう信じてますから」
その言葉には嘘、偽りはまったくなかった。
多分、東郷さんは、そう信じている…。
つまり、僕の事を信じているのだろう。
なら、僕はやるだけだ。
より良い変化をフソウ連合にもたらす事を…。
だから、力強く言う。
「わかった。東郷さんの期待に答えれるようにがんばるよ。だから、手伝ってくれるかな?」
その僕の言葉に、東郷さんは即答する。
「はいっ。もちろんです。私もお手伝いいたします」
その言葉と東郷さんの笑顔に、僕はとてつもない力をもらったような気がした。




