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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
外伝1 ドライブに行こう

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ドライブに行こう  その3

東郷さんが乗ってシートベルをきちんとしているのを確認し、僕は車のエンジンをかける。

すぐにエンジンはかかり、気持ち良さそうな音を響かせた。

サイドブレーキを外し、ギアをいれてアクセルを踏むとゆっくりと車は動き始める。

さて、どこに行こうか。

そんな事を思いつつ、運転する。

だがとっさに浮かばない為、一応、聞いてみる事にした。

「どこか行きたいとこある?」

そう東郷さんに普通と同じように声をかける。

もっとも、内心では「長官にお任せします」なんて返ってきたらどうしようという感じでびくびくしてます、はい…。

すると僕の思いがわかったわけではないのだろうが、東郷さんはポツリと希望を言う。

「海を見に行きたいです」

その言葉に、僕は思わず聞き返す。

「いや、いつも海見てるじゃない?」

「はい。いつも見てますね。でも、いつも見てるのは向こうの世界の海。私はこっちの世界の海が見てみたいんです」

「いや、でも、同じ感じだよ」

「多分、そうだとは思うんですけどね」

そう言って、僕の方を見て苦笑する。

しかし、それでも彼女は言った。

「でもやっぱり、こっちの海を見てみたいんです。駄目ですか?」

そこまで言われちゃ、行かないで済ますなんて出来るわけないじゃないか。

だから、僕は微笑んで頷く。

「わかった。海に行こう。そこで東郷さんに違いを確認してもらおう」

僕が茶目っ気たっぷりにそう言うと、東郷さんは慌てて言い返す。

「いや、でも違わないかもしれないんで…」

「違わないなら、違わないでいいじゃないか。ただ、もしかしたら僕がわからない何かを感じれるかもしれないしね」

そう言いつつ、車の方向を海の方に向けてアクセルを深く踏む。

ぶろろろろ…。

それに軽が答えるかのようにスピードが上がる。

「ところで、行き先は海って決まったけど、海岸でいいのかな?」

「そうですね…。港の方にいいですか?」

「港か…。ここいらは軍港なんてないから、普通の港しかないけど、それでいい?」

「はい。お願いします」

普通は、海岸とかの方がいいのかと思ったが、港を希望か。

なんか思い入れがあるのかな…。

気になったので聞いてみる。

「何で港なの?」

すると少し考え込んだ後、苦笑気味の顔で答えてくれる。

「私の両親は漁師でした。だから、いつも私は港で両親の帰りを待っていました。でも、務め仕事じゃないですから、決まった時間に返ってくるわけないじゃないですか。すぐ帰って来てくれる時もあれば、なかなか返って来ない時もあったんです。だから、待つのは慣れたんですけど、ぼーっと待っているってつまらない。だから、いつも港のいろんな船や人を見て時間を潰すのが普通になっていました。だから、何と言うんですかね。多分ですけど、港の風景って、私にとっての精神安定剤っぽい感覚なんだと思います」

その話を聞いて、ぼくにも似たような感覚があった事を思い出す。

「えっと、あれかな…。ほら、今住んでいる僕の実家って山の中じゃない?だからなのかもしれないけどさ。いつも山の中で遊びまくってたわけよ。それが当たり前になってたんだけどね。それで、都会の大学に行くようになって困った事っていうのが、たまに無性に山に行きたくなってしようがないっていうのがあったなぁ…」

「へぇ…」

そう返事をしつつ、疑問に思ったんだろう。

東郷さんが聞き返してくる。

「でも、それだったら、なんで海軍なんです?山の方が落ち着くなら、海軍じゃなくて陸軍じゃないんですか?」

確かに言われてみればその通りだ。

でも、多分だけど、僕が海軍にほれ込んだのはちゃんと理由がある。

「ほら、この前教えたけど、今いる国、日本は、フソウ連合と同じ島国でね。周りが海だからって言うのもあるんじゃないかな…」

「…言うのも?それって別に理由があるってことですよね?」

なかなか鋭い突込みが入る。

「よく気がついたね。今言った事も理由の一つだけど、それ以上に大きいのは光二さんの影響かな…」

「光二さんって…つぐみさんの旦那さんの?」

「そうそう。その光二さん。あの人、すごい模型好きで、僕が一緒に遊んでもらっていた時は飛行機と船ばかり作ってたんだよ。そんでね、色々説明してくれるのさ。この艦は、こんな装備を持ってて、こんなにすごいんだぞって…」

僕がそう言うと、東郷さんはクスクス笑う。

「それって、小さなころから模型と海軍についての英才教育を受けてきたってことじゃないんですか?」

その言葉に、僕は苦笑しつつ返す。

「いや、あれは、英才教育と言うより、洗脳かなぁ…」

「…洗脳?!」

しばしの沈黙。

そして、いきなり噴出して笑う東郷さん。

「ふふふふふ。そ、それは…あはははははっ…い、言いすぎ…あはははは…」

かなりつぼを突いたらしい。

まさに爆笑である。

つられて僕も笑う。

そして、車は松原の中に入る。

日本三大松原の一つであるこの松原は、実に見事なものだ。

その上、ぽかぽか陽気の暖かい日差しのある日に松原内を通る道路を通る時なんて実に神秘的だ。

幾重にも重なる枝の間から差し込む暖かな光と枝の影になるひんやりとした暗闇。

そのツートーンが織り成す空間の中を車で走る。

「すごいっ。すごく神秘的ですね」

笑うのを忘れ、その雰囲気と神秘的な空間に唖然として見入る東郷さん。

「気に入ったかい?」

「ええ。気にいっちゃいました。ただの松原だと思ってたのに…すごく綺麗で神秘的です。こんな風景は初めてです」

そう答えた後は、無言でその光景を目に焼き付けるように見つめ続ける。

僕は、少しほっとしていた。

もし、ドライブに誘ってもつまらなかったと思われる事は、これで少しは回避されたと思ったからだ。

そして、運転しながらちらりと目の片隅に入るのは、周りの景色を見るのに夢中な東郷さん。

その様子に、僕はなんかとてもうれしくなってしまっていた。

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