ドライブに行こう その1
えー、ブックマーク100、評価300超えの記念です。
まぁ、ラブコメ要素てんこ盛りになる予定ですが、まぁ、記念と言う事で少しお付き合いの程よろしくお願いいたします。
「ふんふんふん~♪」
ご機嫌に鼻歌を歌いながら東郷大尉が洗車している。
いや今日は非番だから、東郷さんと言ったほうがいいのかな。
ともかく、休みの日には、必ずと言っていいほど洗車をするのが当たり前となりつつあった。
もちろん、親父から譲り受けた方ではなく、僕の愛車の銀色の軽の方をである。
以前、軽を気に入ってからというもの、まるでペットの世話をするかのように丁寧に愛情を持って洗車している。
よっぽど気にいったんだな。
まぁ、あっちの世界は、ごついデザインばかりだったからなぁ…。
それに結構大きな軍用ばかりだから、ああいった感じのかわいいデザインの軽は、かなりツボを捕らえたのだろう。
そんな事を思いつつ、庭先に出て東郷さんの洗車している様子をのんびりと見ている。
なんかこういうの…いいよなぁ…。
心が癒されるというか、なんかほのぼのするというか…。
そんな事を思っていたら後ろからいきなり声をかけられた。
僕の警護を兼ねてこっちの世界で生活するようになった見方大尉である。
「長官、こんなところで何をしておられるのですか?」
そう言いつつ、僕の視線の先を見る。
その瞬間、彼の顔がニヤリといった感じに崩れた。
「長官も男ですね」
「な、何がだよ」
「いや、隠さなくてもわかりますって。わが従兄弟ながら、いい身体してますからね夏美のやつは…」
その言葉に、一気に自分の顔に熱が集まるのがわかる。
「お、おいっ、な、何を言ってるんだっ…。僕は、そんなつもりで…」
「何言ってるんですか。あんなに身体にぴったりの服装だったら気にならない男はいませんよ」
そう言いつつ、ポンポンと僕の肩を叩く。
「いや…、だからな…」
何とか誤解を解こうと言葉を口にしようと思ったが、何も浮かばない。
それを肯定ととったのだろう。
耳元で囁くように見方大尉が言う。
「見てくださいよ、あの引き締まった細い腰。それでいてしっかりした感じのお尻から足先に流れるような綺麗な足のライン。胸だって、三島さんほどではないけど、程よい膨らみがあって…」
そんな風に言われて、ついつい想像してしまい、慌てて想像したものを僕はかき消す。
そして、真っ赤になりながらもはっきりと口にする。
「見方大尉っ。自分は東郷大尉をそんな目で見たことはないっ。間違えないでくれ」
僕の言葉に、見方大尉は呆気に取られた表情をしたが、少し考え込んだ後、聞き返してくる。
「長官…夏美の事、どう思ってるんですか?」
いきなりの質問に、一瞬迷ったが、当たり障りのない言葉を口にする事にした。
変な誤解を生むかもしれないし、今の関係が崩れるのはいろんな場面で支障をきたすからな。
「彼女は優秀な秘書官だ。それ以上でも、それ以下でもない」
「えっ…本当に?」
「本当だ」
「………」
沈黙が辺りを包むが、何を考えたのか見方大尉は聞き方を変えてきた。
「ふむ。でも素敵な女性とは思っているんですよね?」
くっ…。
何気なく逃げにくい質問をするじゃないか。
そう思いつつ、嘘は言いたくないので当たり障りのない答えを返す。
「も、もちろんだ。彼女はすごく素敵だと思う…」
「魅力的ですよね?」
「ああ。確かに魅力的だ」
「ああいう女性を彼女にしたらいいと思いません?」
するっとそう言われ、何気なく口にしてしまう。
「そうだな。そうなったらいいだろうな」
僕の言葉が出た瞬間、見方大尉の顔がしてやったりといった顔になる。
しまったっ。
何気なく口にしてしまった。
「ふっふっふ…。聞きましたよ。ふっふっふ…」
「お、おいっ、今のはナシだ。いいなっ」
慌てて言う僕の言葉に、見方大尉は「了解しました」と言って楽しそうに家の方に戻っていった。
し、しまった…。
なんかとんでもない事になりそうな予感が一気に頭を掠める。
いや、落ち着け、落ち着くんだ。
大丈夫。大丈夫だ。
本人に聞かれていないんだ。
何か言われたら、誤魔化せばいい。
それに見方大尉は口が堅いほうだし…。
でもなぁ…。
やばい気がするんだよなぁ…。
そんな事を思っていたときだった。
「長官っ、そんなところで何をしているんですか?」
後ろから声をかけられる。
相手はもちろん東郷さんだ。
「ひゃっ…あっ、と、東郷さんかっ…。い、いやなんでもないよ」
あたふたと何とか答えるものの、完全に挙動不審である。
いかん。
あんなに言われたから意識してしまい、顔が見れない…。
慌てて顔から視線を外す。
それがますます不審に思われたのだろう。
「えっと、何があったんですか?」
ますます東郷さんが身体を近づけ、覗き込むように僕の顔を見る。
そうなると視線をそらせないわけで…。
顔は真っ赤になってしまっているのがわかる。
「もしかして具合が悪いんですか?顔が真っ赤です。熱でもあるんじゃないですか?」
慌てたように東郷さんの右手が上がり、僕の額に当てられる。
水で冷えた手が気持ちよく、火照った顔を冷やしてくれるようだ。
「えっ…と…。あ…手が冷たいからこれじゃわからないですね」
慌てて手を引っ込めようとする東郷さん。
僕は思わず声を上げる。
「そのままで…」
「えっ?」
「気持ちいいからそのままでしばらく当ててくれないか?」
「……はい……」
まるで抱き合うかのような近距離に彼女がいて額に手が当てられている。
心臓がドキドキと脈打ち、落ち着かない。
何か言わなきゃ…。
そう思うものの、何もいえない。
そして、ふと気づく。
東郷さんも真っ赤になっている事を…。
その現実に、僕はなんかほっとしてしまう。
よかった。嫌われてないとわかって…。
そしてふと思い出す。
そう言えば…、初めてこっちの世界で買出しに出かけるときに妥協案をだしていた事を。
今度時間があるときに軽でドライブするって約束…。
そして、約束を思い出したからなのかもしれない。
僕は無意識のうちに言葉を口にしていた。
「東郷さん、以前約束してたよね。今度、軽でドライブに連れて行くって…。今日はどうかな?」
僕の言葉にきょとんとした表情の東郷さん。
そして、やっと意味が理解できたのだろう。
顔に浮かんだのは慢心の笑み。
そして弾ける様に返事が返ってきた。
「はいっ。いきたいです」と…。
こうして、僕と東郷さんは午後からドライブに行く約束を取り付けたのだった。




