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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第五章 同盟

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交渉  その1

十一時から始まったランチが終わったのは実に十三時近くだった。

それも、「そろそろよろしいでしょうか」と言う鍋島長官直属の女性秘書官(東郷大尉と言うらしい)からの言葉でだ。

もしなかったら、もっと延々と話していたと思う。

時間を忘れるほど楽しい一時だった。

そして、十三時から、交渉が始まった。

さっきまで和気藹々と話していたはずのミッキーも鍋島長官も別人のような真剣な表情になっており、さっきまでのほのぼのとした温和な雰囲気は微塵もない。

まさに、神経が磨り減るような消耗戦が始まったといっていいだろう。

ミッキーは隣に座るイターソン大尉に目で合図をし、それを受けてイターソン大尉が頷いたのを確認してから口を開いた。

「まず、王国からのフソウ連合への希望を申し上げます。基本は次の三つであります。一つ、休戦或いは講和による戦闘の中止。一つ、わが王国とフソウ連合の同盟の締結。一つ、文化、貿易による交流の活性化。以上ですね」

ミッキーの言葉に、鍋島長官は条件が読み上げられるたびに一回ずつ頷く。

その様子から、どうやらこっちの申し込みは受け入れられそうな雰囲気だ。

ただし、これらを認めてもらうにはタダでということはありえない。

こっちから持ちかける以上、譲渡が必要となる。

それは金だったり、物資だったり、権利だったり、そして…土地だったりする。

今回、王国から出された最大限の条件は、フソウ連合に最も近い王国の植民地であるタイエット国の全ての権利と土地である。

宰相をはじめ、いろんな人に最低限に抑えろと散々言われたが、駆け引きをするつもりはない。

多分、今思っている事をぶちまけたら、ほとんどの人からはお前は馬鹿だと言われるだろう。

しかし、それでもいいと思っている。

アッシュは言っていた。

サダミチは、恩には恩を、敵意には敵意をもって対応する男だと。

そして、こうも言っていた。

君が思うようにやればいい。どんな結果になっても、私は君の判断を支持すると…。

だから、私は自分が思ったようにやる。

そう決心し、ミッキーは口を開く。

「これらの基本の三つと別にもう一つ条件を飲んでいただければ、王国はフソウ連合の近くに保有するタイエット国の全ての権利と土地をフソウ連合に譲渡したいと思っています。これは、わが国が出来る最大の譲渡であり、これ以上はありません」

隣で唖然としたイターソン大尉がちらりと目の端に入る。

昨日の話し合いの時点でも少しは駆け引きをしてくださいと釘をさされたっけ。

だが、今回の男爵の件なども含めれば、圧倒的にこっちの都合が優先してしまっている。

ならば、いろいろ駆け引きなどするより、一気にやった方がいい。

そう判断したのだ。

それに何より、私は駆け引きは好きではない。

相手を騙しているような感覚になる為だ。

そう言えば、アッシュにも言われたっけ。

もしも、私が王位を得たとしても、お前に宰相は任せられないと…。

だが、それはある意味、褒められていると思っている。

だからこそ、小細工はなしだ。

そして、相手の反応を見る。

鍋島長官とその隣に座っている南方艦隊指令の南雲少佐はさっきまでの落ち着いた表情が驚きに変化していた。

それはそうだろう。

まさか、国一つと引き換えにとは思わないに違いない。

なんか、相手の予想外の事をやったという気になって、少しうれしくなる。

だが、そんな高まった気持ちは、すぐに隣のイターソン大尉の無言の抗議で下落していく。

やばい…。

かなり怒っているようだ。

しかし、代表として発言した以上、横から色々と口は出せない。

だからこそだろう。

交渉が終わったら、なにを言われるだろうか。

不安になる。

しばしの沈黙が辺りを包む。

しかし、その沈黙も続かない。

「一つ、質問していいだろうか?」

そう言って聞いてきたのは鍋島長官である。

「ええ。答えれる範囲内であれば…」

ミッキーはそう答え、イターソン大尉の無言の抗議を見なかったことにした。

「この条件はあまりにも破格です。つまり、まだ言われていない一つの条件のためにここまでの譲渡を用意したと考えてよろしいですかな?」

なかなか鋭い指摘だとミッキーは思う。

休戦や講和、それに同盟にはそれぞれ二国にとってもメリットがあるため、その為だけにここまでの譲渡はまず必要ない。

まだ一回戦っただけなのだ。

だから、この場合は、痛み分けか賠償金を払って終了がほとんどだ。

つまり、隠されている条件に、ここまでさせるものがあると読んだんだろう。

さすがだと思う。

「ええ。その通りです」

「なら、その条件を聞いてもよろしいですか?」

「もちろんですよ。もう一つの条件、それはフソウ連合が所有する大型戦艦ハルナとそれらに順ずる大型戦艦の譲渡です」

予想外の条件だったのだろう。

鍋島長官の顔が驚き、そして何か考え込むような表情になって目をつぶって黙り込む。

「榛名とそれらに巡ずる大型戦艦…つまり、戦艦のみを譲渡して欲しいということですか?」

南雲少佐が聞いてくる。

「ええ。その通りです。我々には今、あの艦が必要なのです」

「それは絶対ですか?」

「ええ。それが叶わなければ、全て今回の事は無かった事になります」

ミッキーの言葉に、フソウ連合側は沈黙した。

それぞれが何か考えるような顔をした後、全員が鍋島長官を見る。

それは、全ての決定権を長官に委ねるということなのだろう。

そして、ミッキーも静かに待つ。

鍋島長官の出す答えを…。

長いようで短い時間が過ぎ、鍋島長官は目を開く。

そして、ミッキーの方をじっと見て言った。

「なぜ必要なのか。それくらいは教えていただけるんでしょうな?」

その言葉に、イターソン大尉の左手がミッキーを止めようと右手を掴む。

しかし、そんなイターソン大尉の方を向き、ミッキーは笑う。

それでわかったのだろう。

仕方ないといった表情になったイターソン大尉は手を離す。

その顔には、どうなっても知りませんよという思いがありありと出ていた。

しかし、それでもミッキーの気持ちは変わらない。

「ええ。もちろんです。きちんとお話します…」

そう言うと、ミッキーは話し始めた。

王国海軍の精鋭三個艦隊が、二隻の大型戦艦によって壊滅させられたという事件を…。

それは第三者から見たら、そんな馬鹿なと言われるような話だ。

しかし、その話を鍋島長官は真剣な表情で聞く。

そして、ミッキーが全てを話し終えると、「ありがとう。それなら納得がいった」と言葉を返してくれる。

その言葉に、ミッキーはこの条件をフソウ連合側は間違いなく飲んでくれると思った。

しかし、鍋島長官から出た言葉は「その条件は飲めない」という否定の言葉だった。

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