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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十章 嵐の余波と二つの戦い

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第八外洋艦隊

四月二日。

名無しの意味を持つナッカーラーザという名前の無人島の湾内に作られた臨時港に、艦隊が入港してきた。

旗艦エンタープライズと、ホーネットを改修した蜂鷹の二隻を中心とした、外洋艦隊初の機動部隊であるフソウ連合第八外洋艦隊である。

指揮官は、旧アメリカ合衆国海軍第十六任務混成隊指揮官であったレイモンド・スプルーアンス少将で、フソウ連合の指揮官として任務に就くのはこれが初めてとなる。

フソウ連合、王国、共和国の艦隊で編成される連合艦隊の主港となっているため、湾内は簡易ながらもかなり広範囲に整備され、島の方にも施設があるようだ。

「これは中々のものだな」

スプルーアンス少将はその景色を見て、楽しげにそう呟く。

「本当ですね。急遽準備されたとは聞いていましたが、ここまでとは思いもしませんでした」

副官であるロバート・オリバー中尉が同意を示す。

てっきりもっと簡易で粗末なものを想像していたらしい。

だが、目の前に広がっているのは、湾内に作られた簡易ではあるがコンクリートで固められたブロックによって構成された港と、その上にある近代的な建物。

そして、簡易型ではあるがいくつかのクレーンが動いている。

さらに、湾内に作られた簡易港は、そのままコンクリートのブロックが島の方に繋がっており、島側にもいくつか建物が建てられている。トラックや車が行き交い、海岸には水上機が何機も並んでいる。

その二人の反応を楽しげに見ていた、オブザーバーとして乗艦していた勝川智明大尉は、笑って説明する。

王国でフソウ連合が借用している港の造船区画でコンクリート船を建造し、補給物資や資材と一緒にこちらに運送した後は、そのまま港の基礎に使っているため、短時間でここまで用意できたこと。そのため、どうしてもブロック単位になってしまうことなど。

その説明を聞き、二人は感心したように頷いている。

アメリカ海軍も、部分ごとに製造し、それを沈めて固定することで埠頭を作る技術はあるが、その埠頭のパーツを輸送船としても活用するという発想はなかった。

だから、驚いたのである。

「ああ、あれがコンクリート船ですよ」

港の一部に停泊しているグレーの塊を指さす。

「ほほう。あれが……」

「ええ。恐らく、まだ物資が入っているんでしょう。陸揚げした後は、港の拡張に使われるでしょうね。なんせ、ここは連合艦隊の主港としてこれからも活用されていくことになるでしょうし、平和になればこの海域を中心に、王国、共和国の領海を監視するイムサの基地として活用すればいいだけですしね」

その言葉に、スプルーアンス少将は感心する。

なるほど、よく考えられている。

ここは、王国、共和国、両方が治外法権の緩衝地帯として認め合っている。

だから、ここが国際組織の基地になれば、両国の干渉を最小限に抑えて、より国際組織としての活動を行えるということ。

先の先を見通してのことか。

フソウ連合という国は――いや、あの人は――本当に先を見通してやっているな。

そんなことを思いつつ、出発式の挨拶で「無理をせず、出来ることをしっかりやってほしい」と述べた鍋島長官の温和な笑みを思い出す。

本当に人たらしというか、敵わないと思わせる人だなと。

そして、艦橋の窓から見える国旗を見る。

そこにはフソウ連合の所属を示す日章旗が掲げられており、その下にはかつての祖国アメリカ合衆国の国旗もある。

彼は、自分らの祖国を否定しなかった。

それどころか、国際的に所属をはっきりさせるため、上にフソウ連合の日章旗を掲げることをすまなく思う、とまで言ってくれている。

君らの祖国は、僕の世界では良き隣人であり、パートナーになっているからね。

彼はそう言って笑っていた。

聞けば、彼の世界の歴史では、あの無理難題とも取れるハルノートを突き付けたアメリカと激しい戦争になり、そして敗北し、徹底的に痛めつけられたのだという。

なのに、そんな相手に対して、良き隣人、パートナーであると言えるのだ。

アメリカが逆の立場なら、そうはならないだろう。

それを考えれば、本当にすごいと思うしかない。

そして、そんな彼に、そしてそんな彼の率いるフソウ連合に恩を返したいと思っている。

今やフソウ連合は、我々の第二の故郷だ。

元の世界に帰れない可能性が高い以上、それがベストだとは思う。

だが、それを抜きにしても、本当に、心底、彼のため、フソウ連合のために頑張りたいと思ってしまう。

恐らく、軍に残った連中はほとんどがそう思っているだろう。

そして、民間に行ってしまった仲間や同胞も。

本当に、魅力的な人物と国に関われてよかった。

そう、スプルーアンス少将は考えをまとめたのであった。



「ほう。あれか……」

毛利艦隊の旗艦、水上機母艦瑞穂の艦橋で、毛利中将と真田少将は双眼鏡で湾内に入ってくる艦隊――第八外洋艦隊を見ている。

その艦隊編成は、旗艦である空母エンタープライズと蜂鷹、重巡洋艦デモイン、セーラム、アレンM・サムナー級駆逐艦八隻の十二隻を中心とし、それに支援艦艇八隻を加えた計二十隻で構成されている。

「外洋艦隊に空母を配備するのは初めてだな」

双眼鏡から目を離さずに言う真田少将の言葉に、毛利中将も双眼鏡で艦隊を観察しつつ答える。

「まぁ、王国でも王国独自の航空隊の創設が進められていますからね。今さら秘匿する必要はないかと考えられているのでしょう」

その言葉に、やっと双眼鏡から目を離して真田少将は笑った。

「確かに。確かに。現に、毛利艦隊には、軽空母とはいえ五隻が活躍していますからな」

今や戦場で航空機が飛び交うこと自体は珍しくなくなっている。

以前、秘匿してきたときとは大きく状況は違っているのだ。

そして毛利中将は懐かしく思う。

確か、この艦隊を任せられていた頃は、水上機を現場の判断で使って軍事裁判沙汰にまでなったことを。

だから、思わず笑いが漏れる。

その笑いから、恐らく毛利中将が引き起こした軍事裁判のことを思い出したのだろう。

真田少将も苦笑した。

「本当に状況は変わりましたな」

その言葉には、しみじみとした重みがあった。

真田少将にしてみれば、飛行機という存在は半信半疑のものではあった。

ある意味、使えるかどうかの代物という認識だろう。

だが、今や戦場を左右する兵器になりつつある。

これは少し思考を柔軟にしなくては。

恐らく、第八外洋艦隊が派遣されたということは、毛利中将はこの戦闘の後、本国に戻る可能性が高い。

それを考えれば、後は私が毛利中将の任務を引き継ぐことになるだろう。

だからこそ……。

そう思考した結果の言葉と苦笑でもあった。



第八外洋艦隊が完全に港に停泊した後、スプルーアンス少将は、副官とオブザーバーである勝川大尉を伴い、指定された客船『新田丸』に向かった。

そこで三人は、会議室らしい部屋に案内された。

そこには、連合艦隊の指揮官であり毛利艦隊を指揮する毛利中将と、第一外洋艦隊を指揮する真田少将、そして第一海兵隊の杵島大尉が待っていた。

もちろん、全員初対面である。

三人は、入室してきた我々を迎え入れる。

全員、どちらかというと緊張を感じさせるものはない。

杵島大尉は少し驚いた感じではあったが楽しげであり、真田少将もこちらを吟味する視線はあったものの穏やかな笑みを浮かべ、そして中央にいる毛利中将は、実に友好的な笑みを浮かべている。

だが、見ただけでスプルーアンス少将は、この面子はかなりの手練れだと判断した。

雰囲気が違うのだ。

ピリピリしたものを感じてしまう。

それはそうだろう。フソウ連合ではない人間が艦隊を率いているのだ。

思うところはあるだろう。

いや、ない方がおかしいというべきか。

特に毛利中将は、三人の中ではもっとも友好的で穏やかな感じだが、何となく鍋島長官に通じるものが感じられる。

このタイプは見た目に騙されたら駄目だ。

鍋島長官といろいろ話すうちに、スプルーアンス少将はそう肝に銘じていた。

「第八外洋艦隊の指揮を任せられているレイモンド・スプルーアンス少将であります。第八外洋艦隊、到着いたしました。以後は、そちらの指揮下に入ります」

そう申告すると、敬礼する。

それを受けて三人は答礼し、毛利中将がそれぞれを紹介した。

「まぁ、立ち話も何なので、座って話でもしましょうか」

そう言われ、三対三で向かい合う形で椅子に腰を下ろす。

なかなか良い椅子だ。

クッションが心地よい。

テーブルもシンプルだが質がよさそうではある。

流石は客船だけあるな。

そんなことをスプルーアンス少将が思っていると、それに気づいたのだろう、毛利中将が口を開いた。

「まぁ、戦場に最も近い主港に客船というのは場違いかもしれませんが、ここは王国、共和国の関係者――それもかなり高位の方が来られますからね。そのためのものです。あとは、戦いの後の兵たちの慰安にも使われたりしますがね」

要は、そういった裏方の仕事のために派遣されているということなのだろう。

まぁ、確かに、この島には羽を伸ばせそうな場所は皆無だ。

兵士の士気を維持し、より高めるためには、こういったものは必要不可欠であるしな。

だから、何か納得してしまった。

「なるほど。そうなると我々も利用するということですな」

「ええ。ただし、事前に予約はお願いしますよ」

毛利中将が笑いつつそう言う。

「確かに。その通りですな。それで少し聞きたいのですが……」

スプルーアンス少将が笑いつつ尋ねる。

「何でしょう?」

少しうかがうような反応に、スプルーアンス少将は楽しげに言う。

「もちろん、アイスクリームもあるのでしょうな?」

予想外の言葉に、一瞬の間の後、毛利中将は笑った。

杵島大尉、真田少将もである。

「もちろん。ありますとも」

茶目っ気たっぷりに毛利中将が笑って言う。

「そうですか。あれの味を知ってから、すっかり気に入りまして。ただ、第八外洋艦隊ではなかなかお目にかかれないので、もしあるならばと」

そう言うスプルーアンス少将の一言に、場の雰囲気は一気に軽いものになった。

「ほほう。貴官もあれに夢中か。わかりますぞ」

そう言ったのは真田少将だ。

挿絵(By みてみん)

「実はですな、あれに王国の酒を垂らして食べてみると、また違った感じがしていいですぞ」

「ほほう。今度教えていただけないでしょうか?」

そんな会話が飛び交う。

こうして一気に場の雰囲気が変わった。

やはり、美味しいものの力は絶大である。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今回の話はどうだったでしょうか?

遂に第八外洋艦隊の登場。

そして『楔』作戦の発動となります。

お楽しみに。

後、感想やリアクションいただけるとありがたいです。

また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

作者の更新へのモチベーションUPに必要不可欠な補給要素の一つですw

潤沢な補給をどうぞよろしくw

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いつも楽しく購読させていただいています。気になったことといえば返礼という言葉は使いません答礼です。これからも頑張ってください。
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