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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十章 嵐の余波と二つの戦い

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余波

「報告は以上であります」

首都の潜水艦隊司令本部を任せているアルホフ大佐の言葉に、ガルディオラ提督はため息を吐き出した。

トラッヒ暗殺計画は失敗し、最悪の結果になってしまった事に。

特にルキセンドルフ総司令官が怪我の療養の為、軍営本部に来られない事は、連盟軍にとってかなりの痛手だろう。

連盟軍の全ての作戦の指揮を執っていたのは彼であったからだ。

ガルディオラ提督は潜水艦部隊のみを預かっていたし、バルべ大将は洋上艦隊、それとは別に陸軍の指揮を執るランパカト・ハウエッセン将軍がいる。

つまり、その三人をルキセンドルフ総司令官がまとめていたという事で、そのまとめ役がいなくなってしまった。

間違いなく荒れるな。

もっとも、かなり以前から潜水艦部隊はスルーされてしまっており、問題は陸軍を率いるハウエッセン将軍がどうするかにかかっているといっていいだろう。

ハウエッセン将軍。

あまりいい噂を聞かない人物だ。

かつて、商人達が軍を牛耳っていた際に商人達の利権の狭間で将軍になって今の今まで流されるままやってきた人物で、風見鶏とまで言われている。

そして、そんな人物なら、まずこっちにはつかないか。

そうなると、恐らくバルべ大将と手を組むだろう。

バルべ大将としては、まさに、我が世の春といったところか。

もっとも、その結果、ますます潜水艦部隊は無視されていくということ。

ガルディオラ提督はそう思い、苦笑した。

つまり、今までと変わらないということか。

ただ、変わったのは、率いるのがまだ融通が利くルキセンドルフ総司令官から、融通が利かない狂犬のバルべ大将に変わったという事と、以前より潜水艦部隊への風当たりが強くなるだろうということだけだ。

ただ、用心しておくに越したことはない。

「それで、対策は?」

「はっ。すでに連中の近くに息のかかった者を数名潜伏させております」

「ほう。準備がいいな」

そのガルディオラ提督の言葉に、アルホフ大佐は楽しげに笑った。

「念には念をというのが信条でして」

「そうだったな」

そう答えつつ、アルホフ大佐の言葉に、頼もしげに頷く。

信頼出来る上にこういう性格だからこそ、本部を任せているのだ。

「それで、ラッテンコウ大佐の方はどうだ?」

「未だ消息不明です。痕跡も残しておらず、諜報部はかなり苦労しているとか」

感心したような表情をしつつそう返事をするアルホフ大佐。

要は、暗殺未遂以降、彼の消息は分かっておらず、さらに痕跡を消しているという事は、捕まらない限りそうそう背後関係は解明できないという事だ。

つまり、背後関係や関係者がわからないというのは、トラッヒにとっては頭の痛いところだろう。

なんせ、まだ身近にラッテンコウ大佐のような連中がいる可能性を否定できないのだから。

まぁ、いい気味だという気持ちしか湧かない。

これで引っ込めばいいんだが、あの手の輩は恐怖に駆られて暴走する恐れが高い。

そのブレーキ役のルキセンドルフ総司令官がいないのならなおさらだ。

「出来る限りでいい。こっちに火の粉がかからんように動いてくれ」

「はっ。勿論です。お任せください」

「それで、捜査はどんな状況だ?」

待ってましたと言わんばかりに、アルホフ大佐は報告を続ける。

「兵器開発局が機能を停止しました。多くの者が拘束されています」

その言葉に、ガルディオラ提督は苦笑する。

多分、ほとんどの者は無関係者だろう。

ただ、その分、兵器の開発や改修が遅れるだけだというのに。

これで当面の新型潜水艦や魚雷の改修は止まるだろう。

そうなると現状のもので対応しなければならないという事か。

難儀だな。

特に、魚雷の不発問題はもう少し何とかしてほしい所だっただけに残念と言うしかない。

苦虫を潰したような表情のガルディオラ提督に、アルホフ大佐は書類の束を差し出す。

「それとこちらを」

枚数はそれほど多くはないから、渡された書類の束を受け取るとすぐに軽く目を通す。

紙をめくる音だけがしばらく続いた。

そして、その音が止み、ガルディオラ提督は視線を書類からアルホフ大佐に向ける。

その表情は困惑していた。

「これは……」

その書類には、裏で暗躍する組織があり、色んな所に入り込んでいると予想されるという内容だった。

「まだ、はっきりとではありませんが、かなり深いところまで入り込んでいるようです。また連中は反トラッヒの動きをしております」

「ふむ。で、どこの組織だと思う?」

「わかりません。ですが、かなり用意周到で用心深い。厄介な相手です」

「で、潜水艦部隊の方は?」

その問いに、アルホフ大佐はニタリと笑みを漏らす。

「私の目が黒いうちはご安心ください」

実に頼もしい限りだ。

「そうか、頼むぞ。それと、これを諜報部はどう見ている?」

「まだ把握しきれていないかと」

自信満々でそう言い切る。

つまり、連中はかなり慎重に動いているという事か。

まぁ、トラッヒにいい感情を持っていない者は多い。

特に近くにいる者ほどその傾向は強いだろう。

それにかつて彼に心酔していた者も、今や熱が冷めてしまっている者が大半だろう。

だから、秘密裏に浸透しやすいのかもしれんな。

そんな事を考える。

しばしの沈黙が辺りを支配する。

そしてガルディオラ提督はため息を吐き出すと呟くように言う。

「今回の件がうまくいけば、私の立場も大きく変わったかもしれんのだがな……」

その言葉に、アルホフ大佐は黙って頷いたのであった。



「ご不自由はしておられませんか?」

そう聞かれ、ラッテンコウ大佐は苦笑した。

「ああ、本当に助かっている。だが、いいのかね?」

その問いに、リネット・パンドグラ少佐は笑った。

「まぁ、派閥は違えど同志みたいなものですからね。困った時はお互い様ですよ。それにあなたは英雄です。今の歪んだ国を立て直そうと実行に移した」

その言葉に、ラッテンコウ大佐はますます苦笑する。

そういうつもりは微塵もないという事だろう。

別に自分が英雄になるつもりは全くなかった。

ただ、国の事を思って動いただけだ。

だから、トラッヒ暗殺後は、テロとして処罰されてもいいとさえ本人は思っていた。

いや、そのつもりであった。

だから、「英雄」という言葉に拒否感が出てしまう。

「英雄ではない。ただのテロリストだよ」

ラッテンコウ大佐の言葉に、パンドグラ少佐はますます嬉しそうだ。

「そういうあなただからこそ、私は、いや我々は貴方をかくまったのですよ。惜しいと……」

その言葉で、先ほどの「英雄」という言葉は、こちらの真意を探るために発せられたものだとラッテンコウ大佐は理解する。

どうやら、ただの熱心な反トラッヒの組織ではなさそうだと感じる。

だからあえて言う。

「なるほど。私にまだ使い道があるという事ですかな」

割り切った言葉に、パンドグラ少佐は苦笑するしかない。

そういうつもりで言ったわけではなかったのだが、ラッテンコウ大佐の肝の据わった対応に、ますます惚れ込んでしまっていた。

ここで死ぬ、あるいは死なせるには惜しいと。

だからあえて言う。

「まぁ、そう思っていただければ……」

その言葉に、ラッテンコウ大佐は笑った。

「私でよければ、喜んで協力いたします」

「それはうれしい返事ですね。実は……」

こうして、裏で着々と新しい繋がりが出来ていく。

そして、それはより巧妙に拡大していくのであった。


挿絵(By みてみん)

「まだ捕まらんかっ」

トラッヒの怒りが爆発する。

もちろん、暗殺未遂を実行したラッテンコウ大佐を、である。

今やルキセンドルフというブレーキを失ったトラッヒを止められる者はいない。

「はっ。今、関係者と思しき連中を拘束し、背後を調べております。間もなくはっきりとしたことがわかるでしょう」

その報告に、トラッヒの眉がぴくりと動く。

「本当だな?!」

地の底から響くかのような低い声。

その場にいた誰もが心底震え上がるような恐怖と怒気がこもっている。

「は、はいっ」

生き延びる為には反射的にそう答えるしかない。

そんな有様である。

そして、矛先は海上艦隊司令のバルべ大将に向けられる。

その視線を受けて、ガルディオラ提督に内心「狂犬」と言われているバルべ大将も震え上がる。

今まではルキセンドルフ総司令官が盾となっており、矛先がこちらに向く事はあまりなかったからだ。

それ故に、直接こうやってやられることはなかった。

だからこそ、余計にそうなってしまったのである。

もし、今ここにガルディオラ提督がいたら、内心大喜びだっただろう。

流石の狂犬も大人しくなったなと。

ともかく、他の話題を振って何とかしなくてはならない。

そこで、バルべ大将は慌てて『鼠輸送』作戦の成果を報告する。

もちろん、被害を伏せ、水増ししてである。

その報告に、トラッヒの怒気がある程度収まり、バルべ大将はほっとする。

勿論、他の参加者たちも。

そして、被害を隠したまま作戦を続けている為、艦船不足になり始めている事は伏せたまま、もっと艦船を回せば反転攻勢を行う時期は早まるとさえ言ってしまうのである。

間違いなくルキセンドルフ総司令官はそうは言わないだろう。

それは自分の首を絞める行為だと気づくからだ。

だが、バルべ大将はその場を凌ぐために、ついつい言ってしまった。

その結果は明白であった。

「そうか。そうか。それ程順調ならば艦船をより多く回せば、反転攻勢もすぐに行えよう。すぐに増援を行い、作戦を前倒しできるようにしたまえ」

トラッヒはそう言って機嫌を直したのである。

機嫌を直したことにほっとしたものの、そのトラッヒの言葉を反芻して、バルべ大将は初めて自分が愚かな方法を選択してしまったことに気づいた。

現状の被害を考えれば、艦船を増やしたとしても予定通りに補給できるか怪しいというのに。

だが、言ってしまった以上は、撤回は出来ない。

やるしかないのだ。

ごくりと唾を飲み込む。

バルべ大将は背筋が冷たい汗に濡れていくのを感じていた。

その無茶な約束が、現場を、そしてバルべ自身の首をより絞めることになるとはまだ誰も知らない。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今回の話はどうだったでしょうか?

大きな戦いの準備というところでしょうか。

今後をお楽しみに。

それと感想やリアクションいただけるとありがたいです。

また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

作者の更新へのモチベーションUPに必要不可欠な補給要素の一つですw

どうぞ、潤沢な補給をよろしくw

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