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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四十章 嵐の余波と二つの戦い

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鼠輸送の現実

「間もなくですな」

副長の声に、艦長は頷く。

月明かりもなく、わずかな星明かりだけの真っ黒な海。

その中を艦は進んでいく。

敵に見つからないようにするためとはいえ、周囲がほとんど見えないのは気持ちのいいものではない。

「今回も問題なく済みそうだな」

何気なく出た言葉だった。

今回の作戦に参加して、すでに三回目になり、休む暇もなく行ったり来たりを繰り返している。

本来なら、すでに増援の艦艇が来ているはずなのに、まだそういった話にまで進んでおらず、上はゴタゴタしていて作戦の進行が遅延してしまっている。

その結果、既存の艦艇がその遅れの責任を取らされている、といったところだ。

「しかし、もうそろそろ参加艦艇を増やしてくれないと、手が回らなくなってしまいますな」

副長が呟くように言う。

何でも、反攻作戦のためにかなり大量の物資を送り込もうと上は考えていたようだが、このままでは難しすぎる。

おそらく、このままだと馬車馬のようにこき使われた挙句、計画どおりにならなかった責任を現場に押し付けられる未来しか見えない。

艦長の口からは、思わずため息が漏れた。

それを聞き、副長は艦長に顔を寄せて囁くように言った。

「そういえば、上でゴタゴタが起きているのはご存じですか?」

その問いに、艦長は頷く。

「ああ。詳しくは知らないが、上が総入れ替えみたいな感じになっているとは聞いたぞ」

その言葉に、副長は頷いた。

「ええ。何でも不祥事があって、総統閣下の怒りを買ったみたいで、粛清されたという話ですよ」

「そうなのか? 俺は総統閣下について行けずに辞任したと聞いたが……」

「その線もありますな。ただ、軍政局と警務部が詳しいところを握りつぶしてるそうで、現場には断片しか落ちてこないんですよ。何か“表に出せない理由”があるんでしょう」

そして二人はため息を吐き出した。どちらにしても、愉快な話ではない。

「まぁ、どっちにしてもいいが、もう少し現場のことを考えてやってくれよ」

艦長の愚痴に、副長は深く同意を示す。

だが、愚痴っていてもノルマは完遂できるはずもない。

「仕方ねぇ、やるしかないな」

その言葉に、副長も苦笑して頷く。現場にできることは、限られているのだ。

「それはそうと……」

副長が再び口を開いた。

「今度は何だ?」

どうのこうの言いつつ、副長はいろんなところから情報を仕入れてくるので、聞いていて損はないと艦長は思っている。

「どうやら、ハイネセンの艦が行方不明だそうです」

ハイネセンの艦――それは同じ時期に作戦に参加したハイネセン艦長の武装商船で、もともと商人の雇われ船長だったこともあり、結構仲良くやっていた相手だ。確か、あいつもこの航路をうろうろしていたはずだ。

「それは本当か?」

「はい。救援無線もなく、行方不明だそうです」

その言葉に、艦長は黙り込む。

いくら暗闇とはいえ、敵を発見し、攻撃を食らえば、無線で報告ぐらいはするだろう。

それがなくて行方不明――まずありえない。

いくら暗闇とはいえ、敵も味方も条件は同じだ。

それに、砲撃を当てようとするなら、かなり近づかねばならない。

無線機が壊れているというのなら分からないでもないが、基本、この艦もそうだが複数の無線機を積んでいるはずだ。全部が全部壊れたとは思えない。

なら、なぜ……。

その瞬間だった。


ドンッ。


ひときわ大きな爆発音とともに艦艇が大きく震え、その衝撃で誰もがひっくり返り、卓上のものがすべて宙に舞う。

しかしそれで終わりではなかった。続けて起こる爆発音。

二回の爆発は、艦艇をあっけないほど簡単に真っ二つにした。

挿絵(By みてみん)

そして、艦は沈み始めていく。

「ど、どういうことだっ?!」

床に転がっていた艦長は何とか立ち上がろうとしたが、艦は大きく傾斜していて、立ち上がることもままならない。

「わ、分かりませんっ!」

近くの床に転がっていた副長が叫ぶ。

そんな中、艦の傾斜は一気にきつくなり、何をすることもできずに床を転がり、身体を激しく打ち付ける。

そして、艦長は悟った。

そうか、こうやってハイネセンのやつはやられたのか、と。

だが、艦影も何も発見されていない。

それに、こんな広い海域に機雷などあり得ない。

なら、何が原因で……。

しかし、艦長の疑問が解決されることはなかった。

数分もしないうちに、艦艇はあっけないほど簡単に沈められた。

こうして、最初こそ順調だった「鼠輸送作戦」は、徐々に被害が増加していく。

だが、それでも連盟は作戦を中止しなかった。

いや、中止できないと言ったほうがいいだろうか。

それほどまでに、共和国に進出した連盟軍は追い詰められていたのである。




「二発とも命中です。敵艦、撃沈を確認しました」

その報告に、伊-26の付喪神はニタリと笑みを浮かべ、艦内が沸いた。

「これで戦果は三隻撃沈になりましたな」

副長の言葉に、伊-26はますます楽しげな笑みを浮かべた。

「今度、補給に戻った際は、艦橋の横に撃沈マークを描き込むぞ」

その言葉に、艦内はさらに沸いた。

基本、フソウ連合の潜水艦は調査や監視、偵察がメインであり、通商破壊工作はほとんど行わない。

それゆえに、派手な活躍をしているのは伊-400などの水上攻撃機を搭載している一部のみであり、多くの潜水艦は地味な任務を繰り返していた。

もちろん、彼らの成果を上層部――特に鍋島長官――は高く評価しているとは聞いている。

だが、それでも戦闘艦として生まれてきた以上、戦闘で戦果を上げたいとは思ってしまうのだ。

だからこそ、今回の任務はその欲求を満たすいい機会であった。

副長が笑って、伊-26に声をかけた。

「しかし、毛利中将の読みどおりですな」

「ああ、本当に」

そう言って、伊-26は笑った。

事の発端は、連盟が武装艦艇を使った輸送作戦を行うという情報を共和国側が手に入れ、それが同盟するフソウ連合にもたらされたことに始まる。

海岸に漂着して鹵獲された連盟の潜水艦から暗号機が得られ、今や連盟の暗号は解読されつつあり、作戦は筒抜けになりかけていた。

そして、その計画を受け、毛利中将は本国の鍋島長官の許可を得て、警戒・索敵に当たっていた伊型潜水艦六隻に、輸送計画の妨害を命じたのであった。

しかし、敵は少数の艦艇を広く展開しており、その範囲は広く、六隻ではとても埋められない。

そこで毛利中将は、何回か敵の動きを確認させ、多くの艦艇が通る海路の重なる部分に潜水艦を重点的に配置したのである。

その結果、一気に戦果が増大したのであった。

「ふむ。それはそうと、物資はあとどれだけ残っている?」

「そうですな。魚雷は問題ないですが、燃料のほうが……」

副長は残念そうに言う。

それはそうだろう。

こんなにおいしい状況なら、もう少し残りたいという気持ちになってしまう。

その気持ちは、伊-26にもあるのだろう。

「ああ、本当にそのとおりだな。だが、仕方あるまい。範囲が広すぎて、どうしても移動が多くなる」

ギリギリまで粘るという選択肢もあるが、それはあまりしたくない。

余裕があってこそ、何かあった時に対応できるのである。

常にギリギリだと、どうしてもという時に踏ん張れない。そう思ったのである。

「よし。ゆっくりと海域を離れる。本部に無線で報告し、離脱するぞ」

「了解しました」

残念そうな副長の声。

だが、そんな声を聞きつつ、伊-26は軽い口調で言う。

「そういえば、帰投航路上で引っかかる海域があったな」

要は、帰るが帰り際にちょっと寄っていくか、ということである。

まるで帰宅途中で買い食いでもするか、というような口調に、副長は笑った。

そして、その会話を聞いていた近くにいた乗組員たちも思わず笑っていた。士官学校時代や学生時代を思い出して。



「よしっ、荷物を切り離せ」

連盟の潜水艦N-266の甲板では、何人かの乗組員と、それを指揮する士官が動き回っていた。

士官の指示のもと、甲板に固定されていたロープを外し、樽状のものを次々と海面に投下していく。

ここはトンダラント海岸の沖合。

沖合といっても、それでもかなり海岸寄りだ。

日中なら、艦艇のすぐ下に海底が見えるほどの浅さである。だが、残念なことに月明かりのない暗闇の中では、ただの真っ黒な海だ。

「しかし、これで届いているんですか?」

作業をしていた乗組員が、思わずといった口調で言う。

その言葉に、作業を指揮していた士官は吐き捨てるように言った。

「知るか」

その口調と言葉に、乗組員が思わず聞き返す。

「いいんですか?」

その言葉に、士官は言い返す。

言葉には怒りがにじみ出ていた。

「なら、どうする? これ以上近づいたら座礁してしまうぞ」

「なら、ボートとかで……」

その言葉を士官は遮った。

「アホか。ボートで移動させる間、ここにじっと待っておけと言うのか? いつ敵が来るかもしれんというのに……」

その言葉に、乗組員は口をつぐんだ。

潜水できない場所に来ていること自体が、すでにヤバいのだと自覚して。

今、襲撃を受ければ、潜水艦のもっとも有効な回避手段である潜航が取れないのだから。

「ともかく、さっさと投下して離れるぞ。死にたくないならな。それに……」

そう言って士官は、真っ暗な対岸を見た。

「多分、届いているはずさ」

それは願望の色がとても強かった。



「どうだ?」

「はっ。本日も海岸のほうに流れ着いておりました」

その報告に、アベリッツ少将は少しほっとした顔になる。

少量といっても、こうして補給があるというのはありがたい。特に弾薬関係は。

日々の戦いで、弾薬は常に消費していくばかりであったからだ。

森の中ということもあり、食べ物などは何とかなる。

だが、弾薬がなければ抵抗はできない。

しかし、それでも愚痴は出てしまう。

「しかし、報告されていた量の三割というのはな……」

ただでさえ少ない潜水艦の輸送量の、さらにその三割しか現場には届いていないのである。

副官も複雑そうな表情だ。

当てにならない共和国侵攻軍団に比べれば、本国のほうはよくやっているとは思う。

だが、結果が伴わない以上、不満は出てしまうのだ。

「しかし、こうして支援が届いている以上、やれるだけやるしかあるまい、とな」

なんとか吐き出すように言ったアベリッツ少将の言葉に、副官も苦笑して同意を示す。

「それと、物資の半分はヴァスコ少将にも回しておけ。向こうも大変らしいからな」

そう言ったあと、苦笑した。

「いや、向こうはもっと大変そうだからな」

その言葉に、副官も苦笑する。

「なら、全部向こうに回しますか?」

その副官のからかうような口調に、アベリッツ少将は笑った。

「おいおい、勘弁してくれ。こっちも余裕はないんだからな」

副官は笑って「了解しました」と言って敬礼する。

確かに苦しい状況だが、まだやれそうだ。

アベリッツ少将は、少しほっとした表情になったのであった。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今回の話はどうだったでしょうか?

今回から章が変わり、大きな二つの戦いが起こります。

戦闘シーンをお待ちの皆様、もう少しお待ちください。

後、感想やリアクションいただけるとありがたいです。

また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

作者の更新へのモチベーションUPに必要不可欠な補給要素の一つですw

どうぞ、潤沢な補給をよろしくw

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