表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十九章 大反攻戦

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

831/837

二つの会談

首都に向かう車の中、潜水艦隊司令カール・ガイザー・ガルディオラ提督は、不機嫌そうな顔で思考に耽っていた。

折角本会議には当面参加しなくてもよいと言われ、その間、潜水艦隊の立て直しと作戦変更に専念していたのだが、その最中に呼び出しを受けたのだ。

また、情報によれば、作戦はうまくいかず、艦隊戦力も大きな損害を被り、海上艦隊司令であったマクダ・ヤン・モーラ提督は更迭されたとも聞いていた。

それらを考えれば、決していい話であるはずがないことは分かってしまう。

だが、首都に行けてよかったかもしれないとも思っていた。センパラ・ラッテンコウ大佐と接触せねばならない、と。

ラッテンコウ大佐とは時折手紙のやり取りをするものの、ありきたりの内容が続いていた。

それはトラッヒ暗殺計画がうまくいっていないことを示している。

直接計画に関わってはいないものの、「トラッヒ暗殺後の連盟の取りまとめをお願いします」とまで言われているのだ。

全く関わり合いがないわけではないと自覚しているぶん、現状どうなっているのかを知りたいとも思っていたのである。

「閣下、間もなく宿舎に到着いたします」

運転手がそう告げると、副官と護衛の兵が準備をし始める。

厳重な警備の兵が配置された門をくぐり、首都にある海軍潜水艦隊司令本部に到着した。

もっとも、司令本部とは言うものの、その機能のほとんどは潜水艦部隊の母港ともいうべきリハマンセト・バルハマにあり、ここでは情報収集や連絡機能のみが残されていると言っていい。

あとは、首都で行われる会議等に出席する際の宿舎的な役割だろうか。

もっとも、少々時間がかかっても、首都に長居していると何を言われるかわからないので、さっさとリハマンセト・バルハマに戻ることの方が多かったが……。

「お待ちしておりました、閣下」

そう言って出迎えたのは、ここの責任者であり、情報収集や連絡員を務めるエーゴン・アルホフ大佐である。

彼はガルディオラ提督の親戚にあたり、腹心とも言われる人物であった。

「ご苦労だったな、大佐。何か変わったことはなかったか?」

何気ない風を装ってそう聞く。

普段なら彼は玄関で待つということはしない。

そんなことをするときは、何か至急知らせることがあるということだ。

その問いに、アルホフ大佐は笑って言う。

「閣下が戻ってくると聞いて、さっそくお客様が二人来られております」

「ほう……」

ぴくりとガルディオラ提督の眉が動いた。

一人は恐らくラッテンコウ大佐だろうと予想する。

しかし、もう一人はわからない。

だから聞き返した。

「誰だね?」

その問いに、アルホフ大佐は苦笑した。

「元海上艦隊司令であるマクダ・ヤン・モーラ様です」

予想もしない名前が出て、ガルディオラ提督は驚く。

「あいつだと!?」

「はい」

ガルディオラ提督は苦虫を噛み潰したような渋い表情になった。

犬猿の仲というべき相手の名前に、嫌悪感が沸き起こったのだ。

そんな反応に、アルホフ大佐はますます苦笑した。

そういうふうになるだろうと予想しており、それが当たったためである。

「皮肉の一つでも言いに来たのか、あいつは」

その言葉に、アルホフ大佐は苦笑を引っ込め、澄ました顔で言う。

「会って判断されてはどうでしょうか」

その言葉に、ガルディオラ提督は苦笑した。

「そう来たか……。わかった。先に会おう。案内してくれ」

その言葉を聞き、アルホフ大佐はすぐにいくつかある小さな会議室の一つに案内した。

ふう……。

入る前に深呼吸をして、気持ちを落ち着かせる。

それを見て苦笑したアルホフ大佐はノックをして声をかける。

「閣下が来られました」

部屋の中から返事があった。

「ああ、頼む」

ドアが開かれ、ガルディオラ提督は室内に入った。入るやいなや、驚く。

確かにそこにいたのは、間違いなく犬猿の仲であるマクダ・ヤン・モーラであった。

彼は立ち上がり、疲れた笑顔を浮かべている。

服は軍服ではなく私服で、髪の多くは白くなり、顔の皺が目立つ。

それだけでも違和感は強いが、それ以上に、あれほどあった覇気がまるでなく、そこにいるのは見知った顔をしながら年齢以上に老け込んだ男だけであった。

「久しぶりだな」

そう言って、モーラは右手を差し出した。

かつての憎々しさや嫌らしさはもうない。

ただの古い友人に会ったという感じだけだ。

「ああ、そうだな」

そんなに時間が経ってはいない。

だが、あまりにも変わり過ぎている宿敵ともいえる相手に、そう答えるしかなかった。

そして二人はそれぞれソファに座る。

給仕にあたる兵が、ガルディオラ提督の前に新しい珈琲を、モーラの前にはお代わりの珈琲を用意すると、全員が退室していった。

挿絵(By みてみん)

二人きりの室内。

まず口を開いたのは、モーラだった。

「お前のことだ。話は聞いているだろう?」

「ああ。聞いている」

「そうか……」

そして、沈黙が辺りを包み込む。

ただ、いれたての珈琲の香りだけが部屋を満たしていた。

そんな中、モーラが頭を深く下げた。

「すまなかった」

その態度に、ガルディオラ提督は苦笑した。

「お前らしくないぞ」

思わずと言っていい言葉が漏れる。

「ああ、俺らしくないとも思う。だが、こうして退いてみて分かることもあるからな」

すっかり憑き物が取れたような表情で、モーラは苦笑する。

「そうか……」

そして再び沈黙が辺りを包む。

だが、先ほどの沈黙とは違い、少し落ち着いた感のある沈黙だ。

モーラはすっきりした表情で、珈琲カップに手を伸ばす。

それを見つつ、ガルディオラ提督も珈琲カップに手を伸ばした。

たったそれだけの会話であったが、長年憎しみ合っていたわだかまりが、どこかへ流されてしまったかのようにすっきりしていた。

たぶん、モーラもだろう。

ただ珈琲を楽しんでいる。

「いい珈琲だな」

「ああ、こだわっているからな」

「そうか」

飲み終わると、モーラは立ち上がり敬礼する。

「後は頼む」

それを受けるかのように、ガルディオラ提督も立ち上がり返礼した。

「ああ。できる限りはするさ」

そして二人は静かに笑い合う。

確かに現役時代は敵対し、憎み合った。

だが、祖国を思う心だけは一緒であったということが、はっきりしたからだ。

ドアに向かうモーラに、ガルディオラ提督は声をかける。

「これからどうする?」

「田舎に帰って畑でも耕すさ」

「そうか」

そして、モーラは笑った。

「まあ、何かあったら呼べ。少しは手伝ってやる」

「ああ。そうしよう」

モーラは笑って立ち去った。

それを見送ったガルディオラ提督は苦笑した。

また重荷が増えた、と。

だが、それは苦労することはわかっていたとしても、犬猿の仲とまで言われていた男との和解に比べれば、軽いものだと感じていた。


だが、それで終わりではない。

ガルディオラ提督は、近寄ってきたアルホフ大佐に言う。

「もう一人のお客様は……」

その問いに、アルホフ大佐が答える。

「はい。ラッテンコウ大佐です」

「そうか。すぐに会う。案内してくれ」

「はい」

ガルディオラ提督は表情を引き締めた。

「あと……」

「わかっております。いつもの部屋ですな」

いつもの部屋。

それは諜報対策が施された部屋のことで、窓もなく、魔法による結界が張られている特殊な部屋だ。

要は、漏れては拙いことを話すときに使われる密談部屋である。

その部屋に行き、ドアについている呼び鈴を押し、ドアを開く。

「お待たせしました」

そう言ってガルディオラ提督は入室する。

防音・対諜報の対策が施されているため、ドアをノックしたり、声をかけても中には聞こえないためだ。

「ああ、すみません。予告もなくお邪魔してしまって」

ラッテンコウ大佐は立ち上がってそう言い、敬礼した。

提督も返礼し、「いや、構いません。私もお会いしたかった」と答える。

そして、給仕の兵が飲み物を用意すると退室していく。

「何かありましたら……」

アルホフ大佐がそう言うと、ガルディオラ提督はうなずく。

要は自分はドアの外にいるので、テーブルの呼び鈴で知らせてほしいということだ。

テーブルの呼び鈴は部屋の外へ通じる、唯一の連絡手段である。

ガルディオラ提督は立ち上がり、ドアに鍵をかけてから振り返った。

「なかなか思ったようにはいきませんな」

そう言ってテーブルに戻る。

その言葉に、ラッテンコウ大佐は苦笑を漏らす。

「本当にその通りですな。あの時うまくやっておけば……」

そうつぶやくように漏らすものの、すぐに思考を切り替えたのだろう。

「まあ、過去のことを色々言っても仕方ありません」

そう言って視線をガルディオラ提督に向ける。

「それで、今回はどのような用件で首都に来られたのでしょう?」

その勘ぐるような言葉で、ガルディオラ提督は気がつく。

その言葉に含まれている意味を。

よく見れば、ラッテンコウ大佐の額には汗がにじんでいた。

思わず、言葉がガルディオラ提督の口から漏れる。

「それはつまり……」

「ええ。そういうことです」

ふう。

ガルディオラ提督は息を吐き出した。

要は、頓挫したトラッヒ暗殺計画を実施するつもりだということが分かったのだ。

そして、あの時の約束は有効かを確認しに来たのである。

「わかった。あの時のことはまだ有効だ。心配しなくていい」

その言葉に、ラッテンコウ大佐はほっとした表情になった。

「それで、私はどうすればいい?」

「用件が済んだなら、首都からすぐに離れた方がよいかと」

その言葉には、とても重い意志があった。

なるほど……。

要は近くにいると巻き込まれる可能性があるということ。

つまり、今回は待ち伏せの襲撃ではないということか。

となると、残りは爆発物を使った類のものということになる。

そこまで考えたことを見透かしたのか、ラッテンコウ大佐は苦虫を噛み潰したような表情になる。

「できる限り関係ない者を巻き込まないようにしたいのですが……」

戦争がはじまり、他国の諜報部からの暗殺を恐れ、トラッヒの警備がかなり厳しくなってしまった結果、そうせざるを得なかったのだろう。

「わかった。総統から呼び出されはしたが、会うのはルキセンドルフ総司令官だ。おそらく今後のことの話し合いがあるだろう。それが終わったら、さっさと巣に戻るとするよ」

最後は少しおどけて言って見せる。

少しでもラッテンコウ大佐の緊張を和らげようと。

それが分かったのか、ラッテンコウ大佐は苦笑を浮かべた。

「それはよかった」

だが再び、表情を引き締める。

「必ず、今週末にはお戻りください」

そう言うと、珈琲を一気に飲み、立ち上がる。

香りを楽しむ余裕はないといったところか。

ふう。

息を吐き出して、ガルディオラ提督も立ち上がる。

「では、ご武運を」

ガルディオラ提督のその言葉に、ラッテンコウ大佐はやっと微笑んだ。

「ありがとうございます」

そして敬礼し、ドアに向かう。

ガルディオラ提督もテーブルの呼び鈴を押し、ドアに向かって鍵を開けた。

ドアのそばにいたアルホフ大佐が声をかけてくる。

「終わりましたか?」

「ああ。ラッテンコウ大佐を玄関に案内してやってくれ」

「了解しました」

こうして、アルホフ大佐を先頭に、ラッテンコウ大佐は歩き出す。

その後ろ姿に、迷いはなかった。

その後ろ姿を見つつ、ガルディオラ提督は思う。

失敗しても、うまくいっても、とんでもないことになるな、と。

いつも読んでいただいてありがとうございます。

今回の話はどうだったでしょうか?

もう少し連盟の話が続きます。

派手な戦いのシーンを望む方は物足りないでしょうが、もう少しお待ちくださいませ。

後、感想やリアクションいただけるとありがたいです。

また、もしブックマークとか評価がまだな方は、そちらもよろしくお願いいたします。

作者の更新へのモチベーションUPに必要不可付けな要素の一つですのでw

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ