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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十九章 大反攻戦

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ランドチェイラ防衛戦  その1

ランドチェイラの街を囲むように幾重にも重ねられたような防衛陣が形どっている。

共和国のビルスキーア総司令官がそれを見たら驚くことだろう。

それは彼が命令して準備させた連盟軍の進攻を食い止めた防衛ラインとよく似ていたからだ。

もちろん、規模ははるかに小さい。

なんせ長い地域をカバーするものと、一つの街をカバーするものでは、そのサイズと目的が違ってくるのだから。

だが、それでも唸るだろう。

実に素晴らしいと。

だが、その素晴らしいと褒めたたえる防衛陣でも防げないものがある。

それは空からの攻撃だ。

フソウ連合やサネホーン、それにWWⅡ時代の艦船を運用している国を除き、対空兵器となりえるものは余りにも少ない。

サムラーナ戦線では、王国、帝国それぞれの海軍ぐらいだろうか。

だが、ないから仕方ないというわけにはいかない。

勝敗と命がかかっているのだ。

どんなに些細なものでも、効果がはっきりしないことでもやるしかないのである。


「敵機、来ましたっ」

見張りに立っている兵が指をさして叫ぶ。

雲の合間から黒い点がいくつも現れ、それが段々と大きくなっていく。

「ちっ。やっぱり来やがったかっ」

前線近くの司令部で指揮を執っていたヴァスコ少将が望遠鏡で指さされた方を見つつ言う。

本当なら、多くの部下たちから街の中にある司令部でお待ちくださいと言われていたヴァスコ少将だったが、本人の意思でここにいた。

彼としては、敵の新型兵器である戦車を直に見たかったし、飛行機対策がどの程度有効か、現場で確認したかった気持ちが強かったためである。

実際、彼は飛行機という兵器を恐れていた。

連盟の大攻勢の際に、飛行機の恐ろしさを心底思い知らされているからだ。

それに、森と違い、ここは開けた場所だ。

飛行機を使ってくるだろうということはわかっていた。

だからである。

「よしっ。対空陣に命令だっ。ともかく打ちまくれっ」

「はっ。了解しました」

命令を受け、防衛陣の一部から砲撃が始まる。

小口径の野砲を冬の間に改造して、仰角を大きくして空に向けたものだ。

それをある程度の数まとめて配置し、一斉に射撃させたのである。

今までは全く反撃がなかったのに、いきなり地上から砲撃が始まったためだろうか。一瞬だが飛行機の動きに乱れが生じた。

だが、すぐに立て直すと急降下爆撃が始まった。

きぃぃぃぃぃぃーーーんっ。

サイレンが辺りに幾重にも響く。

サイレンの悪魔だ。

多くの兵士が塹壕に身を潜め、天を見上げる。

多数の小口径の野砲は休みなく火を噴くものの、そうそう当たるはずもない。

どんっ。どんっ。

爆弾が落とされ、陣内の野砲が、物資が破壊されていく。

「くそっ」

思わずヴァスコ少将は吐き捨てる。

やっぱり駄目だったかっ。

もっとも航空攻撃がある程度落ち着いた後の報告から、全て駄目ではなかったということを知ることとなる。

小口径の野砲による対空攻撃は撃墜は出来なかったが、敵の攻撃の範囲を狭めることには成功したし、攻撃された野砲や物資の半数以上はダミーである。

全部は無理ではあったが、多くの野砲や物資は幌をかぶせて上から土をかけて偽装しており、木で作ったダミーの砲や空箱を積み重ねた物資のダミーをこれ見よがしに用意しておいたのである。

どうやらそれは見破れなかったようで、偽装できなかった野砲や対空攻撃した小口径の野砲は被害があったものの、まだ十分な火力を残していた。

「敵、侵攻開始しました。戦車が向かってきます。その数、十以上」

ドンッ。ドンッ。

戦車からの砲撃が始まったのだろう。

陣のあちこちで爆発が起こり、土の塊を降らし地面を揺らす。

だが、望遠鏡で敵の動きを見ているヴァスコ少将は反撃を命じない。

見かねたのか、副官が言う。

「閣下、反撃をっ」

「まだだっ。もう少しだっ」

偽装されているとはいえ、前線近くの司令部である。

激しい音と揺れが感じられる。

ヴァスコ少将の額には、汗がにじんでいた。

彼とて焦ってはいるのだ。

だが、恐らくあの戦車を破壊しようと思ったら、近距離での攻撃しかない。

そう考えたのである。

ドンッ。ドンッ。

爆発音が近づいてくる。

そして遂にヴァスコ少将は命じた。

「反撃開始っ。撃てぇぇぇぇぇぇっ」

その言葉を受け、ただ黙って耐えてきた連盟軍の兵士たちは反撃を開始した。

偽装された野砲が次々と火を噴く。

力ァン。

野砲の弾が戦車に弾かれた音だ。

その音が何回も響く。

当たってはいるのだ。

だが、それでも貫通まではいかない。

反対に戦車の砲塔が動き、偽装されている野砲に向かって砲撃が放たれる。

どんっ。

そしてあたりに響く爆発音。

それは野砲の陣が一つ潰されたということである。

そして、野砲と砲兵を失ったということだ。

「くそっ。怯むな、撃ち続けろ」

ヴァスコ少将はそう命じるしかない。

頼む。敵の足を止めろ。

しかし、その願いも空しく、敵はどんどんと距離を詰めていく。

だが、その時である。

その願いが叶う。

一発の砲弾が、シャーマン戦車のキャタピラに命中し、敵戦車の動きを止めたのだ。

足が止まった戦車に次々と砲撃が集中する。

そして、その一発が砲塔と車体の間に当たったのだろう。激しい火花と爆発によって、砲塔が吹き飛ぶ。

「よっしゃーーーーっ」

味方陣から歓声が上がる。

もっとも、砲撃音が響く間にかすかに聞こえたのだが、もし砲撃音がなければそれはとてつもない大きな声だっただろう。

そしてそれに答えるかのように、また爆発音が響いた。

シャーマン戦車の一台が動きを止める。

「どうやら地雷原に入ったようだな」

ヴァスコ少将がニタリと笑う。

「ですな。しかし、うまくいきました。急ぎで用意しましたが、こうもうまくいくとは……」

副官が嬉しそうに同意を示す。

地雷といっても、ここに戦車用のものがあるわけではない。

砲弾を地面に埋めて作った簡易地雷だ。

だが、それでもキャタピラを破壊することは出来る。

戦車対策として短時間に用意した苦し紛れの策の一つだが、十分効果はあったようだ。

「足の止まったやつを徹底的に狙えっ」

次々と足の止まった戦車に砲撃が集中する。

ドンッ。

爆発する戦車。

再び歓声が上がった。

もちろん、砲撃の音の間に微かに響いたものだが。

二台の戦車を失い、共和国軍側の動きが止まる。

そして、ゆっくりと後退を始めた。

思った以上の抵抗に一旦後退を決めたのだろう。

その動きに味方の兵士は沸き立つ。

「よしっ。何とかなったな」

ほっとしたようなヴァスコ少将の言葉に、副官が楽しげに答える。

「はい。それに用意した対策も十分有効であると分かりましたし」

「ああ。思った以上効果があった。敵が完全に後退したら、被害を報告してくれ」

「はっ。了解しました」

副官が敬礼する。

それを見て、ヴァスコ少将は言葉を続ける。

「それと警戒は緩めないように」

「はっ」

こうして、ヴァスコ少将が率いる部隊はランドチェイラの防衛に成功する。

しかし、それはこの後続く、地獄のような戦いの始まりでしかなかった。

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