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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第五章 同盟

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会見 その3

翌日の十月二十九日九時三十分。

フソウ連合からの案内の使者である青木少尉が来艦した。

「用意の方はよろしいでしようか?」

その言葉に、「ええ。もちろんです」と答えたのはスルクリン男爵である。

不審に思ったのだろう。

青木少尉が尋ねる。

「ハイハーン少佐はどうなさったのですか?」

「いや、確かに彼は代表ですが、交渉は私がメインで行わせていただきます」

スルクリン男爵はそう言ってニタリと笑う。

もちろん、それは嘘である。

代表のミッキーが交渉し、スルクリン男爵の役割はその補佐でしかない。

しかし、その事実を知らない者にとっては、彼の言葉が真実である。

「わかりました。ではご案内いたします」

青木少尉は、用意したタグボートで練習巡洋艦香取へと誘導する。

香取の艦内にある会議室に案内されながら、スルクリン男爵とその連れ達は香取の艦内を物珍しく見る。

ふむ。武装が少ないのでおかしいと思ったが、どうやら賓客対応の艦のようだな。

つまり式典用の艦ということか。

王宮の華やかさはないものの、軍艦としては凝った作りではある。

派手さはないものの、これはこれで実にいい…。

そんな事を思いながらも自然と笑いが湧き出てくる。

こんな東の蛮族連中にここまでのモノが作れるとは思いもしなかったが、どうやら話に聞いた大型戦艦というのも本当かもしれないな。

ならば、それらを徴用した上に、このフソウなる蛮族の国を傘下に治めたという手柄は、我にとって一攫千金の手柄となるだろう。

もし交渉が失敗したとしてもあの間抜けな少佐のせいにすればよいだけだし、それはそれで共和国にもいい顔が出来るというものだ。

どっちにとっても、我に損はない。

くっくっくっくっ…。

何とか顔の筋肉を動員して平然とした顔をしているつもりではあるものの、それでも口角が少し釣り上がってしまう。

いかん、いかん…。

なんとか止まらない笑いを押さえ込む。

交渉は、冷静さを保ったまま行わなければならぬからな。

歩きながらそう自分に言い聞かせて…。


その部屋は質素ながらも客をもてなすには十分な装飾が施された部屋であった。

そして、ちょっとしたパーティを催しても問題ないような広さを持っている。

その部屋を少し仕切って交渉が行われた。

中央には、装飾の入った豪華な長いテーブルが置かれ、向かい合わせになるように装飾が施された椅子がいくつも並んでいる。

「こちらへどうぞ」

青木少尉の案内で部屋に入ったスルクリン男爵とその連れ達は、案内されるままテーブルの片側の椅子に陣取る。

相手はまだ来ていない。

確かに時間はまた早いものの、こういう場合はホストが待つものだとスルクリン男爵は思っている。

だから、心の中で相手を見下す。

いくら取り繕おうが所詮は東の野蛮な民族だ。

こういう連中は、われわれが統治すべきだな。

そんな事を思いつつ待つ。

そして会議開始五分前になってフソウ連合側が到着した。

少し小走りで入ってきた若い男が女性の秘書官を連れて入室する。

「すみません。少し込み入った事情があったので遅れてしまいました。お待たせしました」

男はそう言って手を差し出す。

青木少尉がスルクリン男爵に説明する。

「フソウ連合海軍総司令長官であり、フソウ連合軍部責任者の鍋島長官です。また、フソウ連合政府の外交部の責任者でもあります」

その説明にスルクリン男爵は驚きを隠せない。

こんな三十にもならないぼんやりとしたしまりのない顔の若造が、一国の軍務と外交の責任者だと?

馬鹿にしているのか?

それとも舐められているのか?

怒りと屈辱が心の中から沸き起こった。

ふざけるな。

そう口から出そうになったが、慌てて抑える。

いや、考え直してみろ。

こんな若造が軍部と外交を任せられているという事は、こっちにとって実に有利ではないかと。

この男さえうまく丸め込めれば、我の手柄は確実になる。

こんな若造、王国の貴族に比べれば、足元にも及ばぬわ。

そう考え直して立ち上がると笑顔を浮かべて手を握る。

「いえいえ。まだ時間前ですから、問題ありません」

「そうですか。そう言っていただけると助かります。では、さっそく交渉に入りましょうか」

鍋島長官は笑顔でそう言うと、手を離して向かい側の椅子に座る。

もちろん、こっちはこっちで関係なく椅子に座った。

別に相手が座るのを待つ必要はない。

なぜなら、こっちが立場が上なのだから。

スルクリン男爵は座ると、隣にいる連れに書簡を出させる。

「こちらが、国王から任された今回の交渉に関した書簡であります。ご確認を」

そう言って、丁寧な態度で相手に差し出す。

もちろん、本物ではない。

事前に用意したものだ。

それを青木少尉が受け取って鍋島長官に手渡す。

鍋島長官は、書簡をとめている蝋の封印を外し、中身に目を通した後、ゆっくりとスルクリン男爵の方に視線を向ける。

その目には、さっきまであったぼんやりとした明かりのような雰囲気はなく、鋭い刃のような光が感じられた。

その視線にスルクリン男爵は少し動揺するも、すぐに睨み返すように見る。

「これは、王国の我々に対する総意と考えてよろしいのですね?」

「ええ。もちろんです。我々は貴公の国であるフソウ連合よりも遥かに強大な強国である。だからこそ、我々に従いたまえ」

はぁ…。

大きくため息を吐き出すと、書簡を隣にいる秘書官に手渡す。

それをざっと見た秘書官は、驚いたような呆れ返った様な表情になった。

「東郷大尉、彼らの言ってきた条件を読み上げたまえ」

「いいのですか、長官?」

「ああ、構わないよ」

その言葉にスルクリン男爵が噛み付く。

「失礼なっ。何を考えているのだっ」

スルクリン男爵の言葉に、ぎろりと鍋島長官がスルクリン男爵を睨みつける。

その視線の鋭さに黙り込むスルクリン男爵。

そしてそんな男爵を睨みつけながら口を開く。

「失礼なのはどっちかな…。構わない。ここにいる全員にわかるように読み上げたまえ」

そして、東郷大尉が条件を読み上げていく。

王国が示した呆れ返る条件の数々を。

一つ、フソウ連合は、ウェセックス王国に金貨三百万ゴールドに匹敵する賠償をする事。

一つ、フソウ連合にある戦艦、及び、戦闘艦をすべてウェセックス王国に差し出す事。

一つ、フソウ連合は、ウェセックス王国の属国となり、以後絶対の忠誠を誓う事。

一つ、フソウ連合は、毎年五十万ゴールドに相当する税を納める事。

などなど…。

それは休戦や講和、同盟といった類のものではなかった。

まさに、降伏勧告でしかない内容である。

その内容に、その場にいたフソウ連合海軍の関係者は呆れ返ってしまった。

ガサ沖海戦で勝ったのはフソウ連合側であり、王国側ではない。

なのに、この一方的な宣言はまさに相手に失礼どころではなく、相手を馬鹿にしたものでしかなかった。

「こんな条件を飲むとでも?」

鍋島長官の言葉に、スルクリン男爵は鼻で笑って上から目線で言う。

「我々には、まだ数多くの戦力があり、従っている国も膨大だ。その力は、貴国がどう足掻いても勝てないほどの差がある。国民全員を皆殺しにされて、国を滅ぼされたくはあるまい?素直にその条件を飲みたまえ。それが貴国の為だ」

その言葉には、おごり高ぶった色がはっきりと見えた。

はぁ…。

鍋島長官が、またため息を吐き出す。

そして、呆れ返った表情で再度聞き返す。

「それが王国の総意で間違いないのだな?」

「しつこいっ。それこそが国王が望まれている事だ」

怒鳴るように言うスルクリン男爵に、鍋島長官は顔を伏せる。

そして肩を震わせた。

それはまるで泣いている様にスルクリン男爵には見えた。

だからこそ、もう少しでいけるかと思い、スルクリン男爵は強気に出る。

「今なら、貴行の地位も少しは考えてやらぬでもないぞ。我が国王に取り成そう」

だが、それはスルクリン男爵の勘違いでしかない。

鍋島長官は、泣いていたのではない。

笑いを押さえ込んでいただけなのだ。

そして、スルクリン男爵の強気の言葉に、ついに我慢しきれなくなったのだろう。

声を上げて爆笑する。

そして、その変化にスルクリン男爵やその連れが驚きうろたえていると、周りにいたフソウ連合関係者も笑い出す。

「な、何がおかしいっ。ふ、ふざけるなっ」

スルクリン男爵のヒステリックな声が響く。

しかし、笑いは止まらない。

そして、鍋島長官は笑いつつ、右手を上げてドアの近くにいる警備に合図を送った。

警備の者も笑いつつも頷き、ドアを開ける。

そして、開いたドアの先にはある人物達がいた。

それも怒りに震えながら…。

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