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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十九章 大反攻戦

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フソウ連合海軍本部第三会議室にて

フソウ連合海軍本部第三会議室。

そこには二十人近い面子が揃っていた。

復帰した艦隊司令の山本大将、参謀本部長の新見中将、諜報部の川見大佐、後方支援本部長の鏡大佐などなど。

その集まった面子は、フソウ連合海軍の中核を担うと言ってもいい者たちばかりだ。

またそれとは別に、外交部の中田中佐とその部下、議会からは熊本議員ら数名の議員も参加していた。


「以上が、サムラーナ戦線の現状であります」

報告を受け、鍋島長官は考え込む。

サムラーナ、それは王国や共和国周辺の地域を指す。

つまり、サムラーナ戦線とは、今やはっきりと同盟という形を示した教国と連盟 対 王国、共和国となった戦いのことを指している言葉である。

「つまり、反抗作戦は、春先と考えていいのかな?」

「はい。そういうことになると、毛利中将からも報告が入っています」

その報告に、新見中将が渋い顔で言う。

「実におおざっぱな情報だけですな」

彼としては、もっとしっかりした情報が欲しいのだろう。その不満が顔に出ていた。

もっとも、仕方ない部分はある。

毛利中将の方にはもっと細かな情報もあるだろうが、さすがに情報漏洩を恐れているのだろう。

「なに、作戦が始まれば、もっと細かな報告も聞けるだろうさ」

鍋島長官はそう言った後、ふと思い出したかのように言葉を続ける。

「しかしだ。彼がここまで優秀だと困ってしまうな」

その何気ない言葉に、会議室にいた全員が驚いた表情になる。

まだ何かあるのだろうか。

そんな感じだ。

そんなみんなの様子を見て、鍋島長官はニヤリと笑った。

「いや、ここまで優秀だと、中々こっちに呼び戻せないなと思ってね」

すでに毛利艦隊が派遣されてから半年が過ぎている。

最初は、もっと早く戻る予定であった。

しかし、連盟の侵攻がきっかけとして始まった戦いによって帰国するタイミングを逃し、そのまま共和国反抗作戦の海上戦力の中核として戦い続けている。

そろそろ帰国させたいのだが、現状では無理な状況が続いているのだ。

「仕方ないかと」

山本大将が苦笑してそう言う。

「確かに、一気に化けましたからな」

新見中将も苦笑を浮かべていた。

「しかしだな、副官から、司令官の娘に会いたいという独り言が多くなりました。何とかしてあげてくださいという陳情の報告が来ててね」

その言葉に、その場にいた全員が微笑ましく笑っていた。

毛利中将の子煩悩は今や有名であり、彼のことを話題にすると必ずと言って出てくる事だったからだ。

そのおかげか、彼の評判は、上からも下からもかなり良かった。

「それは何とかしてやらなければなりませんな」

山本大将が笑いつつ言う。

「確かに。確かに」

新見中将も笑って同意を示す。

もちろん、他の者たちも頷いたりしている。

「まぁ、反抗作戦が落ち着けば、何とかなると思う。後任は、第一外洋艦隊司令の真田少将がいいかな」

鍋島長官の言葉に、新見中将が答える。

「ええ。それが適任かと。あと、ルル・イファン人民共和国に派遣中の第三外洋艦隊もそろそろ交代時期ですな」

「ふむ。第五外洋艦隊の準備は?」

「はい。準備は整っています。あと、第五陸戦隊も問題ないと報告が来ています」

戦艦二隻と巡洋艦二隻、それに駆逐艦八~十隻と支援艦艇を基本とする海外派遣用の艦隊は、現在、第七艦隊まで実働状態にある。

外洋艦隊の派遣地は、現在ルル・イファン人民共和国とアルンカス王国、それにサムラーナ戦線に派遣されている三か所だけだが、艦隊の整備や乗組員の休暇などの理由から、ずっとその艦隊をその地に駐屯させておくわけにはいかない以上、交代の艦隊は必要となってくる。

また、それだけでなく、特別遊撃戦力として第八外洋艦隊が現在準備中だ。

その戦力は、鹵獲したホーネットを改修した航空母艦「蜂鷹」と「エンタープライズ」を中核として、旧アメリカ海軍第16・17任務混成隊の兵たちが中心として運用される外洋艦隊初の機動部隊となっている。

今のところ、大きな問題もなく、うまくやっているようだ。

もちろん、退役したいという希望の兵士たちもいた。

だが、いきなりは無理だ。

だから、彼らはしばらくフソウ連合の言葉と習慣を学ぶ機会を与え、軍属として働いてもらうことにしている。

こうして、本国の連合艦隊とは別に、フソウ連合は外洋艦隊という戦力も少しずつ増加させつつあった。

「わかった。近々、艦隊の交代をお願いしよう。タイミングは新見中将に任せる。それとアルンカス王国の陸戦隊の方はどうかな?」

「はい。そちらも第三陸戦隊まで運用できると、アルンカス王国軍から報告を受けております」

アルンカス王国陸戦隊。

新しく創設された特別部隊のことである。

元々、陸上戦力は十分すぎるほどのものがあったが、彼らはその中でも特に危険な任務や派遣任務を請け負うためのエリート部隊といったところか。

それに合わせて、アルンカス王国海軍は、駆逐艦や一等輸送艦、二等輸送艦も追加で購入し、軽巡洋艦一隻と駆逐艦四隻による編成の艦隊二つと、駆逐艦三隻による水雷戦隊三つ、それに一等・二等輸送艦をそれぞれ二隻ずつを基本とした輸送艦隊四つの海軍戦力を持つ国へと変わりつつある。

その戦力は、六強やサネホーンに比べれば微々たるものだが、派遣され駐屯しているフソウ連合の外洋艦隊の戦力を含めれば、独立国家としては十分と言える。

その上、『ただ守られるだけでなく、フソウ連合と肩を並べて共に戦える国を目指そう』というスローガンが叫ばれているらしい。

あの国は強くなるぞ。

誰もがそう認識させられる勢いである。

「そうか。頼りになるな。近々、ルル・イファン人民共和国の外洋艦隊交代の際に、一緒に部隊派遣をお願いできないかな。今後は、うちが陸上戦力を派遣できない時はお願いしたい」

「わかりました。彼らとしても、派遣のノウハウや経験は欲しいですからな。恐らく、反対はしないでしょう」

新見中将がそう言うと、その後に外交部の中田中佐も言葉を続ける。

「それに、アルンカス王国と我々の間の親密さを海外にアピールできますからな」

その言葉に、鍋島長官は笑った。

「ああ。そういうこともあるな。助かるよ」

その言葉には、目の届かない事まで支えてくれてありがとう、という感謝のニュアンスが含まれていた。

「しかし、帝国はうまく立ち回りましたね」

ペラペラと報告書を確認し、的場中将が声を上げる。

「ああ、抜け目ないぞ、あの人は」

そう言って、以前帝国に派遣され本人とも深い認識がある川見大佐が目を細める。

その表情に浮かぶのは、懐かしいという感情だ。

そう言えば、今の帝国の状況も、共和国の状況も彼は関わり合いがある。

なんせ、アデリナ暗殺を何度も阻止し、今や共和国の軍最高司令官であるビルスキーアを共和国に亡命させたのは、彼の手腕によるところが大きい。

それを考えれば、そんな表情になるのも仕方ないだろう。

「ふむ。確かに今回の動きを見れば、合点がいくな。そろそろ本格的に帝国との外交を進めるべきだな」

よりきちんとした同盟なり条約を結び、世界にフソウ連合と帝国の絆をアピールしておく必要性があると思えたのである。

「了解しました。こちらでその件は動きましょう。何かあれば報告いたします」

中田中佐が頷きつつ言う。

「ああ。頼むよ」

鍋島長官が頼もしそうに中田中佐に視線を送り頷く。

そして、会議の議題は、サネホーンのものとなった。

「今のところ、連中は互いの勢力を確保しつつ、相手を牽制し合っている状況が続いています」

今や、サネホーンは旧政権派と革命派に分かれ、小競り合いを続けている。

大きな艦隊決戦は、フソウ連合との戦いの後の損害が響いているのか、起こってはいない。

しかし、陸上戦や諜報戦は激しさを増しているという。

そして、今や完全に旧政権派劣勢だ。

じわじわと削られていく感じで追い詰められている。

現状報告が終わった後、追加報告をしたのは川見大佐だ。

「それと旧サネホーン交渉官リンダ・エンターブラから協力は惜しまないと言われております」

サネホーン本国の混乱は、彼女の耳にも届いているのだろう。

いや、恐らく川見大佐が彼女に揺さぶりをかけるために話したに違いない。

元々協力的だった彼女をよりうまく使うために。

「ふむ。で、彼女はどういう提案をしたんだい?」

鍋島長官がニタリと笑みを浮かべて聞く。

川見大佐が色々手を回しているのはわかっているよ、という意思表示だ。

その表情を見て、川見大佐は苦笑する。

まるで悪戯を見つけられたかのように。

「ええ。彼女は、旧政権派との交渉に私を活用してほしいと言っております。彼女曰く、革命派に我々は貶められたのだと」

そう言われ、納得する。

理に適っていると。

「ふむ。彼女の望みは?」

「彼女の言葉が間違いなければ、フソウ連合との休戦と改革派の一掃といったところでしょうか」

だが、その場を聞き、鍋島長官は考え込む。

改革派の一掃。

現状を考えると、今の旧政権派はそれを実行する力はないと思われる。

そうなると、フソウ連合が主力として動く。

一掃……。

それは侵略戦争を行うということだ。

それをそのまま実行することはしたくない。

彼はそう思っていた。

フソウ連合を侵略国にしたくない。

別に版図を増やし、大きな国を作りたいとは思っていないのだ。

地域ごとに歴史があり、いろんな文化がある。

文化が違えば、価値観も常識も習慣も違う。

そんな中、今までの六強のように自国の価値観や文化を押し付けたくない。

それに、異文化や全く違う価値観を持つ者たちが一つになっても、それは混乱と無秩序を生み出す可能性が高い。

現に、こちら側では移民を受け入れ、本来のその国の文化や習慣が圧迫され、治安が悪化し、本来そこに住む人々が弾圧され苦しい思いをして生活している国は山ほどある。

移民は、あまりにも強い薬であり、副作用が強く出た場合、害悪にしかならない恐れが強いのである。

そして、よく言われる「多様性」という言葉の響きは素晴らしいが、それは片方が我慢して、あるいは従うことで生み出されるものではないかと最近は思ってさえいた。

だからこそ、お互いを尊重し、リスペクトし合って共栄するなら、版図は拡げずに文化や価値観によって国を分けるべきだと。

そういう思いがある以上、一掃するのに協力するのはその思いや志向に反する行為としか思えないのである。

だから、思わずといった言葉が漏れる。

「難しいな……」

その言葉に、川見大佐は嬉しそうに微笑む。

この人もブレないなと。

だから、川見大佐は口を開く。

「そう難しく考える必要はないかと。まずは、旧帝国の時と同じように旧政権派とコンタクトを取り、休戦する。その後のことは、その状況から判断されてもいいかと」

「ああ。そうだな。まずはそのことだけに絞って動こうか」

自分が深く先まで考えすぎていたことに気が付いたのだろう。

鍋島長官がそう言って、困ったように苦笑を浮かべる。

その顔を見て、川見大佐は心の中で思う。

本当にこの人は、とんでもない「人たらし」のスキルでも持っているのではないかと。

なんせ、この人のためなら、もっと頑張らねばと思ってしまうのだから。

それは川見大佐だけではないのだろう。

この会議に出ていた誰もが川見大佐と似たような表情をしている。

要は、誰もがそう思っているという証でもあった。

「了解しました。では、そのように動きます。それに合わせて、リンダ女史を特使として動かしますがよろしいですかな?」

「ああ。頼むよ。あと、彼女の身の安全は優先してね」

「了解です」

そして次に、艦隊修理の現状報告が入り、議題は滞ることなく次々と進められていく。

しかし案件は多く、結局会議は朝九時に始まり、途中一時間の昼食と十五分程度の休憩が二回入ったものの、終了したのは夜七時近くの時間帯であった。



「ふー、やっと終わったなぁ……」

鍋島長官が椅子に座り、腕を上げて背伸びをする。

ポキポキと背骨が鳴っているのが自分でわかる。

自分で肩を叩きつつ、新見中将も同意する。

「確かに。月に一回とはいえ、こうも濃密な長時間の会議は年寄りには応えますな」

その言葉に誰もが苦笑する。

自分が年寄りだとは微塵も思っていないくせに。

普段は絶対こういうことは言わないのだ。

なのに、こういう時だけうまく言うのはズルいと。

だが、それに合わせて山本大将も身体をほぐしつつ言う。

「本当に……」

そしてちらりと視線を鍋島長官に向けつつニタリと笑って言葉を続ける。

「しかし、偶には羽を伸ばしたいですな」

その言葉に、鍋島長官は苦笑する。

そして、東郷大尉に視線を向けた。

その視線を受けて、東郷大尉も苦笑しつつ頷く。

「そうだな。都合がいい者たちだけで構わないが、これから皆で食事でもどうかな?」

要は飲み会である。

すでに場所の予約は取っている。

その言葉を待っていたのだろう。

「もちろん、参加させていただきます」

その的場中将の言葉が呼び声となって次々と参加の声が続き、会議に出たほとんどの者が参加を表明していた。

そんな様子に鍋島長官は苦笑する。

やっぱりか、と。

今や、定例会議の後の食事会は当たり前になりつつあった。

「やっぱりこうなりましたね」

東郷大尉がくすくすと笑う。

「ああ。今度からは、もう最初から会議の進行スケジュールに入れておいてもよさそうな気がしてきたよ」

鍋島長官も笑って言う。

「では、先方に予定変更なしと連絡を入れておきます」

「ああ。頼むよ」

こうして、定例会議は、そのまま食事会という名の飲み会へと移行していったのであった。

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