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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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《聖戦》の発動  その3

共和国の聖戦発動によって、最大の懸念であった共和国と合衆国は比較的被害を受けず、それどころか共和国では逆効果となってしまい、聖戦発動は完全な失敗かと思われた。

しかし、そうはならなかった。

事前に手を回していたはずの王国の植民地ですら、全体の二割程度の地域で決起や反乱が発生したのだ。

ましてや、本国が戦争状態であった共和国や、内乱中であった合衆国の植民地では、とんでもない事態となっていた。

共和国の植民地の四割、合衆国の植民地の八割で混乱が発生。

その規模の大きさに、共和国と合衆国は全てに手を回すことが不可能な有様であった。

それを考えれば「半分成功」と言えなくもない。

もっとも、今回の聖戦発動を裏で指示した老師としては中途半端な結果に憤慨したものの、教国は連盟と正式に同盟を組み、共和国に艦隊を派遣してトラッヒに恩を売ることに成功した。

十分な結果だった――そう老師は自分に言い聞かせるしかなかった。

『聖戦発動』は老師にとって現状、最強の切り札のはずであった。

実際、前回の発動では、世界中が大混乱に陥った。

あの時、足元をすくわれなければ、十中八九、世界の主導権は当時教国の法皇であった老師の手にあったはずなのだ。

だからこそ、今回ももっと大きな効果があると思っていた。

いや、実際にはもっと効果があるのかもしれない。

ただ今回は、聖戦発動の情報を各国が事前に手に入れ、対策を練っていた。

その結果が、この有様だったのである。

「しかし、これで時間は稼げましょう」

少し納得いかない表情の老師に、卿と呼ばれる男が声をかけた。

慰めの言葉だったが、卿の胸中は複雑であった。

確かに老師には恩がある。だが、その恩のためにここまでのことをして良いのか。

最近の老師に対して、疑問が芽生え始めていたのだ

「うむ……そう思うしかないのぅ」

老師はそう答えた。

そこへ、別の男が声をかける。

マーロン・リジベルトである。

「ご心配なく。間もなく召喚の準備は整います。フソウ連合を凌駕する艦隊戦力が、老師の新たなる力として召喚されましょう」

その言葉に、老師は顎髭を撫でながら聞き返した。

「ほう……期待してよいのじゃな?」

「準備は着々と進んでおります。特に老師からご手配いただいたサネホーンの巫女をはじめとする者たちの知識は、大いに役立ちました」

「ほう、うまくやったか?」

「はい。召喚の儀式の精度は、かなり向上したと自負しております」

自信満々に語るリジベルトに、老師は満足げに頷いた。

だが、目を細めて低く告げる。

その表情に浮かぶのは殺気だ

「……だが、連中はきちんと始末するのじゃぞ」

老師にとって他宗教の巫女は、いかに優秀であろうとただの異端の魔女であり、処分すべき存在だった。

「も、勿論でございます。召喚の贄として使い潰す予定ですので、ご安心ください」

その言葉に、老師は殺気を消して楽し気に笑った。

「そうかそうか」と。

そして言葉を続けた。

「では、引き続き準備を急がせろ。今やおぬしの召喚が私の最強の手札だという事を十分理解してな」

要は失敗は許さないという事だ。

だが、それは期待しているという事でもある。

リジベルトは歓喜に身体を震わせて答える。

「はっ。老師のご満足いただける結果を必ずご報告いたします」

その返事に、老師は満足げに頷いたのであった。



こうして「半分成功」とも言える結果を残した聖戦発動だったが、その影響を逆手に取ってうまく立ち回る国や人物も現れた。

特に大きな動きを見せたのは、聖シルーア・フセヴォロヴィチ帝国皇帝、アデリナ・エルク・フセヴォロヴィチである。

今回の状況を受け、彼女は合衆国と共和国に対し「植民地での混乱を鎮静化させる協力」を打診したのだ。

これは、内乱が収まり兵力に余裕が生まれた帝国にとって最善の策だった。

国内は荒れ果て、立て直しには莫大な資金と資材が必要であったからだ。

両国に恩を売りつつ、資金と資材を得る。

まさに一石二鳥である。

確かに、下手をすれば植民地を奪われる恐れもあった。

実際、多くの議員がそれを理由に反対した。

だが共和国は背に腹は代えられず、すぐに提案を受け入れた。

放置すれば反抗作戦どころではなくなる危機的状況だったからである。

しかも、帝国には過去に流行病の際にワクチンや薬を援助した前例もある。

そんな恩のある共和国に対して、今この状況で火事場泥棒的な略奪をすれば国際的な信頼を失うだけ。

そう判断したアリシアは反対を押し切り、帝国の協力を受け入れる。

そして、実際、アデリナに略奪の意思は全くなかった。

今の疲弊しきった帝国の経済の立て直しの為の資材と資金を得るという事だけでなく、別に従来の植民地支配とは異なる形で国同士の繋がりを築き、その経済圏に食い込み、少しでも利益を得るという側面も考慮されていたためである。

そのための「十年間限定で、治安回復地域の資材や資金の一部を帝国に提供する」という条件であり、その条件は一度に多額の出資や援助をしなくても済み、両国にとっては実に好条件であった。

だが、それが足かせとなった国もある。

合衆国である。

合衆国はあまりにも好条件すぎる内容を逆に疑い、依頼には踏み切ったものの決断に時間を要した結果、共和国の植民地に比べて治安回復が遅れ、ますます国際的な発言力を失ってしまう結果となったのてある。

だが、両国は帝国に鎮静化を依頼したものの、問題が一つ残った。

どうやって兵力を各植民地に派遣するか、である。

帝国はもちろん、各国の輸送船は不足しており、また連盟の潜水艦がうごめく以上、護衛艦艇も必要だった。

そこでアデリナが目を付けたのが「IMSAイムサ」と「IFTAイフタ」である。

帝国は内乱が落ち着き始めると同時に、フソウ連合を通じて秘密裏にこの二つの国際組織に加盟する手続きを進めていた。

そして、加盟と同時に、両国の植民地へ兵力輸送の件を両組織に依頼したのである。

勿論、タダではない。

だが、その必要な予算を払うのは帝国ではない。

共和国と合衆国だ。

そして、戦争の悪化を各国は懸念していた。

その為、アデリナの狙い通り、この輸送計画は、「IMSAイムサ」と「IFTAイフタ」によって承認されたのである。

そして、派遣された帝国軍は確実に治安を回復させていく。

帝国軍は内乱で戦いなれていたという事もあったが、特に帝国ではドクトルト教を否定していた事が大きかった。

現地軍や本国軍の中には、熱心なドクトルト教徒も多数いた為、同胞との戦いに躊躇する場面の多かったのである。

しかし。帝国軍にはそれはない。

その結果、徹底的な排除が進められ、その余りにも躊躇ない戦いに、治安が悪化していた植民地は次々と鎮静化していったのであった。

そして、この治安活動の見返りに得られた資源と資金により、この後の戦いで他国が疲弊していく中、帝国は一気に国力を回復していくこととなったのあった。



一方、派遣された教国艦隊に対しては、多国籍艦隊が対応していた。

連盟海軍共和国派遣艦隊との戦いから間もなく、休む間もなく新たな戦いとなったが、それを配慮して毛利中将は徹底したロングレンジ戦を指示した。

まずは航空戦力による空からの攻撃。

続いて、帝国派遣艦隊とフソウ連合第一外洋艦隊による超遠距離砲撃。

被害を最小限に抑えた慎重な戦い方だった。

戦場となったのはアラペルス島周辺。

後に「アラペルス海戦」と呼ばれるこの戦いは、驚くほどあっけなく決着した。

ドクトルト教に関係ない教国上層部の都合で決められた派遣である。

教国海軍首脳部は、その命令に納得せず、練度も士気も低い艦隊を派遣する。

そんな練度も士気も低い艦隊に、悪魔のごとき航空隊の波状攻撃に翻弄され、次々と戦力を削られ、その後には超長距離からの砲撃が降り注ぐ。

まさに一方的な展開であり、ワンサイドゲームである。

その戦いの中、なす術もなく味方を失っていく恐怖に駆られ、教国派遣艦隊は反撃も出来ずに敗走するしかなかった。

その結果、連盟本国の艦隊再編成の時間稼ぎすら出来なかったのである。

なお、そのあまりにもあっけない容易な勝利に、毛利中将は信じられず、何度も確認を取らせたほどだった。

そして、もう一人、この結果を信じられずにいる男がいた。

トラッヒ総統である。

報告を受けたトラッヒはしばらく呆然とした後、烈火のごとく怒り狂い暴れ回り、一時は連盟軍の動きに支障をきたすほどであった。

こうして事態は一旦収束した。

だが、それはほんの束の間の静けさに過ぎない。

三月、共和国に春の訪れが広がり始めた頃、遂に反抗作戦は開始されたのである。

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