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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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戦いの余波

連盟海軍の大敗と陸軍の大攻勢が失敗したという情報は、あっという間に世界に拡散された。

勿論、連盟側はそれを隠そうとしたものの、隠せるはずもなかった。

そして、その情報はトラッヒの元に届く。

今まで当たり障りのない報告ばかり聞いていたトラッヒにとって、怒りが沸点を突破すると言ってもいい出来事であった。

もっとも、トラッヒの沸点の低さは周りのものもわかってはいたが、今回は普段とは比べ物にならないほど酷かった。

なんせ、報告を聞いた瞬間、会議室のテーブルをひっくり返し、暴れ出したのである。

ヒステリックに叫び、物に当たり散らかす。

誰も手が付けられないとはこのことと言わんばかりだ。

それでも、数人が止めようとしたものの、まさか殴りつけるわけにはいかず、抑え込もうとしたものの、殴られ、蹴られ散々な目に合うだけであった。

自分の命名した作戦が大失敗をしてしまった事が、かなり大きかったようだ。

おかげで、陸軍の大攻勢の失敗よりも海軍に対しての風当たりがとてつもなくすごかった。

実際、その怒気の矛先を向けられた洋上艦隊司令のマクダ・ヤン・モーラ提督と連盟国軍最高司令官ルキセンドルフ中将は真っ青な顔で立ち尽くすのみだ。

罵詈雑言がトラッヒの口から終わりなく吐き出されていく。

それは終わりなき永久機関のようであった。

本当なら、ここで何か話した方がいい。

二人共そうはわかってはいた。

だが、その余りにも強い怒気に、身が竦んでしまっているのである。

今、二人に怒気で人が殺せるか?と聞いたら、間違いなく殺せると二人は言うだろう。

それほどまでにすごかった。

だが、永遠はない。

怒りにはエネルギーがかかるのである。

一気に燃え広がった怒りという名の炎は、イライラと不満という燃料を一気に燃やし尽くす。

ハアハアと荒い息をして、トラッヒは身近な椅子に座り込んだ。

彼とてわかってはいるのだ。

怒鳴り散らかして好転しないという事は。

だが、怒鳴らなければ怒りと不満を抑えきれないでいるのだ。

そして、じろりとにらみつけるだけで人が殺せそうな鋭い目つきで二人を見て口を開く。

「で、どうするのだ、この始末を」

それだけを口にする。

まず口を開いたのは、ルキセンドルフ最高司令官である。

「はっ。艦隊の再編成を行い、制海権を取り戻します」

「ふむ。それはわかった。だが……」

そこまで言った後、少し間をおいてトラッヒが言葉を続ける。

「私が知りたいのは具体的な案だ。わかっているよな?」

その口調はさっきまでの怒りの様子とは違い、淡々としたものだ。

それ故にますます恐ろしさが倍増する。

「も、勿論です、閣下」

慌ててモーラ提督が口を開いた。

「只今、修理、再編成に入っている元王国侵攻艦隊の残存戦力と本国艦隊の一部を回して新たに艦隊を編成して派遣する予定であります」

「で、それはいつ実践できるのかね?」

そう聞き返されて、モーラ提督は黙り込む。

すぐに出来る事ではない。

どう急いでも一ヶ月、二ヶ月はかかるだろう。

だが、ここで素直にそれを言っていいだろうかという不安が、沈黙という形で現れたのである。

しーんと静まり勝った会議室。

しかし、その沈黙はすぐに破られた。

トラッヒの怒号に。

「いつまでかと聞いているのだっ。さっさと言え!」

その怒号に、モーラ提督は引き攣った表情で固まってしまっていた。

口元がひくひくと痙攣している。

その様子を見たら、彼と犬猿の仲である潜水艦隊指令のカール・ガイザー・ガルディオラ提督も同情するだろう。

もっとも、この会議にはガルディオラ提督は呼ばれていないので見られる心配はしなくてよかったようだが。

ともかく、まさに蛇の前の蛙の有様であった。

流石に慌ててルキセンドルフ総司令官が口を開く。

「現在、修理中の艦隊も多く、本国艦隊からまわす艦艇だけならば一週間程度、修理中のものは早くて一ヶ月程度は……」

ドンッ。

ひじ掛けの部分が激しく叩かれる。

それと同時にトラッヒの声が響く。

「遅いっ。遅すぎるぞっ。それに本国艦隊の一部を先に回して、何とかなる事態ではあるまいがっ!」

今回の戦いで、共和国の海軍戦力がかなりのものだという事はわかっている以上、中途半端な艦隊戦力ではどうにもならないとトラッヒ自身もわかっているようだった。

それに遅くなればなるほど補給は滞り、共和国侵攻部隊は孤立しかねない。

だが、どう考えてもこの状況をひっくり返すほどの策はなかった。

誰もが黙り込む。

「えーいっ。どいつもこいつもっ」

再び、トラッヒの怒りが燃え上がろうかとした時であった。

ただ黙って座っていた一人の男が声を上げた。

「閣下、自前で用意できなければ他所から手を回せばいいのではないでしょうか」

そう提案してきたのは、情報部親衛隊最高責任者であるヒラック・ランガーペイソン大佐だ。

「どういうことだっ」

トラッヒの怒気が混じり始めた言葉が、ランガーペイソン大佐に向けられる。

「はっ。ここは教国を使うのです」

「教国……だと?!」

「はっ。その通りであります」

その提案を受け、トラッヒは考え込む。

そして結論が出たのだろう。

「よし。その件を貴官に一任する。一週間以内に結果は出せるであろうな?」

その言葉を受け、ランガーペイソン大佐は立ち上がる敬礼した。

「はっ」

そして、視線をトラッヒからモーラ提督に向ける。

「提督、高速巡洋艦をお借りしたいのですが……」

「わか、わかった。すぐに用意させる」

モーラ提督は、ランガーペイソン大佐にトラッヒが視線を向けた事で金縛りから溶けたように椅子に座り込んでいたが、なんとかそう返事を返す。

その様子は、普段の彼を知っている者からしたら、惨めだと思っただろうが誰も口にしない。

いつ自分が同じ目に合うかもしれないと判っているからである。

そんなモーラ提督をちらりと見た後、トラッヒはルキセンドルフ総司令官に視線を向けた。

彼はまだ緊張した面持ちで不動の姿勢で立っている。

その顔色は青ざめてはいたが、表情は緊張を保っている

ほう……。

おもわず心の中でトラッヒは声を漏らす。

あまりにもモーラ提督が無様な分、その姿勢と意志の強さに感心したのだ。

思った以上に故奴は使える。

そう再確認して。

だから、視線を向けると口を開いた。

「貴官は、艦隊の再編成を急がせろ。期間は二ヶ月だ。いいな?」

「はっ。ありがとうございます」

ルキセンドルフ総司令官は敬礼する。

そして、再びモーラ提督を見た。

もっとも声をかけるつもりはなく、こいつはそろそろ変え時だと思いつつ。

そして、再び、ルキセンドルフ総司令官に視線を戻すと口を開く。

「後、補給ルートを何としても維持させよ。いいな?」

それは、共和国侵攻を諦めていないという意思表示である。

「はっ。了解しました」

ルキセンドルフ総司令官はそう答える。

答えつつ、与えられたことをどうすれば実行できるかという事を思考し始めていた。

なぜなら、恐らくこれに失敗すれば、自分の先はないとわかっていたからだ。

そして、椅子に座り込んでだらしなく緊張の解けたモーラ提督をちらりと見る。

ああはなりたくない。

間違いなく、かれは失脚するな。

ルキセンドルフ総司令官は、そう確信していたのである。

そして、二日後、モーラ提督の退役が発表された。

心身ともに疲れ切った様子で職場を後にする彼の様子は、まるで一気に十歳以上年を取ったかのようであった。

もっとも、多くの者が、彼が退役する事に対して少しうらやましいという感情がある。

それは、今まででもっとも穏便な幕引きだったからであった。



「連盟からは何と?」

急遽送られてきた親書に目を通した後、ため息をつくベンタカント枢機卿(カーディナル)

その様子にただならぬ気配を感じたのだろう。

側にいた一人の大司教(アークビショップ)が聞く。

ちらりと枢機卿(カーディナル)は相手を見たのち、再度ため息を吐き出した。

「共和国侵攻に協力してほしいという事だ」

「それは……」

思わずといった感じで、大司教(アークビショップ)の口から言葉が漏れる。

連盟の艦隊の大敗と大攻勢の失敗の情報は知っている。

しかし、こんなにすぐに救援を求めてくるというのは予想外であった。

「つまり、それだけ芳しくないという事ですかな」

別の司教(ビショップ)が言うと、枢機卿(カーディナル)はまたため息を吐き出した。

その通りだという意味である。

その場にいた教国の上層部は、誰もが暗い顔であった。

「あとだ……。例の発動を行う様に指示が遂に出た」

聖戦の布告である。

ドクトルト教徒は立ち上がり、ドクトルト教の為に働きかけよ。

その為の根回しはとっくに終わっていた。

ここにいる大半の者達が、ただ速くやって欲しいという罪から逃れるような気持ちもあったが、それとは別にこのまま何事もなければという気持ちもあった。

だから、実際発動が宣言されて、誰もがごくりと唾を飲み込む。

「間違いないのですな」

確認の為か、大司教(アークビショップ)がそう聞いてくる。

「ああ。間違いない。上も今回の連盟の敗北に危機感を強めているらしい」

その言葉で、誰もが黙り込む。

だが、いくら足掻いてみても、撤回は出来ない。

だから、止めを刺すように、枢機卿(カーディナル)は口を開く。

「急いで連盟への協力派遣艦隊の編成をさせろ。一週間後には出向させられるようにな。それと聖戦の呼びかけと連盟との同盟を公開する原稿の用意を」

「聖戦の呼びかけと同盟の公開はいつ決行されるので?」

その問いに、枢機卿(カーディナル)は引き攣った顔で答える。

「明日だ」

あまりに急である。

だが、誰も何も言わなかった。

ついにきたか。

ただ、それだけである。

そして、その場にいた誰もが覚悟を決めた。

いや、そう見えた。

だが、そんな中、一人の司教(ビショップ)だけが別の事を考えていた。

やはり、もうこの国は一度潰さねば駄目だと。

【参加企画やってます】


お陰様で、『異世界艦隊日誌』が、話数800突破、総合評価8000突破、累計ページビュー8000000突破、累計ユニークアクセス800000突破となりました。

ありがとうございます。

そこで、外伝で読みたいキャラクターを募集したいと思います。小説内で名前のあるキャラクターを書き込んでね。(名前がなくてもいいですが、どのキャラクターかわかるようにお願いします)

なお、すでに外伝で書いたキャラクタでも構いません。

全員は無理なので、書かれたキャラの中でこちらでチョイスして書いていきたいと思います。


参加するには、なろうの活動報告の【小説連動企画】のところか、Xの先頭に固定してあるやつに書いて欲しいキャラクター名や理由などを書き込んでください。

皆様の参加、楽しみにお待ちしております。




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