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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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作戦『グローレバンシーレン』  その7

次々と足止めを喰らって動かない、いや動けないと言った方が正しいだろうか。動きを止めた第三艦隊に九九艦爆が襲い掛かる。

灰色の翼が舞い、それは第三艦隊の水兵にとってどう見えただろう。

天罰を下す天使、或いは悪魔か。

どちらにしても連盟軍の兵士達にとって災いでしかない。

響くサイレンの音は、天使の警告、或いは悪魔の嘲笑か。

次々と急降下爆撃を行い、第三艦隊の艦艇を血祭りにしていく。

その爆発は、艦船だけでなく、兵士達も吹き飛ばしていく。

多くの艦上物の爆発に交じって、かって人だった血と肉片が飛び散っていく。

その光景は、生き残った兵士にとって悪夢でありまさに地獄絵図といったところか。

どちらにしても多くの兵士達にとってトラウマとなる光景だった。

挿絵(By みてみん)

そして、この時の命中率は実に九十パーセントを超えるものであり、後の歴史学者はこの戦いを『パルマ海域の投網』と呼んだ。

次々と狩られる様が、浅瀬に集まった魚を投網で捉える様子に揶揄してである。

ともかく、第一次攻撃隊だけで第三艦隊の実に半数近くが撃沈、大破してしまっていた。

味方の艦艇が、自分の率いる艦隊が次々と沈められていく様相を旗艦に乗艦していたベントラチュー中佐は唖然として見る事しかできないでいた。

「そんな……」

それは彼の補佐として搭乗していたニカケラ少佐も同じであった。

「まさかこれほどとは……」

今までいろんな海戦での経験のあるニカケラ少佐でも初めての経験であった。

だから、思わず声が出たのである。

そして、どうすべきかと考えて諦めた。

ある程度浸水は収まったものの、機関と舵が失われ航行不能なのだ。

そして、襲い掛かってくると思われていた敵の攻撃は全く来ない。

要は、足止めをするために無視されている。

そうわかってしまったのだ。

それは軍人としては途轍もなく惨めであり、悔しい事のはずであった。

だが、それでも心の中では、自分らは襲われないという事実にほっとしていたのである。



ほんのわずかな時間のはずであったが、第三艦隊の水兵達にとっては途轍もなく長い時間であった。

だが、どんなことも終わりが来る。

次々と攻撃を終わらせて、第一次攻撃隊が帰投していく。

ああ、終わった。

生き残った者達は誰もがそう思った。

だが、それは悪夢の始まりでしかなかったという事を彼らは知る。

すぐに第二攻撃隊が到着し、攻撃が始まったのだ。

構成は、九七艦攻改六機と九九艦爆八機の合計十四機。

なんとか動ける艦艇は逃走しようとしていたが、そういう艦艇が攻撃を受けていく。

その有様を見て、彼らは悟った。

このままでは逃げ切れないと。

こんな所にいたくない。

死にたくない。

そんな衝動が彼らを突き動かしていた。

そして、次々と艦艇を捨てて海に飛び込んだ。

海といっても浅い海であり、ほんの少し泳げば共和国本土かシュパ島に辿り着く。

だが、それで終わりではなかった。

この地は敵地なのだ。

そして、この戦いは多くの共和国国民が目撃していた。

そして、海岸線には共和国軍が待ち構えていた。

勿論、捕虜にする為にである。

すでに精も根も尽き果てていた連盟の兵達は、抵抗することなく拘束されていった。

ただ、彼らは安堵していた。

これで生き残れる。死なないで済むという事だけが彼らの思考を支配しきっていた。



こうして、第三艦隊が三度の航空攻撃で壊滅に近い被害を受けていた頃、第一、第二艦隊も同じ道をたどりつつあった。

ただ大きく違うのは、航空戦力ではなく、相手が海上戦力であるという事だ。

次々と降り注ぐ砲弾の雨、

最初こそ有利と思われていた数の差も、火力の多さも時間がたつにつれて机上の空論でしかないと思い知らされた。

じわじわと味方は沈められ、戦闘不能に陥ってく。

敵も被害を受けているはずであったが彼らの攻撃は収まることを知らず、反対に味方の攻撃は低下していく。

そんな馬鹿な……。

共和国侵攻艦隊司令であり、第一艦隊を指揮しているリベンドラ少将は、時間がたつにつれて差が出始める力の差を痛感している。

勿論、敵の戦力を見誤ってしまったのもあるが、敵の超弩級戦艦の強さを思い知ったのだ。

それは仕方ないのかもしれない。

この世界の重戦艦でさえ前弩級戦艦程度であり、四十年近い技術力の差は余りにも大きかった。

そんな中、第二艦隊から悲鳴のような報告が入る。

『我壊滅状態ニ近イ。作戦遂行不可。降伏スル』

それは仕方ないのかもしれない。

第二艦隊は、戦艦が数隻配備されているとはいえ、構成的には装甲巡洋艦が主なのだ。

重戦艦でさえ敵わない相手にどうこう出来るはずもなかった。

そんな状況の中、リベンドラ少将は焦り混乱していた。

だが、はっきりとわかる事があった。

もう勝てないという事だけは。

くそっ。なんでこんな事になるというのだ。

心の中でそう叫び、それでも冷静な振りをする。

そして、命令を下す。

「我々はこのまま敵艦隊に向かって突き進む。そして敵艦隊を突き崩して突破。戦線を離脱するぞ」

それは第二艦隊を見捨てるという事だ。

だが、それを誰も突っ込まなかった。

生き残るためにはしかない。

誰もがそう思っていたのだ。



「第一艦隊からの指示はっ?!」

第二艦隊の指揮を任されているタシラム大佐はそう何度も通信兵に聞き返す。

「まだありませんっ」

もう何度も通信を送っているのだが返信がない。

くそっ、くそっ、くそっ。

リベンドラの野郎っ、我々を見捨てやがったな。

だんっ。近くにあったテーブルを叩きつける。

もっとも、その音は、外の砲撃の音でかき消されてしまっていたが。

ともかく、完全にジリ貧であった。

数は圧倒的に有利ではあったが、火力が違い過ぎるのだ。

突破しょうにも腹を見せて壁のように立ち塞がれてしまっている為、この狭い海域ではそれは難しいだろう。

それに突破したとしてもどうしようもない。

なんせ、その先は袋小路みたいなものだからだ。

反転して第一艦隊と合流という選択もある。

だが、いつまでたっても音信不通の第一艦隊に期待できない。

なんせ、返事を返せないほど不利だという事だからだ。

最期に聞いたのは、『後方カラ敵艦隊接近、反転シテ向カイ打ツ』という報だった。

シャルンホルストは目の前にいる。

そういう事は、それ以外にもこいつに匹敵する戦力を隠し持っていた事を意味していた。

それに第三艦隊も敵航空戦力の攻撃を受けている報告が届いていた。

予想外の戦力と航空戦力。

つまりは、フソウ連合の戦力が予想以上にこっちに派遣されていたという事なのだろう。

それにここまで追い詰めての戦闘。

こっちの動きは筒抜けという事か……。

全てにおいて、負けていた。

そうわかったのだ。

だから、決心がついた。

ふー。

タシラム大佐は大きく息を吐き出すと命令を伝える。

「各艦に伝えよ。我々は降伏する。これ以上の戦闘を中止せよ。それと各艦白旗を上げよ。無線手、国際チャンネルで、敵艦隊に降伏する旨を伝えよ。いいな、急げっ」

その命令を誰も反対しなかった。

すでに第二艦隊の士気は大きく落ち、誰もが早くこの戦いを終わらせたいとしか思っていなかったのだ。

こうして、第二艦隊は、降服する。

その頃になると、戦力は二割程度になってしまっており、無傷な艦は一隻もない有様になっていた。



第三、第二艦隊がそれぞれ壊滅、或いは降服という末路を迎えていく中、第一艦隊も同じように末路を迎えようとしていた。

なんとか突破しようと接近してくる第一艦隊。

近距離になれば副砲が多い第一艦隊の艦艇の方が有利ではあるが、接近させじと駆逐艦が戦艦の前に出る。

まさに力のぶつかり合いといったところか。

だが、圧倒的に不利なのは第一艦隊の方であった。

唯一勝っているのは数だけであり、質も火力も士気も練度も大きく負けていると言っていい状況だからだ。

その上、沈められていくのは味方の艦艇ばかり。

そして、第二艦隊から届いた降服の国際チャンネルの通信。

それがきっかけであった。

ついに意を決したのか一隻の仮装巡洋艦が艦を反転させて突破を諦め後方に下がろうとした。

だが、その動きは一隻だけではなかった。

その動きに連動するかのように次々と反転し始める艦艇。

「くそっ。どういうことだっ」

リベンドラ少将は叫ぶ。

彼とてわかっている。

恐らく、後方に離脱し、降服するつもりなのだ。

生き残る為に最も確率の高い選択をしているだけだと。

だが、それでも彼は許せなかった。

彼の目には裏切りの行為としか映らなかったのである。

「う、裏切り者めっ」

そう叫ぶとリベンドラ少将は言葉を続ける。

「離脱しようとする裏切りどもには砲撃を喰らわせろっ。必ずだっ」

だが、その命令は実施されることはなかった。

副官が慌てて諫めたのだ。

「だ、駄目です、少将っ」

「な、何を言うっ。敵前逃亡は死刑だっ」

「ですがっ」

もっともその後の会話はなかった。

副官が、何とか諫めようと言葉を口にした瞬間、旗艦の艦橋は砲撃によって吹き飛ばされてしまったからである。

そして、旗艦を失った第一艦隊は、烏合の衆と化し、次々と沈められ、生き残った艦艇も降伏するしかもう手はなかった。

こうして、連盟海軍の共和国侵攻艦隊は、実質戦力の八割以上を失った。

これにより、一時期は共和国海域の制海権の八割近くを把握していた連盟海軍は大きく制海権を失い、自国の輸送船団を守るのも厳しい状況に追い込まれていったのである。

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