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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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作戦『グローレバンシーレン』  その5

『敵艦隊発見ス』

先行の装甲巡洋艦アラハトの報は、第二艦隊だけでなく、第一艦隊も受け取った。

「やっとか……」

共和国侵攻艦隊の艦隊司令であり、第一艦隊の指揮を執っているリベンドラ少将は思わずといった感じで言葉が口から出た。

決戦の場と考えていた場所には敵の艦隊の姿が見えず、焦らされ続けた結果であった。

「ええ、本当に……」

副官も思わず相槌を打つ。

それほどまでに誰もが敵の出現を待っていたともいえた。

もちろん、完膚まで叩き潰す為に。

そして、リベンドラ少将は命令を下す。

「これより第一艦隊は最大戦力で第二艦隊と合流して、敵艦隊を殲滅する。各自、気を引き締めて任務を遂行せよ」

その命令に艦橋だけでなく、館内放送で流された結果、いろんな場所で歓声とやる気を上げる掛け声が上がった。

それはそれだけ第一艦隊の指揮が高いという事だ。

この戦いに勝てば、当面は共和国も王国も手は出さないと判っていたからである。

それに、この戦いに勝てば完全に共和国の領海の制海権は把握でき、今は敵対する形になっているイムサも我々と正面から戦ってまで輸送船団護衛を行う事もあるまい。

そう思っていたのである。

もっとも、それは連盟の独りよがりの思考であり、世界はそう自分の都合のいいように動いてはくれないのだ。

そして、それは直ぐに証明された。

先を急ぐ第一艦隊に砲撃が開始されたのである。

次々と艦の周りに水柱が立つ。

「な、何事だっ」

リベンドラ少将の叫びに、悲鳴のような報告が入る。

「こ、後方から敵艦隊接近っ」

その報を受けてリベンドラ少将は目を見開き、引き攣った表情で言い返す。

「ど、どういうことだっ?!」

「わ、わかりませんっ」

副官の言葉に、リベンドラ少将は言う。

「すぐに確認させろっ。それと後部砲塔で反撃させろ」

第一艦隊の艦艇の後部砲塔が動き、後方から接近する艦隊に砲撃が始まった。

もっとも、第一艦隊は最大戦力で進む上に、敵もかなりの速力で接近しているのだ。

距離もまだまだある上に、お互いに高速移動しつつの砲撃戦である。

そうそう当たるはずもない。

だが、そうそう当たらないとわかっていても、反撃するしかない。

ただ一方的に撃たれ続けるよりはマシだ。

それに、もしかしたらという事もある。

あと、何より撃たなければ勝てないのだから。

じりじりと距離が縮まっていき、それにより敵の艦隊艦種は把握できるようになっていく。

「敵大型艦二隻見えます」

その報告に、リベンドラ少将は聞き返す。

「二隻だと?!」

リベンドラ少将は、前方の艦隊ではなく後方から接近してくる艦隊が帝国艦隊ではないかと思ったのである。

しかし、帝国艦隊の大型艦はシャルンホルスト一隻のみだ。

二隻ではない。

では、後方から我々を追い立ててくる艦隊はどこの艦隊だ?!

だが、はっきりとしている事がある。

共和国側には、我々が把握しきれていない艦隊戦力があるという事だけは……。



「動揺しているようだな」

敵の第一艦隊の動きを見て、フソウ連合第一外洋艦隊率いる真田少将はニタリと笑みを漏らす。

その表情に浮かぶは、してやったりといった感情だ。

そんな上官の姿に、副官である三上大佐は苦笑するしかない。

「よし。じわじわと圧をかけていくぞ。一気に距離を詰めるなよ」

第一外洋艦隊の最大戦速ならばもっと早く距離を詰めることは可能だ。

だがあえてそれをやらないでいる。

それは敵を焦らせ、判断を狂わせるためだ。

現時点でも戦力的には圧倒的に有利で、一気に追い詰めることは可能ではあるが、出来る限り味方に被害を出さないようにすべくわざわざやっているのである。

まさにネチネチとした戦い方だが、相手にしてみればとてつもなくやりずらいだろう。

「さて、敵さんはどう判断する?反転か?或いはこのまま味方と合流するのか?」

実に楽しそうだ。

「で、帝国艦隊の方はどうなってる?」

その問いに、三上大佐は無線手に言って確認させる。

「作戦通り、横一列で展開し、敵の足止めをしているそうです。でこっちの現状を伝えたら、そろそろやるという事でした」

「そうか。では、そろそろ速力落とせ」

真田少将はそう命令すると艦隊の速度を落とす。

ゆっくりと距離が再び開きつつある敵艦隊を見つつ、真田少将は呟いた。

「巻き込まれたらたまったものではないからな」



「大変です。第一艦隊の後方から、新たな敵艦隊が現れました」

その報を聞き、第二艦隊の指揮を執るタシラム大佐は驚きの声を上げる。

「ど、どういうことだ?!」

そう聞かれても、副官や無線手がわかるはずもなかったが、思わずそう言う声が出ていた。

「わ、わかりません。ですが、後方から第一艦隊が攻撃を受けているそうです」

要は、前後から挟み撃ちを受けたという事だ。

これが大海ならばたいしたことはない。

抜ける隙はいくらでもある。

しかし、現状は、そんなものはない。

右手は共和国大陸が、左手にはチュシュシ列島が壁となってしまっている。

まさに袋の鼠である。

そして、それをどうにかするには、敵を倒さねばならない。

しかし、第二艦隊の火力では、帝国艦隊を突破できない。

戦ってみて分かったのだ。

シャルンホルストの火力と装甲の高さに。

そして、味方は、戦艦は数隻あるものの、主力は装甲巡洋艦や仮装巡洋艦である。

数こそ圧倒するものの、シャルンホルストの前ではそれでも実に頼りなく、ビスマルク、テルビッツの二隻を中心とした帝国艦隊が、何倍もの王国艦隊を相手に無双したと言う話は伊達ではなかったと思い知らされていた。

「くそっ。ともかくだっ。撃って、撃って、撃ちまくれっ」

実際、足を止めている為、シャルンホルストにも連盟の艦艇の砲撃がいくつか当たってはいる。

だが、装甲を貫通するほどではない。

反対に、装甲巡洋艦程度の装甲や民間船に毛の生えた程度の装甲しかない仮装巡洋艦では、一発でも当たれば致命傷になりかねない。

いや実際に、すでに何隻も轟沈させられていた。

「くそったれ。我々の戦力ではあの化け物を抑えきれないぞ。第一艦隊に至急合流するように伝えろっ」

「しかし、第一艦隊も後方から敵艦隊が……」

だが、副官のその言葉は最後まで言えなかった。

「馬鹿野郎がっ。今のこの艦隊の戦力では突破は出来ないっ。何としても第一艦隊と合流して正面の敵を突破し、その後反転して後方の敵に当たるしか手はないんだっ」

そう言った後、言葉を続ける。

「死にたくなかったら、さっさと第一艦隊に伝えろっ」

「は、はいっ」

副官が慌てて無線手の方に駆け出していく。

その間も、第二艦隊はじりじりと戦力を削られていくのであった。



「よし。そろそろ頃合いか……」

第一外洋艦隊の動きを聞き、帝国派遣艦隊の指揮を執るクラシエウド少将は命令を下す。

「よし。雷撃開始だ。ありったけの魚雷を放てっ」

その命令を受けて、帝国艦隊に所属する峯風型改駆逐艦五隻が次々と魚雷を放つ。

勿論、フソウ連合が使用する酸素魚雷ではない。

だが、イムサに使われている魚雷と同型であり、信頼性も性能もこの世界のばくち打ちの兵器と言われるほど性能が低く信頼性に乏しい魚雷とは比べ物にならない。

勿論、酸素魚雷ではない為、航跡は出る。

僅かに角度をつけ、間をおいて次々と放たれる三十発の魚雷がまるで扇状のように広がりつつ第二艦隊に襲い掛かる。

「ぎ、魚雷だっ。回避急げっ」

しかし、狭い海域であり、戦いで乱れ切った陣形の中、思ったような回避は難しすぎた。

接触しないように気を使いつつなんていうのは、土台無理なのだ。

航跡が見えるという事も、余計に恐怖心をあおる効果を発揮する要因となってしまう。

次々と命中し、第二艦隊は戦力を削られていく。

そして、第二艦隊を突破した魚雷は、そのまま第一艦隊に襲い掛かる。

もちろん、距離が離れているから時間はかかったし、その数は数本だ。

だが、予想しなかった前方から白い航跡が見えるのだ。

後方から圧をかけてくる第一外洋艦隊に手を焼いていた第一艦隊はそれを発見し混乱した。

彼らにとって魚雷は射程距離の短い兵器という認識であったからだ。

だが、イムサや帝国、王国に支援されるフソウ連合製魚雷は、酸素魚雷には及ばないものの、この世界の魚雷とは比べられないほどの射程を誇る。

その上、今回は戦場の地の利が味方した。

左右を塞がれ、敵が縦に並んでいるのだ。

第二艦隊が回避して通過したとしても次の第一艦隊への攻撃や牽制になりえるのである。

実際、前方から魚雷が接近してくるという報に、第一艦隊を指揮するリベンドラ少将は、すでに第二艦隊と敵艦隊は乱戦に突入したと考えた。

射程距離の短い魚雷がこんなところまで流れ弾でくるくらいなのだからと。

乱戦となれば、いくら装甲が厚く火力の高いシャルンホルストといえど第二艦隊の戦力で十分対応できるはず。

ならば、このまま第二艦隊と合流するよりも反転して後方の艦隊を叩き潰して方がよいと判断したのである。

「よしっ。我々は後方の憂いを無くすぞ。艦隊反転。迫りくる敵艦隊を迎え撃て」

「しかし、第二艦隊からは早く合流してくれと」

副官の言葉に、リベンドラ少将は言い返す。

「乱戦の中に飛び込んだとしても、余計混乱するだけだ。それよりは先に後方の敵を叩き潰し、一気に有利にしてからの方がよい。第二艦隊には、持ちこたえよと伝えろ」

「しかしっ」

「いいから早くしろ。我々が素早く後方の敵艦隊を突き崩せばよいのだ」

リベンドラ少将はそう言い切る。

確かに大型艦が二隻いるものの、数では圧倒しているのだ。

一気にかかれば問題ない。

磨り潰してやる。

そう思ったのである。

だが、彼は身をもって知ることになる。

自分達の認識の甘さ、この世界とフソウ連合の造船技術の差、艦艇の性能の差を。

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― 新着の感想 ―
司令官が少将で副官が大佐というのはあり得ない。艦隊の副長というのも変なものです。大佐ならばさしずめ参謀長といったところでしょう。副官に発言権はなく司令官が少将であればせいぜい大尉といったところでしょう…
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