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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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作戦『グローレバンシーレン』  その3

ルルンパーア主港は、天然の要害ともいえる港である。

半湾状になった一番奥にあり、その上、蓋をするようにチュシュシ列島が続いているのだ。

だから、この港に近づく場合、二つのルートが考えられる。

それはチュシュシ列島を大きく回り込み、列島の最も東端から列島と本土の間にあるテンラカート海を奥に進み入港するか、チュシュシ列島の島と島の間を通って入り込んでくるかというルートだ。

しかし、チュシュシ列島はいくつかの島が棒状に続いているが、その島同士の間は狭く浅瀬が多い為、大型船舶は時間や燃料がかかっても安全の為に大聞く回り込むルートを通っていた。

特にチュシュシ列島の一番西側の島であるシュパ島と本土の間にあるパルマ海域は、そこを通ればルルンパーア主港に一番近いものの、大陸と島の幅も狭い上に浅瀬と岩礁の為に、小型船舶や漁船しか通らない。

だから、ヨルンファンナ港に向かうのならば、チュシュシ列島の手前でテンラカート海に入らず、大きく外回りをして進む必要性があった。

つまり、チュシュシ列島の手前での動きでどちらに向かうかはっきりわかるのである。



連盟の共和国侵攻艦隊第一第二艦隊は、ヨルンファンナ港ともルルンパーア主港ともとれる航路を進んでいた。

先行に三段構えの横陣の第二艦隊、その後にある程度距離を取って三縦陣の第一艦隊が続く。

また、第二艦隊の一部は更に単艦で先行して警戒に当たっている。

「敵の動きはどうか?」

リベンドラ少将の問いに、副官が答える。

「第二艦隊の警戒の為に単艦で先行している装甲巡洋艦からは、まだ発見の報は来ていないようです」

「ふむ。そうか」

リベンドラ少将はそう言いつつ、海図を確認する。

まもなく分岐点だ。

我々がどちらに進むかわかっていない以上、敵としては確実に捕捉できる分岐の前に捕捉して戦闘に入りたいはずだ。

そうなるとそろそろ姿を見せなくてはならない。

ここで捕捉できなかったら、戦力を二つに分ける事が出来ない共和国側としては、賭けに出なくてはならない。

それが当たればいいが、外れれば、連中は戦わずして数少ない港と物資を失う事となる。

そうはなりたくないはずだ。

だから十中八九はここに来るはずだ。

そう思考しているリベンドラ少将。

だが、ここまで来て、まだ敵艦隊を発見できないという事に苛立ちが隠らないでいた。

それがわかるのだろう。

副官が聞いてくる。

「敵はのってきますかね?」

「ああ、のってくる。恐らく出港が遅れているのだろうな」

そう言いつつも、リベンドラ少将はちらりと時計を見た。

そして話題を変える為だろうか。

確認を取るように聞く。

「それで第三艦隊の方はどうだ?」

「はっ。今のところは何も連絡がありませんので、うまくやっていると思われます」

敵に動きを悟られないように動いている為、ルルンパーア主港に回り込んで向かっている第三艦隊は無線封鎖をしているのだ。

「ふむ。そうか」

リベンドラ少将はそう返事をする。

そして、刻々と時間が過ぎていく。

敵艦隊が待ち伏せている。

その思いは、とてつもない緊張を生み出していた。

それは誰もがだ。

しかしである。

間もなく先行する第二艦隊が分岐点に到着する頃合いだ。

しかし、報告はない。

それはその海域に敵の艦隊の姿は全く見えないと言うことを意味していた。

敵の出港準備が遅れたという事だろうか。

或いは、片方に戦力を集めて勝負をかけたのか。

ともかく、予想していた分岐での戦いは起こらない事がはっきりした。

「いかがしましょう?」

副官が恐る恐るという感じで聞いてくる。

緊張して眉間にしわを寄せていたリベンドラ少将はため息を吐き出した。

「敵は予想以上に愚鈍か、ばくち打ちが好きらしいな」

そう言って肩をすくめる。

この海域で待ち伏せがない以上、敵艦隊は、ヨルンファンナ港の沖合か、チュシュシ列島の途中で待ち伏せという事だろう。

流石にこっちの動きを把握できなくてと言うことはないだろうしな。

あれだけ派手に出港し、目立つように陸沿いにゆっくりと艦隊を動かしたのだ。

出港を知らなかったとしても、途中の艦隊の動きは届いているはずだから。

ともかくだ。

戦いになるという緊張でピリピリしていた雰囲気が一気に緩む。

先行している第二艦隊は、すでにチュシュシ列島と陸地の間の海域に入っているだろう。

なのに敵艦隊発見の報告がない。

すると、もし、こっち側に敵艦隊がいるとすればやはりルルンパーア主港の沖合になるか?

そうなると第三艦隊が貧乏クジを引くことになりかねんな。

まぁ、それでも、ベントラチュー中佐ならうまくやるだろうし、その場合は無線で報告も来るはずだ。

その場合は、第一、第二艦隊と合流して戦う様にはいってあるしな。

そんな思考をしつつ、湧き上がってくる嫌な予感をリベンドラ少将は頭の隅に押しやったのであった。



「思った以上にあからさまですな」

敵艦隊の動きの報告を受け、副官である浜辺大尉が眉をひそめて漏らした言葉に毛利中将は苦笑を浮かべる。

「そう言ってやるな。連中は前回の戦いで負けたとはいえ、こっちの戦力を完全に把握しているとは思えんし、我々を舐め切っている部分がまだあるからな」

そう言った後、思い出したように言葉を続ける。

「あと、電探もなければ、飛行機もないしな」

今や電探と飛行機はフソウ連合海軍では当たり前に装備運用されている装備だが、他国では未だに一部しか装備されていないものだ。

その認識を忘れそうになってしまい、慌てて付け加えたのである。

「確かに、そうですな」

実際、敵艦隊の動きは、飛行機と潜水艦によって逐一報告されている。

その結果、陸地からの報告に頼らずとも、ほぼリアルタイムで把握できているのである。

「さて、そろそろお客さんの先鋒がチュシュシ列島の半ばに到達したな」

毛利中将の言葉に、浜辺大尉は答える。

「はい。間もなくですね。帝国艦隊の準備は整っているとのことです」

「そうか。では、帝国艦隊、第一外洋艦隊に打電。「ネズミは檻に入る。精々楽しませてやってくれ」とな」

ニタリと浜辺大尉が笑みを浮かべた。

「了解しました」

浜辺大尉は命令を無線手に伝えた後、毛利中将の所に戻って言う。

「しかし、連中も考えましたね。主力艦隊を囮に使うなんて」

「ああ。普通なら、遊撃隊を囮に使ってと考えるだろうからな。その発想は中々のものだ。どうしても、主力艦隊でと考えてしまうだろうからな。だが、敵の戦力を把握しきれていない上に、こっちは電探と航空機という目を持っている。それにだ、連中は我々を舐めすぎているのは大きな減点ポイントといったところだが、そのおかげでこっちはやりやすかったけどな」

実際、別に動いている共和国第三艦隊の動きもすでに掌握されている。

つまり、派手に主力艦隊を動かしてヨルンファンナ港かルルンパーア主港かの分岐点となる海域へ敵艦隊を誘導して戦い、その間に別動隊がチュシュシ列島の最も奥の島と陸地の間を通って入り込み、ルルンパーア主港を攻撃という共和国側の作戦は完全に把握されてしまっている。

だからこそそう言って毛利中将はニヤリと笑った。

そんな毛利中将に浜辺大尉は内心思う。

本当に化けたなと。

最初、副官としてこの人の元に配属された時に感じた弱さや頼りなさはもう感じられない。

確かにまったくなくなったわけではないが、任務に対しての責任感と臨機応変さは知っている限り、フソウ連合海軍でも屈指の人物と言えるのではないか。

そして、そんなこの人の素質を開花させた鍋島長官という人物の素質を見抜く力に驚くしかない。

そんな中、遂に報告が入った。

「帝国艦隊から入電。「我、敵艦隊ノ先鋒ト接触ス。戦闘ニ入ル」です」

無線手の報告に、毛利中将はニタリと笑みを浮かべた。

「よし。メインのお客は、檻に入ったな。あとは敵の遊撃艦隊だが、連中の位置はどうか?」

そう聞かれ、無線手が偵察機に無線で確認を取る。

するとすぐに答えが返ってきた。

「はっ。偵察機より入電。「間モナク、罠ニ入ル」と返信ありました」

「よし。では、第一次攻撃隊を上げろ。連中は我々が歓迎しやるぞ」

毛利中将の言葉に、艦橋内で歓声が上がる。

そして、その命令を受け、毛利艦隊所属の各軽空母からすでに準備が終わって、今か今かと待ち焦がれていた攻撃隊が我先にと発艦していく。

こうして、矢は放たれた。

後は、戦うのみである。

敵艦隊に向かって飛んでいく攻撃隊を頼もしく見ながら、毛利中将は表情を緩めて少し緊張を解いたのであった。

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