表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

804/840

作戦『グローレバンシーレン』  その1

一月に入り、新しい年となった。

しかし、連盟にとって年が変わったからと言って現状が好転する材料は乏しく、状況が変わるはずもなかった。

特に、年度末に行われた現状打破の一大作戦は失敗し、バントコラ軍港に蓄積した多くの物資と海上輸送用の多くの輸送船を失う事が大きかった。

これにより、物資不足がより深刻となり、前線の共和国侵攻軍は何とか越冬するのが精一杯の有様であった。

そして、前線の共和国侵攻軍は、その原因を後方支援に回っている元王国侵攻軍のせいにした。

共和国の徹底した防御ラインに阻まれて侵攻が進まなくなってしまったのは補給が滞っている為であり、補給がしっかりしていればこんな事にはならなかったと。

それに対して、元王国侵攻軍の方も黙ってはいない。

元々、情報も何もなくいきなりこっちに回された事や連中ばかりと妬みもある為、補給は関係ない。補給が潤沢であった時から侵攻は止まっていたではないかと言い返す。

その結果、前線と後方の協力はおざなりになっていく。

そして、それは、本国もである。

トラッヒの怒りを買いたくない陸軍、海軍は、それぞれ相手が今の侵攻の止まっている原因を相手に転換した。

そんな中、必死に仲を取り持とうとしていたのは、連盟国軍最高司令官ルキセンドルフである。

彼にしてみれば、このままではわが身に被害が及ぶのである。

それだけは何とかしたいと思っていたし、まだ十分勝機はあると考えていたからである。

そして、なんとか両方を説得し、今後の方針をトラッヒに報告する。

トラッヒは最初こそ普通の表情ではあったが、報告が進むにつれて怒りが膨れ上がっていることが見てすぐにわかった。

だが、どうせどういっても怒りが爆発するのは目に見えていたので、そのまま報告を続ける。

そして、年末に行われた一大作戦の失敗とバントコラ軍港への攻撃の報告をし終わるとその怒りは爆発した。

「何をしているんだっ。陸軍も海軍も無能ばかりがっ」

その怒気に、その場にいた者達は心底怯え震えあがった。

しかし、それでもルキセンドルフは口を開く。

その表情は真っ青で、身体は震えていた。

しかし、このままでは間違いなく、陸海軍だけでなく、自分にも火の粉は降りかかる。

だからであった。

「総統閣下、確かに今回は失敗し、被害を受けました。しかし、取り返しのつかない失敗ではございません。『間違いを認めて糧とする。それこそ名君なり』と言われるではありませんか」

元々は連盟の諺であり、また、より正確に言うと『名君』ではなく『良き商人なり』ではあったが、そこは敢えて入れ替えて言う。

しかし、その程度でトラッヒの怒りが収まるはずもない。

怒気が陸海軍の関係者からルキセンドルフに向いただけだ。

だが、それでよかった。

「両軍ともこの状況を打破するため動いております。今しばらくお待ちください」

「なんだ?まだ待てだと?!どれだけ待ったと思っているっ」

「ですが、偉大なる事業には、時間も金もかかります。ここはどっしりと構えて待つことも必要かと」

そう言うとルキセンドルフは紙の束を出す。

「なんだこれは?」

怪訝そうな表情で、片眉を引き上げたままトラッヒがそう聞き返す。

「共和国侵攻艦隊司令官からの作戦提案書です」

それを聞き、トラッヒはゆっくりと紙の束に目を通していく。

計画書に目を通していく事でトラッヒの怒気は落ち着き、面白そうな笑みまで浮かぶ。

そして、全ての内容に目を通した後、トラッヒは笑った。

「気に入ったぞ。うむ。実にいい。やられたらやり返す。実に素晴らしい」

「では、許可をしても?」

ルキセンドルフにそう言われ、トラッヒは笑った。

「勿論だとも。許可しよう」

「はっ。ありがとうございます」

そう言った後、ルキセンドルフは言葉を続けた。

「それで、総統閣下。実はまた作戦名が決まっておりません」

そう言われてトラッヒは益々楽しくなった。

何を言いたいのか、すぐにわかったためだ。

「いいだろう。ならば、今後はこの作戦を『グローレバンシーレン』としよう」

『グローレバンシーレン』

連盟で昔この地に住んでいた魔術師が使っていた言葉で、恨みを返す、要は意趣返し、報復を意味する。

もっとも、この地独特の古き言葉を知るものは少ない。

そう、トラッヒはかって連盟で生活していた魔術師の血を引きし者であった。

だが、連盟は魔術を捨て、商業に軸を置き、魔法はすたれる。

しかし、その知識と血統は受け継がれていのであった。

「総統閣下、それはどういう意味でしょうか?」

思わずといった感じでルキセンドルフが聞き返す。

その問いに、トラッヒは優越感に浸りつつ答える。

「これはな、今はほとんど使われなくなった古い言葉で報復という意味だ。この作戦にぴったりではないか」

「確かに。その通りでございますな」

納得したのか、ルキセンドルフは頷くという。

「では、今後、この作戦は『グローレバンシーレン』と呼称いたします」

「うむ。吉報を待っておると伝えておけ」

「ははっ」


こうして、共和国侵攻艦隊による共和国首都の近くにある港の内、現在最も活気があり海軍本部のあるルルンパーア主港を攻撃する作戦『グローレバンシーレン』は発動したのであった。



作戦会議室に集まった面子の前で、伝令の兵が報告していく。

その内容は、本国からの作戦許可とトラッヒが命名した作戦名の二つだ。

共和国侵攻艦隊の主力艦隊司令であり、共和国侵攻艦隊の指揮を任されているリヘラソン・リベンドラ少将は本国からの返信を聞き、ニタリと笑った。

提案した作戦に許可が下りたということもあったが、それ以上に彼を喜ばせたのは、総統閣下自ら作戦名を命名されたである。

実に名誉なことだ。

彼はそう思っており、この作戦に勝てば、益々総統閣下に自分の名前を覚えてもらえるいい機会だと思った。

彼は野望に燃える男であった。

いつしか海軍全体を率いる。

その才能はあるし、自分に相応しいとも思っていた。

だからこそ、この作戦は、自分の有能さを総統にアピールする絶好の機会と判断したのである。

彼は作戦承認の方を受け、直ぐに共和国侵攻艦隊の再編成を宣言する。

艦隊を大きく五つに分けたのである。

五つの内、二つは現在連盟海軍が主港としている港の警備防衛の為の少数の艦隊であり、残りの三つが実働部隊である。

第一艦隊、第二艦隊、第三艦隊と命名された三つの艦隊の編成は、第一艦隊が重戦艦を中心とした主力艦隊、第二、第三艦隊が装甲巡洋艦や仮装巡洋艦(商船や貨物船を改修して巡洋艦並みの火砲を装備した艦船)を中心とした遊撃艦隊である。

現時点で、入手出来ている連合海軍の戦力は正確ではないものの、艦数はそれほど多くのないこと、脅威として認識しているのは、帝国の戦艦シャルンホルストという認識であった。

そこで、艦隊を第一、第二艦隊を囮として連中の戦力を分散し、その間に第三艦隊でルルンパーア主港を叩くという作戦を計画したのである。

基本、こういった作戦で囮となるのは、主力艦隊ではなく足の速い艦艇で編成された遊撃艦隊がほとんどだ。

しかし、今回、敵にには戦艦シャルンホルストという化け物がいる。

その化け物相手に、装甲巡洋艦や仮装巡洋艦では歯が立たないだろうという事と、その化け物を我らが叩き潰してやるという思いがある為だった。

だからこその主力艦隊の第一艦隊を囮としたのである。

「今回は、貴官の率いる第三艦隊が主役だ」

リベンドラ少将はそう言ってラッドハイダ・ベントラチュー中佐に視線を向ける。

「はっ。ありがとうございます」

彼はそう言って恐縮した様子で頭を下げる。

ベントラチュー中佐は、元々リベンドラ少将の士官学校の後輩の一人であり、彼と同じ故郷の出身者でもある。

また、士官学校の時から成績もよく、使える男と思って何人か人事部に回して回してもらった幹部候補の一人であった。

「作戦開始は一週間後の1月15日となる。それまでに艦隊の補給や準備を終えて、作戦海域の情報を把握しておくように」

「はっ。了解しました」

そういって敬礼するとベントラチュー中佐と第三艦隊の関係者が退出していく。

それを見送った後、第二艦隊の指揮をとるランクラーナ・タシラム大佐がリベンドラ少将に聞く。

「彼で大丈夫ですか?実戦は経験ないと聞いていますが……」

「確かに実戦経験はない。だが、そうも言ってられんからな」

これからよりのし上がっていこうと考えているリベンドラ少将としては手駒は多い方がいい。

それも優秀ならなおさらだ。

だからこそ、実戦で経験を積んで欲しいという思いが入った抜擢なのだ。

また、やつならそうそう裏切ったりはしないだろうしな。

そういう確信もあってのことだった。

「それにだ」

そう言ってリベンドラ少将は言葉を続ける。

「補佐としてニカケラ少佐を付けておく」

その名前が出てくるとタシムラ大佐は納得したような表情になる。

先の戦いで戦死したミラトム大佐の副官であり、ミラトム大佐が死亡した後の指揮を執り、残存艦隊を無事撤退させた指揮は高く評価されていた。

タシラム大佐も知っているのだろう。

「あいつならうまくやるでしょうな」

そういって頷く。

こうして、共和国侵攻艦隊は作戦『グローレバンシーレン』の準備を着々と進めていたのであった。



近々、連盟海軍が動く。

その情報は、すぐ様、共和国側に漏れていた。

いくら警戒し、隠そうとしても、艦隊が動く際にはその分多くの物資や燃料が必要となり動く。

ましてや自国ならともかく、ここは敵地である共和国内だ。

その動きは直ぐに共和国側に知れ渡ってしまうのである。

その報を聞き、共和国軍最高司令官として指揮を執るビルスキーア・タラーソヴッチ・フョードルはすぐさま各港に警戒するように指示を出すのと同時に多国籍海軍の司令官である毛利中将の元に情報を知らせた。

「ついに動いたか……」

その報告を受け、毛利中将は短くそういうと副官に多国籍海軍各艦隊に『敵艦隊に動きあり。補給、準備を行い作戦開始を待て」と伝えるように指示を出した。

そして、テーブルに広げてある海図に視線を落とす。

その海図には、赤色で色々と書き込まれており、その上には駒がいくつか置かれている。

それは多国籍艦隊の各艦隊の停泊している位置である。

「さて、敵はどう動くか……」

バントコラ軍港攻略戦の時と違い、今回はこちらに完全に任せられている。

また、恐らく敵はかなりの艦隊戦力を投入するだろう。

その分、この戦いは重要であり、敗退すれば、今後の戦いに影響が大きい。

その分、責任は重い。

以前の自分なら間違いなく怖気づくだろう。

だが、毛利中将は怖さと同時にワクワクした気持ちが湧き上がっているのを自覚した。

そして、自分を見て喜ぶ娘の姿が浮かぶ。

あの()に自慢できる父親にならないと。

そんな事を思う。

以前なら真っ先に逃げ出していたんだろうけどな。

そんな事を思いつつ苦笑すると、海図を見つつ毛利中将は思考は走らせていく。

そして思考はいつの間にか一つのことのみを考えていた。

自分が敵ならばどうするかを……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ