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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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バントコラ軍港攻略戦  その2

帝国艦隊と連盟第三艦隊が戦闘に入った頃、バントコラ軍港に近づく艦隊があった。

真田少将率いるフソウ連合第一外洋艦隊である。

「よしっ。各艦砲撃用意ーっ。駆逐艦は、敵の雷撃艇などに注意せよ」

真田少将がそう命令を下す。

駆逐艦六隻が警戒に当たる様に港側と沖合に移動し始める。

そして、旗艦である戦艦キングジョージV世とプリンスオブウェールズ、重巡洋艦ケントとコーンウェールが一定の距離を取りつつ港に向かって一列に並ぶと主砲が港に向けられた。

「各艦準備整いました」

その副官である三上大佐の声を受け、真田少将は頷くと口を開いた。

「砲撃始めっ」

その命令を受け、戦艦二隻の主砲である35.6㎝砲二十門と重巡洋艦二隻の20.3㎝砲十六門が火を噴いた。

轟く爆音と爆煙が辺りに広がる。

そしてしばらくの間をおいて、まずはバントコラ軍港に停泊している艦船に爆発が起こる。

「動かない目標であり、停止しての砲撃という条件なんだ。外すようなみっともない真似はするなよ」

真田少将が双眼鏡で結果を確認しつつ檄を飛ばす。

次々と港に停泊している輸送船や艦船に砲撃が命中していく。

ある艦船は真っ二つに折れ、ある艦船は傾いて沈み、ある艦船は爆散していく。

それでも、停泊している艦船からの反撃はないし、迎撃の為に動こうとする艦船もない。

ましてや、港を守るために設置されている砲台からも反応がなかった。

「舐めすぎたな」

その有様を見て真田少将が呟く。

恐らく奇襲をかけてくる相手は共和国艦隊だけと思い込み、動ける戦力全てをそちらに向けたのだろう。

また、制海権をしっかりと把握している為、敵の艦艇による攻撃はないと思い込み、港の防衛部隊もろくに配置していない様子だ。

その結果がこれである。

「無様だな」

そう言葉がこぼれる。

そんな中、「そろそろ次の目標に移ってもよろしいかと……」と三上大佐が進言する。

実際、今の砲撃で港に停泊している艦船のほとんどは大破し、転覆や傾斜して着底してしまって動けないだろう。

「よしっ。次は倉庫や物資だ。クレーンや施設にはなるべく当てるなよ」

今後のことも考え、真田少将はそう命令を下す。

多くの港が機雷による封鎖の為使えない以上、間もなく始まる反抗作戦でバントコラ軍港も活用する必要性がある為である。

各艦の主砲が目標を変える為、動いていく。

さっきまで響いた爆音が鎮まり、主砲が動く機械音と海の音だけが辺りを支配する。

辺りを覆いつくすかのような爆煙が段々と晴れていく。

そして、ピタリと主砲の動きが止まると再び砲撃が始まったのであった。

次々と放たれる砲弾。

吹き飛ぶ倉庫や積み上げられた物資。

完全に一方的なワンサイドゲームである。

本当なら反撃の一つもしたいところだろう。

だが、港にいた連盟の兵士達は逃げ惑う事以外に出来る事はない。

本当なら、ここに配備されるはずだった野砲は全て最前線に送られ、港に元々備え付けられていた砲塔の為に用意されていた砲弾は撤退時に回収されたか破棄されてしまっており空っぽだった。

つまり、沖にいる敵艦隊に届く火砲は一門もなかったのである。

こうして、バントコラ軍港の集められていた多くの物資は吹き飛び、燃えて塵と化し、本来の目的で消費されることはなかったのであった。



バントコラ軍港が攻撃を受けている。

その報はすぐに第三艦隊に届けられたが、多大な被害を受け帝国艦隊と共和国艦隊の攻撃から離脱するのに精いっぱいだった第三艦隊は、バントコラ軍港に戻ることはなかった。

戻ったところで勝ち目はない。

第三艦隊の指揮官であるリベンターゼ提督はそう判断したのである。

その判断は間違ってはいない。

ただ、詰めが甘かった。

バントコラ軍港を迂回して最も近い味方の軍港に向かおうとしたものの、動きを水偵に監視されていた彼らを待っていたのは毛利艦隊の駆逐艦によって編成された水雷戦隊であった。

手ぐすね引いて待ち構えていると言った方がしっくりくるだろうか。

四隻の駆逐艦で構成された水雷戦隊は、ボロボロの第三艦隊に襲い掛かる。

精も根も尽き果て疲労困憊であった第三艦隊になす術はない。

その結果、次々と沈められ、何とか味方の軍港まで逃げ延びた艦艇は皆無であった。

こうして、バントコラ軍港攻略作戦は、大成功を収める。

艦艇の被害だけで見ても圧倒的であった。

味方の艦隊の被害は実に軽微で、反対に連盟側は、第三艦隊及び多くの輸送船を失ったのだ。

その上、連盟は最前線に送る予定だった大量の補給物資を失っただけでなく、メインとなる輸送ルートを失ったのである。

それは海軍だけでなく、陸軍にも大きな影響を与える事となった。

ただでさえ補給が滞り始めていた矢先に、実に最前線に八割近い物資を送るルートを失ったのだ。

その被害は甚大であった。

また、その報を受けた共和国侵攻軍団の上層部は混乱した。

ただでさえ予想外のフソウ連合の航空攻撃によって物資や指令系統に被害を受けているのである。

その上、後方だけでなく前線の方にもフソウ連合の攻撃が始まり、侵攻速度は一気に落ちた。

被害だけでなく、味方の士気の低下と反対に敵の士気は大きく上がり抵抗はより激しくなっていく。

完全に流れが変わった。

そう言っていいだろう。

だから、誰もが撤退すべきだと考え始めていた。

だが、言い出せないでいる。

せっかくここまでやったのに反対したら批判されるのではないかという事とそれはこの好機を逃すべきではないという思いが強い為であった。

また、本国への報告をどうすべきかという事もある。

その結果、結論が出せずにダラダラと時間だけが過ぎていき、共和国侵攻軍団の被害はより大きくなっていく。

このままでは駄目た。

そう判断したアベリッツ少将は席を立つ。

そのアベリッツ少将の動きに、司令部の幕僚の一人が驚いて声をかける。

「ど、どうしたのだ?」

「このままでは時間の無駄なので、自分の部下達に撤退を命令しておこうと思いまして」

皮肉たっぷりにそう言ったあと、ニタリと笑みを漏らして「自分の大切な部下達の命は惜しいのでね」と念を押すかのように言って天幕を立ち去ろうとする。

その態度と言葉に立腹した幕僚の何人かが怒りの声を上げる。

「いい加減にしたまえっ。独断専行は許さんぞ」

「いくら今まで功績のある貴官でもそれは聞き捨てならん」

だが、それらの声に対して白けた視線を向けるアベリッツ少将。

だが、そのアベリッツ少将の動きに合わせて立ち上がった者がいた。

ヴァスコ少将である。

「私もアベリッツ少将の意見に賛成です。このままでは被害が大きくなるばかりだ。それに多くの物資を失った以上、侵攻は出来ません。それでも戦い続けたい方はその方だけで勝手にすればいい。私は撤退させていただく」

予想外の援護射撃にアベリッツ少将が驚いた顔になった。

その表情を見て、ヴァスコ少将はニタリと笑みを漏らす。

今まで反対意見同士をぶつけ合う事しかしていなかったが、もしかしたら意外と話が合うかもしれん。

ふと、アベリッツ少将はそう思ってしまった。

それ程印象的な笑みであった。

そして、その発言によって会議の流れが変わる。

今まで水と油と言われて合わなかった二人の意見が初めて一致したのである。

それは今がそれだけ危機的な状況であるという事を周りに認知させた。。

それ故に、その場にいた多くの者達が驚き、そして慌てて二人の意見に声を上げて賛同し始め、共和国侵攻部隊司令部は、本作戦を中止して撤退する事を決定する。

だが、その被害は大きく、この後、連盟軍は防戦一方となる。

それはこの戦いで失った戦力とメイン補給ルートを失った事で満足な補給を受けられなくなった事が大きかった。

こうして侵攻作戦は失敗し、連盟は絶好の機会を失ったのである。

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