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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十八章 共和国 対 連盟

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襲撃

次々と連盟軍から波状攻撃が仕掛けられていく。

今までにない激しいものだ。

しかし、今までなら堅固な陣と各陣の連携で難なく対処できるはずであった。

だが、各陣はそれぞれ迎撃はしているものの、後方の混乱と焦りで連携は取れなくなり、兵士達は浮足立っている。

その結果、抑えきれなくなった陣は次々と突破され、幾層にも重ねられた防御ラインももう後がなくなりつつあった。

そんな中、最終ラインで必死になって部隊長が叫ぶ。

「いいかっ。ここを突破されれば、もう後がないっ。敵をここで止めるんだっ」

その言葉に、兵士達は焦りと不安を飲み込み、踏みとどまって迫りくる連盟軍に向かって攻撃をし続けている。

「弾薬いそげっ」

「くそっ。隣がやられたっ。誰か入ってくれっ」

「負傷兵を運び出せっ。それと増援を呼んで来いっ」

怒号と叫びが飛び交い、恐怖と不安が辺りを支配していた。

誰もが自分が出来る事を必死になってやっている。

だが、このままでは駄目だ。

彼らだってわかっているのだ。

しかし、それでも彼らは必死になって足掻いていた。

自分らの後ろにはもう誰もいないと判っているから。

彼らはただ守りたかったのだ。

自分の大切な人々を。

彼らの家族が、友人が、自分らの後ろには生活しているのだと。

彼らを守る為、その生活を守る為、共和国兵士達は必死になって抗っているのである。

しかし、激しさを増す連盟軍の攻撃。

それにより、兵士達はまた一人、また一人と倒れ、防御ラインは削られ、陣が陥落していく。

そして、その陥落した陣の塹壕を使って左右の陣を連盟軍は攻撃し陥落させていく。

その結果、崩れた防御ラインは最初はほんの一角だったが、それは段々と周りに広がっていく。

実際、最初の戦いのような勢いはなかったが、その攻撃はじわじわと侵食するかのように次々と陣を陥落させ続けており、あれほど強固で連日連盟軍の猛攻を防いだ共和国の防御ラインは、まるで紙を切り裂くように分断され、まさに陥落寸前になってしまっていた。

前線の兵士達は気が付いていた。

誰もがもう持たないと。



次々と入ってくる圧倒的不利の報告に、防御ラインの総指揮を任せられているマクトーラ中将は、なすすべがなく天を仰ぐ。

後方混乱を何とかするため、予備戦力を回して対応しており、今の手持ちの戦力では最前線に回せる戦力はそれほど多くない。

その上、その予備戦力は、後方に敵部隊を発見して戦闘になっており、予備戦力を前線に回すことも不可能であった。

しかし、それでも彼は軍人であり、祖国愛の強い男であった。

ぐっと手を握り締めると視線を前方に戻して命令する。

「首都司令部に現状の報告。それと近辺に展開中の味方部隊に応援を要請。それと後方に防御ラインの構築を急ぐようにと伝えろ。あと、前線の兵士達に物資を送れ。弾切れに絶対させるな。後、このあたりの警備の兵も全て送れっ。前線が突破されれば、ここの警備の兵くらいではどうしょうもないからな」

その命令に部下達は表情を引き締める。

「了解いたしましたっ」

自分達が今すべきこと、やるべきことがわかったのだ。

だからこそ、彼らは吹っ切れた。

やってやろうじゃないか。

もちろん、祖国の為にと思うものもいた。

だが、その多くは、自分の家族や知り合い、友の為という思いであった。

こうして、なんとか共和国防御ラインの兵士や指揮官達は必死に防ごうとしていたが、それでも何とかなるレベルを超えていた。

そして、誰もがあと半日持てばいい方だと思い始めていた時、そのバランスを崩す一撃が叩き落された。

それも空から……。



聞きなれない甲高い音が辺りに響く。

きぃぃぃぃぃぃぃぃーーんっ。

サイレンのような音。

それが辺りに響く。

どこでなっている?

最前線の味方部隊が敵の防衛ラインを食い破り、少しずつ拡大させている。

その結果、ここは比較的安全なはずだからだ。

前線に近い補給所で警戒に当たっていた兵士達が辺りを見回す。

その時、一人の兵が気が付く。

「お、おいっ、あれっ……」

その兵は空を指さした。

雲の隙間から次々と点がこっちに向かってくるのだ。

「おいっ。ありゃなんだ?」

慌てふためく兵士達。

それはそうだろう。

彼らは飛行機を見たことがない。

それどころか、飛行機という存在さえ知らない者達ばかりであった。

そんな中、どんどん音が大きくなっていき、点は形を成していく。

それはまるで鳥のような姿であった。

もっとも、彼らにはそれが悪魔のように見えた事だろう。

それらは次々と爆弾を落としていく。

次々と集められていた補給物資や乗り物に爆弾が命中して爆発していく。

誰もが悲鳴を上げて逃げまどう。

反撃しなくては。

だが、それを実行したものは誰一人いなかった。

誰もが銃を投げだして身を隠して空を見上げる。

神に祈り、ガタガタと震えて。

ただあたりに響くサイレンのような音。

そして、飛び込んてくるかのような黒い影の物体。

それはその場にいた多くの兵士達の心に悪魔として刷り込まれるのに十分であった。



「なにごとかっ」

自分の部隊が駐屯する司令部に戻り、戦線の報告を聞いて一息入れていたヴァスコ少将は、響くサイレン音に驚愕して司令部となっているテントから飛び出した。

彼の目に映ったのは、上空から襲い掛かる黒い影である。

そしてその影は、爆弾を投下して前線の方に飛んでいく。

大きな爆発音が響き、司令部近くの建物が吹っ飛ぶ。

その爆風にヴァスコ少将は吹き飛ばされ地面を転がったものの、すぐに影を目で追う。

彼は見たのだ。

所翼の裏に描かれた国籍マークを。

そして、呟く……。

「フソウの悪魔めっ。ついにきたか……」

彼は飛行機という兵器を知っていた。

だが、実物はまだ見たことはなかったがその有効性をすぐに把握した。

そして気が付く。

不味い。不味いぞ。

「誰かいるかっ」

何度も叫ぶ。

慌てて彼の副官が走ってきた。

「司令官、御無事でしたかっ」

その言葉に、返事を返さずヴァスコ少将は最前線を見つつ言う。

「最前線へ戻るぞ」

その言葉に、副官が驚く。

「お待ちください。謎の攻撃で混乱しております。今すぐには無理です」

周りを見回し、ヴァスコ少将は舌打ちする。

味方の陣の建物や物資の山が崩れて煙が立ち込め、慌てふためく兵士達の様子が目に入ったのである。

「くそっ」

そう吐き捨てるも今の現状では、どう考えても無理なのはわかっていた。

しかし、それでも、彼は最前線に行くべきだと思ったのだ。

なぜなら、このままでは最前線は混戦し、作戦は失敗すると判ってしまったからである。

だが、それが出来そうになかった。

「くそったれっがぁぁぁっ」

そう吐き捨てるとヴァスコ少将は天を仰いだのである。

自分らを振った浮気性の勝利の女神を呪って。



次々と前線に近い連盟軍の補給物資の集積所や司令部が空からの攻撃を受けていく。

襲撃者の正体。

それはフソウ連合海軍所属の王国派遣艦隊の機動部隊に配属している艦載機たちである。

敵軍港攻略作戦の前倒しとともにビルスキーア最高司令官から毛利中将へのもう一つの依頼がこれであった。

王国派遣艦隊の機動部隊で前線の空からの支援攻撃をするという内容である。

しかし、現地の状況が把握できてないのでは支援できるはずもない。

下手をすると味方の共和国側を攻撃してしまう恐れすらあったからだ。

そうなると起死回生どころの話ではなくなる。

そこで毛利中将は確実な方法を取った。

前線より少し離れた間違いなく味方ではない敵補給物資集計所や司令部などを狙ったのである。

そして、その際は、敵を威嚇し、こちらの存在を示すような方法を選んだ。

要は前線の兵士達にも判る様にである。

その方法とは、追加派遣の軽空母に搭載されている九九艦爆にサイレンを取り付け、それを第一攻撃隊として編成し攻撃をさせたのであった。

次々と襲い掛かる九九艦爆。

その様子は、最前線で戦う連盟軍の兵士達にも見えていた。

そして、前線の状況を確認するために低空で最前線上空を飛ぶ爆撃が終わった九九艦爆。

その結果、彼らは見た。

その悪魔のような襲撃者の正体を。

主翼の裏側に描かれている真っ赤な丸。

そう、フソウ連合の国籍マークだ。

それを見て、共和国の歩兵の士気は沸き上がった。

「フソウ連合が援護してくれるぞ」

「おおおーっ。我々はまた見捨てられていないっ。勝つぞ」

そんな歓声が沸き上がる。

反対に連盟側は恐怖に襲われていた。

未知の兵器が襲い掛かってくるのではないかと。

怯え、そして攻撃が疎かになっていく。

段々と連盟軍の攻撃の勢いがなくなっていく。

そして、その後も続くフソウ連合の航空機の攻撃。

第一攻撃隊とは違って第二攻撃隊以降の機種が九七艦攻改の為、攻撃方法は急降下爆撃とはならなかったが、それでも一度空に敵がいると認識されるとエンジン音だけでも十分威嚇となった。

いや、もしかしたら耳に焼き付いたあのサイレンの音が無意識のうちに兵士達の脳内で再生されていたのかもしれない。

ともかく、その後もフソウ連合航空隊の航空支援は続く。

次々と爆撃され爆発していく味方の陣。

そして、何度も最前線上空を飛び回った結果だろうか。

確実に敵がいるところが把握できたためか、最前線近くで爆撃が終わった機体が連盟軍へ機銃掃射して帰っていく。

そうなると、最前線の連盟軍は上空から音が聞こえてくるたびに、前方だけでなく、上空も警戒しなくてはならない。

そんな有様で、戦いになるはずもなかった。

押していたはずが反対にじわじわと押され始め、奪い取った陣が取り返されてしまう事さえあった。

このままだと防衛ラインの突破は無理だ。

連盟軍の兵士達がそう思う始めた頃、遂に撤退命令が下される。

それは、占領した陣をすべて放棄して、撤退せよという命令であった。

その命令を決断させた要因としては、フソウ連合の上空援護という要素もあったが、大きかったのは連盟王国侵攻軍指令所にもう一つの報告がもたらされた結果である。

その報告とは、バントコラ軍港が攻撃を受け、駐留艦隊と補給艦隊が甚大な被害を出し、また施設に備蓄してあった多くの物資が失われたという内容であった。

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