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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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名無しの島にて……

王国と共和国の間にある海域。

そこでも中間に位置する小さな島がある。

無人島であり、余りにも大陸から離れすぎている事と王国と共和国が停滞していた時の取り決めで緩衝地帯として放置されていた島である。

名前は、ナッカーラーザ。

古代ヘラブニード語で名無しという意味だ。

普段なら、船舶の航路からも外れており、何もない場所ではあったが、今、その島の周りには、十数隻の艦艇が停泊していた。

大きさは、フソウ連合の基準で言えば、駆逐艦サイズから、中型艦サイズぐらいまでといったところだろう。

その中でも一際大きな艦艇があり、それを中心にいくつかの重巡洋艦程度の中型艦艇が停泊しており、駆逐艦サイズの艦艇が辺りを警戒していた。

その中心にいる一際大きな艦艇。

それはフソウ連合王国派遣艦隊に所属する一隻である間宮型給糧艦の外洋艦隊向けの量産型の一隻である宮古である。

そこの一室でこの世界初の事が行われていた。

四か国による海軍代表者同士の会合である。

その内訳は、フソウ連合、帝国、共和国、王国となっている。

誰もが緊張していた。

初顔合わせのものが多い為であったが、それ以上に四つの国の軍関係者が会合すること自体が初めてなのである。

今まで最大は、王国と共和国がフソウ連合に調停を求めてきたときに集まった三ヵ国である。

だから、テーブルに四つの軍代表者が揃った時、それを知っている者は内心感動したに違いない。

もっとも、そんな事を思っている者は一人もいない。

今から始まる話し合いの内容に皆気がとられていたからである。

そんな中、まず口を開いたのは共和国軍最高司令官であるビルスキーア・タラーソヴィチ・フョードルであった。

「今回は共和国海軍に協力、支援して下さる現場の皆さんに集まっていただき、感謝しかありません」

初戦の大敗で共和国海軍は大損害を受けた為に海上での作戦は実施していないものの、陸上ではビルスキーアの策に合わせて共和国軍はいくつかの動きを行っていた。

その一つが、防御ラインの構築による敵の侵攻の足止めと民兵を使った後方かく乱と前線への陸路での輸送への負担増加である。

また、反抗作戦の為の策も次々と手を打ち進めていたが、それでも制海権を押さえねばどうしようもない。

そこで、協力してくれる各国に支援と援助だけでなく、海軍戦力の増援を依頼したのである。

その結果、派遣された艦隊戦力の司令官がこの場に集まったのであった。

「まぁ、うちも艦隊戦力の多くが傷つき動けない有様だから、大戦力を回せませんが、明日は我が身ですからな」

そう言って苦笑したのは、王国から派遣された艦隊の指揮を執るカラネア・パンドゥラ少将である。

彼は、ミッキーハイハーン率いるミッキー艦隊の幕僚の一人で、今回の派遣に合わせて昇進。

共和国派遣艦隊の司令官となった人物である。

彼が率いる王国の派遣艦隊は、駆逐艦(旧艦種:装甲巡洋艦)六隻、巡洋艦(旧艦種:戦艦、重戦艦)二隻の八隻で、数こそ少ないものの、勝利したとはいえ先の連盟との海戦の被害と王国の現状を考えれば、かなり無理をしていると言えるだろう。

だからこそ、彼の発した明日は我が身という言葉も納得できる言葉となっていた。

その次に発言したのは、帝国から派遣された艦隊を率いるサウチェスコ・ラバーン・クラシエウド少将である。

彼が率いる帝国派遣艦隊は、戦艦シャルンホルストを旗艦とし、装甲巡洋艦四隻、駆逐艦(峯風型改)五隻の十隻。

彼は、ビルスキーアの元同僚であり、帝国と公国に分かれたものの、何度も顔を合わせたことがある。

だから、彼はビルスキーアを見てニヤリと微笑んだ。

「どちらにしても、以前は敵ではあったが、今回はかつての友人の力になれるならうれしい限りだよ」

その言葉から、ビルスキーアは、帝国のアデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチ皇帝がこっちに気を回して彼を艦隊司令に任命したのだと理解した。

思わず漏れる苦笑。

かっての傍若無人で周りを嵐のように引っ掻き回す黄金の姫騎士時代とは雲泥の差だと思って漏れた苦笑である。

だが、それを慌てて引っ込めると表情を引き締め直して言う。

「ああ。今回は力を貸してくれ」

そして、最後に口を開いたのは、フソウ連合から王国に派遣されている艦隊、通称毛利艦隊を率いる毛利照正中将。

派遣された当初は少将であったが、前回の連盟の王国侵攻艦隊との戦いで昇進したのである。

もっとも、その功績だけでなく、追加戦力として王国に派遣された第一外洋艦隊の艦隊司令である真田少将とのこともあり、指揮系統をきちんとするためということもあると毛利中将は予想していた。

ともかく、こうしてまた階級が上がり、段々と責任が重たくなっていくのは余り気に入らないが、今はそんなことを言っている場合ではないと判っている。

だから、あえて昇級もうけたし、反抗作戦への出来る限りの協力という指示も受け入れたのである。

もっとも、心の中では早く娘に会いたいと思ってばかりいたが……。

ともかく、当たり障りのないことを言っておくに限ると思って口を開く。

「フソウ連合海軍としては、出来る限りの協力は惜しまないつもりであります」

その言葉に、ビルスキーアはほっとした表情になった。

その表情で、毛利中将は嫌な予感が頭をかすめる。

そして、それは当たりだった。

「実はだね、私は陸上の防衛戦と反抗の上陸作戦の方で手が回らない有様でね。海での戦いは、貴官に任せたいと思っていたんだよ」

その言葉に、毛利中将は慌てた。

まさかこっちに振られるとは思っていなかったのである。

「し、しかし、私はあくまでも第三国の支援艦隊の指令官であります。共和国の海軍を指揮する権限は……」

しかし、その言葉の続きをビルスキーアは言わせなかった。

「心配しなくてもいい。余所者の私が共和国の軍総司令官に着いたのだ。貴官が海軍戦力をまとめて率いても問題ない。それにだ、アリシア様からも許可は受けている」

「しかしですな……」

なんとか、それだけは回避したいと思って毛利中将は何か言おうとするが、それをビルスキーアは言わせない。

「それにだ。戦力のフソウ連合の所属のものも多いし、他国もフソウ連合の指揮下でならという承諾も頂いている。それにだ、彼らの中で階級も君が上のようだしな」

すでに根回しが済んでいる。

そして、もう一つわかった事。

そう。そこまで含めての急な昇級でもあったのである。

反論できなくなって天を仰ぐ毛利中将の脳裏に無害のようなにこやかな笑みを浮かべて笑っている鍋島長官の顔が浮かぶ。

あの人、きっと腹黒い人だっ。

見かけに騙されたっ。

だが、そう思い返す。

そう言えば、いつも騙されてきてばかりだったことに。

くそっ。任務が終わったら、絶対に文句を言ってやる。

そう誓うと、毛利中将は共和国海軍の残存戦力と各国の支援艦艇の総指揮を引き受ける。

もう逃げ道はないと判ってしまっていたからだ。

承認しつつ苦虫を潰したような表情の毛利中将をビルスキーアは面白そうに見る。

資料通りに、いやそれ以上に面白そうな人物だと。

なお、フソウ連合の軍人の中でも、国外の知名度の高さなら毛利中将は上位三人の中に入る。

アルンカス王国での攻防戦や王国派遣艦隊での働きなど情報が手に入りやすいという事もあるが、それだけでなく、数々の発言や行動などもかなり評価が高い為だ。

また、フソウ連合の海軍を研究する者達によっては、圧倒的に不利の中、当時金の姫騎士と言われた現在のアデリナ・エルク・フセヴォロドヴィチ皇帝率いる帝国艦隊を撃退した的場少将よりも高く評価している者も多かった。

実際、ビルスキーアは毛利中将を高く評価している人物の一人である。

だからこそ、昇級の件をフソウ連合本国に大使館を経由して手回ししてまで、海の方を任すと決断したのである。

そして、そんな毛利中将に言う。

「ふむふむ。快く引き受けてもらった事だし。これからは海での戦いは全て毛利中将にお任せしたいところだが、ただ最初の作戦だけはこっちの意向を聞いてもらわねばならん」

その言葉に、毛利中将は渋い表情を真剣なものに変えた。

やる以上は、全力で責任を果たす。

それだけでもその意志がはっきりとわかる。

そして、毛利中将は口を開いた。

「恐らく、今後の戦い、反抗作戦と上陸作戦の為の布石と考えてよろしいですかな?」

その言葉に、ビルスキーアはニタリと笑う。

「その通りです。さすがですな。それで、中将ならどうしたらよいかと思いますか?」

作戦は決まっている。

なのにビルスキーアはそう聞いてきた。

つまり、自分を試しているのかと毛利中将は考えたが、それは実際には違っていた。

ビルスキーアとしては楽しかっただけなのだ。

自分の考えを理解し、反応を返してくれる毛利中将との会話が。

だからこそ、ビルスキーは笑って聞いたのである。

少し、考えをまとめると毛利中将はゆっくりと口を開き言葉を選びつつ言う。

「我々がやることはシンプルです。共和国領海を支配する連盟の海上戦力を叩き潰す事。それにより、制海権を取り戻す。それだけです。ですが、現時点で真っ先にやらなければならないのは、敵の前線への補給路を断ち、上陸作戦を展開するための制海権を得る事です」

その言葉に、ビルスキーアは楽し気に頷くが何も言わない。

それは先に進めていいという事だ。

だから、毛利中将は言葉を続ける。

「それらから考えられるのは、現在、三か所ある連盟海軍が運用する港で、最も前線に近い港とそこに駐留する敵艦隊の攻略といったところでしょうか」

そこまで言った後、ビルスキーアは拍手をする。

「そこまでわかっておられるとは。海軍の指揮官に指名した甲斐があると言うものです」

そして、用意していた作戦計画書を全員に配った。

『バントコラ軍港攻略作戦』

そう記入された作戦案を毛利中将を始めその場にいた全員が目を通していく。

作戦内容は、シンプルである。

少数の共和国艦隊で連中を誘い引きずり出した敵艦隊戦力を叩き潰し、港を利用できないように攻撃を仕掛けるのである。

だが、この作戦案を見た者のほとんどは、かなり高い確率で成功するだろうと予想した。

実際、初戦の戦い以降、連盟は共和国軍を舐め切っていたし、フソウ連合を始め多くの艦隊戦力が集まっているという情報を連盟にはまだ把握していなかった。

さらに初期の作戦の弊害が出始めていたのも大きかった。

現在、共和国領海に展開する連盟海軍戦力は、大きく三つに分けられている。

それは、中型、大型艦船を運用できる港が少ない為で、多くの軍港は、自ら用意した機雷で使用不要に陥ってしまっている為であった。

その為、三つの海軍戦力の拠点となっている港は、それぞれが離れ過ぎている為に連動がかなり厳しく、またバントコラ軍港に展開する敵艦隊の戦力は、輸送船団護衛をメインとする為、装甲巡洋艦や商船改造の艦艇が多かった。

つまり、戦力的にも、情報戦でも、また地理的要因、さらに兵士や士官の士気や思考さえもが圧倒的に共和国側が有利であるという事だ。

「確かに。十中八九勝てますな」

そうは言ったものの、毛利中将の表情は厳しいものになっていた。

確かに、この戦いは勝利はする。

だが、その後はかなり苦労しそうだと思ったからである。

この戦いにおいて、連盟海軍の連中は、我々が対抗するための戦力を持っており、準備が整っている事を知るだろう。

そうなれば、間違いなく戦力を集中運用させるだろうし、反抗作戦が始まれば、連中としても総力戦を行い、短期で徹底的に共和国の海上戦力を殲滅させて制海権を取り戻すために動くだろう。

そして、そのとんでもなく大変な戦いの責任を自分は背負い込まなければならない。

そうわかっているだけに、深いため息が漏れる。

しかし、投げ出したいとは思うが、そうする気はないし、適当なことでお茶を濁すつもりもない。

やる以上は徹底的にやってやる。

毛利中将は、そう再度決意する。

「わかりました。この作戦の準備を進めつつ、その後の作戦に関しても各提督との話し合いを設け至急準備したいと思います。恐らく、この戦いの次の戦いはは、短期決戦、総力戦となるでしょうから」

毛利中将の返事と表情から、彼の考えと意思、そして決意がわかったのだろう。

ビルスキーアは益々楽し気に笑った。

ああ、彼を部下に出来ないものかと思いつつ。


なお、フソウ連合海軍軍人の海外知名度ベスト3は、鍋島長官、的場少将、毛利中将の3人となります。

ただ、順位は、国によって違いますがw

大まかに言うと、王国では、鍋島長官、毛利中将、的場少将の順で、帝国では、的場少将、毛利中将、鍋島長官。

共和国では、鍋島長官、毛利中将、的場少将となります。

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