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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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訓練視察

「しかし、本当にいかれるのですか?」

そう副官から言われてビルスキーア臨時最高司令官は苦笑する。

「最初からそう決めていたではないか」

「しかし、今、総司令官に何かあれば反抗作戦は瓦解します」

その言葉から、ビルスキーアの身を心底心配しているのがわかる。

勿論、祖国のためビルスキーアが必要だという事もあったが、この副官はすっかりビルスキーアを尊敬し、彼により長く仕えたいと思うようになっていたからである。

今や共和国にとって、いや共和国軍にとってビルスキーアは元帝国軍の将軍ではない。

共和国の命運を左右する共和国の最高司令官であるという認識で一致していたし、何より異邦の地から来たが仲間であり、祖国の為に戦う同士でもあった。

最初の頃とは違い、すっかり同胞として受け入れられていることにビルスキーアは内心微笑んだ。

祖国を捨て、この地で世捨て人として生きるつもりであったが、やはり私は生粋の軍人であったのだなと思うと同時に、第二の祖国となる共和国を守らなければという思いも強くなっていく。

だから、やれることはやらねばならない。

「大丈夫だ。それに聞いたところによると、フソウ連合では一般市民でさえ乗る機会があるらしいぞ。つまり、それだけ安全という事だ」

そう言って笑うと、待機している一人の男に視線を向けた。

黒い詰め襟の軍服を着こなし、軍帽を小脇に抱えて微笑んでいる男。

年の頃は三十後半といったところか。

短く整えられた坊主頭に、強い意志を示す太くて濃い眉。それでいて楽し気に笑っている口。

どう見ても共和国や王国の軍人ではなかった。

その男に、ビルスキーアは言う。

「ですな、少佐」

「はっ、その通りであります」

松本貞之少佐はそう答えて微笑む。

彼は、フソウ連合から共和国に派遣された軍人の一人であり、フソウ連合海軍参謀本部本部長新見中将の子飼いの部下の一人である。

フソウ連合製の兵器を使った共和国の反抗作戦の作戦立案の為に、今は一時的とはいえビルスキーア臨時最高司令官の元で働いているのである。

そして、今日は、二式大艇に乗って王国まで行き、作戦の要となる上陸部隊の演習訓練を視察する予定となっていたのであった。

確かに、報告書は来ている。

それによりとかなり練度は上がり、実戦に投入してもおかしくない程度までになっているときている。

しかし、それでもビルスキーアは訓練の視察を希望したのだ。

そこには、反抗作戦の要となる部隊の練度を見たいというのと同時に、フソウ連合の提案した上陸作戦がどの程度のものか実際に見ておきたいという思いも強かった。

「それにだ。『己の見たものこそ正しく、聞いたものだけで判断するな』というからな」

これは帝国にある古い格言であり、実は王国でも使われる格言でもあった。

ビルスキーアが笑ってそう言うと、副官はため息を吐き出す。

「わかりました」

そして、副官は松本少佐の方を見て言う。

「安全運転でお願いします」

「勿論ですとも」

こうして、ビルスキーア臨時最高司令官とその幕僚は、フソウ連合海軍王国駐在部隊の用意した二式大艇に乗ると王国に向かうのであった。



途中、王国と共和国の中間あたりに位置するフラッハト島に用意された臨時基地にて燃料を補給と休憩を挟んだ後、翌日の朝に一行をのせた二式大艇は王国の南部にあるハンベルダン基地に到着した。

ここは、連盟の潜水艦部隊の攻撃を免れた海軍基地の一つであり、フソウ連合から派遣された海兵隊と共和国の上陸部隊が拠点としている所でもあり、少し先に広がる砂浜が訓練場となっている。

「閣下、間もなく訓練が始まるとのことです」

松本少佐がそう言うとビルスキーア臨時最高司令官はニタリと笑った。

「特等席で見せてくれるという事だったが、どこかね、その席は?」

その言葉に、松本少佐はニタリと笑い返す。

「こちらです」

そう言って再び二式大艇の方へ案内された。

「ほう、上空からという事かね?」

「はい。着弾観測などで気球を使うという事は聞いておりますが、飛行機からの視察はそれ以上のものだと私は思っております」

「ほほう。楽しみだ」

こうして、再び二式大艇に乗り込んだ一行は、演習場所上空へと飛び立つ。

すぐ側に演習場がある為、すぐに機体は演習場に辿り着いた。

それを待っていたのだろう。

二式大艇に無線で連絡が入る。

演習開始の連絡だ。

沖合に待機していた艦船から次々と砲撃が始まる。

「今から始まるようですな。まずは沖合の艦隊からの艦砲射撃から始まります。今回は実戦さながらという事で、空砲を使っております」

松本少佐がそう説明する。

そして、艦砲射撃の間に大発を搭載した特殊輸送船から兵士をのせた大発が海面に次々と降ろされ、一等輸送艦からは特二式内火艇が発進して海岸目指して海面を突き進んでいる。

「ほほう。あれが例の?」

ビルスキーアの言葉に、松本少佐が同意する。

「ええ。特二式内火艇といいます。上陸作戦に特化した戦車といったところでしょうか」

この世界では、戦車という兵器は開発されていない。

それは海の占める割合が高く、六強と言われる各国が一つの小さな大陸で構成されており、また徹底的に最後まで戦うという事がなかったことから上陸戦が発達しなかったためである。

その為、戦車を保有するのはフソウ連合だけであり、王国も共和国も戦車という概念と兵器をまた一部の者しか知らなかったのである。

実際、ビルスキーアも先行して共和国に提供された一等、二等輸送艦のような上陸作戦に特化した艦船や兵器、戦車を始めとする陸戦兵器に対して見たことはあってもどの程度の戦力になるのか半信半疑であった。

それ故に、今回の演習訓練視察で、その兵器たちの性能を確認したくもあった事が、今回の視察を強く希望する要因の一つでもあった。

大体、兵器と言うものは酷使する以上、カタログスペックの性能を鵜呑みにするわけにはいかなかったもある。

砲撃が収まる。

そして、それに合わせて上陸部隊も動く。

大発や二等輸送艦の前に特二式内火艇が先行し、次々と海岸に上陸していく。

そして、その後を兵士が満載された大発が続く。

次々と兵士達が海岸に上陸し、先に上陸した特二式内火艇の後に続く。

それは、まるで侵食していくかのような動きだ。

そして、ある程度の上陸地点が確保できると二等輸送艦が海岸に接近し、前の扉を開く。

そこから次々と戦車やトラックなどの車両と兵士が吐き出されていく。

それはあっという間の出来こどであり、その敏速な動きは素晴らしかった。

「なるほど……。これは報告書どうり……いや、それ以上のものだな」

ビルスキーアは感心して唸るように言う。

予想はしていたが、ここまでとは思っていなかったのだ。

この世界での上陸戦は、艦砲射撃の後、沖合からボートやカッターで海岸に上陸するといった流れであり、その大まかな流れはこの演習も変わらない。

ただ、専用の兵器を使って訓練する事で、ここまで大量の兵力を短時間の間に敏速に展開出来るとは思っても見なかったのである。

視察に反対していた副官も驚愕の表情で、機上からこの場面を見ている。

「いかかですかな?」

松本少佐がニタリと笑う。

その笑みにはしてやったりといった感が漂うが、それをどうこう言う者はいない。

まさに、松本少佐が、いやフソウ連合の提案したままの上陸作戦が展開されているのだから。

「ああ。素晴らしいな。これでますます反抗作戦の成功する確率が上がったよ。フソウ連合海軍の上層部にもそう伝えておいてくれ」

「はっ。ありがとうございます」

「それと君が飛行機での視察を勧めた訳がよくわかったよ。これならば全体の展開がよくわかる」

そう言った後、ぼそりと呟く。

「飛行機か……。これがあれば……」

脳裏に浮かぶのは、かっての上司であった銀色の女性のことだ。

だが、すぐにそれを頭の奥に押しやる。

今は感傷に浸る事でも後悔する事でもない。

今やるべきことは新しい祖国と今の上司にどう報いるかという事だ。

感傷も後悔も、もっと年老いてすればよい。

ビルスキーアはそう思考すると声を上げた。

「よしっ。すぐに共和国に戻る。これで作戦実施のメドは立った。後は時機を待つだけだ」

そして、松本少佐に視線を向けた。

「派遣されているフソウ連合海軍の海兵隊の指揮官に今回の訓練とても参考になったと伝えておいてくれ。それと作戦開始まで今以上の練度と新しい部隊の教育を御願いするともな」

その言葉に、松本少佐は敬礼する。

「はっ。ありがとうございます。必ず伝えます」



こうして、ビルスキーア臨時最高司令官の訓練視察は終了し、共和国は反撃の準備を着々と進めていく。

反撃開始の時期である春、解放の春を迎える為に。

そして、その頃、共和国に派遣された各国の艦隊も動きを見せる。

上陸作戦をより円滑に進める為には制海権が必要だからだ。

中核となるのは、帝国から派遣されたシャルンホルストを旗艦とする装甲巡洋艦や駆逐艦合わせて十隻の艦隊と共和国の残存艦艇と合衆国から譲渡された護衛駆逐艦によって構成された艦隊である。

また、それに合わせて王国に派遣されているフソウ連合海軍艦隊、通称『毛利艦隊』も動く。

春までに制海権を取り、共和国に展開している連盟艦隊を叩き潰す。

その為にである。

実際、その為の情報収集すでには始まっていた。

諜報員だけでなく、反連盟の意思のある民間人の協力と飛行機による敵艦隊の戦力の把握と動きの監視、そして決戦場となる海域の情報収集と分析。

それらが急ピッチで進められているのだ。

こうして、連盟が連勝に酔いしれ油断しきっていく中、共和国を始めとする反連盟の軍は牙を研ぎ、飛び掛かって相手の首を引きちぎる準備を進めていたのであった。

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