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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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評価と対応

招集が終わった。

ざっと五時間近い話し合いがあり、今の時間は朝方の四時に近い。

だが結社の幹部たちは、休む暇もなく会合場所を離れていく。

ゆっくり休む暇などない。

彼らは、合衆国の政治以外の中枢を担う者達であり、今回の招集によって得られた情報によって決定した方針を実行しなければならない為だ。

また、今後はいくら時間があっても準備が足りないくらいの事が近々起こると確信している為でもある。

だが、全員が全員、すぐに会合場所を離れた訳ではない。

こういった機会にお互いの情報を交換する者達もいるのである。

招集の議題にはならないものの、常に些細な問題は起こっているのだ。

もっとも、本人たちは些細な問題と思っていても、第三者から見れば、どれもとんでもなく大問題ばかりだったりするが……。

ともかく、その対処の為には幅広い情報と意見が必要でもあり、違う分野からの助言で解決したりすることもあるからだ。

今日も会合場所の隣にある控室で、二人の幹部が酒を飲みつつ会話していた。

互いにまだマスクは外していない。

彼らがマスクを外すのは、自分の車に戻った時だ。

招集されたこの建物の中、或いは敷地内では、彼らは俗世の名前ではなく、魔術師の血である称号を名前とするからである。

「ふう……。今回の招集は、中々濃かったな」

そう言って持っているグラスを揺らすのは、『P』のイニシャルの刺繍されたマスクをかぶっている男だ。

年の頃は五十代といった感じだろうか。

かっちりと着込んだオーダーメイドのスーツを着こなしている。

髪の色も灰色になり、それをまとめて後ろに流している。

マスクをしているものの、見えている範囲の感じからかなりの渋いイケメンといった感じだ。

もっとも、少し腹が出ているのが残念だが、それも味になっている感じだ。

穏やかな雰囲気と落ち着いた雰囲気だが、彼の称号は『奪略者(Plunderer)』である。

実際、穏やかな雰囲気とは裏腹に、残虐で容赦ない人物であった。

「ああ。本当に。ここまで時間がかかったのは久方ぶりか……」

そう答えたのは、三十代ほどの年齢のビールの瓶を持つ男性で、マスクには『R』と刺繍されていた。

こちらもオーダーメイドのスーツ姿だが、色合いは明るめで、首元を緩めて服を着崩している。

もっとも、それがなかなか似合っており、雰囲気としては気のいいおじさんといった感じだ。

なお、彼の称号は『奪還者(Reclaimer)』だ。

実は二人共、金融機関の者であり、普段から付き合いのある間柄でもある。

からんっ。

グラスの中の琥珀色の液体の中に浮かんでいる氷を揺らして鳴らした後、『P』が一口飲んだ後に聞いてくる。

「それで、君はどう見たかね?」

敢えて誰とは言わない。

言わなくても十分わかるからだ。

そう。今回の招集を行い、とんでもない爆弾を議題にした男の事である。

「そうだな……。まぁ、初の招集からとんでもない爆弾を投下していったからな。今後もあいつの招集は無理してでも参加すべきだと思ったよ」

「確かに。大抵のものは、最初の招集からあれ程の爆弾は落とさんわな」

「ああ。最初は我々の力がどの程度のものか確信できずに手探りだからな」

そう言って『R』は苦笑した。

自分が初めて組織で招集した事を思い出したのだ。

だが、すぐに表情を引き締めると、口を開く。

「だが、あの男は、躊躇なくあの爆弾を議題とした。それは我らの力が対応できると判っているからだろうな」

そう言ってぼそりと言う。

「とんでもないやつだ。敵にまわしたくはないな」

そして、残ったビールを一気に飲む。

「ふむ。君がそう判断するとはなかなかの人物とみるべきだな」

「ああ。あの度胸と相手の思考を誘導する話し方はなかなかのものだ」

「ほほう。高評価じゃないか」

『P』がそう言うと『R』は苦笑する。

「まぁ、もしかしたら今回が偶々だったのかもしれんがね。次回以降も続くなら、ともかく、無能さを示した時は徹底的に潰させてもらおうか」

その言葉に、『P』は苦笑する。

「おお、怖い怖いっ。お前さんは、言った以上、本当にするからな」

そう言いつつも、多分そうならないと『P』は思っていた。

この男の人を見る目は確かであり、この男が褒めた男は有能である場合が多いからだ。

「それにだ。あの男には『C』の親父が後見人になっているからな」

「確かに。たしかあの男の祖父と『C』は親友だったらしいからな」

「ふーん。そうか。だが、それだけで後見人にはならんだろう。そんなに『C』が耄碌しているとも終えんしな」

そう言うと『R』はケラケラと笑う。

「『C』の事をそんな風に言えるのはお前さんぐらいだよ」

『P』もそう言って笑う。

ふたりは笑いつつ、思考する。

『E』に対しては、支持をした方が得策だと。

有能な味方は、何人いても困らないからだ。

魔術という信仰を持つ者としての繋がりはあるが、人は二人以上集まれば派閥が出来るという。

実際、秘密結社内でも、ある程度の派閥があり、それぞれの思いで動いていた。

今回のような国を揺るがす議題ならともかく、ちょっとした議題ではまとまらない事もある。

それぞれ利権やら権利が絡んでくると、簡単に思える事でも複雑になってしまうからだ。

そして、この世界は、遠慮や躊躇は負けである。

弱肉強食の世界なのだ。

だからこそ、数は力となるのだ。

無能でもいれば力となるが、どうせなら味方は有能で多い方がいいのである。

そして、そう思ったのは、この二人だけではなかった。

すぐに会合場所を離れたものの、招集に参加した幹部の全員が『E』を味方にすべく動く事となる。

もっとも、表立っては動かないだろう。

理由としては、彼が政府の関係者であり、下手な接触はすぐに周りにばれてしまうという事が大きい。

また、『C』が後見人になっている事もある。

中立であり、公平の判断をする人物ではあるが、人である以上、常にそうであるとは限らない。

下手なことをすれば、とんでもない事になってしまうかもしれないという恐れさえあった。

だから、多くの者は、彼の情報を集めて『E』がどんな人物であり、どんな思考をするのかを調査していくこととなる。

機会さえあれば味方に引きずり込もうと舌なめずりをしながら……。

こうして、今回、初めて招集した『E』は秘密結社の面々によって評価され、彼らは今後『E』に対してどう対応していくかの方針を決定していく事となるのである。

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