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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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秘密結社

首都の郊外にある大きな庭園のある一軒家。

そこは、誰も住んでいない空き家のはずだった。

その余りにも高い値段で買うものがいないという話で、しかし、放置するわけにもいかずにただ管理維持されているだけの物件であった。

いや、そう言う設定であったが、その屋敷は実は秘密結社の共有管理の屋敷の一つであり、招集の際の場所として利用されている物件の一つでもあった。

そして深夜。

日付が変わろうという時間帯。

空き家であるはずのその屋敷の最奥の一室に九人の人影があった。

蝋燭のみの灯りの中、円卓の周りにある十二の椅子の内、九つが埋まっている。

誰もがかなり上等の服を着ており、そのうち二人は女性のようだ。

ただ、どちらかというと暗がりの中という事と誰もが額にイニシャルを刺繡されているマスクをして顔を隠しており、誰が誰かわからないようにしてあった。

もっとも、ほとんどの者が誰が誰かはわかっている。

なんせ、素顔での付き合いもある者達がほとんどなのだから。

しかし、秘密結社では、素顔を隠し、魔術師としての自分を示すという事もあり、代々マスクをして参加するのが習わしとなっている。

もっとも、魔術師と言ってももう魔法を使う事は出来ない者達ばかりであったが、彼らは未だに魔術を信仰する者達であり、残された秘具(マジックアイテム)を使って祖先によって建国された祖国である合衆国をよき方向へと導くことを使命としていた。

そして、今の秘密結社の幹部は全部で十二人。

そのうちの一人が自分、アーサー・E・アンブレラであり、リンドルシェ語で『企業者(Entrepreneur)』を意味する『E』の称号を持つ。

少しうちの一族は変わっているとは思ってはいたが、まさか、祖父が建国に大きく関わっており、その上、こんな秘密結社の幹部のような血筋とは思っても見なかった。

出来れば知らないで済んだらよかったんだが……。

そう思考しつつ、集まった幹部達をぐるりと見まわす。

どの人物も一癖も二癖もありそうな連中ばかりという印象だ。

まぁ、ほとんどの人物達が経済やいろんな分野で合衆国を支配している連中だから、そうなってしまうのは仕方ないのかもしれないな。

大統領(アル)副大統領(デービット)が知ったらどんな顔をするだろうか。

そんなことを思っていると、議長であり進行役の『C』の称号を持つ人物が口を開いた。

「今日は、急な招集にも拘らず、こんなに集まっていただき感謝する」

そうなのだ。

ここに集まるのは各分野の重鎮と言ってもおかしくない人物ばかりであり、こんな急な招集に九人も集まるというのは普段ならあり得ない事であった。

自分の後ろで立ったまま待機しているアインの話では、普通の招集は集まったとしても五~六人程度であり、下手すると二人とかの場合も多いらしい。

それだけ、今回の招集は異常という事だ。

「ご注意ください」

アインが耳元でそう言ってくる。

ああ、わかっているよ。

ほとんどの視線がこっちに集まっているからね。

その視線のほとんどは、もちろん友好的なものではない。

見下し、敵意、興味といった色で染められており、味方は皆無に近いと感じている。

いやはや、本当に視線が痛いよ。

そんな事を思っている中、『C』の話は進んでいき、遂に今回の招集を発した自分の方に話が振られた。

さて、いっちょ、いきますか。

自分に心の中で発破をかけると口を開く。

「今回、私が初めて行った招集にこんなにも集まっていただき、感謝します」

そうは言ったものの、誰もがそんな些細な感謝はどうでもいいという感じで、ただ『E』を継承した若造がどんな人物か見極めようとしている雰囲気が感じられる。

つまり、今回の招集で、『E』を継承した自分の招集の重要度を計るつもりなのだ。

まぁ、そうだよな。

つまらん招集に行くほど時間に余裕がある人物は、ここには一人もいないのだから。

「さて、ここでダラダラと話をしても意味がないのと時間の無駄なので、さっさと本題に入りたいと思います。なんせ、『時間ほど高くつくものはない』と申しますからな」

『時間ほど高くつくものはない』

要は時は金なりといったいみだ。

それは合衆国で商売をしている者ならば誰もが知っている格言である。

その言葉に、数人が苦笑を浮かべた。

そして、その連中の視線が少し柔らかくなる。

面白い男だとか、話が分かりそうな奴じゃないかとか思われたのだろう。

まぁ、ますます険しそうな視線を向ける奴もいたが、それはそれでいい。

今から落とす爆弾は、そんなものを吹き飛ばすだろうから。

「実はですな。とある情報筋よりとんでもない情報を入手したのです」

そして、一呼吸おいて言葉を続ける。

「あの教国が再び過ちを犯す用意をしているという情報が……」

その言葉の後、場がざわつき、自分に向けられていた視線が離れていく。

理由は簡単だ。

今話した言葉が信じられずに自分から視線を外したのだ。

そして遂に幹部の一人がぼそりと呟くように言う。

「まさか……、決起を行おうというのではあるまいな……」

その呟きに、私は同意を示す。

「はい。その通りです。あの悪夢を再び起こそうとしています」

再び、場がざわめく。

「信じられん……」

誰かの呟き。

それがこの場のほとんどの者達の感想だった。

そして、一人が確認するかのように私を見て聞く。

「それは……事実なのかね?」

「恐らくは間違いないかと……」

そう答えると、またざわつく。

そんな中、『C』が口を開く。

「事実という証拠はあるのかね?」

「証拠は難しいですな。ですが、あり得ない事ではないかと。以前一回行っているわけですし、今の現状を考えれば……」

今の教国が以前と違って中立ではなく連盟を支持しており、裏で色々暗躍しているのは恐らくここにいる面子は誰もが知っているのだろう。

誰もがその言葉に反論しない。

そして畳みかけていく。

「もし、情報通りに教国が動けば、間違いなく合衆国(そこく)は危機を迎えるでしょう。それこそ、私も巻き込まれたクーデター未遂の比ではございません。それ故に、今回、無理を言って招集をかけたのです」

そう言うと場が静まり返る。

さっきまであった、侮ったり、軽視したり、吟味するような視線はもうない。

その代わり、真剣な視線が私を見ていた。

どうやら、やっと認められたようだ。

そんな気がして、心の中でほっと息を吐き出す。

すると一人が口を開いた。

「それで、その対策をどうにかしたいという事なのだね?」

「ええ。どこにドクトルト教信者はいるかわかりませんから」

そう答えると、質問してきた幹部が笑う。

「だが、そうなると我々の中にもドクトルト教信者がいるかもしれないのではないかね。実際、私はドクトルト教信者だぞ」

その言葉に、私は笑って言い返す。

「ええ。そう言う方もおられるでしょう。ですが、我ら秘密結社の者達は、それ以上に魔術を信仰し、祖国を愛していると私は思っております」

私の言葉に、質問してきた幹部は笑った。

そして、それと同時に、円卓の至る所でも笑いが起こる。

「わかっているではないか」

「本当にその通りだ」

「ふむ。さすがは『E』の称号を得たものよ」

それぞれがそんな言葉を発しており、まとめ役で議長を務めている『C』も笑っていた。

だが、すぐに表情を引き締めると口を開く。

「で、政府の方はどう動くつもりかね?」

「動きません」

「ほう。なぜかね?」

「情報漏洩の恐れが高いからです」

誰もが頷き、こっちを見ている。

恐らく、大統領夫人が熱心なドクトルト教信者という情報を知っているのだろう。

まぁ、結構有名だからな。

「ふむふむ。確かにな。その方がよかろう。あと、この事実を知っている政府関係者は誰かね?」

「副大統領のデービット・ハートマンが知っておりますが、彼にも口止めをしております」

「ふむ。よき判断だな」

そういうと『C』は私に向いていた視線を全員に向けた。

「では、それぞれ手を打つという事でよろしいかな?」

「そうですな。それがよいかと」

「ああ。ただ、情報の共有はしっかりしておく必要がありますな」

「では、定期的に情報共有の場を設けていきましょうか」

そう言う流れに、私は用意していた情報を提供する。

「では、まず最初の情報共有といたしまして、こちらお渡ししておきます」

その言葉に合わせて、後ろに控えていたアインが、用意していた資料を全員に配る。

そう、決起の情報と共に渡された摘発者除外者リストだ。

「これは?」

「今回の決起に反対する者達です。恐らく、それらの者達から情報は提供されたのでしょう」

その説明に、「なるほど」と誰かが声を上げた。

「しかし、監視は必要しておく必要がありますな」

「ええ。絶対という事はあり得ませんからな」

こうして、ドクトルト教の決起に対してどうすべきかが決まっていく。

その様子には迷いがなく、行うと決めた以上、そうなるしかないという自信が伺えた。

それは、彼らが合衆国ではとんでもない力を持っている事も証でもあった。

思わず口の中にたまった唾を飲み込む。

仕方なかったとはいえ、ここにこの情報を出してよかったのだろうか。

そんな気持ちが湧いてくる。

だが、他に手を打てない以上、どうしょうもなかった。

そんな中、自らをドクトルト教信者といった幹部の一人が発言する。

「対策はそれでいいと思いますが、私はこれを機会にもう一つ議題を上げたい」

『C』が目を細めて言う。

「ほほう……。どういたものかな?」

「そろそろ教国を解体しませんか?」

まるでそこらへんに売っている物を買うかのような手軽さで発言された言葉。

だが、その言葉はとんでもないものだった。

私は再びごくりと唾を飲み込む。

「確かに。さすがに目に余る暴走が続いてますからな」

「ふむふむ。確かに解体して力を弱める必要性がありますな」

「これ以上、引っ掻き回されるのは沢山ですからな」

そんな声が上がる。

ちょっと待て。

相手は六強と言われる植民地を持つ巨大な国だぞ。

それなのに……。

唖然としている間にも話は進んでいく。

「あの国の司祭に、今の上層部に対してよく思っていない者を知っております。そいつに働きかけましょう」

「そうそう。帝国での艦隊派遣の件で犠牲になった者達も多いですからな。彼らを煽ってやれば、意外と簡単に割れるかもしれませんな」

「それに、こんな決起を行う以上、教国は連盟とより連携を強くするでしょう。ですから我が国としては中立ではなく、王国や共和国と歩調を合わせていく方針を進めていけばいいと思いますぞ」

「そうだな。ついでに連盟を潰すと同時に教国も侵攻して潰してやりましょう」

気が付けば、中立を推し進めていくのが合衆国の方針であったはずが、教国の決起に合わせて、王国、共和国側に付き、連盟と教国に侵攻して叩き潰すという方針に変わりつつあった。

すーっと背中に冷たい汗が流れる。

そんな私に『C』が笑いつつ言う。

「我々の力をこれで本当の意味でよく理解したのではないかな」

その言葉は、私の中で沸き起こり溢れていく後悔をより強くしていく。

そして、天を仰ぎ、ぎゅっと手を握り締める。

私は、とんでもない事をしてしまったのではないかと……。

だが、もう抜け出すことも引き返すことも出来ない。

ならば……。

私は表情を引き締める。

より良き方向に導くしかないと。



キッと表情を引き締めるアーサー。

その様子から、今までない強い決意を感じられる。

その様子を見て、アインは目を細めた。

これでいい。

これで、この方はますます我らの一員としての立場を理解される。

ちらりと主人である『C』の方を向く。

『C』はその視線に気が付いて頷く。

それは、別れを意味していた。

アーサー様に仕える為に鍛えられてはいたし、実際アーサー様に仕えてはいたが、あくまでもご主人様は『C』であった。

だが、アーサー様が結社の一員として動かれる以上、私は身も心もアーサー様に尽くさねばならない。

そう教えられてきた。

しかし、それでもその選択肢をどうするかはアインの意思で決められる。

だが、アインの中で拒否するという選択肢はなかった。

だからこそ、決別と感謝の意味を込めて、微笑んで『C』に少し頭を下げる。

それを『C』は微笑んで再度頷いた。

それは、アインの意思を理解しての行為だ。

こうして、アイン・シャトラトスは、本当の意味でアーサー・E・アンブレラの最初にして、最も忠実な僕として生きていくことを選択したのであった。

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