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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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フソウ連合海軍第一海兵隊、西へ  その2

「ふう……今日も疲れたわぁ……」

シャワーを浴びて汗と疲労を流したのち、フランチェスカ・ランファーナは身体を拭くとバスローブで部屋に戻る。

相変わらず疲労感があるものの、以前に比べれば絶望感はない。

それどころか充実感に満たされていた。

共和国に派遣されたフソウ連合第一海兵隊の専属通訳として派遣されて三週間が過ぎている。

上司に当たる杵島少佐の怪物ぶりには相変わらず振り回されているが、最近はそれはそれで楽しいと思うようになってしまっていたし、きつい訓練も段々と身体が順応して言ってる気がする。

いや、気がするではないのかもしれない。

何気なくぐっと力を入れてみると以前よりも硬くてたくましい筋肉が自己主張していた。

それでいて筋肉ゴリゴリではない。

引き締まっているのと同時にそれによって女性らしさがより強調されている気がする。

現に、訓練に参加している共和国の陸戦部隊の隊員からはデートのお誘いとかあったりするのだ。

もっとも、デートと言っても一緒に食事どうかな?程度ではあるのだが、お誘いはお誘いであり、魅力的でなければ誘われないだろう。

そう言う事を考えれば、以前よりはるかにモテている気がする。

まぁ、以前は修羅場続きで、休みはなく、そんな余裕は全くなかったが……。

ともかくだ。

仕事は肉体的にハードだが、慣れと余裕が出来て、以前より実にいい状況だと言えた。

それと同時に、そう言った余裕が出てくると思考も動き始める。

疲労困憊の時は、得てして頭は最低限のことしか働かないことが常だからだ。

で、視線をテーブルに向ける。

そこには、最近よく目にする紙袋があった。

そう。上司である杵島少佐からもらったものである。

なんでくれるんだろうか。

そんな事を考えてしまう。

最初に貰って以降、一週間に数回という感じで貰うのだ。

もっとも、色っぽいものではない。

内容は、いつものごとくフソウ連合製のカップ酒と缶詰だ。

カップ酒は毎回同じだが、缶詰は色々バラエティに富んでいる。

今回は、五目御飯と牛肉の煮込み、それに定番となっている沢庵だ。

袋から出して、缶詰をあけてテーブルに並べる。

流石にそれだけでは物足りないかなと思って、珈琲とハム、それにチーズを用意している。

そして、カップ酒を開けて、教えてもらったフソウ連合のご飯の前の挨拶をする。

「イタダキマス」

そして、まずはカップ酒を口に運ぶ。

ふんわりと独特の香りが鼻の奥に流れ、口の中に入っていく透明の液体は、実にフルーティだ。

お米で作ったお酒がこんなにおいしいとは思いもしなかった。

そして、カップ酒を飲んで、缶詰の牛肉の煮込みを口に運ぶ。

濃い目の醤油という調味料の味付けが実にいい。

「あー、今日のもおいしい」

思わず声が出た。

最近は、こうやって貰ったカップ酒と缶詰を食べるのが楽しみでしょうかない。

餌付けされてる?とも思ったが、まさかあの杵島少佐に限って……と思って笑った。

あの人は、女にうつつを抜かしているような感じてはない。

軍務に忠実で、現場を愛しているのだと。

だが、それなら私だけこんなご褒美をもらっているのだろうか。

他の訓練に参加している共和国の陸戦隊の兵士達にこんなご褒美が渡されているとは聞いたことはない。

なら、なぜ?

そんな疑問が浮かび、フランチェスカはどうしても気になってしょうがなくなっていた。



そして、翌日、聞くチャンスがやってきた。

今日は、事務処理が溜まっていたため、杵島少佐はあてがわれた部屋で事務処理を行っていたからである。

普段なら、副官の方がやっているのだが、副官の方が本部に呼び出されていない為、杵島少佐がやらなければならなくなったためである。

それでも最低限の量であり、要領のいいひとは、午前中に終わらせる量ではあったが、彼は苦戦していた。

苦虫を潰して嫌々そうに事務処理をするその様子は、実に滑稽である。

普段とのギャップが半端ない。

その為、フランチェスカは笑うのを必死で堪えていたくらいである。

それと同紙に、あー、この人も苦手なものがあるんだとわかってほっとしている自分もいたことに驚いていた。

「はい、少佐、一息入れたらどうです?」

珈琲の入ったカップをディスクに置くと、書類とにらめっこをしていた杵島少佐が助かったという様な表情でこっちを見た。

くっ、かわいいじゃないのっ。

思わずそんな事を思ってしまう。

「ああ、お嬢さん、すまないな。助かったよ」

そう言って杵島少佐は笑って珈琲の入ったカップに手を出した。

そして、ほっとした表情で珈琲を口に運ぶ。

そんな杵島少佐を見つつ、フランチェスカはちらりと彼の書いている書類に視線を落とす。

どうやら、訓練経過報告のようだ。

今回、訓練に参加している共和国陸戦隊の兵力は3000近い。

それら全てを把握して、報告を上げなければならないのだ。

大変である。

もっとも、そんな中、くすりとフランチェスカは笑った。

「少佐、言葉が間違ってます」

漢字の間違いを偶々見つけたのだ。

だから、指をさして指摘する。

「あ、本当だ。こりゃ恥ずかしいところを見られたな。どうも事務処理とかは苦手でなぁ……」

そう言って笑って頭を掻く杵島少佐。

そして、言葉を続ける。

「しかし、お嬢さんはすごいな」

その言葉には心底感心したような響きがあった。

これが共和国なら、生意気だという男性も多い。

もっとも、そう言われたら言われたで、倍返しで言い返してきたのがフランチェスカであったが。

ともかくだ。

素直にそう言われてうれしくなった。

それに彼だったらきちんと疑問に答えてくれそうと思って、昨日思った疑問を聞くことにした。

「えっとですね。少し聞いてもいいでしょうか?」

そのフランチェスカの言葉に、杵島少佐は「構わんぞ」という返事を返す。

その様子は普段と変わらない。

だから、迷わず聞いた。

「えっと、私だけこう色々と頂けるのはなぜなんでしょう?」

その問いに、杵島少佐は笑った。

「別に他意はないよ。この訓練に参加している連中は、プロの兵士だ。それが仕事だ。しかしだ。お嬢さんは軍属とはいえ、軍人ではない。なのに、プロの軍人に交じって頑張っている。そこにお嬢さんのプロとしての意地と頑張りを見てな。それでだよ」

そして、そう言った後、微笑んで言葉を続ける。

「それにだ。頑張っている奴には、応援してやりたくなるんだよ。お前の頑張りを俺は知っているぞってな」

その言葉に、フランチェスカはうれしくなった。

自分の努力を、自分自身を認めてもらえている。

その思いが伝わってきたのだ。

「あ、ありがとうございます。すごく嬉しいです」

なんでだろう。

心の中がぽかぽかになっていく。

こんなに心に響くとは思わなかった。

だが、それと同時に不満も沸いた。

そして、言う。

「たしかにそれはうれしいです。ですけど、ならなおさら不満があります」

その言葉に、杵島少佐は驚いた表情になった。

「えっと……なにかあるのか?」

そう問われ、フランチェスカははっきりと言う。

「あります」

「そ、そうか。治せるところは直したい。それでその不満とは何だ?」

杵島少佐は恐る恐るといった感じで聞く。

その様子は、普段の彼とは思えないほどおどおどしていた。

フランチェスカはクスリと笑う。

「ええ。直してください」

そして、笑っていった。

「私は、お嬢さんではありません。フランチェスカという名前があります。これからは名前で読んでいただけますか?」

はっきりとそう言われて、杵島少佐は一瞬きょとんとした後、豪快に笑った。

「これは一本取られたな。わかった。これからはきちんと名前で呼ぼう。フランチェスカ、これでいいか?」

しかし、それだけで話は終わらなかった。

フランチェスカは笑って言う。

「少佐なら、私の事、フランと呼んでくださってもいいですよ」

フランチェスカはよほど親しい人以外に、そう呼ばれるのが嫌だった。

だが、彼ならそう呼ばれてもいい。呼んで欲しいと思ったのだ。

だから、自然とそう言う言葉が出た。

「えっと、いいのか?」

「ええ。お願いします」

フランチェスカは笑って言う。

その言葉に杵島少佐は益々楽しげに笑った。

「わかった。そう呼ばせてもらおう。フラン、これからもよろしく頼むぞ」

「ええ。少佐」

そう受け答えをして二人は再度笑いあったのであった。

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