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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十七章 胎動

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密書  その2

アッシュにもたらされた情報はすぐさま上層部に報告された。

もっとも、事が事だけに公にはできず、いつもの秘密の部屋での話し合いで一部の者のみ報告された。

もちろん、面子は『鷹の目エド』こと宰相のエドワード・ルンデル・オスカー公爵、『海賊メイソン』こと海軍軍務大臣サミエル・ジョン・メイソン卿、ウェセックス王国国王ディラン・サウス・ゴバークの三人である。

「これは中々困った事態に発展しそうな雰囲気ですな」

顎髭を弄りつつオスカー公爵が難しそうな表情で呟く。

眉と眉の間には深い皺が寄せられ、かなり深刻そうだ。

テーブルの中央には、アッシュに渡された教国の密書がある。

すでに三人は目を通していた。

「だが、王国はまたマシといったところだな」

こちらも苦虫を潰したような表情のメイソン卿も呟く。

実際、元々以前のことで、王国のドクトルト教は教国のドクトルト教との敵対から異教として破門されてしまっており、その結果、問題が起こってもその規模は小さく、またこうやって事前に情報を入手出来た結果、事前にある程度対策を立てる事で何とかなりそうであった。

だが、それで安心出来るわけではない。

人の心が見えない以上、宗教と言うものは実に厄介なのだ。

もっとも、それは宗教に限っただけではないが……。

ともかく手だけは打っておく必要がある。

「軍の方の再度の思考チェックを進めてくれ」

国王がそう言うと、メイソン卿は頷く。

国家の暴力装置である軍部が変なことになればクーデターとかに発展する恐れすらあるからだ。

だが、いくら思考チェックをしたとしても完全ではない。

大体、ドクトルト教の王国派と教国派の違いはそれほどないのだから。

その点、宗教を制限している帝国やドクトルト教の入り込んでいない、或いは、あまり入り込んでいないフソウ連合やアルンカス王国はそこまで苦労しないだろう。

だからか、国王がぼそりと言う。

「宗教に関しては、帝国やフソウ連合が羨ましいと思ってしまうな」

思わす出た国王の本音に、オスカー公爵とメイソン卿は苦笑する。

そんな国王に、アッシュは言う。

「王国派は、我らに協力的ですし、今回も敵対しないと確約をしております。こちらを使ってはどうでしょう?」

その提案に、オスカー公爵は聞き返す。

「ほう。信用出来ると?」

「ええ。信用できます。今回の件で最高司祭の希望通りにすれば……」

アッシュはそう言って、最高司祭から渡された摘発除外者リストを見せる。

確かにほとんどが国外の者達だが、少数ではあるが王国内の者もいた。

「なるほどね。その提案を飲めば協力してくれるって訳だ」

メイソン卿はそう言ったが、それと同時にニタリと笑みを漏らす。

「つまりだ。本当なら、そいつらは教国に通じているってことだよな」

その言葉に、アッシュは頷く。

「だそうだ。エド、手を回してくれるか?」

話を振られ、オスカー公爵は顎髭を撫でつつ頷く。

「ああ。そいつらの周辺を調べさせ監視させよう。もちろん、本人は保護対象だが安全確保のために監視は必要だしな」

「そう言う事だ」

メイソン卿は、笑って言う。

この辺りは阿吽の呼吸といったところか。

口喧嘩している印象が多いが、この二人ほどお互いのことがわかっている者はいないだろう。

「ふむ。国内はそれでいいとしてだ。問題は……」

国王の言葉に、オスカー公爵は言葉を続ける。

「共和国と合衆国ですな」

その言葉に、メイソン卿も続ける。

「後、植民地の方もですぞ」

今までなら恐らく大丈夫であっただろう。

だが、アルンカス王国やルル・イファン人民共和国のこともある。

彼らは知ったのだ。

独立できると。

その為に宗教に便乗する恐れもあった。

だが、すばやくアッシュが口を開く。

「王国の植民地に関しては、手を打っております」

その言葉に、三人はぎろりとアッシュに視線を向ける。

彼らにとってそれは初耳であったからだ。

「手を打ったとは?」

「すでに自分の手のものを王国植民地に派遣しております。そしていざとなったら、戦争後に順次独立を考えていると伝える様にと指示を出しています」

その言葉に、三人は渋い顔になる。

植民地の件は、確かに新しい形が必要であり、フソウ連合のアルンカス王国やルル・イファン共和国の対応が研究されてはいるが、一気に改革を進めると国が傾きかけない恐れがあり、反対が強くなると考える者も多かった。

「確かに改革は必要だ。しかし……」

国王はそう言って言葉を濁した。

だが、アッシュはしれっという。

「順次独立させるとは言いますが、何時頃かははっきり約束するという訳ではありません。あくまでも戦争後に順次です」

「それで協力してくれると思っているのか?」

メイソン卿がそう言うとアッシュはニタリと笑った。

「彼らとしても出血する事もなく、インフラに被害が出る事もなく、楽して独立が得られるなら少々のことは目をつぶるでしょう。アルンカス王国やルル・イファン共和国の例もあります。それに独立しても、現在の状況では単独では国が成り立たないという事は彼らもわかっている。王国を中心にした経済活動に残りたいはずですしね。後は、微々たるものですが提案者が王位継承権一位の使者の言葉ですよ。これだけ条件がそろっているのなら、十分すぎるのではないでしょうか」

そのアッシュの言葉に、オスカー公爵は苦笑した。

「殿下も腹黒くなられた」

「本当だ。これは一本取られたな」

メイソン卿はぽんと自分の頭を叩いて笑う。

「まぁ、ベースはエリザベートの提案なんですがね」

アッシュが苦笑してそう言うと、三人は考え込む。

だが、すぐに別の話題を国王は口にした。

「植民地はそれでいいとしてだ。各国に今回の件をどう伝えるかも考えねばならぬな」

「共和国は殿下のツテでアリシア代表に直接伝える事は出来るし、フソウ連合に対してもだ。だが、問題は、合衆国と帝国だ」

実際、先の開戦以降、帝国と王国は現在も直接連絡を取り合う事はほとんどない。

帝国の内戦の為に静観する状態が続いていたためである。

もっとも、フソウ連合の仲介で、両国間の戦争は終了という形に落ち着いてはいるが。

あと、合衆国は国交はあるものの、国のトップに近い者に話を持っていかないと駄目ではあるが、ドクトルト教徒の多い合衆国では秘密裏に合うという事はかなり困難だろうと考えられた。

つまり、秘密裏に伝える手段が難しいのである。

だが、連盟との戦いで味方、或いは味方に近い中立の国が混乱してもらっても困る。

下手したら、敵に回る可能性もある。

それでは困るのだ。

押し黙った三人に対して再びアッシュが口を開いた。

「この二つの国には、フソウ連合経由で伝えるのがよいのではないかと思います」

その言葉に、オスカー公爵は聞き返す。

「ほう。なぜそう思うかね?」

「合衆国や帝国とフソウ連合はかなり親密な関係が築かれていると思われます。今回の共和国の支援戦力や物資を見れば一目瞭然です。あと、もう一つは、もし漏れたとしても、それはフソウ連合の不手際であり、王国には被害が及びません」

その言葉に、メイソン卿はニタリと笑って聞く。

「ふむ。殿下とフソウ連合の鍋島長官は親友と聞くが、それでも行えるのかね?」

「行えます。個人的な友情と国の件は、別物ですから。それに……」

そこでいったん止めて、アッシュはニタリと笑みを浮かべた。

「サダミチならうまくやりますよ」

そこには強い絆と信頼関係があった。

国王はそんなアッシュを見て笑う。

「そうか。そうか」

そして言葉を続けた。

「もういつでも王位をお前に譲っても大丈夫なようだな」

その発言に、アッシュは慌てる。

「い、いえ。サダミチを信頼しているのは事実ですが、この提案をしたのもエリザベートです」

その言葉に、三人は再び黙り込む。

そして、真っ先に口を開いたのはオスカー公爵だ。

「エリザベートというと殿下の婚約者であるエリザベート・バトリア・リンカーホーク伯爵令嬢ですな」

何を当たり前の事を聞いてくるのだろう。

そんな感情が浮かんだ表情でアッシュは言う。

「はぁ。その通りですが……」

すると、オスカー公爵はきっとアッシュを睨みつけるように見て言う。

「いいですかっ、殿下っ。必ずリンカーホーク伯爵令嬢とは結婚しなければなりません。絶対に逃がしてはなりませんぞ」

その言葉には、鬼気迫るものがあった。

その迫力に、アッシュは思わず身体を後ろにずらす。

それの便乗するかのようにメイソン卿も言う。

「才女とは聞いていたが、ここまでとは……。殿下、これ以上はない婚約者ではありませんかっ。絶対に結婚しないと駄目ですぞ」

その言葉の圧力に押され、アッシュは思わず助けを求めて国王の方を見る。

国王は、ニコニコと笑っていた。

その顔は、国王というより父親の顔である。

「うむ。よい嫁になりそうだ。うまくしろよ」

三人に言われ、プレッシャーに圧されつつ言い返す。

「大丈夫ですっ。私は彼女を愛していますからっ。それに、彼女も私を愛してくれています……」

最後は尻切れトンボみたいに段々と小さくなってしまったが、それでも言い切る。

その言葉に、三人は互いの顔を見合わせて笑った。

「いやはや、あの朴念仁と言われていた殿下が、こうも惚気られるとは」

「確かに。確かに」

「うむ。うれしいことよ。王国の未来も明るいものとなろう」

三人がそれぞれ好き勝手に言いあう中、オスカー公爵は立ち上がると部屋の棚にあるウイスキーとグラスをテーブルに用意した。

「ふむ。いや実に頼もしい限りだ。せっかくですから、殿下の惚気をつまみに一杯いかがですかな?」

その言葉に、国王とメイソン卿は笑って同意する。

そして三人の視線が、アッシュに向けられた。

「勿論、殿下も参加されますよね?」

圧力のある視線と言葉に、アッシュは逃げ出すことが出来ず、諦めて頷く事しか出来なかった。


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