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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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帝国のとある安酒場にて…

ボロボロの安酒場の片隅で二人の男が座り込んでひそひそと話しこんでいる。

二人とも小汚い服装で、一番安い酒をちびりちびり飲んでいるが、別に珍しい光景ではない。

一部の都市を除き、帝国ではほとんどがこんなものだ。

長く続いた後継者争いと重税に、ほとんどの民はその日を何とか生きていくのが精一杯の生活を送っている。

だから、酒場はあまり儲からず、どこに行ってもこんなボロボロの安酒場ばかりだった。

「おい、聞いたか?特令が出たって話だぞ」

「なんだって…。特令って例のか?」

「ああ、そうだ。あの特令だ」

「前からしたら六年ぶりくらいか?」

「ああ、そんなものだな…」

「また…何もかも持っていかれちまうのか…」

二人は黙り込む。

以前の特令の前までは、彼らだってもう少しは余裕がある生活をしていた。

しかし、特令で全てを失った。

もちろん、二人だけではない。

この国の民のほとんどが、だ。

その為、失業者が溢れ、治安は悪化し、国は荒れに荒れている。

この国でまともな生活を送るのは、一部の都市の住民と軍人、それに金持ちだけだ。

そして、農民でさえ、ボロ雑巾のような生活を送っており、土地を捨てるものも多い。

そう、人々は逃げたいのだ。

今の現状から…。そして、この国から…。

「もう…こんな国…嫌だ…」

一人の男の口からぽつりと口から言葉が漏れる。

もう一人が慌ててその男の口を塞ぎ、周りを見渡す。

「お、おいっ。そんな事、言うんじゃねぇ」

囁くようにそう言って、周りに問題ない事がわかるとほっと息を吐き出した。

「でもよぉ…」

「わかる。わかるけどよ。影ってやつらがいるって話は聞いた事があるだろう?」

「そいつらに聞かれちまったら殺されちまうぞ」

「殺される……。そっか、殺されるのか…。それもいいかもな…」

「おいおいっ、頼むからそんな事を言うなよ」

なんとか考え直そうと懸命に言うも、その言葉は相手に届かない。

それほどまでに心が磨耗してしまっているといっていいだろう。

「お前だって、そう思ってるだろうが…」

そう反対に言われて宥めていた男も口を閉じる。

それは図星だったからだ。

彼だって、何度そう思ったことか…。

だが、それでも友となる目の前にいる男がいるからこそ耐えてきたのだ。

だから、もし目の前の男がいなくなったら、時分も間違いなく自暴自棄となってしまうだろう。

「でもよ…」

「なんだ?逃げ捨ててきたかみさんと子供の事を思い出したのか?」

「た、多分…もう…。い、いや…そんなわけねぇよ」

多分、もう今頃は…二人とも死んでしまっているに違いないから…。

そう言いかけたが、慌てて否定する言葉に言い換える。

それは男の負い目であり、それでいて心の支えでもあった。

いつか、きっと金持ちになって迎えに行く。

そんな心が少しは残っているのかもしれない。

だが、現実はそんなに甘くはなく、心は壊れかけていた。

「なぁ…どうせなら…二人で好きな事して死なないか?」

そんな提案を相方がしてくる。

なんかそれもいいかもしれない。

そんな気がしてきた。

だから、相方の提案に頷く。

「よしやろう…」

「なら…」

そう言いかけた時、二人に声がかけられる。

「おいおい、止めときな…」

二人の顔が真っ青になる。

今の会話だけでも、十分、国家不敬罪や陰謀罪で訴えられてもおかしくない。

そう思ったからだ。

二人の視線が動き、声の方を向く。

そこには、二十後半といったところだろうか。

黒髪に茶色の瞳を持つ黒く焼けた肌をした男が立っていて笑って二人を見ていた。

「今の話…」

「ああ、聞いてたさ。それでな、無駄な事をしなくていいように忠告したんだが…」

「な、何が無駄なんだよっ」

「好きなような事をして、あっけなく殺されるのがさ…」

「そ、それは俺らの自由じゃないか。それともなんだ。あんたはもっといい事でも知ってるのかよ」

今までの会話から、影ではないと判断したんだろう。

或いは、開き直っただけかもしれない。

ともかく、怒りをぶつけるかのように喋る。

その事を男は面白そうに聞いた後、人差し指を立てて、左右に揺らす。

「ちっちっちっ。だからさ、どうせ命かけるならもっといい事しなきゃ駄目だって言いたいのさ」

予想外の男の言葉に二人は顔を見合わせる。

そして、自暴自棄になりかけた男が聞き返す。

「いい事ってなんだよ?」

「俺達みたいな民が住みやすい国を作ることだよ」

その言葉に二人は固まる。

「お、お前…もしかして…」

「多分、君達の考えは当たっていると思うよ。それで…どうするんだい?自分の好きな事をしてあっけなく殺されるのとみんなの為に色々やってから死ぬのと…」

「どっちにしても死ぬのか…俺らは…」

「言ってたじゃねぇか、死ぬって…。ならさ、他の人の為になって死んでみるってのもなかなか面白いと思うぞ」

そこまで言った後、男は「さてどうするね?」と決断を迫ってくる。

しばしの沈黙が辺りを包み、そして慰めていた方が顔の表情を引き締めて言う。

「いいだろう。俺はやるぞ」

「お、おいっ、いいのかっ」

「ああ。逃げてしまったけどな、かみさんも子供も愛してたんだ。いつかは金を稼いで迎えに行こうって思ってたけどさ、今のままじゃ無理ってもんだ。ならさ…あいつら二人に何か出来るって言ったら…」

「わかったよ。皆まで言うな。よしっ。俺も付き合うぜ」

二人は互いの顔を見て頷きあう。

男は、二人の様子を満足げに見た後、笑顔を浮かべた。

「これからは我々は同志だ。歓迎するぞ」

「ああ、わかった」

「よろしく頼む…」


そして酒場から三人の姿が消える。

それをぼんやりと見ていた酒場の主人は、何も言わずにテーブルに置いてある代金を手にする。

しかし、安酒の代金としては、少し多すぎるようだ。

だが、主人はそれを当たり前のように回収していく。

それは今この場であった事の口止め料だ。

だが、それがなかったとしても、主人は誰にも言わないだろう。

なぜなら、帝国では今のような出来事は日常茶飯事であり、別に珍しい事でもない。

それに言ったところで、かえってそれを見逃したと言われ、何もかも取り上げられる可能性の方が高いからだ。

そこまで帝国の民の心は磨耗しており、今や国は少しずつ滅びの道を進んでいた。

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