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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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亡命 その1

パイロットの救助の為に先行していた第一機動部隊の駆逐艦三隻が、サネホーン機動部隊に夜戦を仕掛けようとしたいた頃、アルンカス王国のフソウ連合の基地であるアンパカドル・ベースに一機の二式大艇が到着した、

その機体は、南方の潜水艦部隊の中継基地から来た特別便であった。

「ここが、アルンカス王国ですか……」

思わずといった感じで、赤間三等兵曹が降り立つと周りを見回している。

「ああ。そうだな」

後ろに続いていた亀谷兵曹長が呟く。

その口調は、初めてという感じではないニュアンスが含まれていた。

それに気が付いた赤間三等兵曹が後ろを振り返って聞く。

「亀谷さんっ、来たことあるんですか?」

「ああ。何度かな」

「へぇ……」

感心したような顔で頷く赤間三等兵曹。

そんな赤間三等兵曹を見て、亀谷兵曹長はニタリと笑う。

「そういや、出発は明日の朝一の便らしいからな。どうだ、今夜街の方に行くか?」

要は、この後街に繰り出そうという事らしい。

「いいですねっ。でもいいんですか?」

「ああ、三時間程度なら外出も許可するって話はついてる」

亀谷兵曹長が、関係者に街に飲みに行きたいという話をしたら、案内役から最初は拒否されたものの、一緒に話を聞いていたお偉いさんが苦労してきただろうから少しはいいんじゃないかという話になったのである。

そして、案内役から時間制限付きという釘を刺されたものの、許可が下りたのであった。

「本当ですか?」

「ああ、知ってる店あるからよ、そこで生還記念で一杯行こうぜ」

「いいですねぇ。亀谷さんのおごりで」

その言葉に、亀谷兵曹長苦笑した。

「覚えてやがったか」

「勿論でいとも。楽しみにしてましたから」

赤間三等兵曹のお道化た口調に、亀谷兵曹長は苦笑したものの、楽しんでいる様子が伺える。

こうして、彼ら二人は、基地の宿舎に荷物を置くとそのまま街に繰り出したのであった。



「じゃあ、無事に帰って来れたという事と俺達の悪運の良さに」

亀谷兵曹長がそう言ってジョッキーを掲げる。

そこには冷えたビールがうまそうに泡を発している。

「ええ。俺らの悪運に」

赤間三等兵曹もジョッキーを掲げ、亀谷兵曹長のジョッキーにカチンと当てる。

そして、それと同時に二人は「「乾杯ーーっ」」と言って、一気に冷えたビールを飲んだ。

ごくごくと喉が鳴り、二人は夢中になってビールを飲んでいく。

そして、飲み終えた後、ジョッキーから口を話してふーと息を吐き出した。

「うまいですねぇ」

しみじみという感じで、赤間三等兵曹が言う。

「本当にうまいな」

軍の施設内でも、休日にビールや酒を飲む事は出来るし、そういった施設もある。

だが、同じビールでも、やはり(シャバ)で飲むのは違ってくる。

環境の違いっていうやつかな。

そんな事を思って亀谷兵曹長が周りを見渡すと、二人と同じようにビールを楽しむ者が目に入る。

彼らと同じように軍属のものもいれば、労働者のような服装の者、スーツを着こなしている者、民族衣装を着ている者など実に色々な人がいるのがわかる。

そして、彼らも同じようにビールを楽しんでいる。

実にいい光景じゃないか。

亀谷兵曹長はそう思いつつ、つまみの為に頼んだ肉串を口に運んだ。

濃い目の独特の味付けで、フソウ連合では味わえないタイプの味と言っていいだろ。

だが、悪くない。

辛みと濃い目の味がビールによく合う。

店員に声をかけて二杯目を頼む。

赤間三等兵曹もお代わりを頼むと同じように肉串を口に運んだ。

始めて食べる異国の味に、赤間三等兵曹の顔が驚きに変る。

「こ、これっ、結構辛いですね」

「本国じゃ、食えない味だろう?」

そう言われ、赤間三等兵曹が頷く。

だが、すぐに何か思い出したのか小声で聞いてきた。

「しかし、よかったんですかね?」

「何がだ?」

「大きな作戦してる最中だってのに、俺ら羽を伸ばして……」

心配そうな顔の赤間三等兵曹。

その言葉を亀谷兵曹長が笑い飛ばした。

「俺らは俺らの任務をきちんとこなしたんだ。そんな事を気にしてたら何も出来なくなるぞ。それはそれ、これはこれだって割り切らないと何も出来なくなっちまう」

そして、次のジョッキーを持ってきた給仕の方を見て言葉を続けた。

「それに、そんなに思うなら、もう止めとくか?」

いじる様な口調と揶揄う様な笑みで、赤間三等兵曹は苦笑する。

「確かに、その通りです」

そして、再びジョッキーを掲げる。

「では、今、奮起している仲間の為に」

「おおっ、乾杯っ」

そして、ジョッキーが再びカチンっといういい音色を響かせた。

もっとも、二杯目は、一杯目のように一気飲みにはしない。

今度は、つまみを味わいつつ飲んでいく。

「しかし、残念だなぁ」

赤間三等兵曹が周りを見回して愚痴る。

「何がだ?」

「いやね、せっかく異国にいるのに、観光も出来ないなんてとか思ってしまいましたよ」

その言葉に、亀谷兵曹長は苦笑する。

「仕方ねぇだろうが。明日の朝一で向こうに行かなきゃならんのだから。でもよ、俺らはいい方だぞ。時間限定とはいえ、外出許可もあるからな」

「まぁ、確かに。その通りですねぇ。下手したらそのまま兵舎で過ごして、本国に帰国となってもおかしくないですからねぇ」

しみじみとした感じで赤間三等兵曹はそう言うとぐいっとジョッキーをあおぐ。

のど越しに伝わる刺激と冷たさに思わずうなり声に似たような声を上げる赤間三等兵曹。

そんな相棒の様子に苦笑していた亀谷兵曹長だったが、急に眉を顰める。

それに気が付いて赤間三等兵曹が怪訝そうな顔つきで聞いてくる。

「どうかしましたか?」

その問いかけに、亀谷兵曹長ため息を吐き出した。

「どうやら、俺らの悪運は、余程強いらしいぞ」

そう言ってジョッキーの残りを飲み干して言う。

「お前、銃は持ってるか?」

いきなりのそれも予想外の問いかけに赤間三等兵曹は聞き返す。

「へっ?!銃ですか?」

「そうだ」

「持ってるわけないでしょう。だって、軍務以外では持ち歩き、禁止ですよ」

そう言われて、亀谷兵曹長も苦笑する。

「そうだったな」

つまり、それを忘れるほどの事を考えていたのだろう。

「なら、借りるしかねぇか」

そう言うと、亀谷兵曹長は肉串をもう一本、一気に食べると赤間三等兵曹に言う。

「さっさと飲んでしまえ。ちよっと野暮用に行くぞ」

「へ?」

唖然とする赤間三等兵曹を尻目に、支払いをさっさと済ませる亀谷兵曹長。

それを見て、慌てて残りのビールと肉串を口の中に放り込み、彼は立ち上がると二人は店を出るとすぐ近くの派出所に向かう。

その途中、亀谷兵曹長の愚痴が漏れる。

「まったく、悪運が強いのも善し悪しだな」と。

派出所は直ぐに見つかった。

アルンカス王国では、治安維持の為、軍と警察機構は協力してフソウ連合のように派出所を街中に何か所も設置しており、有事の際にはフソウ連合関係者も協力をお願い出来るようになっていた。

派出所に着くと、亀谷兵曹長は直ぐに身分を明かして、治安警備の兵の何人かを借り受けられないかと提案をする。

理由は、アルンカス王国首都において、魔術が行使されている気配がするという内容だった。

にわかに信じられないものの、少し酒が入っているとはいえフソウ連合の帯入りの階級章と身分証明書の力は絶大だった。

そのいきなりの突拍子もない申し出に派出所の責任者は驚いたものの、すぐにフソウ連合のアンパカドル・ベースとアルンカス王国軍務局に指示を仰ぐ。

そして、すぐに協力するように指示が出され、亀谷兵曹長と赤間三等兵曹、それに兵6名は武装し、亀谷兵曹長が感じた気配の場所に向かうのであった。



糞っ。思った以上にしつこいな……。

ペギタント・リスペラードは思考の中でそう呟き、舌打ちする。

ここは、アルンカス王国の首都のメイン通りから外れた路地の一角である。

彼はそこの陰に潜み、左手の手首にある特殊な模様の刻まれた腕輪を必死に握っていた。

ぼんやりと模様が光っている事からも、腕輪に組み込まれた術はすでに発動しているが、維持するためには魔力とある程度の集中を必要としている。

ちらちらと大通りの方にしせんを向けると、知った顔が数名、うろうろして何かを探している様子だ。

さっさと別の所に行けっ。

心の中でそう言うものの、連中は直ぐに向こうに行こうとはしていない。

連中に魔術が出来る者はいない。

なのにである。

ただ、魔術師としての経験や知識はないものの、それ以外の経験での勘が働き、まだ近くにいると思わせているのかもしれない。

いい加減にしてくれよ。

そうは願うも、このままでは見つかるのは時間の問題だと思われた。

いくら魔術で隠れているとはいっても、魔法や魔術は何でも出来る訳ではない。

今発動している魔法でさえ、ガンガンと魔力を消費しているのだ。

だが、運が彼の味方をしたらしい。

向こうの方から、武装した治安警備の兵の姿が現れ、それを見て、彼を探していた連中が離れていくのが見える。

ふう……。

助かった。

安心したものの、次にどうすべきか思考する。

なんせ、荷物のある宿にはもう戻れないのだ。

中々チャンスがなかった為、こんなにもドタバタした逃亡劇になるとは思いもしなかった。

まぁ、宿にある荷物の大半は大したものではないからそれはそれでいいのだが、資金をもっと持ち出しておくべきだったと思う。

だが、それでも仕方ないとさえ思えてしまう。

ともかくだ。

フソウ連合関係者、それも魔術の造詣のあるやつに取り入らねば……。

その為に危険な橋を渡っているのだから。

そう思考し、ふーと息を吐き出した時だった。

「動くな」

後ろからそう声が掛けられ、ガチャという引き金を引く音が耳に入った。

まさか、この結界に気がつく者がいただと?!

老師の手駒も、サネホーンの偽造商人の関係者も魔術に関係のある者は一人もいなかったはずだし、リジベルト(あのブタ)の関係者はそれほど多くない。

それに、自分以外は、次回の召喚の準備で忙しいはずだ。

ならば……だれだ?

「そのまま結界を解除しろ」

アルンカス王国で最も使われる言語でしゃべってはいるが、語尾の発音が独特だ。

恐らく、アルンカス王国の人間ではない。

ともかくだ。

結界を解除するとゆっくりと手を上げる。

そして、後ろに振り向いた。

そこには、フソウ連合の軍服を着た男二人が銃を構えてこっちを見ている。

「下手な事をしてみろ、あんたの身体に穴があくぜ。魔術を発動する前にな」

手前にいた男がそう言って牽制する。

大体、普通の兵は魔法を警戒しない。

なのにこの男はその事を真っ先に警戒した。

ああ、この男は、魔術というものがどういうものかきちんとわかっている者だ。

それが言葉からわかった。

なんて幸運だ。

リスペラードはここで初めて、そう今まで生きてきた中で初めて神に感謝した。

そして、口を開くとゆっくりと確実にわかる様に発音した。

「私は、ペギタント・リスペラード。元帝国魔道の塔所属の魔術師だ。私はフソウ連合に亡命したい。お願いできないだろうか」

その予想外の言葉に、二人の男は驚き、お互いに顔をちらりと見る。

だが、声をかけてきた男が銃を下ろすと聞いてくる。

「それはあんたの意思か?」

「ああ。私の意思だ」

「では、こっちの指示に従ってもらうが構わないな」

そう言われ、リスペラードは躊躇なく答える。

「勿論だ。大抵のことは受け入れる。命を取られないならな」

その言葉に、男は苦笑してもう一人の男に銃を下ろすように伝えた。

どうやら、抵抗の意思はないと判ってくれたらしい。

「まぁ、ともかく、同行してもらうしかないな、アンパカドル・ベースまで」

そして、付いてくるように言われる。

勿論、拒否なんてしない。

なんせ、私の新しい魔術の道を開くスタートなのだから。



こうして、ペギタント・リスペラードは、フソウ連合に亡命する事に成功する。

これは決して表には出ない出来事ではあったが、この出来事は、後に事態を大きく変える分岐点の一つとなるのであった。

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― 新着の感想 ―
魔術師が1人亡命か。 これがフソウの魔術に対する造詣が更に深まる結果になれば良いのですが… ミサイル艦出てきちゃったし護衛艦とか呼び出したい…呼び出したくない?
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