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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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サネホーン機動部隊  その2

サネホーン機動部隊の指揮をとっていたグラーフ・ツェッペリンは決断を求められていた。

第二次攻撃隊の被害の大きさと新たなる航空戦力の出現に、第三次攻撃隊を出撃させるのか、或いは撤退をするのかである。

実際、残機の数は多くなく、もし第三次攻撃隊を編成するのなら、第一次攻撃隊の残存機数と合わせて構成するしかない。

しかし、第一次攻撃隊の整備と補給はまだ完全に終わっておらず、もう少し時間がかかるだろう。

また、時間の事もある。

今第三次攻撃隊を発艦させたら、戻ってくる頃には陽が落ちて夜間着艦となる可能性が高かった。

そして、何より新たな航空戦力の出現。

それが第三次攻撃を迷わせていたのである。

「どうしたものか……」

グラーフの思わず出た言葉に、幕僚の一人が言う。

「敵空母撃沈、及び小型艦艇の撃破をしたのです。ここは引くべきではないでしょうか」

彼としても思った以上の航空隊の損害に、これ以上の航空戦力を失う事の心配を感じた為であった。

その意見に、数人の幕僚が頷く。

彼らにしてみても、これ以上の航空戦力の損失と、何よりサネホーンの中枢を担うグラーフ・ツェッペリンやペーター・シュトラッサーの二人を危険に晒すことを良しとしなかった。

彼らの意見を受け、ふうと息を吐き出すグラーフ。

だが、すぐに表情を引き締める。

「わかった。ここで艦隊を引こう」

グラーフはそう決断し、命令を下す。

「第二次攻撃隊を回収次第、我々機動部隊は中止する」

それを受け、サネホーン機動部隊はゆっくりと向きを変えていく。

甲板に用意されていた機体は次々と艦内に戻されていく。

そこで動く兵士達の表情にあるのはほっとした安堵感であった。

これで無事帰れる。

そんな思いが滲み出ていた。



「作戦中止だと?」

その命令を受け、ペーター・シュトラッサーは少しほっとしたような表情をしつつため息を吐き出した。

当初の予定では、大敗北を受けてサネホーンはフソウ連合との休戦に動く。その手はずであった。

しかし、実際は、そうはならずに終わろうとしている。

フソウ連合は何をやっているのだっ。

心の中でそう毒つく。

しかし、それと同時に、誰も失うことがなく終わるという事に安堵している部分もあった。

だが、これで休戦への持ち込みは難しくなった。

どうすべきか。

やはり、戻って再度話し合う必要があるか。

どちらにしても早期休戦が望ましいのは間違いなかった。

今のままでは、サネホーンは瓦解する。

そうペーターは確信していた。

そんな事を思った時である。

どんっという爆発音が辺りに響く。

「どうしたっ?」

ペーターが慌ててそう言うと監視塔から警戒に当たっていた水兵の報告が入った。

「ホーネットが被弾っ」

その報告に、ベーターは聞き返す。

「敵はっ?!」

だが、返ってきた言葉は歯切れの悪い言葉だけだった。

「そ、それがっ。見当たりませんっ」

その言葉に、ペーターは叫び返す。

「敵がいないのに、どうして攻撃されたんだっ。敵がいるはずだっ探せっ」

「は、はいっ」

艦橋内が慌ただしくなる。

乗組員達が慌てている。

ただでさえ着艦の準備で甲板に展開している機体を艦内に戻したりと忙しいのに、そんな有様では急な回避運動など出来るはずもない。

それに、敵が見当たらないとはどういうことなのだ。

幽霊でも攻撃されたとでもいうのか?

或いは、ホーネットの故障か何かなのか。

いや、ホーネットからはそういった報告は上がっていない。

それどころか、ホーネットの方もかなり混乱しているようだった。

ただ一つわかっている事。

それは敵に攻撃されたという事だけだ。

しかし、周りに敵機も敵艦の姿はない。

レーダーには敵機も艦影も映っていない。

なのに攻撃を受けただと?!

くそっ。

「警戒レベルを最大に上げろっ。気を緩めるなっ」

そんな中、第二次攻撃隊が帰投してくる。

「着艦急がせろ。着艦が怪しい機体は海上に不時着させてパイロットだけ回収させろ。いいなっ」

こうして慌ただしく、サネホーン機動部隊は海域を離れる準備を進めていた。



「敵艦隊発見っ」

潜望鏡で戦果を確認しつつ、伊-33の付喪神がニタリと笑って言う。

その言葉に艦内に歓声が沸き起こる。

敵艦隊の動きを把握するために警戒していた伊-33が敵艦隊を発見したのは偶々であった。

しかし、それは警戒任務中であった伊-33にとって鬱憤を晴らすチャンスでもあった。

潜水艦という艦種は、どうしても華々しい戦果を立てることは難しい艦種である。

それこそ、輸送船団狩りなどを行えば別ではあるだろうが、フソウ連合では輸送船団狩りなどは実行しておらず、警戒と調査がメインの任務となる。

だからどうしても地味で鬱憤が溜まる事が多かった。

それ故に、潜水母艦での休暇はたっぷりと取れるし、食事も豪華であった。

だが、それでも鬱憤はたまる。

その為、少しでも緩和するために、警戒海域で敵艦隊を発見した場合、発見報告と状況により攻撃が許可されていたのである。

「やりますかっ」

副長の言葉に、伊-33の付喪神はニタリと笑う。

当たりはかなり暗くなっており、発見される可能性はかなり低い。

それに今回を逃すと次のチャンスはいつになるかわからない。

ならば選択肢は一つしかない。

「勿論だ。ただし、一撃だけだがな」

「了解しました」

そして副長は、声を上げる。

「雷撃戦用意っ」

伊-33が潜望鏡で確認しつつ言う。

「一番、二番用意ーっ」

艦内が一気に活気づく。

魚雷がセットされ、魚雷発射管に詰められる。

「一番、二番、魚雷発射管開け」

ゆっくりと伊-33は艦首を艦隊に向ける。

距離と方向、それに魚雷の速力。

それらを計算し、よく狙う。

チャンスはそうそうないし、魚雷だってそんなに搭載しているわけではない。

じっくりと狙う。

「よしっ。一番っ、二番っ、撃てっ」

一番、二番魚雷発射管の魚雷が発射される。

シュルシュルという音が段々と遠ざかっていく。

しばしの沈黙。

それは短い時間のはずが、艦内で戦果を待つ者達にとっては長い長い時間であった。

そして、ドンっという破壊音。

「よしっ。当たったっ。敵大型艦に命中っ」

そして、戦果を確認すると、伊-33は急速潜航を命じる。

そう、彼らの役割とチャンスは終わったのだ。



「パイロットの救助完了しました」

感知した救難信号全てを周り、出来る限りのパイロットの救助が終わったのである。

その報告を受け、夕雲は頷く。

そんな中、海域警戒に入っていた伊-33から打電が入る。

『我、敵機動艦隊と思しき艦影を発見す』

その報告に、夕雲は直ぐに敵艦隊と思しき艦影の位置を確認させる。

そして海図で位置確認をした後、時計を見て考え込む。

時間は18時近い。

「どうされますか?」

副長がそう聞いてくる。

暫く目をつむり考えていた夕雲だったが、決心したのだろう。

「よし。やるぞ」

そう言って無線手に敵艦隊発見と夜襲をかける事を伝える様に命令を下す。

「先行警戒している雷にも伝えろ」

「はっ。了解しました」

駆逐艦夕雲の後ろには高波が続いている。

先行していた雷が見えてくる。

そして合流すると単縦陣で速力を上げた。

敵の位置と動きから予想するに、仕掛けるとすればアンルーラ諸島が最適だろう。

あの辺りは、小島がいくつも点在しており、レーダーを誤魔化し、闇夜に紛れて接近するにはもってこいの場所である。

もっとも、小島が多いという事は、浅瀬などがある為に座礁の可能性があるという事でもあるが、事前に潜水艦による徹底的な調査でかなり程度の高い海図が準備されていた。

それ故に仕掛ける事が可能であった。

こうして、僅か三隻による追撃戦の幕が開こうとしていた。

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― 新着の感想 ―
[一言] > 誰も彼ることがなく終わる 彼る?
2024/09/27 19:45 退会済み
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