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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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死闘  その1

索敵機と入れ替わる様に攻撃隊を誘導するため、先行する2機のSB2U。

先行は、最も危険が多いと言われている為、そこを任せられるという事はかなりの腕利きであると認められるのと同時に危険ではあるが名誉なことでもあった。

実際、2機の尾翼には、赤ラインが入っている。

それは、部隊でもトップクラスのパイロットにのみ描かれているマークであった。

「そろそろか……」

パイロットであり機長でもあるケレンジ・アンバサダー准尉の言葉に、後部座席で海図を確認していたサム・エンバイター曹長が同意を示す。

「そろそろですね。気を付けてください」

そういった瞬間だった。

雲の切れ間からキラリと光が反射し、一気に黒い点が上空から降下してきたのである。

それと同時に、ガンガンガンっと金属を叩きつけるような音が響き、隣で飛んでいたSB2Uが火を噴く。

アンバサダー准尉が機体を大きく捻り、叫ぶ。

「糞ったれっ。待ち伏せされてたっ」

被弾した僚機はあっという間にバラバラになり火を噴きつつ落ちていく。

あれでは助からない。

一瞬そう思ったが、アンバサダー准尉は思考を切り替える。

次の獲物とばかりに敵機がこっちに狙いを定めたのだ。

緑とグレーのツートンカラー。

そして国籍マークの所に描かれているのは赤い丸。

フソウ連合の機体だ。

しかし、雲の中にいたのになぜこちらの位置がわかったんだ?

編隊ならともかく、二機で飛んでいて発見されたというのは、敵が余程目がいいか、運がいいという事なのだろうか。

いや、こっちの運が悪かったのかもしれない。

ともかくだ。

今は状況を回避するしかない。

機体を操り、エンバイター曹長に命ずる。

「サムっ。急いで連絡だっ。『敵機の待ち伏せありっ。僚機はやられ、戦闘中。各自警戒せよ』だっ」

それを受け、激しく揺れる機体の中で必死に無線機と格闘しつつエンバイター曹長が無線を飛ばす。

これで最低限役割は果たした。

後は……どう生き残るかだ。

エンバイター曹長も無線の後は、後部機銃で敵機を牽制している。

しかし、敵機の動きは模擬戦で戦った凄腕の味方以上に素早く、機体のスピードも圧倒的に向こうが上である。

「こりゃ、不味いぞ」

アンバサダー准尉の口からそんな弱気な言葉が漏れる。

だが、エンジンと戦闘の音でそんな弱気の発言はかき消されたのだろう。

後ろから必死に敵の動きを知らせるエンバイター曹長の叫び声が響く。

それを聞き、必死にかわし続ける。

だが、圧倒的な機体性能の差はどうしょうもない。

ついに追い詰められ、主翼に衝撃が走る。

ボスボスと主翼に穴が空く。

運がいい事に燃料には引火していないし、翼の強度が落ちてもげてしまうほどではない。

「くっ」

機体を一気に降下させる。

振り切ろうと躍起になるが、張り付いた敵機を引き離すどころか、距離を開くことも出来ない。

ガンガンガンっ。

機体が振動し、次々と被弾していく。

機体の中を吹き飛んだ部品や跳弾した弾丸が跳ね、機体をより傷つけていく。

いつしか引火していないものの、機体は被弾した個所から黒い煙を吐き出しガクガクとせき込んだように揺れ、一気に速力が落ちた。

そして、ガクンと高度が下がっていく。

「くっ。このまま海面に着水するぞっ。舌をかまないように口を閉じてろっ」

悲鳴を上げるエンバイター曹長にそう言うとアンバサダー准尉は一気に高度を下げた。

それは撃墜はしているかのように見える。

もっとも、それでもかなり繊細な動きで着水の際に横転したり転がったりしないように気を付けている。

そして、機体は何とか着水した。

一際激しい衝撃と、そのショックで銃撃を受けていた所翼の一部が脆くもげて横転しかけたものの何とか踏みとどまり、機体は海面に停止する。

「よしっ。急いで出るぞ。こいつもいつまで浮いてるかわからないからな」

アンバサダー准尉がそう声をかけるとエンバイター曹長が上空を見上げていた。

「准尉、あれ……」

エンバイター曹長が指さす先にあったもの。

それは味方攻撃隊に雲の中から攻撃を仕掛ける敵機編隊の様子であった。

道理で降下中に追撃を受けなかったわけだ。

なんせ、本命はあちらだからな。

攻撃隊の連中には悪いとは思うものの、役割は果たした。

後は生き残る事だけを考えるだけだ。

アンバサダー准尉がそう切り替えるとエンバイター曹長に声をかける。

「今のうちに機体から必要なもの出してしまえ。いつ味方が来るとは限らんからな」

そう。陸地ならまだいい。

しかし、ここは海のど真ん中であり、戦場なのだ。

出来る限りの事はしておいて間違いはない。

「り、了解です」

エンバイター曹長はそういうと沈みゆく愛機を優しくなでた後、脱出の用意を始めたのであった。



アンバサダー准尉の報告は、すぐに第一攻撃隊に伝わり、攻撃隊は戦闘機を前方に展開し警戒しつつ進む。

そして、それを待っていたかのように雲の中からフソウ連合の戦闘機隊が襲い掛かった。

「な、なんで雲の中にいてこっちの位置がわかる?!」

そう言って先頭を進んでいたF4Fのパイロットが機体をひねって回避しょうとした。

しかし、それは遅かった。

ガンガンガンっ。

そんな音と共に機体には大きな穴が空き、機体が火を噴く。

いくら頑丈でグラマン鉄工所の異名を持つグラマン社が作った機体でも、20mmに耐えれるはずもない。

ましてや、この機体は、この世界で製造された劣化品である。

実にあっけなかった。

「各機散開っ。戦闘機隊は、ともかく敵の足を止めろ。攻撃隊、爆撃隊は、一機でも多く突破して敵艦隊に攻撃を仕掛けるんだっ」

攻撃隊隊長機がそう無線を発し、戦いは乱戦と化した。

機体のスペック、パイロットの手練。

全てにおいて、フソウ連合は圧倒的に有利であった。

だが、質だけで戦いは決まらない。

そう、数の差がこういった戦いの場合、大きく作用する。

「いいかっ。一機にもいかせるなっ」

八機の紫電改を率いる雨宮怒涛飛兵曹が叫ぶ。

もちろん、無線は繋げていないが、それでも機体の動きからそれを察したのだろう。

残り七機の紫電改は、攻撃隊に襲い掛かる。

まさに『奮戦す』と記していい戦いであったが、それでも限度はある。

全ての敵機を押しとどめる事は不可能だった。

敵とて必死なのだ。

F4Fの奮戦で、一機、また一機と防空に当たる紫電改の網を抜けていく。

「くそっ」

だが、それでかっとなってしまってはどうしょうもない。

焦りはミスを生み、そして小さなミスは大きなミスを生むのだから。

八機の紫電改は連携をとり、それでも奮戦していた。

だが、防空に上がった紫電改を抜け、TBD八機とSB2U六機がフソウ連合第一機動艦隊に襲い掛かった。


「敵機抜けてきます。数は十四」

その報告に、摩耶は頷く。

報告では、敵機は四十以上という話であった。

それを考えれば、八機の紫電改で半数以上を足止めできたのだ。

彼らは奮戦していると言えるだろう。

ならば次は我々が力を示す番だ。

そう決意し、摩耶は命令を発する。

「各艦、対空戦闘用意っ。いいかっ。蒼龍と飛龍を守るんだっ。いいなっ」

その命令を受け、艦橋内に「はっ」という声がいくつも上がる。

士気は間違いなく高い。

それに練度も高い。

だが、駆逐艦五隻が抜けた穴は大きかった。

どうしても防空網の中に薄い部分が出てきてしまう。

始まった防空戦闘の中、その薄い部分をついて敵機が襲い掛かってくる。

すでに陣形は大きく崩れ、各艦は敵機の攻撃をかわしつつ防御に当たる。

「弾幕薄いぞっ。何やってんのっ」

飛龍が叫び、敵機の放った魚雷を回避するため、艦体が激しく動く。

艦の左右に配置されている機銃座が火を噴き、接近する敵機を蜂の巣にしていく。

それでも、攻撃は止まない。。

そして、遂に均衡は崩れる。

ドンっという音が響き、そして爆発音が広がった。

飛龍の艦橋にいた者達の視線が音の方向に向く。

その視線の先には、甲板から黒雲を上げ、火災を起こしている蒼龍の姿があった。

グラグラと蒼龍の艦隊が揺れる。

甲板では必死の消火作業が行われているのだろう。

だが、その為、蒼龍の動きが鈍くなっている。

「くっ。蒼龍を庇うぞ」

飛龍がそう命じ、飛龍の本体が速力が落ちた蒼龍の前に出る。

「撃って、撃って、撃ちまくれっ」

また、それは摩耶も同じ考えなのだろう。

摩耶の本体も前に出て弾幕を張る。

その奮闘があったおかげか、それ以上の被害がでずに、爆弾と魚雷を使い切ったサネホーン第一攻撃隊は引き上げていく。

もっとも、帰途につけたのは、十四機中三機。

そして足止めを喰らっていた機体を合わせても、なんとかサネホーン機動艦隊に戻れた機体は十二機であり、そのほとんどが破損して再出撃出来ない状況であった。

だか、サネホーンの攻撃はこれで終わりではない。

防空に上がっていた八機の紫電改が飛龍の飛行甲板に降り立ち、補給を始めた頃、摩耶の電探が新しい機影を発見した。

サネホーン機動艦隊が放つ第二攻撃隊である。

そして、ついにここにいたって第一機動部隊の指揮官である戸部中佐は作戦中止を断言するしかなかった。

だが、その判断は遅すぎた。

間もなく、敵の第二攻撃隊が艦隊を襲うだろう。

防空機を上げようと躍起になっているが、補給が終わっていない機体を上げるわけにはいかない。

予備機から二機が発艦していくが、それ以降の機体の発艦は、もう少し時間がかかる。

今や、フソウ連合第一機動部隊は追い詰められていた。

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