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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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悪夢  その4

急遽編成された攻撃隊が、蒼龍、飛龍の各空母から発艦していく。

その内訳は、蒼龍から紫電改四機、彗星八機、天山四機の十六機、飛龍からは紫電改四機、彗星八機、天山八機の二十で、二つの攻撃隊を合わせると三十六機。

その機数は、直営機と索敵偵察機に振り分けられている機体と予備機を除くと航空戦力の半分以上である。

本来ならば、敵の艦隊の位置を把握してからとなるが、敵の兵器が未知のものであり、赤城、加賀のように何も出来ないうちに失う事を恐れ、発艦させたのである。

攻撃隊は、H-221の情報を受けて敵艦隊がいる海域へ進んでいく。

普通ならある先行する索敵機の誘導もなく、高度もかなり低空という事もあり、飛龍の天山攻撃隊の指揮を執る赤井富明少尉は思わずといった感じで愚痴る。

「しかし、大丈夫なのかねぇ……」

その愚痴が耳に入ったのだろう。

後部座席で赤井少尉の長年の相棒である富岡安二郎二等兵曹が聞き返す。

「何がですか?」

「こんな低空飛行で、先行機もなく、おまけに敵艦隊の位置がはっきりしないという状況で、燃料が持つか?って思ってね」

「さっきのミーティングの時はそんな事言ってなかったじゃないですかっ」

「そりゃ、おめえ、空気読んだんだよ。それにだ。あんな雰囲気で言えるかっ」

「じゃあ、黙っときましょうよ。それにあのままモタモタしてたら、赤城や加賀の二の舞になる恐れが高いですから、いい判断だと思いますがね」

ズバリ言われ、実際赤井少尉もそう思ってはいるのだが、迷いがあった。

「わかってはいるんだけどな」

「しっかりお願いしますよ。飛龍の天山隊を率いるのは貴方なんですから」

そう言われ、赤井少尉は苦笑した。

そして、いつも似たようなやり取りをしている事を思い出す。

自分が迷うと富岡二等兵曹がいつも軌道修正して発破をかけてくれることに。

そして、感謝の気持ちを込めて言う。

「そうだな。ありがとうよ」

その言葉に、今度は富岡二等兵曹が苦笑する。

そんなやり取りを最近配属になった国竹喜一三等兵曹はにこやかに見ている。

だが、そんな中、H-221より敵艦隊の正確な位置を知らせる無線が入る。

「よっしゃ、これで燃料を心配する必要はなさそうだな」

「頼りにしてますよ」

富岡二等兵曹がそう言うと、赤井少尉はニタリと笑った。

「おう、任せろ」

その言葉には、先ほどと違い、強い意志が籠っていた。



「エボニーからの無線が途絶しました。恐らく……」

その報告に、艦長は言葉を呟く。

「撃墜されたな……」

眉を顰め、舌打ちをするもすぐに思考を切り替えたのだろう。

「ともかくだ。まもなく敵艦隊を我々のレーダーで捉えれる距離になる。そうなれば残りの八発のミサイルをぶち込み、敵艦隊を叩き潰す。それだけだ」

だが、その言葉は途中で別の報告に遮られた。

「レーダーに反応あり」

「ちっ。見つかったかっ。それで敵の数は?」

艦長の問いに、レーダー手が報告する。

「敵機は、低空を飛んでいると思われ、また距離がある為、レーダーに引っ掛かりにくいので正確な機数はっ」

艦長は舌打ちすると命令を下す。

「こっちの位置がバレた。各艦対空戦闘用意ーっ。一機でも近づけるなっ」

そして、すぐにレーダー手が報告する。

「反応あり。敵影20以上っ」

それを受けて艦長が副長の方を向く。

「副長っ、連中を血祭りにあげてやれ」

艦長の言葉を受け、副長が長距離対空ミサイルSA-N-6と中距離対空ミサイルSA-N-4の発射を命じた。

次々とレーダー誘導によって対空ミサイルが発射されていく。

そして、上空警戒に入ろうとしていた紫電改隊と爆撃コースに入ろうとしていた彗星隊に襲い掛かる。

いくら新型の機体とは言え、レシプロ機である。

その速力に回避できる暇なく、次々と撃墜されていく紫電改隊と彗星隊。

それでも数機がミサイルの故障や不良で生き残ったものの、再度行われたミサイル攻撃に、なすすべもなく撃墜されていったのであった。



その一方的ともいえる戦いを低空で接近していた天山隊は目にする。

「おい、ありゃ……」

赤井少尉が次々と撃墜されていく味方機を見て唖然とする。

「あれが敵の新兵器ですかっ?」

後ろの座席でそれを見ていた富岡二等兵曹が声を上げた。

その声には恐怖が滲み出ていた。

あんなに一方的にやられてしまうのかという恐れと死への恐怖が……。

だが、赤井少尉は違っていた。

富岡二等兵曹の声に闘志が燃え上がってきたのだ。

「野郎っ……」

そう呟くとより機体の高度を下げる。

その動きに従う様に後ろに続く天山も高度を下げた。

海面ギリギリといっていい高度で突き進む天山隊。

それは、彼らの技量の高さを示しており、そして、まだ闘志を失っていないことの表れでもあった。

そして、遂に敵艦隊を目視で確認する。

「見つけたぞっ。各機散開っ。絶対に連中を逃がすなよっ」

赤井少尉はそう命令を下し、機体を振る。

それを受け、後方に続いていた天山隊は一気に横に広がる。

左右に展開した天山隊、十二機は一気に艦隊に襲い掛かった。



「敵機接近っ」

その方向を受け、六基の近距離防衛システムであるAk-630の30mm口径6砲身のガトリング砲が火を噴く。

5000発/分の弾がバラまかれ、接近する天山をハチの巣にしていく。

しかし、海面ギリギリで接近してくる為だろうが、うまくとらえられない機体もあるようで、十二機中三機が接近に成功。

だが、一機は発射寸前に蜂の巣になって海面に叩きつけられるが二機が魚雷発射に成功する。

魚雷を切り離し、離脱する天山に襲い掛かる弾丸の雨。

二機の機体は穴だらけになりつつ海面に叩きつけられた。



「糞ったれっ」

コックピット内をはねた弾で負傷するも穴だらけの機体を操り、何とか着水させる事に成功した赤井少尉は、着水した瞬間にドンっという爆発音を耳にした。

どうやらさっき放った二発の内、一発が命中したようだ。

ちらりと敵艦を見ると、敵艦の横っ腹から黒い爆煙が上がっているのか見える。

再び響く爆発音に、赤井少尉は短く声を上げてぐっと拳を握った。

「よっしゃっ」

そして、後部座席の方に声をかける。

「よしっ。さっさと機体から脱出するぞ」

しかし、返事が返ってこない。

シートベルトを外し、視線を後方に向ける。

その目に映ったのは、血と肉片へと変ってしまっているかつての部下達の姿。

そして、コックピット内は、絶望と悲鳴が交じり合った叫びに満たされたのであった。




「攻撃隊からの音信途絶……」

その報告に、飛龍を始め艦内の誰もが黙り込む。

その中には、加賀から移ってきた第一機動部隊指揮官の戸部中佐やその幕僚もいた。

彼らはこの報告に言葉を失い、黙り込むしかなかった。

まさかという思いや信じられないという思いが強すぎた為であった。

だが、そんな中、H-221より通信が入る。

それは、敵主力艦に魚雷命中という報告である。

それを受け、飛龍は意を決した表情で戸部中佐を見た。

「第二攻撃隊の発進を進言します」

戸部中佐が乗艦した事で飛龍や蒼龍の判断だけで決定できない為である。

そして、促すように言葉を続けた。

「ここで奴は沈めなければなりません。このままでは、他の艦隊にも被害が及びます。それに、我々にはまだ戦える戦力はあります」

その言葉に、幕僚の一人が言い返す。

「ここまで一方的に差があるのにかっ。ここは、一旦撤退を……」

そう言いかけた幕僚を戸部中佐が止める。

そして、飛龍に聞き返す。

「やってくれるか?」

『やれ』ではない。

『やってくれるか?』という言葉。

そこには戸部中佐の無念さが滲み出でいた。

「勿論です。我々は、その為にここにいるのですから」

飛龍はそう言うと敬礼をした。

そして、それに合わせる様に艦橋内の乗組員達も敬礼をする。

それはとても強い意志を感じさせるのに十分であった。

艦橋を見回して頷くと戸部中佐は命令を下す。

「何としても奴を仕留めろ。これ以上好きにさせるな」

その命を受け、第二次攻撃隊が急ピッチで準備に入る。

こうして準備された第二次攻撃隊の戦力は、飛龍、蒼龍合わせて紫電改六機、彗星八機、天山十機の二十四機であった。

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