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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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悪夢  その2

「鍋倉の野郎、張り切ってやがんなぁ……」

はるか上空を飛ぶ先行する点状の彩雲を見て、H221の機長でありパイロットでもある葵佐次郎兵曹長が忌々しそうに言う。

そんな言葉に、後部座席に座っている木下正文二等兵曹が苦笑する。

「仕方ないじゃありませんか。くじ引きで負けたんだから」

その言葉に、葵兵曹長はむすっとして言い返す。

「確かに負けたさ。負けた俺が悪いのはわかっている。だがな、なんか納得できん。今までこういった事では負けたことないんだがな」

するとその言葉に、後部銃座についている下北伸二三等兵曹が笑って言った。

「今までの行いで運を使い果たしてしまったとか」

「あ、あり得るな。葵兵曹長は強運すぎたからなぁ、今までが……」

二人にそう言われ、黙るしかない葵兵曹長。

実際、今までここぞという時の葵兵曹長の強運は神がかっていると言えた。

だから、そうなのかとも思えたのだ。

だが、それでも悔しいのは変わらない。

偵察機乗りにとって、確かに危険だが、索敵で敵を発見して報告するときほど興奮し、誇り高く感じられる瞬間はないのだから。

しかし、今回は、先行する味方機の後方、それも低空での索敵である。

相手が潜水艦ならそれもいいだろうが、今回の相手は敵機動部隊である。

そう艦隊なのだ。

だから、その場合、高度をとり索敵する方が発見は早い。

つまり、その報告の任は、先行する彩雲に譲るしかないのだ。

「くううぅぅっ、やっぱりあの時違うのを選んでおくべきだったか」

葵兵曹長のその言葉に、後部座席の二人は思わず爆笑する。

それでも何とか笑いを抑え込み、木下二等兵曹が言う。

「しかし、なんですね。こんな事初めてじゃないですか?」

そう、こんな事。

二機によるペアでの索敵の事である。

新型艦上偵察機の彩雲は、その圧倒的な速力と小型対空電探で敵機と遭遇しても奇襲を受けることはなく離脱率は途轍もなく高いはずなのだ。

だからこそ、速力がそれほど高くないフロート付きの零式三座水偵ならともかく、彩雲でバックアップを付けての偵察に違和感を感じていたのである。

「確かにな。零式三座なら何回かあるけどな」

「何か理由聞いてます?」

「いや聞いてないな」

葵兵曹長はそう答えた後、苦笑を漏らして言葉を続ける。

「まぁ、上には上の事情があるんだろうよ。ほれ、石橋は叩いて渡れば崩れないって言うじゃねぇか」

「まぁ、用心に越したことはないってことですかね。二航戦(われわれ)にとっても初めての機動艦隊同士の戦いですし」

木下二等兵曹の言葉に、下北三等兵曹が頷く。

機動部隊同士の戦いは、いかに早く敵を見つけ、攻撃を仕掛けるかにかかっていると言っていいだろう。

勿論先手をとれば絶対勝てるわけではない。

だが、かなり有利に戦えるのは間違いないのだから。

そんなことをしゃべっている時だった。

先行する彩雲に接近する高速飛行物体が葵兵曹長の目に入る。

「お、おいっ、あれっ」

その声に、後ろの二人も視線を向ける。

「なんて速度だっ」

「電探に映ってますっ。あれなんですかっ」

だが、二人がそう言い終わらないうちに飛行物体は先行する彩雲に命中した。

爆散する彩雲。

散り散りの部品と化して落ちていく。

それはどう考えてもパイロットは助からないと判る光景だった。

「な、なんだったんだっ、今のはっ」

「わかりませんっ。しかし、付近に飛行物体らしきものは電探に反応しません」

「くそっ、状況がわからねぇ。高度をとって警戒に当たるぞ」

葵兵曹長がそう言って機体を上昇させようとしたが木下二等兵曹が慌てて止める。

「待ってくださいっ」

「なんでだっ」

そう聞き返す葵兵曹長に木下二等兵曹は言う。

「確かに高度を上げると状況把握しやすくなります。しかし、その分、こっちも敵に見つかりやすくなります。さっきの飛行物体が兵器であるならば、今の機体ではかわし切れません。それに先行していた機体と本機はそれほど離れていたわけではありません。なのにこっちは攻撃を受けていない。先行する機体と本機の違いは……」

その言葉に、下北三等兵曹が声を上げる。

「そうか。高度ですね。そうなると電探が絡んでいる可能性があるって思った方がいいですかね?」

「その可能性が高い。ですから葵兵曹長、もっと高度を下げましょう」

その言葉に、葵兵曹長は頷くと高度を下げる為に操縦桿を前に倒す。

そして、命令する。

「急いで飛龍に報告だ」

「なんて伝えます?」

「『この海域に敵がいる可能性濃厚。先行していた機体は謎の高速飛行物体の体当たりで撃墜された。恐らく高度が高いと攻撃される恐れあり』だ。急げっ」

素早く木下二等兵曹が無線機で報告していく。

だが、その報告は一足遅かったのである。



飛龍から飛びだった彩雲から無線報告が入る十分前。

先行していた第一機動部隊の防空巡洋艦として改装された摩耶の電探に機影が映った。

だが、それは一瞬であり、数は一つだけである。

しかし、すぐ様その報告は、電探担当者から摩耶の付喪神に報告された。

「機影が電探に映ったがすぐに消えただと?」

「はっ。数は一つだけで、一瞬のみでしたが」

その報告に摩耶は一瞬、考えたもののすぐに命令を下す。

「各艦に対空警戒を。それと二航戦の飛龍、蒼龍に直営機を上げるよう要請しろ」

その命令に副官が聞き返す。

「いいのでしょうか?」

その言葉に、摩耶は「構わん。何かあるよりはマシだ」と答える。

低空で電探を掻い潜り敵機が接近している可能性を考慮してである。

艦隊の防空に関しては、摩耶が責任をもって行っている以上、些細なことでも用心しておくに限る。

そう判断したのである。

この命令は、すぐに三航戦の加賀、赤城にも伝わった。

「摩耶の電探に反応ありだと?」

第一機動艦隊の指揮をしている戸部中佐は思わず聞き返す。

その言葉に、副官が答える。

「はっ。摩耶の電探に一瞬ですが機影が映ったそうです」

その言葉に戸部中佐は、少し考えこむ。

敵はどうやってこっちの位置を発見したというのだ?

敵の索敵機らしき機影は発見していないのに。

もしかしたら、この機影が敵の索敵機という可能性もあるか。

「それで、対応は?」

「はっ。飛龍、蒼龍より艦隊直営機がまず六機上がります。それと各艦対空警戒をより密にしております」

「そうか。艦隊の護衛の回っている艦艇にしっかり頼むと伝えてくれ。こっちは甲板に展開中で下手な事は出来んからな」

そう言って戸部中佐はそう言うと視線を前方に向ける。

敵はまだ発見できないのか。

はやる気持ちが沸き起こるが、それを必死に抑え込む。

だが、それでも不安は大きくなっていく。

まるでじわじわと真綿で首を絞められていくかのような圧迫感を……。



「こちら、エボニー。敵艦隊を発見す。位置を送る。本機はこれより高度を下ろして待機する」

先行していたKa-25から報告が入る。

それを聞き、艦長はニタリと笑みを漏らした。

「よし。先手を打つ。対艦ミサイル発射準備っ。一番から四番まで安全装置解除っ」

副長が命令を各部に伝える。

「了解しました。P-1000対艦ミサイル一番から四番準備急げっ」

そして、各部からの報告を受けた後、副長は視線を艦長に向けた。

「いつでも撃てます」

その副長の報を聞き、艦長は頷いた。

「よしっ、一番から四番っ、順に発射っ」

そして艦橋の横に斜めに並ぶミサイル発射管から次々と四発のミサイルが発射される。

P-1000『ヴルカーン』

射程距離700~1000Kmで、マッハ2~4のスピードを誇る対艦ミサイル。

その鋭き槍が今、発射され、低空を突き進んでいく。

「よし。次弾の準備っ。次は五番から八番までだっ。それとエボニーには、引き続き敵艦隊の位置と対艦ミサイルの誘導を命じろっ」

そう命じた後、艦長は口角を吊り上げた。

それは勝利を確信した笑みでもあった。



防空巡洋艦摩耶の電探は四つの飛行物体を捉える。

しかし、低空で高速の為、発見が遅れた。

「高速飛行物体4つ接近っ。とんでもない速さで接近します」

その報を受け、また各艦艇の電探でも捉えたものの対空防御を開始する前に飛行物体は艦隊を捉える。

まさに回避する暇も、迎撃する暇もないといった有様であった。

四つの飛行物体は、次々と艦艇に襲い掛かり、命中した。

赤城の左舷中央、駆逐艦朝霜の左舷後部、そして加賀の左舷中央と後部にそれぞれ一発である。

大爆発と共に、朝霜は格納庫に引火し真っ二つに割れ爆沈、二隻の空母は大きく揺れ傾き甲板に発艦準備していた機体が次々と甲板から海に滑り落ちていく。

そして、その機体のずり落ちの中、爆弾に引火したのか加賀の甲板で爆発が起こる。

そして、それをきっかけに次々と爆弾や魚雷に引火していく。

必死な消火作業と被害統制(ダメージコントロール)が行われるものの、甲板は火の海となり、誘爆で艦体が何度も震える。

被害は加賀だけではない。

赤城も似たような有様だが、こちらは一発だけという事もあり、何とか続けざまの誘爆を抑えたものの、艦体は大きく傾き、甲板の艦載機はほとんど海の中に沈んでしまっていた。

つまり、四発のミサイルによって、第一機動艦隊は、作戦遂行が出来ないほどの大被害を被ったのである。

そして、加賀の艦橋では、加賀が血反吐を履き、腹を押さえて壁に寄りかかっていた。

「大丈夫かっ、加賀っ」

戸部中佐が声をかけると加賀はニタリと笑みを浮かべた。

「すみません、中佐、ここまでのようです。総員退艦を……」

額にはびっしりと脂汗が浮かび、その笑顔は引き攣っている。

それが現状の深刻さを示していた。

「しかしっ、このままでは……」

「このままではだからです。ここで多くの兵を巻き込むわけにはいきません。出来る限り、多くの兵を生かす為、その為にもお願いします」

加賀はそう言うと戸部中佐を見る。

その瞳の中の決心を見たのか、戸部中佐は、ぐっと拳を握り締めると震える声で総員退艦を命じる。

次々とカッターやボートが降ろされ、兵やパイロット達が退艦していく。

「中佐……」

副長の声に戸部中佐は息を大きく吸うと加賀に敬礼した。

「すまん」

その言葉に加賀は苦笑する。

「いえ、こちらこそ力になれず……」

互いに視線を交わし、そして戸部中佐を始めとする艦橋スタッフは退艦していった。

ただ一人、残った加賀は燃え上がる甲板を見下ろして呟く。

「くそっ、一航戦は我々こそ相応しいと証明できなかった……」

そして、その場に座り込む。

だが、ここで息絶えるわけにはいかない。

出来る限り時間を稼ぎ、皆が退艦する時間を稼がねば。

ぐっと力を入れて加賀は立ち上がる。

どうやら、ほとんど退艦できるものは終わったらしい。

カッターやボートが艦から離れていく。

「後は頼むぞ、飛龍、蒼龍……」

そう呟くと加賀は力尽きる。

艦橋内で崩れ落ち倒れるのと同時に艦内で誘爆が起こり、加賀の巨体が大きく揺れ沈み始める。

それはまるで力尽き海に飲み込まれていくかのようであった。


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