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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第四章 帝国の胎動と現状

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帝国魔術師ギルドにて

楕円状に下っている石の階段を降りていく。

コツコツという靴の音が響き、反射してその音が重なり続けてレクイエムのように錯覚してしまいそうになる。

所々に設けられたランプの頼りない明かりが揺れ、薄い影が幾重にも重なり万華鏡のように見えた。

だが、何事も終わりはある。

いつまでも続くと思われていた階段もやっと終着地点だ。

目の前にはしっかりした造りの両開きの扉がある。

その扉をゆっくりと押すと、まるでそれにあわせるかのようにほとんど力が必要ないほどに簡単に開いてく。。

そこは広大な空間になっていて、所狭しと本棚と机が並べられ、空いているスペースにも本棚に入りきらない本や紙の束が乱雑に積み重ねられている。

そしてそんな空間の中、黒ずくめの男達がまるで本に傅くように机に座ってなにやら黙々と作業をしていた。

まさに修羅場と言っていい感じさえしてしまうほど、熱気とざわめきでその場は支配されている。

そして、その者と物との合間をすり抜けるように進む。

やがて奥の方になってきて壁が見え始めると一際大きなデスクがあり、金色に縁取られた黒いローブを着た男が熱心に作業をしていた。

顔の顔はフードに隠れてよく見えないものの、ローブからでた手でかなりの高齢な人物とわかる。

その男はすぐ傍に誰かが来たのも気がつかない。

よほど作業に集中しているのだろう。

ただただ文献を漁り、時々ペンでメモを取る。

そして、ある程度メモが貯まるとぶつぶつと呪文のようなものを唱え、そして落胆し、メモを乱雑に塗りつぶす。

そして再び文献漁りを再開する。

ただ、黙々とそれを繰り返していた。

このままではいつまでたっても埒が明かないと思ったのだろう。

声をかけることにした。

「久しいな、ヨシフ・ヤーコヴレヴナ・エレンムハ」

声をかけられ、男…ヨシフ・ヤーコヴレヴナ・エレンムハは作業を中断されたためか不機嫌そうな表情を隠さずに顔を上げた。

「だれだ?」

しかし、その表情も相手を見た瞬間に喜びのものに変わった。

「グリゴリーっ、グリゴリー・エフィモヴィチ・ラチスールプじゃないかっ」

そう言って立ち上がると抱きつく。

それを受け止めながらラチスールプ公爵は相変わらずだと思う。

以前からすぐ抱きつこうとするのはまだ互いが十代のときからだから、あれからどれくらい経っただろうか…。

ラチスールプ公爵がそんな事を思っていると、身体が離れてフードが下ろされる。

そして、友であり、賛同者である人物の顔が露になった。

ラチスールプ公爵と同じように今まで経験した人生と言う歴史を皺として刻み込んだといってもおかしくない顔がそこにある。

色素が抜けたかのような白い髪がばざばさに好き勝手方向に流れも肌にはうっすらと血管が見えるほどに白い。

そして、狂気といえる炎が宿っているかのようにらんらんと輝く赤い瞳。

もし、若くてハンサムで整えた髪をしていたらまさに吸血鬼と言ってもおかしくないだろう。

しかし、残念な事に顔には幾重にも重なるような皺が刻まれ、乱れた髪からどちらかと言うと物の怪じみた感じさえしてしまう。

「どうしたっ、友よぉ…。今日はどういった用件じゃ?」

そう聞かれ、ラチスールプ公爵は友と会えた喜びに満ちた表情を引っ込めてしかめっ面に戻す。

「今日はお前の助言を欲しくてな、来たのよ」

その言葉にエレハンムハは機嫌よく笑う。

「この老いぼれの助言ならいくらでもしようぞ、我が友よ」

「おいおい。老いぼれというな。年は私の方が上なんじゃから」

「おっ、そうじゃったわ。かっかっかっ…」

そう言って楽しそうに笑った後、別の部屋に案内される。

そこはさっきまでの乱雑の極みであった部屋に比べるとすごくシンブルだった。

中央にソファーとテーブルのセットがあり、部屋の四隅に本が乱雑に何百冊と積み重ねられているだけだ。

「ここなら、他のもんの作業には邪魔にならんじゃろうて。で、助言が欲しいといったの。どしたんじゃ?」

「実はな、東の魔女達が動き出したようでな、こっちにも結構な被害がでている…」

東の魔女という言葉に、エレンムハの額に刻まれた皺がより深くなった。

「東の魔女と言うと…フソウのか?」

「ああ、そのフソウのだ」

沈黙がしばらく辺りを包む。

「やっかいじゃの…。あれから二百年も何も交流がないからの。どれほどの力を持っているのか…」

そこまで言ってふと思い出したかのよう言う。

「そうじゃ。ほれ…あのなんといったか…あの召喚したえっと…なんじゃったかな」

「ビスマルクとテルピッツか?」

「そうじゃそうじゃ、その二隻じゃ。その戦艦をぶつければいいじゃないかのう。フソウの魔女が得意とするのは、創造や守りであり、攻撃じゃない。いくら魔法とは言え、強大な物理的法則には勝てまいて」

そう言いつつ、エレンムハはニヤリとして言葉を続けた。

「あれは、初めての召喚でさらに使えるようにするまでが大変じゃったが、あれに敵うモノはいまのこの世界では存在するとは思えんほどの力を持っておるからな」

そう言って大変だった頃を思い出しているのだろう。

目が細くなり、ニタニタと笑う。

しかし、それとは反対にラチスールプ公爵の表情は晴れない。

「確かにあの二隻は最強じゃが、東に向わせたいものの、今は先の戦いの修復中での。しばらくは動かせん」

「なるほどのぅ。要は二隻では足りぬ…ということか?」

エレンムハは伺うように言う。

その言葉に、ラチスールプ公爵の首が微かだが縦に動く。

「なんじゃ?以前はもう必要ないと言っておったじゃないか」

非難的な言葉に、ラチスールプ公爵は悲痛な表情で反論した。

「あれが実体化するのに仲間の命をどれだけ吸ったと思ってる。もう、あんな事はもうしたくはなんじゃ…だが…」

「わかっとるよ、友よ。でもな、おぬしは言ったではないか。この国で迫害されていた我らが迫害されない魔術師の為の国を作ると。その為ならば、我らは命は惜しくないからの。心配するんじゃない」

ぽんぽんとエレハンムはラチスールプ公爵の肩を慰めるように叩く。

そして、ニタリと笑って言う。

「ふふふ。いつかはそう言ってくるのじゃないかと踏んでの。五年の間の我らの解析で、二隻の名前と必要条件がわかっとる」

その言葉にラチスールプ公爵は驚きの表情になった。

ただ簡単に解析というが、まずはヒントもなくて文字を組み合わせて名前を解析していくことからスタートする。

この行為は、ヒントなしでクロスワードをするのに似ている。

要は、きちんとした字数の中に当てはまる名前を調べていくと思ったらいいだろうか。

もちろん、字数は決まっていないから、実にとんでもない作業と化す。

そして、やっと名前が解析されるとそれから必要な触媒や材料などを解析し調べていく。

さらに、ある程度進むと大体の力や性能がわかってくるから必要かどうか判断する事になる。

そして、それが必要ではないとわかった場合は即刻破棄となる。

それが例えどれだけの時間がかかったとしても例外はない。

要は無駄骨となるのだ。

だから、何百人と言う魔術師を持つこの魔術師ギルドといえ容易なことではない。

実際、テルピッツとビスマルクの時は、今よりはるかに人数が少なかっこともあって実に二十年近く解析だけでかかっている。

つまり、それほどの積み重ねと時間を必要とする作業なのだ。

それがわかっているからこそ、言葉に詰まる。

「ヨシフ…お前は…」

「わしゃ、お前さんの親友だからの。考えている事なんぞ、簡単だったわい。口ではそう言いつつも、本当はもっと力が必要なんじゃとな」

そう言ってエレハンムは山積みになっている本の方に向かうと、その中から二冊の本を持って来た。

それぞれがそこそこの厚さかある。

「以前の二つに比べると小ぶりじゃが、十分な力になるじゃろう。召喚を実行するかしないかは、おぬしに一任するぞ」

テーブルの上に並べられた二つの本。

それには、それぞれ『グナイゼナウ』、『シャルンホルスト』とタイトルが記されていた。

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