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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その16

僅かな点でしかなかったものが、段々と大きさを増して形になっていく。

それは、相手との距離が近づいてきているという証でもあった。

すでにこの戦いでの勝敗は決している。

完全にサネホーン主力艦隊の負けだ。

だが、ルイジアーナの口角が吊り上がりゾクゾクした刺激が心を身体を揺さぶっていく。

かってフッテンは、ルイジアーナをこう評した。

艦隊の司令官としては凡将だが、艦の指揮官としてなら猛将だと。

そう。

このすでに勝敗の決まった戦いの中、彼は笑っていたのだ。

すでに勝敗は決してしまっており、離脱命令を出した以上、今の彼には艦隊の司令官として命じることはない。

そう、艦隊の司令官としてではなく、これからは艦の指揮官として好き勝手に戦える。

そして、自分と互角であろう敵と真正面から戦えることに喜びを感じていたのだ。

彼は自分に自信があった。

真正面ならだれにも負けないという自負が。

そして、自分と互角に称える相手との全力の戦い。

それが、彼に喜びを与え奮い立たせていた。

しかし、それは大和改も同じだった。

接近して砲撃してくるルイジアーナを見て、彼も笑っていた。

「いいぜ。いいぜ。どうやらあんたと俺は同類らしい。好きなだけ相手になってやんよ」

こうして、超々弩級戦艦同士の殴り合いとも言うべき砲撃戦が始まったのである。

「各艦に通達。これより本艦を先頭に単縦陣に移行する。各艦、砲撃を行いつつ我に続け」

ルイジアーナはそう命令を下す。

輪形陣をとっていた第一群は、統率の取れた動きで味方同士が接触する事もなく単縦陣へと陣形を変えていく。

ルイジアーナの後ろには、新型の戦艦を先頭に並んでいく。

その動きには迷いがなく実に見事であり、どれだけその艦隊の士気と練度が高いかが伺える。

その様子は、遠くからでも見る事が出来、その動きを見て大和改がニタリを笑みを漏らす。

「見せつけてくれるじゃないか」

その言葉に、副官も感心したように頷く。

「どうやら、敵の中でもかなりの連中のようですな」

「ああ。こりゃ、手ごわいぞ」

とんでもなく手ごわい相手だという事がヒシヒシと判る。

だが、負ける気はしねぇ。

敵の超々弩級戦艦はルイジアーナ一隻だが、こっちは、大和改、紀伊、武蔵の三隻だ。

要は一対三である。

これで負けた日にゃ俺らはいい笑いもんになっちまうぜ。

ニヤニヤ笑っている長門や陸奥の顔が浮かぶ。

実際、あいつらなら言いかねんしな。

大和改はそう思考し頭の中で苦笑する。

そして、ふーと息を吐き出して集中すると命令を下す。

「いいかっ。本艦と紀伊、武蔵の三隻は敵の先頭艦に攻撃を集中させろ。他はかまうな。奴を沈めれるのは俺達だけだからな」

その大和改の命令に副官が聞き返す。

「では、残りの艦はどうしましょう?」

「残りの奴は、先頭艦以外を狙え。いいな?」

ある程度距離は近づいたものの、他の艦ではルイジアーナの装甲を貫く火力が足りないと判断したのである。

その命を受け、副官が頷く。

「了解しました」

そして、敵の陣形の変更に合わせて、フソウ連合側も砲撃の目標を変えて砲撃を継続する。

次々と各艦の主砲が休みなく火を噴く。

すでに距離は20Km程度だ。

敵味方関係なく、どの艦の主砲も相手は射程距離内である。

また、動きも大きな回避運動をしているわけではない為、艦の至近距離で水柱が立つことが多くなっていく。

その大小のいくつもの水柱の数がその砲撃戦の激しさを現していた。

そんな中、ついに命中弾が出る。

最初の命中弾が出たのはフソウ連合側だ。

ルイジアーナの左舷の副砲群の中に当たり、爆発を起こす。

その衝撃にルイジアーナの巨艦が大きく揺れた。

だが、それでも吹き飛んだのは、艦上部だけであり、装甲を突き抜けてはいない。

もちろん、すぐに消火が行われ、その間も砲撃が続いていく。

だが、それが合図であったかのように次々と命中弾が出始める。

大和改が、ルイジアーナが、次々と被弾し、その度に艦体が大きく揺れる。

そして、互いの艦隊がある程度の距離を挟み、半円を描く軌道ですれ違って一旦離れる頃になると、かなりの数の命中弾が双方に被害をもたらしていた。

「くっ……。さすがにきついか……」

大和改が額から血を流してすれ違っていく敵艦隊を見て呟く。

すでに大和改は、ルイジアーナから四発、他の艦艇から六発の命中弾を喰らい、前部副砲が使用不能、また左の高射砲群にかなりの被害が出ている。

もっとも、その被害のほとんどがルイジアーナの砲撃によるもので、他の艦艇の砲撃は、余り被害が発生していない。

また、ルイジアーナの砲撃も回避がうまくいったためか、重要区画を守る装甲を突破されずにまだ十分戦える状況であった。

また、敵の砲撃が大和改に集中したためだろう。

他の味方の艦艇には大きな被害は出ていない。

流れ弾がいくつか紀伊と武蔵に当たったものの、高角砲のいくつかを失っただけであった。

大和改がそれらの被害報告を受け取った後、通信手が伝える。

「紀伊から入電。『先頭を代わる用意あり』とのことです」

その言葉に、大和改はニタリと笑った。

頭に浮かぶのは、旗艦が自分ではなく大和改になった時の紀伊の悔しそうな顔である。

「馬鹿野郎が。こんな楽しい事、誰に譲るかよ。紀伊に伝えろ。『心配無用』とな。それと各艦に伝えよ。いいかっ。艦隊を反転させ、再度砲撃戦を行う。連中を逃すなとな」

「了解しました」

副官は苦笑し、そう言うと艦隊に命令を伝えるよう指示を出す。

こんなに楽しそうな大和改は初めて見ると思いつつ。

そう、今、大和改は、自分が超々弩級戦艦に生まれた喜びと満足感に満たされていたのである。



「以上が本艦の被害であります。なお、他の艦艇の被害ですが……」

口の端から流れる血を手の甲で拭うとルイジアーナは思った以上に被害がデカい事に内心驚いていた。

自艦だけではない。

後方に続く味方艦艇にもかなりの被害が出ていた。

それは、フソウ連合側の兵の練度の高さと超々弩級戦艦の数の差、それに他の艦艇の性能の差だろうと推測する。

一対一なら、負けはしない。

そう思っていた。

しかし、敵は自分に匹敵する戦艦が少なくとも三隻いることが今の砲撃でわかった。

その三隻が自分に集中して砲撃してきた結果、二番主砲破損と左舷副砲群はほぼ壊滅という有様で、機関の一部が被害を受け速力が落ち圧倒的に不利な状況に追い込められていた。

また、後ろに続く味方の艦艇にも被害がおよび、すでに半数近くが被害を受け、沈没や戦闘不能になってしまった艦もいる。

「それで、他の艦隊の様子はわかるか?」

ルイジアーナの問いに、副官が残念そうに首を横に振る。

「詳しくはわかりません。ですが、途中の結果では、第二群以降の艦隊にもかなりの被害が出ているようです」

「そうか……」

自分ならまだ十分やれる。

その思いはある。

だが、ここで反転し再度攻撃を仕掛けるのは、今後の事を考えれば余りにも愚かではないか。

そんな思いが頭に浮かんだ。

そして、浮かぶのは亡き戦友の顔。

眉を顰め、神経質な表情で小言を言う様子が浮かぶ。

もしフッテン(あいつ)がいれば、こんな苦労はしなくてよかったのだがな。

ため息が漏れる。

大規模な艦隊の指揮やこういった判断は今までフッテンに任せればよかった。

だが、今は自分が判断しなくてはならない。

迷いがより大きくなる。

ここはどうすべきか。

そう思った時である。

「後方についていた戦艦リッペルダントが反転しました」

監視所からその報告が入る。

リッペルダントはルイジアーナの後ろについてきた戦艦で、ルイジアーナの子飼いの部下の中でも特に信頼している者が指揮をしていた。

だが、そいつが命令もないのに勝手に動いただと?!

信じられないといった表情になってルイジアーナが聞き返す。

「ど、どういうことだ?」

その問いに答えるかのように監視所から次々と新しい報告が入って来た。

「リッペルダント以降の艦艇も被害の少なかった艦艇が、リッペルダントの後に続いて反転していきます」

その報告と同時に通信兵から報告が入る。

「リッペルダントから通信です。『我々が足止めをします。貴艦は被害のあった艦艇をまとめ離脱を。サネホーンを御願いします』です」

その言葉に、ルイジアーナはダンとテーブルを叩く。

「くそがっ」

リッペルダントを指揮している者には、ルイジアーナが迷っていたのが判ったのだ。

それ故に、自ら足止めとして動くことを選択したのだとルイジアーナは気が付いたのである。

「くそっ」

再度、テーブルを強く叩くルイジアーナ。

自分の不甲斐なさにはらわたが煮えくり返るかのような思いが身体中を駆け巡る。

しかし、それでも決断するしかない。

グッと天井を見上げて命令を発する。

「反転していない艦艇をまとめろ。我々は離脱する」

「よろしいのですか?」

思わずといった感じで聞かれ、ルイジアーナは引き攣った表情でぼそりと言う。

「どうもこうもないだろうが」

その言葉に、副官はグッと唇を噛みしめ短く答える。

「了解しました」

こうして、リッペルダントを中心とした艦艇が反転し、フソウ連合主力艦隊先鋒と再度戦闘を開始した頃、ルイジアーナを始めとする被害の大きかった艦艇は海域を離脱していく。

その艦数は、ルイジアーナを含め、僅か四隻であった。



「ルイジアーナ、離脱していきます」

その報告に、リッペルダント艦長はほっとした表情を浮かべ呟く。

「ルイジアーナ様、仕方ありませんよ。相手が悪すぎました。それに、あなたを失う事は、サネホーンの根本が揺らぐことでもあります。どうが、生き延びてください」

そして、表情を引き締めると命令を下す。

「よいかっ。これより敵艦隊に再度砲撃戦を仕掛ける。最大戦速っ。距離を詰めるぞ。いくら装甲が厚かろうが、距離が縮まればやれるはずだっ」

艦の周りに次々と水柱が立つ。

目の前には、かなり距離が離れているはずなのにはっきり見える艦影がある。

「化け物めっ。我々の意地を見せてやる」

だが、その言葉とは裏腹に、五分もしないうちにリッペルダントは大和改の50口径46㎝砲の直撃を受け轟沈するのであった。



こうして、この海戦はフソウ連合側の勝利となり、第二群以降の艦艇もフソウ連合主力艦隊の主力との戦いでその多くの戦力を失い、サネホーン主力艦隊は実にその戦力の八割を失う事となったのである。

ここまでは完全にフソウ連合側の圧勝という流れであった。

だが、その頃、敵機動艦隊を索敵していた航空母艦赤城の艦載機の一機である彩雲が消息を絶つ。

対空電探を装備した機体であり、また機体の高性能ゆえに不意打ちで撃墜されたとは思えず、恐らく無線機の故障と判断した機動艦隊司令部であったが、それが間違いてあることを彼らは間もなく知る事となるのである。

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