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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その15

「敵艦隊らしき艦影発見しました」

監視所からの待ちに待った報告に艦橋内は一気に沸き立つ。

それはそうだろう。

ずっと一方的に撃たれ続け、被害も出ているのだ。

これで我慢しなくて済む。

こっちも砲撃が出来れば負けはしない。

艦橋内の雰囲気にはその思いが滲み出ていた。

その雰囲気を感じ、ルイジアーナはニタリと笑みを浮かべる。

まだやれる。

やっとこっちの力を発揮できるぞ。

俺の力を見せつけてやる。

その思いが表情に出ていた。

「各艦に通達っ。各艦砲撃戦用意ーっ。各艦の判断で砲撃を開始。また艦隊はこのまま一気に距離を縮めるぞ」

ルイジアーナが叫ぶように命令を下す。

しかし、その命令に慌てて幕僚の一人が言う。

「しかし、これ以上速力を上げれば、後方の陣が追い付けなくなります」

その問いはもっともである。

今回、艦隊は輪形陣を縦に5つ並べた陣形をとっており、ルイジアーナのいる第一群はルイジアーナの速力や砲撃能力を考慮した新型艦艇で構成されていたが、第二群以降は従来の重戦艦や戦艦などが主力の為、速力だけでなくあらゆるスペックが第一群所属の艦艇より大きく劣っていた。

その結果、第一群が突出しすぎてしまうのではないか。

そう判断したのである。

しかし、すでに被害も出ておりやっと反撃に移れるという時である。

それなのに、後方の艦隊に合わせればチャンスがなくなってしまうのではないか。

その思いがルイジアーナを迷わせる。

そして、彼は今のチャンスを生かす方法を選択した。

それは、他の艦隊はいないという思い込みと目の前の艦隊を潰せば勝てるという希望により決断したのである。

「構わん。ここで敵を逃がすことの方が問題だ。第一群は速力を上げて敵に食らいつけっ」

その命令に、艦橋内は益々沸き上がった。

ほとんどの人間が沸き立つ中、さっき問いかけた幕僚のみが怪訝そうな表情になっていたのであった。



第一群が速力を上げていく。

しかし、第二群以降の艦隊は、速力をそこまで上げることが出来す、少しずつ第一群と第二群以降との距離が開いていく。

だが、第二群以降の艦隊を任されている指揮官は慌てることはなかった。

第一群とそれ以降の群の艦艇の性能に差があることはわかっていたし、何より艦隊の乗組員達の士気があまり高くなかった。

今回の作戦に当たり、新造艦や新型を支給されたのはルイジアーナの子飼いの者達ばかりで、自分達にはその恩恵が受けられなかったという事と派閥の違いがあった為だ。

それでも、今回の戦いは手柄の立てる絶好の機会であることは間違いなく、どうせなら楽に戦果を上げれればとも思っていたためである。

また、第一群が敵に一方的に砲撃される様を見て距離をとった方がいいのではという思考をする者さえいた。

まあ、母国の派閥争いや軍内部の勢力争いで振り落とされてサネホーンに流れ着いた者が多く、どうしても権力や利権などの欲望に固執する傾向は強いと言えるだろう。

また、第一群のみが砲撃される現状と敵は前方にしかいないという思い込みに、自分らは蚊帳の外で安全だと考えている傾向が強くだらけ切っていた。

それ故に警戒もおざなりで、その結果、お粗末な結果を曝すこととなる。




「そろそろ頃合いですな」

フソウ連合主力艦隊の旗艦であり、本隊の中核を担う戦艦の一隻でもある戦艦長門の付喪神がニヤリと笑みを漏らす。

その表情には、楽しくて楽しくて仕方ないといった感情に満ち満ちていた。

その様子を見て、フソウ連合主力艦隊総司令官の南雲少将は苦笑する。

「楽しそうだな」

その南雲少将の問いに、長門は笑って言う。

「いえいえ。これでも我慢しているのですぞ。ガチでの殴り合いを大和改の奴に譲ってしまいましたからな。だから、蹂躙戦で憂さ晴らしをさせてもらおうかと……」

その言葉に、南雲少将はますます苦笑する。

ある程度、付喪神と付き合いがあるから彼らの気持ちはわかる。

彼らは兵器だ。

戦う事でその力を発揮する。

しかし、戦いとは起こらない方がいい。

使わずに済んだ方がいいのだ。

それを人々が望んでいる以上、彼らもそうなって欲しいとは思っている。

しかし、兵器としての本能がそれを揺さぶり翻弄するのだ。

自分の力を発揮したい。

自分の価値を示したいと。

だから、南雲少将は苦笑しつつも言う。

「わかった。期待しているぞ」

その言葉に長門は頷く。

今こそ、我らの力を示す時だ。

その思いがその顔には浮かんでいた。



「ふーっ。さっさとやるならやってくれ」

そう呟くと第五群の艦隊指揮を任せられたロベアト・シチツトー大佐は用意された椅子に座った。

その様子はだらけ切っており、覇気がなかった。

不貞腐れていると言ってもいいかもしれない。

それはある意味仕方ないのかもしれない。

第五群は旧型や中小型艦艇を中心に編成されており、五つの群の中でももっとも戦力が低く期待されていないといってもいい艦隊であったからだ。

それを任されている時点で、自分は期待されていないと思ってしまったのである。

こんな事ならもう少しアピールしてやる気を見せておけばよかったかもしれん。

ため息を吐き出して窓の外に視線を向ける。

輪形陣をとっている味方艦艇が目に入ったが、対空火器が少ない艦艇が輪形陣をとったり、前方にしか主砲のない二等巡洋艦が多いこの艦隊を最後尾に配置したとしてどれだけ効果があるだろうか。

そんな事を思ってしまっていた。

はぁ……。

ため息がまた漏れる。

だが、そこで思考が断ち切られた。

艦の周りに水柱が立ったのである。

それもいくつも……。

あり得ないことに驚き、さっきまで思っていた思考が途切れ止まった。

だが、その後も水柱は次々と立ち、遂に監視所から報告が入る。

「こ、後方に艦影在りっ。そこから砲撃されています」

その報告とほぼ同時に斜め前を進んでいた二等巡洋艦に砲撃が命中。

その一発で二等巡洋艦は大爆発を起こして轟沈した。

それで我に返ったのだろう。

「敵は、前方にいるのではないのかっ」

そうシチツトー大佐は聞き返す。

「い、いえ。後方にも艦影が……」

副官が慌ててそう言いかけると再度監視所から報告が入る。

「敵艦隊、後方より接近中です。このままでは追いつかれます」

その報告を聞き、誤報ではない事がはっきりすると「糞ったれがぁっ」と叫んでシチツトー大佐は命令を下す。

「艦隊を反転させろっ。敵に向かうぞ」

「しかし、ルイジアーナ様からの命令では……」

副官が何か言おうとしたが、シチツトー大佐は最後まで言わせなかった。

「この状態でそんな命令が聞けるかっ。それにうちの大半は、後方に主砲を持たない二等巡洋艦だと忘れたのかっ」

そう言われ、副官は黙り見込む。

このままではろくに反撃も出来ずにやられるだけ。

その通りであり、副官は黙り込むしかなかったのである。

第五群の艦艇が次々と大きく右に舵を切り、反転していく。

そして、その動きに合わせて主砲が動いていく。

だが、その間にも砲撃は続き、次々と被弾していく第五群の艦艇。

装甲が薄い中小型艦艇が多い為か、命中すると轟沈、あるいは致命的な被害を受け、次々と艦艇が沈み、戦闘力を失っていく。

それはあっという間の出来事であった。

そして、後方からの攻撃は、残りの群にも伝わった。

それぞれの群を率いる指揮官はまさかという事態に混乱した。

「す、すぐにルイジアーナ様に報告だ。指示を仰ぐんだ」

そう判断したのは、第二群を率いるアリッヒ・トンペンサ大佐である。

第二群は、前方は強力な第一群がおり、後方からは大きく離れている為にそういう余裕があり、トンペンサ大佐もルイジアーナとの親交がある人物であったためそう判断したのだが、次に攻撃される第四軍と中央に位置する第三群は大混乱となっていた。

「くそっ。て、撤退だっ」

そう判断したのは、第四群のサンカス・トラベドロ中佐で、彼は一気に叩き潰されていく第五群を見て恐怖したのである。

そして、それとは反対の判断をしたのは、第三群のウドラ・レンチード大佐だ。

「艦隊反転っ。第五群、第四群と協力し、敵を殲滅するぞ。急げっ」

彼は、血気盛んで、この配置にイライラしていた事もあり、これで手柄が立てられると意気込んでいた。

もっとも、部下達は、自分達の上官があまりにも血気盛んで日頃からうんざりしていたが、今は彼に従うべきだと判断し、黙々と指示に従っていた。

だが、その結果、反転して反撃しようとする第三群と離脱しようとする第四群は互いの艦隊が接近しすぎ、それが益々混乱を生み出し、味方同士で衝突を引き起こす事態を生み出していた。

互いに相手を罵ったものの、それで混乱が収まるはずもなく、とても戦える有様ではなくなっていく。

そして、第五群が後方から攻撃されたという報とそれによって第三、第四群が混乱してしまったという状況は、第一群にも届いており、ルイジアーナは自分の判断ミスに舌打ちした。

そして駄目押しの報告が入る。

前方の敵艦隊が距離を詰め始めたというのだ。

今まで距離をとるような戦い方をしていた敵が攻勢に出てくる。

それは、間違いなく、こちらが狩る側から狩られる側になったという事であった。

確かに、このまま前方の敵艦隊と撃ち合っても十分戦えるだろう。

だが、その間に後方の艦隊の被害はとんでもないものになる。

艦橋内の雰囲気が重いものになっていく。

それは、完全に敵にしてやられたという思いと、勝てないという思いが場を支配していたからだ。

フソウ連合の戦力と情報網を見誤っていたか……。

全てにおいて、完全に完敗だ。

ルイジアーナはそう判断した。

いやもそう判断するしかなかった。

ギリっと歯ぎしりの音が口から洩れる。

しかし、今は時間が惜しい。

少しの躊躇が被害を拡大させていくのだから。

「各艦隊に伝えよ。作戦失敗だ。各艦隊、海域離脱を急がせろ!」

だが、命令はそれで終わりではない。

「なお、第一群はこのまま前方に進む。いいな!」

「離脱ではないのですか?」

そう慌てて聞いてくる年配の幕僚に、ルイジアーナは鼻で笑う。

「後ろがこれだけ混乱している中に突っ込むのか?」

「しかし、それでは……」

だが、すぐに若い幕僚の一人が感心したように言う。

「つまり、このまま前進して敵の艦隊に反撃しつつすり抜けて離脱していこうという事ですか?」

「その通りだ。我々はそれが出来る戦力がある。それに前方の敵艦隊の牽制になれば、後方の味方艦隊の離脱にもつながろう」

その決定に静まり返った艦橋の中から声が上がった。

「よしっ。最後に俺らの力を見せつけてやる」

それをきっかけに、次々と威勢がいい声が上がった。

「このまま撤退というのも悲しいですからね。敵にも十分な代価を支払わせましょう」

「少しでもやり返さないと気が済みませんからな」

次々と上がる声は、沈み込んでいた雰囲気を盛り上げていく。

「よしっ。やるぞ」

ルイジアーナの掛け声に、多くの艦橋にいた者達が答える。

そして、第一群は、他の群とは違って統率の取れたまま、そのまま進路を変えることなくフソウ連合主力艦隊先鋒に向かって一気に突き進み始めた。

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