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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その14

サネホーンの本作戦の実働部隊である六つの艦隊の内、第一、第二遊撃艦隊は敗北し、主力艦隊はフソウ連合の罠にハマろうとしている中、作戦開始がホーネットの機関トラブルで遅れている機動部隊を除く第三遊撃艦隊、第二主力艦隊もフソウ連合の罠に飛び込みつつあった。



第三遊撃艦隊指揮官であるセラルド・レンバーグ提督は、双眼鏡から見えるモノを否定したくて否定するような声を漏らす。

「嘘だろっ……」

そう、その双眼鏡に見えたのは、まだ点状ではあったが敵艦隊であり、その周りの点の大きさから、その一際大きな点が戦艦に間違いないと確信してしまって漏れた言葉だった。

あれは、間違いなく我々の重戦艦以上の代物だ。

恐らく、超弩級と言われるクラスの戦艦だと。

そうわかってしまったのだ。

そして、それに答える様に砲撃が始まった。

また結構な距離がある以上、早々当たることはないと思われたが、敵の砲撃に晒されているという状況は、精神を圧迫し、正常な判断を奪うには十分すぎるものだった。

そして、その確信を決定づける報告が観測室から入る。

「敵艦隊、発見。砲撃されています。敵は超大型艦船が二隻、大型艦船二隻、小型艦艇六隻以上です。恐らく、アルンカス王国に駐在しているフソウ連合外洋艦隊と思われます」

その報告に、レンバーグ提督は唖然として呟くように言う。

「おいっ、話が違うじゃないかっ」

そして、我に返って命令を下す。

「各艦に伝えろっ。作戦中止っ。今すぐ反転離脱だ!!」

その命令に副官が慌てて聞き返す。

「いいのですか?」

その問いに、レンバーグ提督は叫ぶように言い返す。

「なら、連中に勝てると思うのかっ、この戦力でっ」

その言葉に、副官は黙り込む。

そう勝てるはずもない。

第三遊撃艦隊の戦力は、作戦参加の部隊の中で一番少ないのである。

その戦力は、戦艦一隻、装甲巡洋艦八隻、二等巡洋艦八隻の十七隻だけなのだ。

数こそ二桁だが、その実は、ただ相手の牽制の為だけに集められた寄せ集めの戦力であり、内情は色んな弱小派閥の寄せ集めといったところだ。

だから、この艦隊の役割はあくまでも敵艦隊の牽制であり、大きく迂回するために何もなくても他の艦隊がアルンカス王国についた後に到着するというタイムスケジュールであった。

つまり、戦う事を想定して編成されていないのである。

実際、レンバーグ提督もこの作戦に参加したという事実さえあればいいという程度の認識であった。

彼のような新参で弱小派閥の者としては、下手に戦いになって自分の派閥を削られる可能性の高い戦果という華は必要なかったのである。

だが、その望みは完全に断たれた。

ならば選択肢として残っているのは、被害が出る前に逃げる一択のみである。

それ故に決断は早く、戦線離脱を決定した。

その判断は、確かに正しかった。

フソウ連合第三外洋艦隊の戦艦ヴァンガードとデューク・オブ・ヨークは、キング・ジョージ5世級戦艦で、最高速力は28ノット前後。

サネホーンの第三遊撃艦隊の最も遅い戦艦の最高速力が28ノットである事を考えれば、まだ距離があるうちから早く動けば動くほど離脱できる可能性は高くなるだろう。

しかし、それはフソウ連合も罠を張る時にわかっており、それ故に、離脱を阻止する壁を用意していた。

その壁が、軽巡洋艦阿賀野、能代を中心に編成された第五水雷戦隊である。

島影に待機していた第五水雷戦隊は、反転して離脱しょうとしていたサネホーン第三遊撃艦隊の前方に立ち塞がるかのように横切ったのである。

そして、一斉に放たれる魚雷と砲撃。

それだけでは終わらない。

後ろから迫りくる第三外洋艦隊。

まさに、前門の虎、後門の狼といったところだろうか。

こうして、サネホーン第三遊撃艦隊は、抵抗らしい抵抗を見せられないまま、殲滅されていったのである。



「どうやら、ルイジアーナの野郎は足止めを喰らっているようだな」

報告を聞き、第二主力艦隊の指揮官であるルッツ・ルベラソン提督はニタリと笑みを漏らした。

「ええ。いい様ですな」

副官もそう言ってニタニタと笑っている。

彼らは、今のサネホーンの政治体制に不満を持っている派閥の者達であった。

彼らにとって付喪神という得体のしれない人モドキにサネホーンの行く末を決められるのが嫌であり、我々人間がサネホーンをきちんと支配すべきだという思いが強かった。

しかし、そうは思ってみたものの、未だにサネホーンの実権は、三人の付喪神と彼らを召喚した巫女の一族に握られている。

しかし、この巫女の一族もほとんど表に出る事はなく、実質、彼らの言う人モドキがサネホーンの全てを掌握しているように見えてしまう為、それを苦々しく思っている者達は多かった。

特に祖国の派閥争いに敗れてサネホーンに逃れてきた者達はその傾向がとてつもなく強かったのである。

その結果、本来なら知るはずもないルイジアーナ率いるサネホーン主力艦隊の動きをルイジアーナの艦隊に紛れ込ませたスパイによって動きを無線で秘密裏に送らせていたのである。

もちろん、それは暗号化されており、艦隊内の艦艇同士が行っている無線連絡に見せかけていた。

「しかし、これで我々の方がアルンカス王国には一番乗りとなりそうですな」

副官が楽し気にいう。

彼らは、機動部隊の方もトラブルで動きが遅く、大きく遅れている事も把握していた。

だからこそそんな言葉が漏れたのである。

まさに相手の不幸は蜜の味といったところか。

「確かにな。そうすれば、連中を軽視する者が増え、革命がやり易くなる。その準備だと思うと楽しくてたまらんな」

そう、今回の戦いで付喪神よりも戦果を上げて連中を引きずり下ろしてやると彼らは考えていたのである。

だが、今は戦争中であり、革命を起こして国を乗っ取るというのは、悪手だがそれを考えている様子はない。

ただ、自分らが実権を握ればよい。

そうとしか考えていないのは明白であった。

だが、世の中はそう甘くはない。

彼らにも罠が待ち構えていた。

フソウ連合第二主力艦隊が彼らの前に立ち塞がったのだ。

フソウ連合第二主力艦隊。

戦艦金剛型四隻を中核とし、重巡四隻、駆逐艦六隻からなる機動性を重視した艦隊である。

敵艦隊発見という報に、ルベラソン提督は、まさかという表情をしたものの、敵の数が十四隻とわかるとニタリと笑みを漏らした。

我々の半数以下ではないか。

そう考えたのである。

だが、彼は質を大きく見落としていた。

巡洋戦艦とは言え、金剛型は超弩級戦艦でもある。

その火力と装甲は、ルイジアーナよりかなり劣るものの、この世界の重戦艦や戦艦よりもはるかに優れていたし、最大速力は30ノットを超える。

また、兵器としての性能だけでなく、兵の練度や士気も比べ物にならないほど高かった。

つまり、全てにおいてサネホーンの重戦艦や戦艦よりも大きな差をつけて勝っていたのである。

そのため、馬鹿正直に真正面から数で力押しを行ったサネホーン第二主力艦隊は大損害を受ける。

そして、自分の認識の甘さをルベラソン提督が認識した時にはもう形勢がほぼ決定しかけており、サネホーン第二艦隊に残された選択は逃走するしか残されていなかった。

もっとも、ルベラソン提督がその命令を出すことはなかった。

自分の認識の甘さを痛感した時、一発の砲弾が旗艦の艦橋付近に命中し、旗艦は大破。

そして、その砲撃で艦隊首脳陣が全滅してしまう。

その結果、司令部からの撤退命令はなく、第二主力艦隊の艦船は益々逃げ出す機会を失っていき、戦力の多くを失う事になるのであった。



こうして、二つの艦隊が壊滅な被害を受ける中、出遅れたサネホーン機動艦隊はまだ戦場よりはるか離れた場所にいた。

完全に計画からずれてしまっており、それがかえって彼らを救ったともいえる。

もし計画通りならば、すでにフソウ連合の第一機動部隊から攻撃を受けて致命的な被害を受けている可能性が高かったからだ。

もっとも、それは当人たちにはわからない。

ただ、予定を大きく狂わせた元凶を睨んで愚痴を言うだけである。

しかし、その元凶となったホーネットの機関部では、それとは別の意味深な会話が行われていた。

「しかし、こんなに遅れていいんですか?」

そう言ったのは、ホーネットの機関部の副長だ。

「構わん。問題はない」

平然とした顔でそう言ったのはホーネットの機関長である。

「ですが、もうかなり遅れています。責任問題になってしまいますよ」

それでもそう言ってくる副長に、機関長はニタリと笑みを漏らした。

「心配するな。これは上の連中からの指示だからな」

「故障もトラブルもないのにそれらしく見せて作戦を遅らせることがですか?」

「ああ。その通りだ」

その機関長の言葉に、副長は食って掛かる。

「ですが、艦長も言っていたじゃないですか。機動部隊司令官からも抗議の声が来ていると。機動部隊指令官って、グラーフ・ツェッペリン様ですよね?」

「ああ。そうだな」

「我が(サネホーン)ではツェッペリン様より上は誰もいないじゃないですか」

その言葉に、機関長は楽しげに笑う。

「ああ、サネホーンにはな」

「どういう意味ですか?」

副長が怪訝そうな顔で聞いてくる。

「よく覚えておけ。この世には、国家元帥以上の存在がいるんだ。その命令は絶対なんだよ」

まるで狂気を含んだような物言いと感情がかき消された表情の機関長に、副長は本能的に怯える。

さっきまでの人物と同じとは思えなかったからだ。

その怯えた副長を見て、機関長はカラカラと笑った。

「心配しなくていい。お前もその内理解するよ」

機関長は笑いつつそう言うとポンポンと副長の肩を叩く。

対して力が入っていないはずなのに、副長は引き攣った顔でその場に座り込んでしまう。

その様子をみて機関長は益々楽しく笑った。

「いいか。俺の指示に従うんだ」

淡々とした口調だったが、感情の籠っていないその言葉に、副長は頷いた。

いや、頷かされたと言っていいだろう。

ここで拒否すれば、殺される。

そんな気持ちになってしまったからだ。

「なに、大丈夫だ。すべてうまくいく」

こうして、人為的にホーネットの故障とトラブルはでっち上げられ、サネホーンの機動部隊は結局半日近く作戦進行が遅れる事となる。

だが、それ故に完全にフソウ連合に傾いていた勝利の天秤が大きな揺れを引き起こすのである。

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