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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その13

敵の目となる着弾観測機を叩き落す為、次々と水上機母艦からアラドAr196がカタパルトから発艦していく。

機体こそ偵察機だが、パイロットはサネホーンパイロットの中でもかなりの腕前のはずであった。

しかし、一機、また一機と撃墜されていく。

どうやら護衛の機体は観測機や偵察機とは違う機種らしい。

「まさかあんなものまで持っているとはな」

ルイジアーナは思わず呟く。

パイロットの技術の差もあるが、それ以上に機体の圧倒的な差が見ている側もわかったのだ。

そしてまさかという思いが頭に浮かぶ。

そして、それは現実となった。

先行して敵艦隊の方に向かっていた着弾観測のアラドAr196の2機が、敵艦隊発見の報の後、音信不通となり、レーダーから消えたのである。

それらの結果を見た者は怯えた。

機体は全て叩き落され、まだ着弾はないものの、未だに超々遠距離からの砲撃が続いている。

そう、一方的に砲撃されているのだ。

それなのに、こちらは砲撃できないどころか、敵艦隊の正確な位置も、目視も出来ていないのだから。

それは、ヒシヒシとその事実を知った者達を圧迫した。

圧倒的な差として……。

だが、それでもルイジアーナはあえて声を大きくして言う。

「着弾観測機が喪失した地点はわかるか」

その問いに、レーダー手は我に返って答える。

「は、はっ。何とか……」

「よしっ。敵艦隊はその周辺にいるはずだ。このまま艦隊を進めさせろ。目視すれば、こちらも砲撃できる。ともかく、視野に入るまで接近するんだ」

その言葉に、幕僚の一人が怯えた表情で、反論する。

「しかし、ルイジアーナ様、あまりにもこちらが不利です。完全に敵に先手を取られ、後手後手になっております。離脱すべきではないでしょうか」

何人かがその意見に頷いているのが見えた。

ルイジアーナも心の中ではそうすべきだと思っていた。

しかし、これは自分達の艦隊だけの作戦ではないのだ。

恐らく作戦は漏れていたと考えられる。

ならば、それぞれに敵は戦力をぶつけているはずだ。

それなのに、ここでロクに戦いもせず引き返した場合、我々に当たる戦力は、他の艦隊に向かう事になるだろう。

それだけはしてはならない。

彼はそう判断したのである。

だからこそ、今回はこの意見に従う訳にはいかなかった。

「確かに、その通りにした方がいいだろう。だが、それでは、他の艦隊はどうなる?」

そう言われ、意見を言った幕僚は黙り込んだ。

これはサネホーンの反撃の引き金となる大攻勢のはずである。

だが、それが失敗した場合、サネホーンの内部は混乱するだろう。

元々、いろんな国の敗残者や海賊たちが集まった勢力である。

今まで何とかまとまっていたのは、自分やフッテン、グラーフといった付喪神四人が力を合わせてやっていったからだ。

だが、フッテンはすでに亡く、また、起死回生の今回の作戦が負けた場合、混乱は間違いなく起こる。

それだけは避けたかった。

その思いが滲み出ていたのだろう。

一人の若い幕僚が口を開く。

「そうですね。一戦も交えず引くのはあまりにも無様すぎます」

その言葉に誰もが頷き、同意を示す。

このまま引き下がれば後で何を言われるかという思いのもあったのだろう。

事なかれ主義の年配の幕僚達も同意を示す。

それを確認し、ルイジアーナは命令を下す。

「艦隊最大戦速。何としても敵艦隊に食らいつくぞ。それと準備出来次第、残りの水上機を上げろ。何としても潰すのだ」

恐らく無理だとは思うが、少しでも妨害しておきたいという思いがその命令を出させる。

それは、幕僚達もわかったのだろう。

彼らは反論もせずに命令を受け入れる。

「「「はっ」」」

こうして、サネホーン主力艦隊は、なんとしても砲撃できる距離まで接近するため、フソウ連合主力艦隊先鋒に向けて速力を上げ突き進んでいったのであった。




「敵艦隊、我が艦隊先鋒に向けて速力を上げて進んでおります」

その報告に、フソウ連合主力艦隊司令官を務める南雲少将はニタリと笑みを浮かべた。

「連中、エサに喰いついたか」

「はっ。予定通り、開戦海域は、ムハラバ諸島周辺となりそうです」

副官の報告に、南雲少将は楽し気にいう。

「ますますいいじゃないか。あの辺りは、電探や視界を遮る島が点在するからな」

「おっしゃる通りです。そこまで考えてのこの作戦、さすが鍋島長官、見事としか言えませんな」

その副官の言葉に、南雲少将は我慢できなくて笑った。

急に笑われて副官がきょとんとした表情になると、すまんなと言いつつ南雲少将が理由を話す。

「この作戦の大まかな展開は長官が考えられたが、この戦いにおいての布陣や作戦は的場の考えたものだ」

そう言われ、副官が驚く。

的場少将といえば南雲少将の親友であり、今も切磋琢磨しているライバルでもあるからだ。

もちろん、それは部下にも判っており、いい意味で互いに意識している。

だからこそ、言葉が漏れる。

「そうですか……」

その言葉は悔しそうな響きがあった。

だが、それを南雲少将は笑い飛ばした。

「確かに、奴はすごいやつだ。だが、我々とて負けてはいない。とくに現場での作戦指揮では、俺の方が一枚も二枚も上だ。それは付き従ってきたお前らがよくわかっているだろう?」

その言葉に、副官は顔を上げる。

「そうでした」

「だろう?いくら作戦が良くても、運用する我々がどうしょうもなくては意味がない。要は、奴が作曲家ならば、我々は演奏者ってところだな」

その言葉に副官が苦笑する。

「今お付き合いしている方は軍楽隊の方ですか?」

「お、なぜわかった?」

「いや、今の会話ですぐにわかりましたよ」

南雲石雄という男はプレイボーイでちょこちょこ付き合っている女性が変わる事で有名であり、彼の副官を長年務めてきた経験上、付き合っている彼女の影響が会話に出てくる事も多いのである。

それ故に、ピンときたのだ。

「んー、どのへんでだ?」

その言葉に、副官だけでなく、艦橋内にいる乗組員や幕僚達がくすくすと笑っている。

多分、わかっていないのは本人だけではないだろうか。

しかし、本当に的場少将とは真逆だなと副官は思った。

的場少将は、最近結婚して所帯を持ったという話を耳にしていたのでなおさらである。

もっとも、正反対だからこそ親友になれたのかもしれないとも思う。

そして、場が和んだの良しとし、副官は声を上げた。

「閣下、次の指示を御願いします」

その言葉に、益々くすくす笑いが起こる。

何となく納得いかないと言った表情であったが、南雲少将は、命令を下す。

「各艦に手旗信号で指示を出せ。『作戦変更なし』とな」

無線を使わないのは、無線封鎖をしている為である。

そう、サネホーン主力艦隊が食らいついていたフソウ連合主力艦隊先鋒は、あくまでもフソウ連合主力艦隊の一部でしかなかった。

こうして、サネホーン主力艦隊は、罠の中に飛び込んでいったのである。



「主力艦隊先鋒の大和改より入電。『敵艦隊食らいついた』以上です」

その報を聞き、『ヤマタノオロチ討伐作戦』の総司令官である的場少将はほっとした表情になった。

南雲の事だ。あいつなら後はうまくやるだろう。

遊撃艦隊の方もうまくいっているという報告を受けている。

作戦は順調だ。

ここで徹底的にサネホーンを叩き潰し、敵の戦意を挫き、講和に引きずり出すという策はうまくいきそうだと少しほっとする。

だが、それでも一つ気がかりがあった。

敵の機動部隊を発見していないのである。

いくら何でもおかしすぎる。

第一機動部隊が索敵しているようだが、天候があまりよくない事とトラブルによりまだ発見できないでいた。

「今の所はうまくいっているんだ。総大将はどっしり構えておかないとな」

そんな心配が顔に出ていたのか、最上がそう言ってパンパンと肩を叩く。

「ああ。その通りだな」

そう答えてみたが、完全に吹っ切れた訳ではない。

嫌な予感がする。

そして、その予感は後に当たるのである。

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