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異世界艦隊日誌  作者: アシッド・レイン(酸性雨)
第三十六章 第二次アルンカス王国攻防戦

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第二次アルンカス王国攻防戦  その12

この主力艦隊同士の戦いで、先手を打ったのはフソウ連合主力艦隊先鋒である。

まぁ、それは仕方ないと言えなくもない。

完全に情報戦では敵を圧倒している上に、敵艦隊の動きや位置も潜水艦や哨戒機、それに移動式電探によって掌握されてしまっているのだから。

反対に、サネホーン側は、情報戦に負け、さらに索敵は敵の横やりで敵艦隊がいると思われる大まかな方向しか把握しきれていない。

まさに暗闇で手探りで進むようなものである。

しかし、それでも作戦中止をしないのは、これが大掛かりな作戦であるという事と圧倒的な戦力を保有しておきながら一戦もせず引き上げるという選択肢を選べなかったからだ。

特にルイジアーナは、自分の戦力さえあればなんとかなるとさえ考えていた。

彼と匹敵する戦力は、今は亡き盟友フッテンただ一人であり、また前回の戦いでフソウ連合主力のコンゴウ型に勝ったという経験がそれを強く意識させる結果となっていた。

それに、得られた情報から、敵は機動部隊ではないかとさえ考えていたのである。

確かに飛行機という兵器は侮れないが、飛行機という兵器を運用するには、欠点がいくつかあった。

戦力を展開するには時間がかかるという事、索敵でしっかり敵を把握しておかなければ、攻撃が空振りになる事、接近された場合は、航空母艦はほとんど戦えないという事である。

そして、ルイジアーナは、対空対策も用意しているし、ともかく敵を発見して接近戦に持ち込めば勝てると踏んでいたのである。

「よしっ。索敵機を今一度出す用意だ。それと着弾観測機も用意しておけ」

ルイジアーナはそう命令し、艦隊を進めた。

機動部隊ではなく、主力艦隊が待ち構えているとも知らず。




「監視の伊-58より入電。『敵艦隊針路そのまま。作戦海域にまもなく入る』とのことです」

その報告に、大和改が聞く。

「それで敵艦隊の陣形は?」

「変更なしだそうです」

その報告に、大和改はニタリと笑った。

連中は、どうやら航空戦力に警戒しすぎているようだ。

そう判断したのである。

もっとも、それは前回の戦いで散々苦汁を舐めさせられたという証でもあった。

確か、前回の戦いで機動艦隊を率いて戦ったのは、的場少将だったな。

頭の中でどちらかというと軍人らしく見えない小太りの男の顔が浮かぶ。

精悍さとは反対の男だが、作戦立案とその臨機応変さと決断の速さ、そして作戦の実行力は、フソウ連合随一とまで言われている男だ。

ああいう男が上にいるというのはいいな。

大和改はそう考えていると副官が声をあげた。

「こっちとして好都合ですね」

そう言ってニタリと笑みを浮かべる。

すでに、サネホーン側が輪形陣を縦に5つ並べた陣形をとっているのは把握している。

ただ、この輪形陣は、対空戦闘では威力を発揮するものの砲撃戦には向いていない。

それを縦に5つ並べて単縦陣のように運用していたとしても、それはそれで小回りが利かず、砲雷撃戦では周りの味方艦が邪魔にしかならないだろう。

「ああ、連中、以前機動部隊に酷い目にあったのが余程怖かったらしいな」

大和改がそう言って笑うと、艦橋のあちこちから笑いが漏れる。

ただ、その笑いは相手を見くびっての笑いではなく、緊張を解くためといった感じの笑いであった。

そして、その後、大和改は言葉を続けた。

「作戦通り戦いはロングレンジでの打ち合いになる。各艦に作戦変更なしと伝えよ。それと観測機と護衛機をそろそろ上げておけ」

飛行機を上げてしまえば、敵艦隊にこちらの位置を把握させてしまう事になるが、それはそれで構わない。

超々距離での砲撃戦は、観測機がなければ相手を砲撃できないからだ。

実際、大和改や武蔵、紀伊の三隻の主砲の射程距離は、42㎞を超える。

ただ、これが海面が平たいなら問題ないが、惑星は丸く、距離が開けば開くほど目視出来なくなる。

地平線の向こう側にあるものは、地平線の下に隠れてしまうからである。

また、それは電探にも言える。

空中ならともかく、海上では地平線より下の位置にあるものは電波の反射が無くなってしまうため発見できなくなってしまうのだ。

「了解しました、酒匂から発艦させておきます」

副官がそう言って、無線手に指示を出す。

それを聞きつつ、大和改が艦橋の乗組員に聞こえるように言う。

「野郎ども。相手は中々の骨太野郎だからな。被害対策(ダメージコントロール)の準備も怠るなよ」

艦橋の至る所で威勢のいい返事が返ってくる。

大和改はそれを聞きつつ、ゾクゾクした喜びを感じていた。


命令を受け、先頭をいく大和改の左右に二番、三番目に並んでいた戦艦武蔵と戦艦紀伊が左右に動く。

戦艦三隻による単横陣といったところだろうか。

反対に四番めに並んでいた軽巡洋艦酒匂は速力を落として前方と距離をとり始める。

それは、前方に単横陣、後方に単縦陣を形成するかのようであった。

そして、酒匂から次々と水上機がカタパルトから射出していく。

最初の二機は、零式水上観測機であり、その後に打ち出されたのは、水上戦闘機の強風である。

それもカタパルト射出に対応する改修がされたもので、射撃観測の際の護衛機として運用され始めていたのである。

四機は編隊を組むと自分達の任務を遂行すべく、目標であるサネホーン主力部隊に向かって飛んで行ったのであった。

そして、その動きは、サネホーンのレーダーにも感知される。

「レーダーに感あり。敵機を四機ほど捕捉しました。周りに島はありませんから、恐らく敵艦隊から発艦したものと思われます」

その報告を聞き、ルイジアーナは声を上げた。

彼にはそれが索敵機を上げた敵機動艦隊と思ったのである。

「よしっ。敵の機動部隊の位置はそこだ。艦隊の速力を上げろ。逃がすなよ。それと着弾観測用の機体を上げる準備を急げ。だが、まだ上げるな。ギリギリまで待て。こっちの接近を知られると拙いからな。だが砲撃の射程範囲に入れば、こっちのものだ。着弾観測機を上げて徹底的に砲撃して航空戦力を展開できなくしてやる」

そう命令を下す。

この時点で、敵航空戦力は、索敵機と思われる四機しか上がっていない。

そうルイジアーナは判断したのである。

しかし、それは大きな間違いであると暫くして思い知らされた。

敵索敵機と思われる機影が近づき、こちらもそろそろ着弾観測機を飛ばそうとした時である。

フソウ連合の砲撃が始まったのである。

「なんだっ。どうしたっ」

「て、敵艦隊のほ、砲撃のようですっ」

まだ、レーダーにも目視でも確認できない。

それはかなりの超々遠距離からの砲撃を意味していた。

そして、ルイジアーナは自分の間違いに気が付く。

敵は機動部隊ではなく主力艦隊であり、先ほど捕捉した四機は着弾観測の機体だという事に。

そして、もう一つわかる事がある。

この距離を打てる巨砲を相手が持っている事という事である。

ちっ……。

舌打ちすると、ルイジアーナは自分の勘違いに怒りを覚えた。

だが、すぐに思考を切り替える。

まだ距離がある上に敵の射撃精度はあまりよくない。

今の内ならばまだ何とかなる。

そう判断したのである。

「敵は機動部隊にあらず。主力艦隊だ。各艦に砲撃戦の用意を急がせろ。それと着弾観測機を急いで出せ。それと連中の目を奪うぞ。敵の着弾観測機を迎撃させるんだ」

そして隊列を組みなおすか一瞬考えるも、すぐにそれは却下した。

敵に先制を打たれている状態で隊列の組み直しなど余計に混乱を編むと判断したのである。

その判断は、間違いではなかった。

ルイジアーナ直轄の艦艇だけならやっただろうが、艦隊の半数以上は最近編成された自分の子飼いではない艦艇ばかりであったからだ。

一方的な砲撃を受ける中、距離を詰めようと急ぐサネホーン主力艦隊。

そして、艦隊所属の水上機母艦から6機のアラドAr196が緊急発艦する。

もちろん、一度に6機を発艦させることは無理であり、二隻の水上機母艦から一機ずつカタパルトから打ち出されていく。

最初に打ち出された2機は敵艦隊に向かって、その後に打ち出された4機は敵の着弾観測を妨害するため、打ち出されたらすぐに上昇し迎撃に入っていく。

「次も用意しておきますか?」

そう聞いてくる副官に、ルイジアーナは命令する。

「勿論だ。急いで準備させておけ」

現在、発艦していない機体の内、二機は索敵で撃墜され、残りは索敵から戻ってきて補給を受けている状態なのである。

ともかく、敵の目を奪い、こっちが主導権を握らねば。

主導権さえ握れば、後は火力で押し切れる。

ルイジアーナは、そう考えていたのである。



「敵着弾観測機らしき機体二機が艦隊に向かっています。どうしますか?」

後部座席に座って着弾観測していた野芝三等飛行兵曹にそう聞かれ、操縦桿を握る頼場一等飛行兵曹はちらりと敵の動きを見る。

「艦隊に報告だ。それと対応は向こうに任せろ。こっちはこっちの役割を遂行する」

「了解です」

そして、無線で着弾報告と共に敵の動きを報告する。

そんな中、射出された三機目がこっちに向かってきているのが頼場一等飛行兵曹の目に入る。

「ちっ。さすがに妨害に来るか」

だが、すぐに護衛についていた強風二機が動いた。

接近してくる敵機を各個撃破で撃墜していくのである。

フロート付きとはいえ、強風は戦闘機で相手は偵察機だ。

速力も小回りも圧倒的に相手側が不利であり、また敵が一機ずつ上がってくるのをいいことに、二対一で追い詰め、次々と撃墜していく。

それは、パイロットの腕の差もあり、あっけないほどであった。

「さすがだな……」

その様子を見て、頼場一等飛行兵曹が感心する。

そして、これなら安心して任せられるなと判断すると着弾観測しやすいように機体を動かすのに専念するのであった。

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